攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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夏の終わりに─地獄よりもなお悪夢めいた恋─

 次々と新しい、そして知りたくもなかった事実が出てくる火野の取り調べ。

 ダンジョン聖教の、よりにもよって聖女経験者が委員会とつながり、倶楽部創設の発端となってしまっていたことなんてその最たるものだろう。

 

 こうなるといかに火野がダンジョン聖教そのものは関係ないと言い張ったところで、それを心から信じ切るのも難しい。

 神谷さん個人は信じられるし信じたいけれど……今後、ダンジョン聖教そのものやつながりのあるWSOなり他組織なりについても捜査の手が入るのは確実だろうなあ。

 

「ウラノスコーポレーションについては、儂とてあまり知らん。そちらはあれじゃ、鬼島の管轄じゃな」

「お前と鬼島とで担当役割が違っていたのか」

「儂は翠川、青樹を使ってのスレイブモンスターの開発、密貿易およびモンスターハザード計画を担当しておった。鬼島はそもそも倶楽部の創設理由にあたる、神の器とやらの製作にかかりきりじゃ」

 

 偽りの神の器に仕込まれていた、存在安定の要石役を担っていた3つのスキルブーストジェネレータ。

 倶楽部三幹部のバグスキルを解析し増幅するという、局所的にはシステム領域に近いことさえ成し遂げてやっていたことが犯罪への加担というのが残念な開発元、ウラノスコーポレーションとの関係を問われて火野は率直に自分の関与を否定していた。

 

 そもそも神の器の製作自体、どうやら鬼島が専門的に行っていたようで火野以下三幹部は関係も知識もほぼないらしかった。

 しきりに首を傾げて、独り言に近い形で何やらぼやいている。

 

「小娘の妄想にアレほどの化物が躍起になって付き合う、理由がなんじゃったのかはついに分からず仕舞いじゃったのう……できあがった代物もよう分からん。人間がスレイブコアを使用することで成り至るモンスター体ともまた、違うようじゃったしなあ」

「神の器と呼ばれる何かを、お前は見たことがあるのか」

「近畿拠点で開発が進められとったでな。モリガナらによる強襲と決戦に際して鬼島の指示で野放しにしたが……今頃どこをどうしてるのやら」

 

 まるで、というか実際ほぼ他人事なんだろう。世間話程度につらつら語る老人。というか連中、バグモンスターのことをモンスター体と呼称しているんだな。

 

 さしもの火野からしても、神の器の姿は不気味なものでしかなかったみたいだ。そんなものを創る鬼島さえ理解できないと言うのは、つまりこの男には概念存在周りの知識が一切ないことを意味している。

 元より鬼島が赤鬼だということも知らないようだし、その辺の情報統制はさすがにキッチリしているか、妖怪側も。

 

「決戦の直前にあの場にいたのか、神の器とやらは……」

「それで逃げ出して、近場を彷徨いているうちに山形くんの親元の付近のダンジョンにまで逃げ延びていたってことでしょうか」

「で、望月の嬢ちゃんやフェイリン嬢ちゃんがたまたまそこのダンジョンに潜っちまったと。どんだけ偶然が重なってるんだかねえ、ファファファ」

 

 エリスさん、葵さん、マリーさんが倶楽部との決戦、火野と青樹さんとの戦いの場のすぐ近くに例の化物がいたことについて難しい顔をして話している。

 そこから先のやつの動き、俺達に見つかり撃破されるまでの流れがあまりにも偶然が重なっているように思えて若干、不気味がっている様子だ。

 

 まあ、かなり連鎖的な流れだとは俺も思う。とはいえ化物の動き自体は割と分かるというか、逃げ出して近場のダンジョンに潜る、なんてのは普通のモンスターでも亡命って形でやりがちな行為ではあるからね。

 そこにたまたま、リンちゃんと宥さんが潜っていき、かつすぐ近くに俺とリーベがいたってのは単純に運の賜物と言うべきか……狙ってもない時にドンピシャで遭遇しちゃうことって結構あるよねーという気持ちにはなるかな。

 

 仮に最初から偽りの神の器を探すつもりであちこちダンジョンを探査していたとしたら、逆に手間取っちゃっていたんじゃないかなって気がすごいする。

 物欲センサー怖ぁ……と、こないだソシャゲでピックアップされていたメチャ欲しいSSRをものの見事に爆死させちゃった俺には苦い想いとともに納得がいく話だ。

 

 課金分はもとよりコツコツためてた分のガチャまで台無しとか、しばらく引きずるレベルで辛い記憶なんだわ! などと内心で涙しつつも引き続き火野の取り調べを見る。

 概ねのことを聞き終えたため、そろそろお開きって感じのムードが漂っていた。

 

「…………最後に一つ。なぜ78年前、お前は探査者としての道を捨てた? 委員会に与して第二次モンスターハザードを引き起こし、以後も組織で働いてきた動機はなんだ?」

「ふむ? ……まあ、一言で言えば能力者として力を試したかったからが最初じゃ。せっかく得た力、己のために使いたかろう?」

 

 総括するかのように、火野自身の根本的な動機──そもそもなぜ道を踏み外したか──を尋ねる刑事さん。

 対して片眉を上げ、火野はどこか遠いところを見るように部屋の天井を見上げた。そして挙げるのは、己のためという分かりきってはいたけど身勝手極まる理由。

 

 それと、もう一つ。

 

「第二次モンスターハザード以後は、ククク……それどころでなく恋がためよ」

「恋……」

「そうじゃ。我が恋、エリス・モリガナ。あの生意気で、勝気で淑やかで、誰よりも心が強くしかし弱くもあった……戦うことに泣きながら慣れていった憐れなあの女に儂は、魅せられた。それゆえじゃ。姿を晦ましたあの女を、儂は手に入れたかった」

「それだけのことで、裏社会を80年も渡り歩いたと言うのか」

 

 たった一つの出会い、たった一人の存在。それだけのことで、火野の78年は盲目に焼き爛れた。

 初代聖女エリス・モリガナがかつて倒した敵の一人に過ぎない男が、彼女に恋してしまった。それが、すべての発端だったのだろう。

 

 結果として想い叶わず、火野は他ならぬエリスさん自身の手でとどめを刺されて今ここにこうしている。

 だというのにそれでも、未だ熱に浮かされた瞳を煌めかせて老人は──

 

「恋破れはしたもののそれはそれ、ずいぶん夢を見させてもらった。やつにとっては悪夢じゃろうが、儂にとってはこの人生、一分一秒一瞬たりとて余さず煌めく情熱の絶えぬ日々じゃった! カカカ、儂はこれから罪を問われて行くところまで行くじゃろうが……不思議なまでに悔いなどないわ、クククク!」

 

 ──まるで子供のように、心底から嬉しそうに笑っていた。

 どんな形であれ人生を全うしたぞと、高らかに宣言するような笑顔だった。




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