攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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住所不定無職の自称倶楽部幹部3人

 サウダーデさんからのもったいない感謝のお言葉をありがたく頂戴しつつ、俺達はひとまずテーブルを囲む形で座った。

 御実家の方と言うことで香苗さんが、人数分のお茶を淹れていく。その間にも、エリスさんの言うところの倶楽部制圧作戦についての打ち合わせは始まっていった。

 

「さて。まあ軽くだけどいろいろ話すことがあるからね。WSOと全探組による制圧作戦が7日、つまり明日に決行することになったとか、それに向けてのダンジョン聖教による情報解析の成果とか……あと三幹部の住所周辺に警察の捜査の手が入ったこととかね」

「目白押しですねー」

 

 葵さんが気楽な調子で言うけど、こっちとしては結構な重大事ばかりだ。特に家宅捜索、言われてハッと気づいたけどそりゃそうだ、幹部達にだって住所はあるに決まってるんだよな。

 正直、青樹さんもそうだけど火野も、未だ姿を見せていない鬼島なる人物についても。なんならこないだ捕まった翠川だっていまいちプライベートというか、私的な側面が出てきていないのが不気味だ。

 

 警察がそうした部分について捜査を開始した、ということでなんらかの新たな発見があるかもしれない。

 となれば迫る倶楽部制圧作戦にも、何かしら影響があるかもね。

 エリスさんが続けて説明を始めた。

 

「簡単に説明していこう。まず幹部達の住所周辺への捜査だけど……現状、大した発見はできていない。というよりそもそも住所が住所になっていないやつが多いんだ」

「と、申しますと?」

「翠川はいわゆる住所不定無職。本人も取り調べに対し、天涯孤独だから拠点で寝泊まりしていたとの旨を供述している。火野に至っては78年前から行方不明の爺さんだ。当時の住所にはあのーあれ、居酒屋ができてたってさ」

「……青樹さんは、どうなのでしょうか? たしか彼女は、マンションに一人暮らしでしたが」

 

 お茶を配りながらもポツリと香苗さんが尋ねる。やはり師匠だった人の、来歴が気になるのかその表情はどこか暗い。

 天涯孤独らしい翠川や火野老人とは異なり、青樹さんは最近までマンション暮らしだったとのことだし実家などもあるのかもしれない。

 

 ならばその、実家のほうに何かあるのかと思ったんだけれど……

 エリスさんは、頭を振って香苗さんに否やを返した。

 

「一年前に退去して以降、完全に行方知れずだ。実家とされていた住所も、今や廃墟の孤児院だったそうだよ」

「孤児、院?」

「あの女は元々、孤児らしいんだよ。10年前に孤児院から巣立ったそうだけど、その翌年には孤児院自体が廃院になっている。当時の関係者も、今はどこでどうしているやら」

「そう……なのですね。知りませんでした」

 

 香苗さんが驚いた様子でつぶやく。青樹さんの来歴について、そんな秘密が隠されていたなんて思いも寄らなかったみたいだ。

 こないだの遭遇時からも、青樹さんが香苗さんに執着していたのは明らかだったんだけど……そんなに溺愛していた弟子にさえ、自分のことをまるで教えなかったのか。

 

 教えたくなかったのか、教えられなかったのか。あるいは教える必要がないと思っていたのか。

 いずれにせよ香苗さんは、師匠だった人の家庭環境について何も知らなかったことになる。

 愕然と、彼女が言った。

 

「……青樹さんは、そんなこと一言だって言いませんでした。家族や家について尋ねた時も、弟妹がたくさんいてみんな大切だった、と」

「嘘か、あるいはその弟妹とやらは孤児院の子達のことを指していたのかもね……執着しているらしい君にさえ詳しく話さなかったあたり、何かしら思うところはあったように思う」

「心当たりはありますね。家族連れや兄弟姉妹の仲睦まじい姿に、どこか遠い瞳をしていた場面がいくつか記憶にあります」

 

 力なくつぶやき、沈痛な面持ちを浮かべる香苗さん。

 師匠のプライベートについて、ほとんど何も知らなかったことをどこか悔いているようにも見える。とはいえ、正直そこはたとえ師弟であっても話せないところでもあったりするだろうし、難しいところだ。

 深呼吸をいくつか繰り返して、香苗さんはけれど平静を取り戻した。失礼しましたと言って、軽くお茶を飲む。

 

「……ふう。まあ、師弟だからとすべてを把握しあっているわけもありません。私とてあの人にはいくつも、隠し事をしていたのですからね」

「青樹がいた孤児院ってのも、どうも胡散臭いから今、警察があれこれ調べてくれているよ。それに青樹本人を捕まえたらその辺の話だって腹を割って話せばいい。気落ちしちゃいけないよ、香苗さん」

 

 なんだかんだ言いながらも青樹さんについてショックを受けている様子の彼女に、エリスさんが心なし柔らかく慰めの言葉を告げる。

 そう、香苗さんのほうも、本音のところでは今でも青樹さんを慕っている部分は間違いなくあるんだ。真人類優生思想にかぶれたことで亀裂の入った関係だけど、それでも師への敬慕はたしかにあるみたいなんだ。

 

 それを、彼女自身自覚したらしい。

 苦笑いを溢しつつも、俺たちに向けて言ってきた。

 

「ありがとうございます。ええ、私は大丈夫です……訣別したつもりでしたが、案外、私は彼女のことを師として見ていたようです」

「それはそうですよ。弟子にとって師匠って、大抵特別なんですから。私にとっての師匠もそうですし、ベナウィさんにとってのサウダーデさん、サウダーデさんにとってのマリーさんもそうだと思います」

「たとえ道を分かっても、師匠は師匠なんだと思います。香苗さんの心は、とても健全で素敵なものだと俺には思えますよ」

 

 葵さんの言葉に、ベナウィさんもサウダーデさんもうんうんと頷く。

 そして俺も、思うところを述べれば……香苗さんは、元気を取り戻したように笑うのだった。




ブックマークと評価のほう、よろしくお願いいたしますー

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「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」2巻、発売中です!
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