攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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時間にさえ見放されるということ

 おっかなびっくり県警本部の施設に入り、エレベーターにて上階へと昇る。なんでも会議を行う前に刑事部は能力者犯罪対策課に行って、そこでヴァールと合流するらしい。

 いよいよ物々しくなってきた。そうでなくともこの施設内、全体的にピリッとした雰囲気なんだよね。厳格というか、謹厳というか。

 

 ノリで生きてる系陰キャの山形くんにはなかなか、つらいものがある空気。俺達以外誰もいないエレベーター内が、一時の憩いの場にすら思えてくる始末だ。

 同じことを思っていたのかエリスさんが、うへーって感じのげっそりした様子で呻いた。

 

「いやはや苦手だなあどうも、やっぱり。表社会のしかもお国の治安維持機構の拠点となれば、そりゃ私は相性悪いよねー」

「まるでアウトローみたいな物言いしますね、エリスさん。どちらかと言えば、警察にも協力する機会の多い側のように思えるのですが……能力者犯罪捜査官ですし」

 

 あからさまにおまわりさん嫌い! を前面に出してくるその姿に、香苗さんが若干引き気味で尋ねた。

 さしもの彼女もこうまで警察を苦手とするエリスさんに、ちょっぴり不穏なものを感じているみたいだね。かく言う俺も、先程の疚しいこと絡みの話でこの人、大丈夫かよ……って思っちゃってるところがあるのは秘密だ。

 

 無論、この人が味方であり信頼できる方であることは重々承知している。なんだかんだ強い正義感を持ち、使命を果たすため命懸けの覚悟を持っていることも。

 だからこそ能力者犯罪捜査官として方々世界を巡り、日夜犯罪組織と渡り合っているのだ。短い付き合いだけどそこが分かるから、俺や香苗さんも協力させてもらっているのだ。

 

 そうした姿を知っているからこそ逆に、なんでここまで警察を苦手とするのか? って疑問だな、これは。

 俺達のそうした視線に、頭をかいて彼女は答えた。

 

「私ってばスキル《不老》の影響で、78年前から歳を取ってないからねえ。そんな体質だから表社会とはしばらくの間、縁を切ってたんだよ。つまるところ元アウトローなわけでして」

「……不老不死。人類の永久不変ともいえる夢と野望の半分に、あなたが手をかけているからですね」

「ソフィアさん並に権力と権威、得体のしれない力があれば表でもふんぞり返っていられただろうけど。当時はダンジョン聖教なんてものもなかったし、一個人のエリスさんじゃあね。どこぞの組織に捕まってモルモットに〜なんて、冗談じゃなかったから」

 

 その言葉は、声音の軽さとは裏腹の重みを孕んでいた。

 バグスキル《不老》。肉体年齢停止バグを引き起こした末に獲得したのであろう、命のあり方、この世の仕組みに反するスキルはエリスさんから一時、陽のあたる場所を奪ってしまった。

 

 香苗さんも言ったように、不老不死ってのは定命あるモノにとって根源的な欲望だ。永遠に続く生を求めて、エリスさんを狙う組織が出てこないとも限らないしね。

 それを避けるべく彼女は《不老》獲得後、表舞台を降りて社会の闇へと消えていったのだ。

 

 第二次モンスターハザードを解決した英雄としての栄光も。初代聖女として、後に組織されるダンジョン聖教において絶対的な象徴として崇められる未来も。

 あるいは普通の探査者として活動し、当たり前の人間として生きて死んでいく幸福さえも失って。彼女は一人、これまでを生きてきたのだろう。

 

 それは……人によっては天国なのかもしれないし、逆に地獄と呼ぶのかもしれない。

 少なくとも世間一般に言う"普通"でないことだけは確かだった。

 

 エレベーターが開き、俺達は外へ出た。県警本部は9階、刑事部能力者犯罪対策課があるフロアだ。

 しんと静まり返った、やはりどこか威圧感のある通路を歩きながらも、エリスさんは呑気な口調で続ける。

 

「裏社会ってのもなかなか乙なもんでさあ、結構いろいろなものを見聞きしてきたんだよね。いいことも悪いこともあったし、いいやつも悪いやつもそれなりにいたよ。まあ裏社会って言うほどだから、概ね悪いほうが多かったけど」

「……それは」

「幸か不幸か、当事者になるパターンは皆無だったから……実体験としては甚だ乏しい耳年増だけどね。友人の一人もできてこなかったし、そもそも裏社会なんて男も女も大体ふざけたワルばかりでみんな敵だったし。ハッハッハー」

 

 気楽に笑う彼女の、壮絶な過去を匂わせる姿に言葉が出てこない。

 彼女がこれまで見てきた中には、目を覆いたくなるような惨状や息もしていたくなくなるような、つらい光景がいくつもあったのだろう。エリスさんがどこか厭世的というか、肩の力を抜いたスタンスなのはそういうところから来ているのかもしれない。

 

 県警本部という、施設由来でなく重くなった空気を切り裂くように。

 あっけらかんと明るく葵さんが笑った。

 

「そんなんだったから基本、寂しがり屋ですもんねー師匠ってば。こないだ山形くんにキュンキュンしてたの、アレかなりガチなやつでしょ。はっはっはー!」

「ハッハッハー、照れる。いやほんと、急に何を言い出すんだ君やめろ本人の前で!」

「えぇ……?」

 

 本人を前に何を言うのか葵さん。エリスさんがいつものように受け流そうとして、けれどあまりの羞恥からかそれができずに顔を真っ赤にしているし。

 空気が一気に明るくなったのはいいけど、葵さんそれめちゃくちゃ後が怖いやつじゃないですかやだー!




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