【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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踏みにじられたもの

 何でここにいんの〜!? と聞けば、どうやら逢坂さん、昇級試験の真っ最中だったらしい。

 このE級ダンジョンを突破して、F級を卒業するつもりだったみたいだ。

 

「まさか、こんなことになるなんて思いもしませんでしたが……っ」

「そりゃそうだ。その、お疲れ。ぬぅうううんっ!!」

 

 労りながら衝撃波を放つ。一撃一撃でスケルトンが数十体、砕けて粒子に散っていく。

 ぶっちゃけ合流したからにはもう一安心だった。スケルトンしかいなけりゃ俺一人でどうとでもなるし、探査者の皆さんは香苗さんが、持ってきていた救急キットで介抱している。

 ちなみにリーダーの男性だけE級であとは全員、F級探査者らしい。それでよく持ちこたえられたな……才能の集いかよ。

 

「はぁああああぁっ!!」

「す、すげえ……」

「強ぉい……」

 

 そんな彼と彼女たちは、スケルトンを次々倒していく俺の姿から目を離さない。今の今まで苦戦していて、まさしく絶体絶命だった相手をたった一人で、とんでもない方法で、滅茶苦茶な勢いで倒していく俺をどこか、熱っぽい目で見ている。

 恥ずかしいからやめてほしい。俺は注目されるのがすごく苦手なんですぅー!

 

「こ、公平さん……これで、探査者暦、一月……? 嘘……」

 

 逢坂さんにまでドン引きされつつある。つらい。

 まあそんな傷心はともかく、俺には気になることがあった。リッチの存在が見えないことと、もう一人、姿を見せない6人目の探査者のことだ。

 

 リッチはともかく6人目の気配はある。スケルトンの中に紛れている。だが戦っている気配もないし、さりとて、気配があることから死んでいるわけでもない。

 そもそも6人目なんていないと、さきほどパーティリーダーから聞いてもいる。じゃあ、この群れの先にいるのは誰だ? 何だ?

 

 嫌な予感がしてきている。振り払うように俺は、手刀を放った。

 

「……姿を見せろ、何者か! でやぁあああっ!!」

 

 横薙ぎに一閃。スケルトンたちが放射状に放たれる光の斬撃の露と消えていく。そろそろ群れも数少ない。

 ──見えてきた。人間の姿、気配。

 スケルトンに押されるでもなくむしろ従えて。その人は、俺たちの前に現れた。

 

「……………………」

「なんだ? 誰だ……?」

 

 亜麻色の髪をボサボサにした、幽鬼のような女。

 顔色は青白く、生気のない表情をしている。

 ボロボロの服に体のあちこちが傷だらけで、満身創痍ながら──

 普通でない、異様な迫力を漂わせていた。

 

「望月、さん?」

 

 呆然とした、逢坂さんの声が届く。望月とは、言っていた彼女の師匠さんか。

 生きていたのか? いや、にしては様子がおかしいにも程がある。そもそもなぜ、スケルトンと共にいる?

 

 次々浮かぶ疑問。それらに答えるように──突如、望月さんは俺に向けて襲いかかってきた!

 

「…………………ガアアアアアアア!!」

「何っ!? くっ、う!?」

「公平くん!? く、離れなさい!」

「これ、は──!? 駄目だ香苗さん! スキルが切れたら、本当に押し負ける!」

「! くっ!」

 

 殴りかかってくる彼女を腕ずくで止める。とんでもない力だ!

 香苗さんが動こうとする気配を見せるも、俺が慌てて呼び止めた。《風さえ吹かない荒野を行くよ》が発動していてこれなのだ。誰かが参戦してきたらそこで俺は力負けしてしまう。

 香苗さんの位置は、俺から若干遠い──この状況で力負けしたら、下手しなくても命取りだ!

 

「望月さん!? どうして、望月さん!!」

 

 後ろで、香苗さんと逢坂さんの叫び声が聞こえるのもどこか遠く。俺は取っ組み合いながらも望月さんを至近距離で確認した。

 

 ……何だ、この人?

 生気がない、どころじゃない。顔が青白い、どころじゃない。

 まるで、まるで。死んでいるみたいじゃないか。

 

「……………………シテ」

「く、ぬ……! な、に?」

「コロ……………………シ…………テ」

 

 地の底から這うような呻きの中に、そんな、懇願を聞く。

 目の前の女は、今、俺に、殺してくれと言ったのか?

 かと思えば今度は正気をなくしたように、狂った笑い声をあげてくる。

 

「げぎゃがゃぎゃげぐゃがゃごゃかぎゃああはあははははは」

「っ!? く、の……っ!!」

「や、やめて望月さん、止めてぇっ!!」

 

 逢坂さんの、パニック状態の悲鳴。無理もない、生きていたと思った望月さんが、何故かこうして、俺たちに襲いかかってきているんだ。

 だけど一方でこの人は俺に、殺してくれとも言っている。

 

「リッ……チ…………」

「! リッチ!? リッチがどうしたんですか、望月さん!!」

 

 微かなうめきの中、モンスターの名を聞く。

 リッチが、やつが、この人に何かしたのか。だからこの人はこんな、望んでいなさそうなことをしているのか?

 膠着状態のまま、耳を澄ませる。

 

 僅かに残った正気を窺わせる声音で、彼女は、必死に、伝えてきた。

 

「リッチ……に、乗ッ……取ラレた……」

「のっと、られ? ──乗っ取られた!? 体を!?」

「も、ウ……わたし、人間ジャ……コロして、コロシテぇ……!!」

 

 それは、あまりに惨く。

 あまりに悲しい、懇願だった。


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