攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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なんで怪しげなカルト宗教と仲良くする必要があるんですか(正論)

 たしかに度々、ヴァールは救世の光の使徒にならないかと勧誘を受けていたように思う。邪悪なる思念との決戦が終わって以後、夏休みに入ってからはなおのことだ。

 そこに対してちょっと乗り気感を出していたっぽいのも一応知っているんだけれど、正直彼女なりのジョークというかリップサービスくらいにしか思っていなかった。

 

 だって普通、WSOの統括理事がそんな怪しい団体と癒着するとか思わないじゃん? ソフィアさんを巻き込むのは冗談でも止めてくれって言ってたんだし、いろいろ受け流してるんだなー、なんかごめんねーってくらいに思うじゃん?

 何を組織として認めるみたいなことを言ってるのか、せめて黙認くらいに留めておくものじゃないのだろうか。伝道師の言葉に盛大に困惑した俺は、すぐさま近くに座っていたヴァールに声をかけた。

 

「お、お前は何を言ってるんだ……疲れてるのか? 最近いろいろ忙しかったものな、大変だったなぁ……」

「ありえないほど困惑してくるな……倶楽部やサークルの件を加味してもまるで問題ないが。むしろ日本は骨休めにちょうどいい。ソフィアも羽を伸ばせているようだし、私も非常にリラックスできているよ」

 

 気遣う俺に苦笑いしながら彼女が答える。その顔つき、眼差しには決して伝道師や使徒のような狂信の気配はなく、そこについては安心する。

 いやでもそうなるとつまりはこの子、正気で使徒になりたいって言ってることになる。それこそ狂気の沙汰ではと唖然とする俺に、彼女は若干、優しい目をして言うのだった。

 

「山形公平、あなたこそ疲れているのだ……別にこちらも、なんの計算もなしにただ盲目的に救世の光を認めるわけではない。救世の光の活動を認めることが、ワタシにとって都合が良いからそうするだけのこと」

「怪しげな新興宗教と密接な関係を持ってどんないいことがあるんですか」

「怪しくありませんよ救世主様、我々は公明正大かつ単純明快に救世主山形公平様を崇め奉っているだけの組織です」

 

 怪しさ満点なことを言ってくる伝道師さんはともかくとして、ヴァールの発言が俺にはにわかに信じがたい。

 極東の一地方、一地域の宗教団体と接近して統括理事になんの得があるんだ、むしろ格好のスキャンダルだろこんなの。マスコミがこぞって燃やしにかかってくるだろうし、ネットの陰謀論者の方々も絶対に襲いかかってくるよ。怖ぁ……

 

 発達したメディア社会の恐ろしさがもたらす俺の、俺達の恐るべき末路を幻視して震える。そんな俺にヴァールはまあ待て、と手を挙げて制止しつつ、説明を始めた。

 

「気持ちは分かるが本当に都合がいいのだ。何しろあなたを崇める宗教だからな。事情をあらかた理解している者が指導者でもあるわけで、隠れ蓑にするのにうってつけだ」

「……隠れ蓑?」

「時代が変わりつつある今、ダンジョンに纏わる社会の変動は激しくなっていくことが予想される。ワタシの……"自由な活動"をする上で、WSOに依らない拠点というものも必要になってくる」

 

 なんか社会全体の話になり始めたぞ、ここで言っていいのかそんな話……

 見れば周囲のツアークランの人達もヴァールの声に耳を傾けている。みんなものすごく真剣な様子だ。救世の光と関係を持つと決めたからか、どういう経緯で彼女が組織の存在と活動を非公式にでも認める発言をしたのか、気になってるみたいだね。

 

 ヴァールの言う自由な活動、ってのは間違いなくシステム側の存在としての活動だろう。決して表沙汰にはできないけれど、WSOの統括理事として以上に重大な役割と意義を持つ、精霊知能としての任務、使命。

 これまではWSOの肩書の中でどうにかやってこれたけれど、実質的に大ダンジョン時代が終わり、社会が明確に変わっていく中でそれだけではやっていけない段階になってきたということなのだろう。

 少なくとも言外の意味をそう受け取る中で、彼女はさらに続けて言う。

 

「そこで統括理事としてでないワタシの今後の拠点は日本の、この関西の土地にしていきたいと例の説明会前から考えていた。ワタシの事情について深く知る者が多く、かつ協力者もいる」

「唐突だなぁ……ちなみに今まで拠点ってどこだったんだ?」

「スイスのジュネーブだ。WSO本部施設があるからな、近場にいたほうが費用も浮くだろうと思ってそうしている」

「サラリーマンの単身赴任かよ」

 

 仕事先に近いからってだけで住処を決めたあたり、ヴァールらしいというかなんというか……ワーカーホリックの気がない? 大丈夫? 夏休み楽しめてる?

 まあ今回、ジュネーブから日本の関西に住処を移すつもりらしいからいろいろ、変わろうとはしてるんだろうけど。いやでも結局仕事を理由にお引越ししようとしてるねこの子、やっぱりワーカーホリックではないだろうか。

 

「だから救世の光と懇意にしておきたいのだ。いきなり理由もなく極東に居を移すとなるとそちらのほうが怪しまれる。シャイニング山形や御堂香苗と誼を結んだ結果、と匂わせるくらいにして、本来の目的である"自由な活動"についてカムフラージュする」

「普通に関西が気に入ったから、でいいんじゃ……」

「裏を読みたがる者が多いのだ、国際社会は。いっそ突拍子もない話にしてやったほうが、逆に勝手に穿って撹乱されてくれる」

 

 肩をすくめてそう言うと、ヴァールは口角をあげた。

 なんか大変だなぁ……常に痛くもない腹を探られなきゃいけないから、いっそ本当に腹を痛めてしまえみたいな話だよ。




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