【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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妬むべきは世界。羨まれるべきは君。

「山形公平、です。栗律中学から来ました。よろしくおねがいします……」

 

 ふふふ。終わった。やはり悪いことはできないんだな。

 席に座り、燃え尽きた真っ白の心で呆然と俺は、天罰という言葉の意味を噛み締めていた。

 

 あのイケメン探査者先輩様──関口くんの自己紹介によって、俺はもう、探査者であることなんかとてもじゃないけど言えなくなっちまった。

 俺よりイケメンで? ベテランで? 実力もある探査者?

 そんなやつの後でどの面下げて探査者アピールしろってんだよ。こちとら探査者歴二日だぞ、二日。三日坊主にすら到達してないんだぞ。

 

 結局、どうしようもないから無難な挨拶をして、俺はこの三年をひっそりと、地味に、陰日向に茂る雑草のように生きていこうと誓ったのだ。

 うん……まあ考えてみれば陰キャの俺が、こんな自己紹介一つで高校デビューとか無謀だったね。冷水ぶっかけられて逆に良かったのかもしれない。

 ありがとう関口くん、君の冷水、氷水で死ぬほど痛かったよ。

 

「なあ山形、すげえよな~探査者って! まさかこの高校にいるとは思わなかったぜ!」

「え? あ、あぁうん。そうね」

 

 ホームルームも終わり、今日のところは半日で学校も終わり、放課後。

 帰り支度をしていた俺に、松田くんが話しかけてきた。内容はもちろん探査者──俺でなく、関口くんのことだ。

 なんなら他のクラスメイトもみんな関口くんの話題で持ちきりだ。当の本人は既に女子に囲まれて爽やかイケメンスマイルをキメているのだから、何というか。

 

「すげぇよなあ、本当に」

「俺も探査者だったらなあ。あんな風になれたんだろうなあ。良いなあ〜」

「……だねえ」

 

 なれなかったと思うよ。なれたとして、向こうとの差にコンプレックス抱くだけだと思う。今の俺のように。

 松田くんに別れを告げて、そそくさと帰路につく。なんでもない風を装いつつも、内心は身勝手な劣等感でいっぱいだ。

 

 あんな、カッコよくてベテランで余裕のある探査者がクラスメイトなんて聞いてないよ……

 浮かれてた自分が情けなさ過ぎて泣けてくる。そうだよ、探査者っても俺、武器も使えないポンコツじゃん。スキルだって、とてもじゃないけど自慢できないダメダメネーミングだし。なんで詩的なんだよ、くそう。

 八つ当たり気味に、ステータスを表示する。

 

「《ステータス》」

 

 

 名前 山形公平 レベル3

 称号 輝きに気付いていない人

 スキル

 名称 風さえ吹かない荒野を行くよ

 

 

「……は?」

 

 なんだ? また称号が変わってる? え、ダンジョンすら潜ってないぞ?

 日常生活の最中で称号が変わるなんて話、本気で聞いたことない。恐る恐る、震える指で称号を指す。

 詳細が表示され、そこにはこう書いてあった。

 

 

 称号 輝きに気付いていない人

 解説 やがて世界は気付くでしょう。真なる輝きはここにある

 効果 レベルアップ時、全能力に成長ボーナス付与

 

 《称号『輝きに気づいていない人』の世界初獲得を確認しました》

 《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》

 《……天翔ける龍が地を這う虫を妬むなど愚かなこと。間もなく世界はあなたに気付きます》

 

 

「いやあんた誰!? 怖いよ!?」

 

 思わず大声で叫んでしまった。周囲にいる少なからずの同学年生が、ギョッとしているのを横目にしつつ。それでも俺は、いよいよ異常な話だと鳥肌が立ってしまっていた。

 

 何だ、これは。

 

 称号が、ステータスシステムの向こう側にいるなにかが、明らかに俺に何かをさせようとしている。何かを期待している。

 額面通り受け取れば、これは激励だ。慰めでもあるし、あるいは予言ですらある。世界が間もなく俺に気付く? どういう意味かとんと理解できないが、少なくともそれをもって俺が、関口くんに嫉妬するのを諌めようとしてきている。

 

 なんなんだ、これは。

 

 混乱する頭を無理矢理、冷静さで保つ。スキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》すら発動しているのかもしれない。そのくらい、俺は今、思考という戦いをしていた。

 武器を禁止して、嫉妬を諌めて、システムの向こう側にいるなにか──便宜上、そうだな、システムさんとでも呼ぶか──は、何を目的としているんだ? 意図が読めなさすぎて率直に怖い。

 猿だって自分が誰の掌の上で踊ってるか、知れようもんだぞ。これじゃ俺はそれ以下じゃないのか。操られている錯覚に、ひどい反発を覚える。

 

 だめだ、一人だとカッカしかねない。

 努めて冷静に、情けないことを承知で俺は、御堂さんに電話を掛けた。

 

「はい御堂です。どうかしましたか公平くん、私はいつでも会いに行けますよ」

「1コールもしない内に出るの早ぁ!? あ、いえ今は助かります。すみません、ちょっと相談事が」

 

 スタンバってない限り到底不可能なスピードで電話が繋がったんだけど、何この人。頼っといてなんだけどシステムさんとトントンで怖いじゃん。

 さておき、今しがた称号が変わったこと、解説とシステムが明らかに意図を持って俺に干渉してきていることを伝える。

 俺が半分パニックになっているのを察したのだろう。御堂さんは落ち着いてゆっくりと、宥めるような声音で言ってくれた。

 

「今から迎えに行きます。詳しい話は組合本部で、広瀬本部長も交えて行いましょう。大丈夫、私は何があっても、あなたの味方です」




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