攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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ドキッ!家族に知られた狂信者

 望月さんショックから一夜明けて次の日は、俺はまた、すべてを忘れるかのごとく遊び回った。

 本当になんの用事もない日だったから、もう一人で外をうろついては遊び、食べて、のんびりして、そして家に帰って寝たわけだ。心のリフレッシュってこういうのを言うんだな、ずいぶんと精神的に回復した気がする。

 

 さておきそこからさらに翌日。いよいよ隣県へと遠征ツアーに出かける初日だ。

 荷物を詰めたリュックを背負う俺は家の前にいた。ツアーの待ち合わせ時刻は8時半、場所は組合本部前。さりとて今現在の時刻は7時半だ。一時間余裕がある。

 

 じゃあなんでそんな早くに外に出てるのか? 答えは今まさにやって来た人が知っている。

 リクルートスーツを着こなし、下品でない程度に胸元を開けてセクシーさを醸す、銀髪が日を浴びて煌めくとんでもない美女。A級探査者の中でもトップランカー、御堂香苗さんだ。

 

「おはようございます、公平くん。今日は待ちに待った探査ツアー初日ですね。調子はいかがですか?」

「おはようございます香苗さん。まあぼちぼちですよ。知らない人たちと会うの、ちょっと緊張しているくらいです」

「向こうもきっとそうでしょう、不安がる必要はありません。何か問題があればたちどころに、この救世主神話伝道師たる御堂香苗がその者の目を覚ましてご覧に入れましょう」

「あっはい……お手柔らかに……」

 

 朝からエンジン全開な様子に、俺としては控えめに返事する他ない。基本、このノリこってり感あるんだよなあ。

 玄関前で俺の見送りと、香苗さんが来るってんで期待して待機してた家族一同がドン引きしている。うわぁ、本当にこの人リアルでこんなキャラなんだぁ、的な。

 そんな俺の身内に、気付いて香苗さんが挨拶した。

 

「……山形公平さんのご家族の皆さま。お初にお目にかかります、私は御堂香苗と申します。公平さんには常日頃より大変なお世話になっております。どうぞ、こちらを」

「あっ、はあ。その、はじめまして公平の母です」

「妹ですぅ……」

「父でーすよろしくね御堂さん、家のバカ息子が世話になっちゃってごめんなさいね!」

 

 瞬時に胸元を閉じて営業マンみたいにキチッとしながら、めっちゃ礼儀正しくお辞儀している。あまつさえ名刺なんか渡して、まるでキャリアウーマンだ。

 対してうちの家族と来たら……母ちゃんと優子ちゃんはあれで実のところ、内弁慶の気質なもんだからまともな返事もできてねーでやんの。

 何より問題なのは父ちゃんだ。完全に美人相手に浮かれてやがる……母ちゃんが隣でクズを見る目をしている。妹ちゃんなんかもう、生ゴミ相手にもしないような目付きだ。

 気づかないみたいでうちの大黒柱、まーだ続けるのかよ。

 

「ところで公平とはどこまでいってる? パパとしては早めに孫の顔とか見たかったりラジバンダリいっててててててて母ちゃんいったい! 痛い、痛い!」

「ウルトラ馬鹿! すみませんうちの旦那が、おほほほほ」

「スカタンボケナスクソ親父! 家に引っ込んでて! うふふふ、お兄ちゃんたら世話が焼けるでしょう? うふふふふ」

 

 案の定、カスみたいな質問をして即座に締め上げられてる。母ちゃんと優子ちゃんが冷や汗まみれでにこやかに誤魔化してるよ、珍しい光景だ。

 ああ、父ちゃんが家の中に突っ込まれた! こりゃあ俺が出かけた後、大惨事だな……しばらく一人だけもやし炒めかもね。ご愁傷さまとは言わない、だって香苗さん相手にやらかしやがったし。

 

「いえ、そんなことは決してないですよ。もしかしたら既にご存知かも知れませんがご子息様は、これまでに数多くの人を救ってこられました。私も探査者として、彼を深く尊敬しています」

「あ、あら〜そうなんですか? あの、御堂さんの動画はいくつか拝見しましたから。救世主なんて大層なこと、言われてるのは知ってるつもりでしたけど」

「大層などと、とんでもありません! 彼はこの時代、この世界に変革と革新をもたらす存在です、間違いなく」

 

 断言する香苗さんに、愛想笑いを浮かべるのが精一杯の母ちゃん。そりゃそうだ、いきなりあんたの息子さん救世主だよとか言われても、聖母じゃあるまいに受け止められるか、そんなもん。

 

「私は、一人の探査者として人間として、一個人としても。彼の成すことを見届けたいと思っています。そしてできれば、それを信仰として世界中に広めたいとも。ぜひともご家族の皆様におかれましても、暖かなご支援ご協力の程よろしくおねがいします」

「は、はあ」

「……マジで動画通りなんだぁ。怖いけど、ちょっと感動ー」

 

 至極真面目な面持ちでそんな、狂信者ムーヴを噛ましてくる香苗さん。あー母ちゃんが固まった。優子ちゃん、変な感動に浸ってないでお母様を助けてあげて!

 結局、その後もいくらかやりとりをして、8時前になってようやく俺と香苗さんは出発したのだった。

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