攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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二人目への聴取─本能を抑えることさえ放棄した男─

 エリスさんの調子も落ち着いて、そこからしばしの休憩を挟んでから、次の取り調べは始まった。

 倶楽部幹部、二人目の被疑者が取り調べ室へと連れられてきたのだ。

 

 金髪をざっくばらんに伸ばした、30代半ばくらいに見えるジャージ姿の男。

 チャラチャラした感じだが、高木さんのような底抜けに明るくてまばゆい太陽のような印象ではない。むしろ野獣じみた、目に映るすべてに噛み付こうとしているようなギラついた空気を醸し出している。

 総じて、チンピラめいた男だ。

 

 翠川均。

 一番最初に戦った幹部であり、自身が死ぬことさえ厭わずに戦うことを愉しんだバトルジャンキーが、次の質疑対象だった。

 

「それでは取り調べを行う。一切の偽りなくすべての質問に答えろ」

「あいよ……へっ、つっても俺ぁ大したことは知らねえんだけどな」

 

 スキル封印の手錠──A級モンスター、スキルキャンセラーの素材によって造られた逸品だ──をかけられて非能力者同然となっている翠川が、刑事さんの言葉を鼻で笑う。

 嘲りとかではないな。普段から皮肉っぽい物言いが定着しているような、自然な口調として荒くたな感じになっているみたいだ。

 

 とはいえ表情や醸すオーラがやはり剣呑なため、どうしても反抗的なイメージは拭えないけれど……それを除けば、意外なほどに彼は協力的な姿勢を見せていた。

 大したことは知らない、と語るその口で、言っておくがと切り出す。

 

「俺は青樹同様雇われ幹部だ、バイトみたいなもんさ。だから倶楽部の目的だの委員会だのサークルだのダンジョン聖教だのと言われてもほとんど知らねえ分からねえってのは最初に言っとくぜ」

「知らなければ知らないなりに、分からなければ分からないなりに供述すればいい。ことの真偽はこちらで確認する。お前はただ、聞かれたことに答えるだけでいい──無駄口を叩かずにな」

「そいつぁ楽でいいね……分かった分かった、はよ始めろや。こっちゃ体が鈍って仕方ねえんだ、帰って筋トレくらいさせてくれ」

 

 予防線か、あるいは本当に何も知らないのか。気楽な様子で嘯く翠川の姿は、幹部として活動していたころよりむしろ活き活きとしているようにも見える。

 なんだ? 倶楽部での活動は彼にとってもあまり面白いものではなかったとか? 能力者相手に喧嘩を売りたいバトルジャンキーらしい男の、どこか吹っ切れたような態度に疑問を抱く。

 

 彼を倒し、捕らえることに成功した葵さんも違和感を覚えたようだった。

 小さく独り言をつぶやくのが、俺の耳にも聞こえた。

 

「なんだろ、変にスッキリしてそうでムカムカする……エリスさんをあんな目に遭わせといて、なんでこんな爽やか感出してるんだろう。気持ち悪い……」

「ハッハッハー。どうどう葵くん、私のことは公平さんが治癒、いや"なかったこと"にしてくれたからそこは気にしなくて良いんじゃないかな? というかあんな目に遭わされたって微妙にぼかされるといかがわしさが出そうだからきっちり言おうね、やつは私の腹を銃で撃ったの、それだけ!」

「あ、すみません。あのド変態の黒くて重くて硬いので、お腹に風穴開けられちゃったんですよねーはっはっはー!」

「ハッハッハー、言い方ァ!」

 

 翠川が傍目にも余裕綽々って感じなことに苛立ちを覚えているみたいだけど、すぐに宥めに入ったエリスさんと漫才が始まってそれも雲散霧消した。互いに互いをフォローし合う、良い師弟だよ本当に。

 というか、当然ながら葵さんは翠川のことを蛇蝎のように嫌っているみたいだ。大好きな師匠を傷つけられたんだからそりゃ、そうなるよな。

 

 ……翠川は以前、山奥で対峙した際にエリスさんをスキル《振動》で強化した銃で撃ち抜いている。

 厳密にはスパイだったウィリアムズさんを撃とうとして間に入った彼女が盾になったって話なんだけど、結果としてエリスさんが致命傷モノの大怪我を負わされたことには変わりがない。

 

 その際には居合わせた俺の因果操作で"なかったこと"にしてことなきを得たんだけれど、撃たれたのには間違いないわけで。

 葵さんが彼を本気で嫌い憎むのも、仕方ないところはあるのだった。

 エリスさんに背中を擦られ慰められる彼女が深く息を吐く中、モニターの向こう側では取り調べが本格的に始まる。

 

「それではまず、被疑者の来歴から確認する」

「あいよ」

「……翠川均、38歳。住所不定無職。だが倶楽部幹部として、各地の拠点を点々としていた。違いないか?」

「おー、そだなぁ。ちなみに九州拠点をホームグラウンドにしちゃいたが、《座標変動》でどこへなりとも移動できたしな。実質的にはどこの拠点にも俺の個室は用意されてたぜ」

 

 告げられる来歴に対して飄々と補足を入れる翠川。38歳らしいが、正直もっと若くに見える。30歳前半? もしかしたら20代後半にさえ見える人もいるかもね。

 倶楽部幹部ということで当然のごとく住所不定無職なんだけど、彼の場合は空間転移スキルがあったから実質的に、倶楽部の拠点はいつでもどこでも行き来できたのだろう。

 

 東北、関東、近畿、九州……あとたぶん、近畿拠点のすぐ近くにある隠し拠点にもか。専用の個室があったと思われるから、いかに《座標変動》が倶楽部にとって重要なスキルだったかがもうすでに浮き彫りになってるよね。

 幹部や各拠点のスレイブモンスターを近畿に集めたのもこの男なんだ。当人は雇われ、ゆえに何も知らないとは言うけれど、それはそれとして大いに組織に貢献していたのは確実なんだろうなあ。




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