攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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選んだ道の果て。男は恋に溺れて沈み、女は誇りを抱きしめた

 火野の取り調べが終わり、やつはWSOのエージェントだろう探査者達や刑事さん達に連れられ退室していった。

 拘置所へと戻り、後は刑事告訴から裁判をもって罪に問われることになりそうだ。

 

 しばし流れる休憩の時、しかして俺達の間に流れる空気は重く苦しい。

 分かり切っていたけど、火野のおぞましい来歴や所業、その身勝手さや今なお堪えていないやるせなさがすさまじかった。脳内のアルマでさえ、幾分機嫌を害しているほどだ。

 

 

『ムカつくなあ、あのジジイ……普通に負け犬の遠吠えなのに、それさえ楽しんで嗤いやがって。ていうかアレ、言ってる割にエリス・モリガナのことなんか一つも考えていないだろ。恋したつもりの自分に酔いしれているだけの、本質的にはどうしようもないナルシストに過ぎないんじゃないの? どーでもいーけどさ』

 

 

 火野を分析する言葉に容赦などはない。かつてワールドプロセッサだったアルマからすれば、やつはエリスさんを出汁にして自身を愛そうとしているだけのナルシストに過ぎない、というのが見解だった。

 正直……どうなんだろうな。エリスさんへの想いは、それ自体は本物のように思えるけれど。あそこまでの執着は並々ならぬものがあるし。

 

 ただ、行方を眩ませたエリスさんを追うために人生を費やしたとか言うけど、それは別に裏社会で邪悪を成しながらでなければできないことでもなかったはずだとは思う。

 罪を償ってから、それこそ探査者として実績を積んで正しく人脈や信頼を築き、社会的成功を収めてからエリスさんの居所を探すようなやり方でも良かったはずだ。

 

 火野の実力や行動力ならできたと思うんだよ。犯罪組織を渡り歩くようなアグレッシブさは、日の当たる場所でこそ活かされるべきだったのに。

 だのにそれを選ばなかったのは、なんていうか、エリスさんを求めるってことを都合のいい理由にして、裏社会で好き勝手に生きたかっただけなんじゃないかって気もするよね。

 

「……どうあれエリスさん、あなたが気に病む必要はないと俺は思うんですよ。というか実際、火野がやったことがエリスさんのせいになるはずないんですし」

「公平さん……だけどやつは、たとえ方便でも私を求める過程で多くの人を、犠牲にしてきて……」

「それは火野の罪であってあなたの罪じゃありません、絶対に」

 

 取り調べにて明かされた数々の真実や動機、特に自分への執着を動機づけにしていたことを受け、ショックを受けるとまではいかずとも大分疲れた様子のエリスさん。

 悔恨の色濃い彼女は今、葵さんに抱きしめられて身を委ねている。

 

 師匠を幾度となく苦しめているかの老人に、葵さんも怒り心頭のようで慈しむようにエリスさんを慰撫しながらもその表情は険しい。

 そんな師弟を慰め、あるいは励ますように俺は言葉を重ねた。

 

「ましてや、78年前にやつを殺さなかったことが罪? ……そんなわけあるもんか。人を殺さないことが罪になるようなおぞましい社会ではないはずですよ、大ダンジョン時代は。なあ、ヴァール」

「無論だ。エリス、何度でも言うがお前に落ち度はない。78年前、お前はお前にできるすべてをしてくれた。いや、ワタシはそれ以上のことまでさせてしまった。《不老》など獲得してまで戦い続けることになってしまった者に、どこまでも責務を負わせるような真似はしない」

「しかし……」

「火野が勝手にお前に執着して、ありもしないお前の幻影を求めて非道を進んだ──お前のどこに罪がある? 背負いすぎるな、エリス。やつはやつだけの、やつ自身の意志と選択でその人生を選んだのだ。この話は、どこまでいってもやつ自身の話に過ぎない」

 

 強い口調で断言する。ヴァールもまた、第二次モンスターハザードに参戦してエリスさんとともに戦った英雄だ。

 漏れ出る情報から察するに、エリスさんは相当に凄絶な形でバグスキル《不老》を得たんだろう。そしてヴァールはそのことを、決して明言しないものの悔やんでいる節がある。

 彼女の人生から、当たり前に老いるということを奪い去ってしまったと後悔しているみたいなのだ。

 

 だからこそ、そうまでしても世界のために戦うことを選んだ彼女に、これ以上重荷を背負わせるわけにはいかない──そんな思いがありありと伝わる言葉で、ヴァールは語りかけているんだろう。

 そうした言葉、思いを受けてエリスさんもぎこちなく微笑んだ。葵さんにしがみつきながらも、ゆっくりと頷く。

 

「……ありがとうございます、公平さん、ヴァールさん。どうしても78年前、何度となくやつを殺せるタイミングがあったのにと考えてしまい、ナーバスになっているみたいです」

「気にするな、エリス──エリス・モリガナ。お前はどうか、自身が歩んだ道を、自らが選んだ道を誇ってくれ。そうして辿り着いた今、お前の周囲にいる者達や」

 

 言葉を切り、周囲を見る。ヴァールにつられてエリスさんの目に映るのは、たしかにこれまで彼女が培ってきた絆。

 昔からの仲間、最近できた仲間。彼女を慕う人、彼女が慕う人。あるいは後継者とさえ言える人もいて。

 

 そして──何よりも、今も懸命に彼女を抱きしめ、慰めている人もいるんだから。

 

「お前を抱きしめている温もりこそが。お前の歩んできた道のりの正しさを、証明してくれている」

「────そうだ。そうだったね。君は、私の誇りだものね、葵」

「はい、師匠。あなたが私の誇りであるのと、同じように」

 

 過去という原因の果てに今、この時という結果があるならば。

 エリスさんのこれまでのすべてに対して、葵さんという素晴らしい弟子であり親友であるパートナーがいてくれるのは、分かりやすく一つの結果と言えるだろう。

 

 誇りに思う葵さんが、エリスさんを誇りに思っているなら──それは紛れもなく、彼女の96年の日々の正しさを証明してくれているんだと思うよ。

 微笑み合う師弟の姿に、俺もまた、ひっそりと微笑んだ。




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