【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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すごいなーあこがれちゃうなー

 電話をかけてから10分ほどで、東クォーツ高校の門前で待機していた俺の前に、真っ赤なスポーツカーが停まった。

 すげぇ派手でイケイケなその車の持ち主は御堂さんで、昨日一昨日と変わらずスーツ姿でクールに決めて車から降りてくる。

 

「こんにちは公平くん。学ラン姿が眩しいですねツーショット写真撮って良いですかSNSのプロフィール画像にして匂わせがしたいです」

「こんにちは御堂さん。急なお呼び立て申し訳ないです写真撮るのは構いませんけど炎上しそうなんでそういうアレは止めてください」

 

 御堂さん、美人A級探査者ってことでSNSでも人気者なんだよなあ。『美しすぎる探査者』とか、擦られすぎて逆に信憑性に欠ける呼び方までされたりしているくらいだ。

 何度かテレビにも出たことがあるようなそんな人が、未成年の学ラン小僧との何かしらを匂わせでもしてみろ。次の日には俺の家から学校から何から何まで特定されて人生終わるわ。

 

 ド派手なスポーツカーから美女が出てきて、さっき奇声をあげたとっぽい男子学生と親しげにしている光景を、男女関係なく周囲にいる人たちが珍しそうに眺めている。

 なんならクラスメイトも少なくない。この目立ち方はちょっと、したくなかったなあ……明日からの言い訳どうしたもんか、ちょっと考えないと。

 

 とにかく組合本部行って、広瀬さんも交えてシステムさんの存在について話さないと。

 そう御堂さんにも言って、車に乗ろうとした矢先のことだ。門の方から関口くんがやって来て、俺と御堂さんを見比べて訝しんできた。

 

「香苗さん……と、ええと? 山本だっけ。どうして二人が?」

「山形ですけど。関口くん、御堂さんと知り合い?」

「探査者付き合いがあるのさ。結構親しいよ?」

 

 そう言って割って入ってくる。そりゃ親しいのは呼び方からして分かるよ。変な牽制しなくて良い。

 ていうか御堂さん怖ぁ……あんた年下だったらマジで見境ないのか。頼むから小学生とか幼稚園生とかは止めてくれよ、そこまできたら俺も炎上覚悟で告発しないといけなくなっちゃう。

 

「彼が新米の頃に少しだけ面倒を見ていただけです。公平くんとの絆には及びません」

「社会的にまずい関係ではないと?」

「男としても探査者としても人間としても、彼にさしたる興味はありません」

「なっ……香苗さん!?」

「いやキツぅ!? 怖ぁ……」

 

 俺のドン引きを察したのか、御堂さんが若干早口で言い募るが、あまりに関口くんに辛辣すぎて余計にドン引きするわ。

 この人、やっぱ怖いな……と、関口くんが俺を睨み付けてくる。見た感じ御堂さんに想いを寄せているのが、いきなり変な男が現れたのと本人から辛口対応されての八つ当たりってところか。

 御堂さんのとばっちりじゃねーか!

 

「……山原は俺のクラスメイトですが、大した男じゃないですよ。おい山岡、どうやって香苗さんに取り入ったか知らないが、分不相応だぞ」

「山形ですけど」

「名前を覚えてやる価値すらないって言ってるのさ。俺も香苗さんも探査者だ。お前は本来、触れるどころか同じ空間にすらいて良い人間じゃないんだよ山田」

「山形ですけど。ていうか選民思想じゃん怖ぁ……」

 

 関口くん、だいぶ歪んでますなぁ。探査者ってある種の特権階級だから、この手の思想はたしかにあるっちゃあるそうだが。

 この分だと相当、チヤホヤされてきたんだろうなあ。イケメン探査者って良いよなあ。俺も一応探査者だけど、家族からすらチヤホヤされてないし。心配すらされてないし。

 

「最低の思想ですね、関口。あと公平くんは探査者です。知らないのですか?」

「へえ? 自己紹介でも言ってませんでしたね。どうせつい最近なったばかりの新米で、この俺の方が経験を積んでいるから、恥ずかしくて言い出せなかったんでしょう。器の小さな底辺によくある話です」

「……あなたのような半端者が、探査者の品格を大いに下げる」

 

 なんだかやるせなくなってきた俺を尻目に、今度は御堂さんが関口くんに食って掛かっている。というか、なんで探査者だって言わなかったのかの理由をドンピシャで当てられてしまって俺は血を吐いて倒れそうだ。

 周囲の人たちも、俺が探査者ってことに驚きつつも関口くんと見比べて何やら憐れみの目を向けている。止めてくれ止めてくれ、客観的な視点から見比べるのを止めてくれ!

 

 と、関口くんからカードを見せびらかされる。探査者に渡される探査者証明書だ。

 スキル《鑑定》持ちの職員の存在もあり、カードにはその探査者の称号やスキルまで任意で記載することができる。まあ要するに、自慢したがりの格好のプロフィールってわけね。

 で、せっかくなので関口くんのを見てみる。

 

 

 名前 関口久志 レベル28 D級

 称号 シールドブレイカー

 スキル

 名称 勇者

 名称 剣術

 名称 気配感知

 名称 狩人

 

 

「分かるかこの俺の強さが。これが才能ある探査者の実力なのさ」

「強ぉ……」

 

 やっべメッチャ羨ましい。なんだよシールドブレイカーって。なんだよ勇者って。てかレベル高ぁ!

 こんなん主人公やん……性格悪いけど。そりゃ天狗にもなるわ。俺だってこんなスキル貰ってたらその日の内に天狗になるよ。その自信だけはある。

 

「お前、どうせ役に立たないスキルだけしかないんだろ? そんなんで香苗さんの周囲を彷徨くな邪魔をするな。底辺なら底辺らしく、有象無象と戯れてろ」

「関口、消えなさい。公平くん、もう行きましょう。あなたには、こんな探査者の恥を見ていてほしくありません」

 

 嘲笑の関口くんと、憤怒の御堂さんと。

 二人に挟まれつつ俺は、やっぱり『普通の探査者』に憧れを禁じえないのであった。


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