【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー/天鐸龍
高く打ち上げられた望月さんが落ちてくるのを、俺は、なるべく負担がないように受け止めた。全身のバネを使って、衝撃を地面に逃がす。
「望月さん! 大丈夫ですか!?」
リッチを消滅させるためとはいえ、フルパワーで放った攻撃が、望月さんを酷く痛めつけることとなったのは言うまでもない。
だが……新たなるスキル《風浄祓魔/邪業断滅》の効果があれば、それも問題ないはずだ。
「ア……ウ、ウウ……!?」
「望月さん!?」
不意に、淡く光り出す望月さん。白く柔らかな輝きが、青白く幽鬼さながらだった彼女の体を包み込む。
直感的に、スキルの効果だと分かった。脳内にリーベの声が響く。
『落ち着いてください、公平さん。スキルによる救済措置……あってはならない状態になる、前の肉体に戻っているんです。対象の時間のみ、一週間ほど巻き戻す形で』
「時間を、巻き戻す……? そんなことが可能なのか、アドミニストレータ用のスキルは」
『滅多なことで使われないんですけどねー。何しろこのスキルは、《本来あるはずのない状態》に陥ったものをロールバック処理して、正常化するためのスキルなのでー』
「本来あるはずのない状態……? リッチが、人間の体を乗っ取っていたことか」
どうにも抽象的というか、曖昧な表現をするせいでリーベの言うことがいまいち、ピンとこない。まあとにかく、望月さんは無事で、今、急速に回復しているというニュアンスは読み取った。
時間を巻き戻すとか言ったな……信じがたいが本当なんだろう。ついに俺のスキル、時間まで操るようになっちゃったのか?
そのうち時とか止められるようになるんだろうか。
『なるかもですけど、大した理由もなしに与えられることはないと、ご承知くださいねー』
しょうがない人ですねー、と苦笑いしたようなリーベの声。くそ、こいつに仕方ない子扱いされるのは釈然としないぞ。
まあ良いや。腕の中の望月さんを見る。
すっかり元通り……元通り? 元のこの人を知らないから判断できない。とにかく、血色の良い、泣きたくなるくらい元気そうな姿になっていた。
「あ、あ……も、望月さん! 望月さんっ!!」
「逢坂さん」
少しして、我を取り戻したのか逢坂さんが駆け寄ってきた。望月さんを覗き込み、混乱しつつも俺に問いかけてくる。
「望月さんは無事なんですか!? リッチは……!?」
「リッチはやっつけた。望月さんは、ほら。この通り元気だ。元通りのこの人は、こんな感じなのかな?」
「は、はい……! 間違いなく、私の知ってる望月さんです!」
良かった。だったら安心できそうだ。
──と、当の望月さんが身じろぎした。ゆっくりと瞼が開き、その瞳には恐らく、俺と逢坂さんを映している。
「う…………う、う。こ、こは……? わたし、は……」
「望月さん! 分かりますか、逢坂です! 逢坂美晴です!」
「みはる、ちゃん……あ、あ。あなた、は」
「どうも、山形です。あなたの中にいた、リッチを倒しました。お加減いかがです?」
「り、っち……リッチ。そうだ、わたし……リッチに、体を乗っ取られ、て……!」
逢坂さんと俺の言葉に、最初は夢現におぼろげな反応を示すだけだったが。間もなく徐々に意識を明朗に浮上させていったようだった。
瞳に力が入る。リッチに乗っ取られる瞬間でも思い出したのか、身体が緊張に強張るのを俺は察して、少しばかり力を入れた。
「落ち着いてください、リッチは倒しました。記憶、どこまで思い出せます?」
「……あ、はい。そ、うだ。あなたが、私を。リッチを、光の、奔流で」
「やむなくあなたごと、攻撃せざるを得ませんでした。仕方なかったこととはいえ、申し訳ないことをしました。ごめんなさい」
先に、本気で謝っておく。いかな事情があれ、俺はこの人を全身全霊で攻撃した。救うためとはいえ殴り、投げ飛ばし、あまつさえ衝撃波で撃ち抜いた。
謝らなければならないだろう。そう思い彼女を抱いたまま頭を下げる俺を、彼女は慌てた様子で止めた。
「そんな、ことないです! 止めてください、命の恩人が、なんで謝るんですか!」
「ですが、攻撃したのは事実ですし」
「救ってくださったんです! あなたは、私を!」
言いながら、自分が助かったという実感が湧いてきたんだろう。
望月さんの目から、涙がとめどなく溢れ出て行く。
嗚咽に塗れた声で、それでも俺に伝えて来る。
「殺してくれと言った私を、生かしてくれたのはあなたです! 帰りたいと言った私を! 救ってくれたのはあなたです!」
「は、はあ……」
「パパとママに、もう一回会える……! その機会を与えてくれたのは、他ならないあなたです! あなた様なんです!!」
「も、望月さん……?」
「ありがとうございます……っ。本当に、心から。ありがとうございます……!」
感涙に咽び泣く。感極まった望月さんに、こっちはもう、どうしたらいいか分からない。
助けを求めて逢坂さんを見る。
「こんな望月さん、初めて見た……あわ、あわわ」
オロオロしていた。お前もかい!