【マンガ1巻発売中!】攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー/天鐸龍

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レインボーは空だけじゃない、ダンジョンにも架かるぜ

 ダンジョンのある神社に着き、俺たちは現場を確認した。ちょうど境内の真ん中、石畳の上にぽっかりと穴が空いている。なんて迷惑なんだ、普通に通行の邪魔だこれ。

 神主さんはもはや苦笑いする他ないみたいで、つい先日、出現して以来困っているのだと訴えてきた。そりゃそうだろうこんなもの、客足にだって影響しかねない場所にできちゃってまあ。

 

「踏破して、人々がまた、無事にここにお参りできるようにしないとですね」

「ええ、そうですね。そのために私たち探査者はいるんですから」

 

 俺と香苗さん、二人で真剣にダンジョンを見据える。毎度のことだが、こと探査者としての考え方や理念、思想については俺たち、驚くほどに馬が合うのだ。

 つまりは人を、命を、暮らしを守る。みんなが当たり前の日々を続けられるよう、俺たち探査者がダンジョンを無くす。そういう気概を、二人して抱いているわけだな。

 

「御堂の生真面目さは前からとしても……山形くんまでそんなタイプなのか、意外だな。いや、師弟関係ならばむしろ当然、かな?」

「私にはあの二人、別に師弟って関係には見えんけどねぇ。姉と弟、あるいは年の差カップルってところかね」

「聞こえてますよ。公平くんと私はズバリ、救世主と伝導師の関係です。他に色々あるかも知れませんがまず第一にそうなりますのでよろしく願います」

 

 いいえ神輿と狂信者です。あるいは偶像と教祖。

 たしかにいろんな側面のある関係かとは自分でも思うけど、まず思い浮かぶったらこうなる。残念ながらね。

 

 とにかくダンジョンに潜る。前情報ではこのダンジョン、全部で5階層あり部屋数は30を数える。俺にとってはかつてない規模の大きさなんだが、B級ダンジョンとしてはこれで小さめらしい。

 まずは香苗さんたちがモンスターと戦うとのことで、隊列は香苗さんが先頭、俺含め他は後衛だ。土塊の道の先、一つ目の部屋に入る。

 

「サァァァァァァァァッ!!」

 

 途端、襲ってくるモンスター。資料で見たことがある──金属の羽が生えた、空飛ぶミミズ。通称コウモリミミズだ。

 不気味な見た目に俊敏な動き、そして探査者に纏わりついて万力で締め上げ攻撃することから、B級モンスターの中でも割と嫌われている怪物。

 そんなのがまとめて群れをなし、香苗さんに襲いかかる!

 

「《光魔導》──」

 

 しかし。香苗さんは身じろぎもせず一歩とて引かず、その場にて一言口走った。瞬間、迸る虹。

 そう、虹だ。地面から地面へ、弧を描いて小規模な虹が架かった。ちょうど部屋の隅から隅までを横断するように。

 そして煌めく虹の光がダンジョンを照らしつつ、彼女はさらに続けた。

 

「──プリズムコール・デストラクション」

 

 何かの言葉を口にして、途端、虹が牙を剥いた。

 七色に輝く光の橋から、突如として破壊の陽射しが放たれたのだ。夏場の太陽のように、燦燦と降り注ぐ。

 それを目一杯浴びたコウモリミミズの群れが、まるで熱されたバターのように溶けて崩れてなくなっていく。まさしくそう、分解されているのだ。

 

「ビァァァァァァァァ!?」

「と、溶けていく……!?」

「威力の分、ムラがあるのが難点ですね、この技……プリズムコール・ジャベリンスロー」

 

 大半は分解されて光の塵と消えたものの、まだいくらか残って香苗さんに向かっていく。呟いた通り、敵の位置によってはダメージが一定しない技らしい。

 そこで彼女は第二撃を放った。架かった虹からまたも光が、今度は大きな槍の形状で敵へと放たれる。完全に敵を補足して放たれているため、無差別広範囲ではないものの威力は安定しているみたいだ。

 

 今度は一匹の討ち漏らしもなくコウモリミミズを一掃した。

 早い、強い、とんでもない……初めて見たけどこれが、A級トップランカー御堂香苗の、戦う姿なのか。

 戦闘終了。短いながらも圧倒的破壊を見せ付けて、虹の架け橋は消え去った。鈴山さんとマリーさんが、当然のものを見たとばかりに近付いてコメントしている。

 

「お見事。『虹の架け橋』、錆び付いてはいないようで安心したよ」

「もう、技術的にはS級でも十分にやってけるさねぇ。強いて言えば威力のムラをなくすことくらいだが……ま、そこはおいおいかね、ファファファ」

「お目汚ししました。公平くん、いかがでしたか?」

「……強ぉ、ってなりました。すごいですね、本当。正直、見くびっちゃってました、ごめんなさい」

 

 俺の言葉に、香苗さんはパァっと明るく顔を綻ばせた。可愛く綺麗な笑顔だ……これで先程、破壊の虹を架けて敵を秒殺したんだなあ。

 改めて実感した。この人は、御堂香苗さんは、狂信者ではあるけど同時に、探査業でもトップクラスの実力者なんだ。どこか軽んじてしまっていたかも知れない自分が、なんだか恥ずかしくなってきた。

 

 そんな俺に、香苗さんは近寄り手を取ってきた。

 優しく、けれど力強く握り、伝えてくる。

 

「初めて戦う姿をお見せしましたね。けれど公平くん、あなたは今の私にも、既に匹敵しつつあるんですよ。謝ることなんてどこにもありません」

「いやあ、さすがにそれは高く見積もりすぎなんじゃ」

「本当ですよ……だからそう、変な思い違いをしないでください。私は、あなたの御堂香苗ですよ」

「…………えっ」

 

 真顔で、いや微笑みながらだけど、この人すごいこと言わなかった?

 笑顔の香苗さんに、頬が熱くなる。

 なんだか敵わないなあ、そう思う俺でした。


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