攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─ 作:てんたくろー
打ち合わせというか作戦の段取りのほうも粗方確認して、作戦開始まで残すところあと30分。
もうあと僅かな時間を、俺達は戦の前の腹拵えに費やしていた。
「ライスボール! コンビニで売られている三角形のものとはまた違う形ですねえ」
「これはまた、シンプルですがお腹には溜まりますね……いただきます」
おまわりさんたちが作ってくれたおにぎりが、お皿にてんこ盛りで運ばれてきた。一個あたりのサイズがかなり大きく、人間の握り拳よりもなお大きい。なんか昔のドラマに出てきそう。
いくつかの皿に分けて結構な数、テーブルに置かれたそれらをベナウィさんや香苗さんはじめ、昨日の夜から何も食べていない一同がすぐさま手を伸ばした。
あんまり食べすぎるのもよくないけど、食べずに腹ペコでことに臨むのもよくはないからね。
というわけで俺は2つほどいただくことにする。さっそく一口、いただきまーす。
「……うん、おいしい」
「決戦前に握り飯、風情ですねー! こういうの好きですよ私、はっはっはー!」
塩気が強めで、中に鶏そぼろが入っているのが嬉しい。なんだかんだお腹が空いていたのでパクパクいけちゃうよ。
シチュエーションにマッチしていると感じたのか、葵さんが嬉しそうにおにぎりにぱくついている。たしかに一大決戦を前にしたこの状況、単なるおにぎりさえも余計美味しく感じられるほどに気分が盛り上がるものではあるよね。
風情を重要視する彼女らしい、こだわりを見た瞬間だ。
見れば各員、ヴァールや新川さん達も含めておにぎりを頬張っている。なんだか、連帯感が湧いてくる光景だ。同じ釜の飯を食う仲間とは、こういうことを言うのかもしれない。
サウダーデさんが何やら重々しく頷き、つぶやいた。
「あらゆる世代が揃い、こうして戦の前に肩を並べて飯を食う……感慨深いな。俺が若い頃も、こんなことがいくつもあった。時は流れても、やはり肝心なところは同じか」
「私の時だってそうだったよ、ファファファ! 私らは恵まれとるよ、こんな歳になってもまだ、若い子達と絆を結ばせてもらえてるんだ」
「まったくです、先生。これからを担う後輩達に恥じぬよう、俺もまだまだ精進していかねばならないと心が引き締まります」
師匠であるマリーさんと二人、目を細めて俺や香苗さんを見るその瞳は優しく暖かい。
偉大なる探査者の先達の、大成してなお謙虚かつ高潔な意識の高さは俺達こそが見習うべきだろうな。そして切り拓かれた新時代を生きていく中で、やがて来る新しい世代にもこの姿と教えを伝えていくのだ。
そうやって古くから新しくへと、連綿と受け継がれてきたもの。それを歴史と言い、その積み重ねをもって世界とするのであれば。
悪辣、かつ極端な思想と方法で世界を変えようとする倶楽部の野望は、絶対にここで打ち砕かなくてはならないのだ。
決意を新たにする。
やがて飯も粗方食い終わり、作戦開始の時を迎える。
俺達はテントから出て、全探組が呼んだ探査者達が並び待機する一角へと合流した。
整然と並ぶ皆の前で、ソフィアさんが号令をかけた。
「……時間です。これより倶楽部制圧作戦を決行します」
「ステルススキル保持者は突入メンバー隠蔽! その後すみやかにこの先、進路上にある拠点周辺に到着せよ──行動開始!!」
烏丸さんの指示を受けて探査者の中、気配を絶つ類のスキルを持つ何人かが各自、役割を果たしていく。
《気配遮断》《消音》《光学迷彩》《隠密行動》……さすがに逢坂さんじゃなし、これらをすべて一人で保持している探査者はいないようで、一人で一つずつこれらを使って、メンバー全員を丁寧にステルスしていった。
「よし、じゃあ行こうか……ここからは急ぐよ、いくらステルスで動いていてもやつらが勘付かない保証はない。山ってのは少しの異常でも大きく気配を変えるからね」
「これほど大勢で動くとなれば、"いつもの山"を知っていれば異変に気付くかもしれないというわけですねー」
エリスさんの指示。葵さん曰くだけど、山っていうのもデリケートらしく、少しの異変も大きく反響させて気配に滲ませるとかなんとか。
その辺、根っからインドアな俺ちゃんには理解しかねる感覚ではあったけれど、世界各地を巡ってきた人の言うことなんだ、説得力はある。
となれば迅速に目的地を目指すのが吉だな。俺達はすぐ、歩き始めた。続けて探査者グループがいくつか班ごとに分かれ、追従する。
山道に踏み入った。ここから歩いて15分ほどのところに、件の拠点はあるという話だ。
「いよいよ、青樹さんと……」
隣で歩く香苗さんが、ポツリと言った。
昨日、俺と話をした通り青樹さんと腹を割って話すつもりでいるらしい彼女は、あるいは本作戦における最重要パーソンかもしれない。
場合によっては青樹さんとの交戦を避け、彼女を投降させられるかもしれないからね。
香苗さんが青樹さんの説得を試みることは事前に、みんなにも伝えてある。
状況がよければいわゆる無血開城もあり得るのだから、やって見る価値はあると判断され……青樹さんとの遭遇時、まずは香苗さんに対応を任せることになった。
つまり勝負はその時だ。俺も密やかに、二人が仲直りすることを祈り、歩を進めた。
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