攻略!大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─   作:てんたくろー

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三人目の幹部─かつて被害者だった加害者─

「いやあ、出来の悪いツンデレでしたね」

「怖ぁ……」

 

 二人目の取り調べも終わり、翠川が退室してしばしの休憩を迎えている。

 葵さんが冷え切った声でつぶやき、最後の最後で少しだけ青樹さんへの優しさ、人間として最低限とも言える情を発露した彼を評していた。

 

 諸々因縁もあり不倶戴天とばかりに塩っ気を出す彼女に、そりゃそうだよねと思いつつ苦笑いせざるを得ない。

 火野にしろ翠川にしろ、大事な師匠であるエリスさんに危害を加えたんだから許し難いのも当然だろう。

 

 それに今しがたの取り調べからも分かるとおり、あの男は結局ほとんど改心らしき姿勢を見せていなかった。

 これまでの半生に対して一切の後悔もなく、法を無視して秩序に背き、裏社会でやりたい放題やってきた自身を絶対的に肯定していたんだ。

 

 そのへんについては今後、裁判の中で罪を問われることになるだろうからなんとも言い難いけど……

 能力者犯罪捜査官としても、彼のそうした態度は許せないのだろうとは思うよ。

 ヴァールも肩をすくめ、仕方ないと話す。

 

「既存の社会、法や秩序にどうしても馴染めない性質……それ自体は個性の一つとして認められなければならないものではある。あるが、だからといって犯罪に走っていいというわけでも当然、ない」

「そうした性質を持つ人はそれなりにいると思いますが、それでも概ね社会とのつきあい方を各人なりに模索しつつ生きていますからね。馴染むからと、そちらのほうが楽しいからと反社会的勢力に与するというのはいささか享楽的にすぎると言わざるを得ない」

「と言いますか、能力者同士でバトルなんて何が楽しいんでしょうね? 私の場合《極限極光魔法》で初手からすべて吹き飛ばすスタイルですので、いまいち理解に苦しみますねえ」

「そりゃ、あんたはねぇ……」

 

 サウダーデさんやベナウィさんがそれぞれ応えつつ、翠川を享楽的な人間だと、そもそも能力者同士のバトルというのが理解できないと語っていく。

 マリーさんが反応したように、ベナウィさんの場合はそもそもモンスターも人もダンジョンも関係なく全部一発で吹き飛ばすからね。戦闘スタイルの話もあって、理解できないと仰るのも無理からぬところはあるよね。

 

 まあ、社会的な問題も絡むから迂闊なことは言えないんだけど……

 社会のあり様に馴染めないってのはもちろん多様なあり方の一つとして肯定されるべきだし、そうした多様性に対してサポートを行えるような社会であってほしいとも思う。

 

 ただ、だから翠川のように社会に中指立てて楽しみ目当てに暴力組織に入ります、ってのはさすがに無軌道が過ぎるとは思うかな。

 それによって引き起こされた騒動や発生した被害、彼自身の末路などを鑑みても、あまりに短絡的かつ破滅的な行動だったんじゃないかと思えてしまう。

 

 20年前、彼が能力者になった時点でもう少しだけ、自制のきく性格であれば何か変わることがあっただろうか?

 オペレータとしてはかなりの実力者だっただけに、彼が一線を超えることを踏みとどまり、探査者として正道を歩んでいてくれたらと考えずにはいられない……それさえ俺の傲慢、身勝手な想いなのだろうけどね。

 

 もちろん、社会的な仕組みや制度にも彼のような人間の受け皿になる場所が表社会になかったっていうのは明確な課題なのだろうとは思う。

 そこについては今後、変わりゆく時代の中で整っていってほしいところではあるかな……当たり前だけど難しいや、いろいろ。

 

 俺は軽く頭を振って気持ちを切り替えた。

 火野、翠川ときて倶楽部幹部の取り調べも3人目だ。となればいよいよあの人が来るだろう。鬼島はトリで、刑事さんでなく俺やヴァール、シャーリヒッタやリーベが直接対応するからね。

 もうじき来るだろうその人を待ちつつ、香苗さんがその名をつぶやいた。

 

「青樹さん……」

 

 青樹佐智。香苗さんの師匠であり、3人目の倶楽部幹部だった人。

 幼少時には委員会傘下組織により人体実験を施され、人工的にステータスを与えられた……システム側にとっても想定外の存在。人造オペレータ。

 

 そしてその来歴ゆえに、精神面で不安定さを抱えていたところを火野につけ込まれ魔道に堕ちた。被害者でもあり、加害者にもなってしまったのだ。

 そんな彼女らしき気配が近づいてきた。モニター内、取調室のドアが開けられ入室してくる。

 

 スキル封印の手錠をかけられてはいるものの、いたって健康そうな姿。

 オールバック気味だった髪を下ろし、敵として相対していた時とはまた、見た目の印象が異なる──青樹さんだ。

 促されるまま席につき、静かな顔、落ち着いた瞳で刑事さんと向き合っている。

 

「逮捕直後は精神的な問題もあり、大分弱っていたみたいだけど……今はそれなりに持ち直してるみたいだね。良かった良かった」

「顔色も悪くなさそうですし、何より表情が静かながら冷静ですからね。はっはっはー! 良かったですね、香苗さん」

「ええ……本当に良かった。ひとまず命に別状がないことが、今はひたすらに喜ばしいです」

 

 エリスさんと葵さんにそう言って、少しだけ微笑む香苗さん。とはいえこちらは、まだ表情は暗めだね。

 自分の師匠が、世話になった人が犯罪者として今から取り調べを受けるんだ。無理もない……それでも気丈にモニターを見つめる香苗さんに倣い、俺も画面を、その先にいる青樹さんを見た。




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