攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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先々代聖女、意外に強か(腹黒とも言う)

 翠川の供述によって浮き彫りになってきた、日本国内における倶楽部の規模。

 全国に4箇所の拠点があり、構成員は全部で40人前後という、組織としてみればあまり大きくない集団なわけだが、そんな連中が今、こうしていろんなところの偉い人達を動かしてしまっている。

 

 そう考えれば少数精鋭ということなんだろう、というのは俺にもなんとなく分かる話だった。

 

「各拠点同士でのつながりや交流については、それぞれ受け持っている幹部のみでやり取りしているようだ。これについては他国における倶楽部も同様だな、エリス」

「そうですねー。なんなら日本の倶楽部はまとまりが取れているほうでしょう。他の地域の倶楽部の実態は、概ね一人一拠点。個人商店も同然のいわば、緩やかなつながりだったわけですからね」

 

 過去幾度となく、そしていくつもの国に渡って倶楽部を追ってきたエリスさんの所感。どうやら日本における倶楽部は、外国のそれとはまた異なる様相のようだな。

 お国柄ってのもそれぞれで違うんだろうし、各国の風土に合った運営をする、ある種グローバルな組織ということなのか。犯罪組織がグローバル化なんて、良くないんだけどね。

 

「日本の倶楽部の主導者は火野源一。その直下に各拠点の責任者として青樹と翠川がおり、もう一人鬼島という者を含めたその4人で運営している。今回翠川が捕縛されたため、残す幹部は3人ということになるな」

「元々の想定数とプラマイゼロですねえ。鬼島が入って、翠川が抜けて」

「というか火野老人なんですね、主導者……ホントに何をしてるんだ、いい歳こいた爺さんが」

 

 ついでとばかりに幹部の実態も告げられたわけだけど、もう一人いたのか。鬼島……やはりその人もオペレータなのかな?

 そしてエリスさんが、火野老人が主導者であることに深く深ーく嘆息した。ただでさえ呆れ返っていたのを、もうどうしようもないとばかりにさらに嘆いている。

 

 たしか、78年前に因縁っていうかやり取りがあるんだもんな、やつとエリスさん。

 どうも火野老人が一方的につけ狙って、それを彼女が何度となくボコボコにして返り討ちにしていたみたいだけど、まさか80年近い時が経った今、再び相対することなんてこの人は思いもしていなかっただろう。

 

 疲れた様子でため息を吐くエリスさんを、葵さんがその背中を擦って労る。

 そんな姿を見ながらもヴァールは、しかし淡々と続けた。

 

「4人いる幹部の中でも、スレイブモンスターの製造の核心については火野と鬼島しか知らなかったらしい。少なくとも翠川はその辺には興味が一切なかったようで、組織内においては輸出ルートの確保や交渉担当をしていたという」

「本人が苦笑いしながら話していました──自分はもう用済みだ、と。ダンジョン聖教にデータを取られ、仕事も粗方終わった。あとは戦力として期待されていただけで、それも捜査官に敗れた時点で信用を失った」

「エラーコアを翠川に渡したのはやはり、青樹が渡したのだが……アレはあの女の独断によるものだったとも供述している。倶楽部関係なく、最後に逃げる機会だけは与えてやろうとしたようだな。立場としてはともかく、個人としてはそれなりに情があったか」

 

 事実上、倶楽部から見捨てられた形になった翠川。それに対して青樹さんは完全なる独断で、エラーコアを渡して脱走のチャンスを与えたという。

 少なくとも青樹さんのほうには、多少の仲間意識があるということなんだろうか。火野老人や翠川からどこか軽んぜられていた節のある彼女だけど、それでも最後に少しばかりは手助けしてやろうと、考えていたのか。

 

「……青樹さん」

 

 香苗さんが複雑そうにつぶやく。かつての師匠の、人情めいた話を聞かされるのはなんとも言えない気分だろうな。

 悪いことをした人だが、それでもそこにはその人なりの想いがあるということなんだ。人間の心の二面性は、誰にも見通しきれるものじゃない。

 

「そこに関連して、我々ダンジョン聖教のほうからもご報告がございます、皆様方」

 

 と、そこで話がスレイブモンスター製造について触れだしたからか、ダンジョン聖教先々代聖女であるところの、神谷美穂さんが挙手とともに発言した。

 みんなで彼女を見る。一つ頷くと隣のウィリアムズさんが、居住まいを正して話し始めた。

 

「ダンジョン聖教騎士団、ウィリアムズです。先日隣県にある倶楽部の拠点から、スレイブモンスター製造についての情報を持ち帰ってきた者です」

「軽くだが説明すると、最初に翠川を捕縛した際、彼女はやつに追われていた。神谷司教からの任務を受け、潜入捜査を実行していたとのことだ」

「ずいぶんと勝手をしますな、神谷さん」

 

 国内で勝手に捜査し、あげく潜入なんてことまでしていたダンジョン聖教へと、郷田さんが冷や汗をかきながらも厳格な表情で短く抗議する。けれど、神谷さんは静かに微笑んで受け流すばかりだ。

 たしか……ダンジョン聖教過激派が倶楽部と関わりがあるらしく、それで独自に捜査していたんだったか。身内の恥部になるから表沙汰にしたくない、内輪で解決したかったんだろうけど、国としては堪ったもんじゃないよなあ。

 

「申しわけありません、身内ごとも絡んでおりましたので、口外は控えておりました。今回正式に協力し合う形になったのですから、以後勝手な行動は慎みますのでなにとぞ、事後承諾という形でお願いしたいところです」

「…………正式な国際ルートを通しての抗議はさせていただきます」

 

 しかし案外強かというか、まさしく聖女のように微笑みながらも無茶を通すな、神谷さん。郷田さんが難しい顔を浮かべている。

 今となっては対倶楽部において協力している以上、表立って足並みを乱すわけにはいかないし。でも勝手を許して泣き寝入りなんて絶対にできないから、今は抗議をするに留めておくってわけか。

 本格的なその辺の落とし前はおそらく、今回の倶楽部の件が解決してからの交渉になるんだろう。怖いね、政治って!

 

 神谷さんは穏やかな笑みを浮かべて郷田さんに一礼し、そしてまた続けて言う。

 

「失礼いたしました、皆様。今は何よりも倶楽部についての話をさせていただきます。我が騎士ウィリアムズが得たスレイブモンスターについての情報……未だすべては解き明かせていませんが、現状報告ですね」

 

 そう、ウィリアムズさんが翠川に追われながらも守り抜いた、値千金のUSBメモリ。

 スレイブモンスターに纏わる情報についての話が、今からされようとしていた。




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