攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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もうこれで終わってもいい。ありったけを──

 き、キレると葵さん、こんな風になるのかあ。

 唖然とする俺。見ればヴァールも戸惑っているし、なんならスレイブモンスター達も若干、怯えているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 エリスさんを傷つけられたことに、思っていた以上にマジギレしていた葵さん。

 迂闊にもそれを煽ってしまった翠川は哀れ……ではないけど。即座に背後を取られ、あまつさえ靴舐めろヒイヒイ言え、じゃなきゃ死んでしまえという女王様みたいなお言葉を賜ってしまっていた。

 

「て、てめえ……」

「っ────なーんちゃって! そんなに師匠想いじゃないですし? ジョーキングジョーキング! はっはっはー!」

 

 さしもの翠川もそれ以上は何も言えず、フーロイータの切っ先に視線をやり、冷汗をかいている。

 と、そんな別の意味で緊迫し始めた空気を切り裂いたのは他ならぬ葵さん当人だった。場にそぐわないほどの明るい声で、しかし三叉槍はしっかり突きつけながら告げる。

 

「ああでも投降しろってのは本当ですよ翠川均。それか昨日に続いて二度目の電撃、味わっちゃいますか? 昨日で塩梅は掴みましたから、耐えるなんてできないくらいのビリビリをお見舞いしますよ」

「……投降しろ、だと」

「痛い目を見たくないなら。この状況を、あなたとここにいるモンスターどもで切り抜けられるとまさか本気でお思いで?」

 

 すっかりいつも通りに戻った葵さんが、翠川に降伏を促す。たしかに客観的に見て、今のこの状況はやつにとってもうもうしようもない。

 フーロイータを突きつけられた自身に加え、スレイブモンスターもさほどの数、質ではない。C級相当くらいのモンスターが5体など、俺一人で今すぐにでも仕留めてしまえる程度のものでしかない。

 

 仮に翠川がなんらかの手段で今、突きつけられている状況を脱したとしても……ヴァールと葵さん相手にどこまで食いさがれるか。

 銃弾を一発、誰か当てれば可能性がなくもないけど。先程のスピードを見るに葵さんは翠川の実力を大きく上回っている。ヴァールはそれ以上だし、早々直撃を食らうつもりはないだろう。

 無論、俺だって痛そうなモノを食らいたくないしな。

 

「はっきり言いましょうか。あなたの負けです。大人しく捕まって、これ以上の罪を重ねる真似は慎むようにしたほうがいいですよ」

「翠川均。お前には聞きたいことが山ほどある。無駄な抵抗は諦めることだ」

 

 葵さんに続いてヴァールも投降を促す。ここまで追いやられてまだ何かするつもりとは考えにくいけど、翠川は黙って俯いたままだ。

 俺としても早く、こんな無益な事態は終わらせたい。オペレータ同士で争うなんて、少なくともシステム側にとっては少しの得もないんだ。

 

 頼むから投降してくれと、祈るようにやつを見ていると……翠川はやがて、少しずつ笑い出した。

 

「……くくっ。くくく、くくくくくく」

「投降しなさい。最終警告になります……刺すぞ、翠川」

「それ以上無反応ならば、手荒い手段を取ることになる。それは我々の望むところでもない。投降しろ」

「っ、ははは! ははははははははははは!!」

 

 最初は小さく、やがて大きく。高笑いへと変わっていく。

 まさか、おかしくなった? 一瞬狂気を疑ったけれど、その顔、その目には理性が未だある。

 困惑する俺達に構わず、翠川はそして、高らかに叫んだ。

 

「投降、投降か! してもいい。してもいいしするしかなかろうがその前によぉぉぉっ!」

 

 そこからの翠川の行動は、まさに常軌を逸していた。

 背中に突きつけられているフーロイータなどまるでお構いなしと言わんばかりに、後ろを向いて銃口を葵さんへと向けたのだ。

 

「────っ!?」

 

 当然、葵さんは射線から回避するし同時に、最終警告を無視したことで攻撃に移る。至近距離の武器を突き出せばそれで終わりという、絶対的有利な状況だ。

 フーロイータの切っ先が、翠川の脇腹に深々と突き刺さる。それだけでも決着もののダメージだが、さらに葵さんは《雷魔導》を発動している。

 傷口から電気を流せば、為すすべもなく翠川とて失神するだろう。そう、思われたのだが──

 

「ぐ、ざっ……け、んなぁっ!!」

「なっ!?」

 

 なんと翠川は刺さったフーロイータを、刺さったままに払い除け。自分の腹が著しく裂けるのも構わず、強引に葵さんの攻撃を逸したのだ!

 吹き出る血、飛び散る肉、臓物。フーロイータの鋭利な刃の威力が、そのままやつの身体を引き裂く。

 

「何っ!?」

「葵さんっ!!」

 

 俺とヴァールが駆け出した。まさかやつが、自身を害することさえ厭わず反撃に出るなんて!

 肉を切らせて骨を断つなんて話ですらない。肉を切らせて命も投げ捨てる、完全に無謀な行為でしかない。

 

 だが、その行為によってできた咄嗟の隙、一瞬こそが。翠川にとっては何物にも代えがたい瞬間だったのだろう。

 銃を葵さんに再度向け、やつは苦悶しながらも笑顔で叫んだ。

 

「ダハハハハハハッ!! どうせ最後だっ……バトルを、精一杯楽しんでからッ!!」

「お前はっ────」

「終わらせてくれや捜査官んんんッ! 《振動》ォォォ! バイブレーション・バレェェェットッ!!」

 

 心底から愉しいと、嬉しそうに謳うように口にしながらも。

 死に体同然の身体で翠川は、葵さんへとスキルを併用しての凶弾を放った。




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