World Witches:Adventure -Revision- 作:天羽々矢
1945年:秋 帝政カールスラント
「……グルーオンと共に、ネウロイの巣を破壊しなさい」
〈了解。……今までありがとうございました〉
両足に飛行ユニットらしき装置を装着し、狼の耳と尻尾を生やしている女性が通信相手の少年の雰囲気が残った青年らしき声の主にそう告げる。
通信が切れると、彼女の両隣を飛ぶ金髪に尻尾を生やした少女と垂れ耳と尻尾を生やした少女が女性に噛みつくような勢いで近寄る。
「ふざけないでよミーナ!!本気で死なせるつもりなのッ!!?」
「あぁ、見損なったぞ!!よくあんな命令を平気で受ける気に……!!」
「平気な訳ないじゃないッ!!!」
少女の言葉にミーナと呼ばれた女性“ミーナ・ディードリンデ・ヴィルケ”が金髪に尻尾の少女“エーリカ・ハルトマン”と垂れ耳を生やした少女“ゲルトルート・バルクホルン”に怒鳴りながら振り向く。
その瞳は潤んでおり目尻からは涙が零れている。
そして数分後、ネウロイの巣と呼ばれた巨大な黒い積乱雲の中心に存在していた巨大な建造物らしき物体が徐々にその姿を崩していく。
……だが、突入した“彼”の帰還してくる姿を見る事は出来なかった。
「ごめんなさい……ごめんなさいッ……!!」
遂にミーナは堪えきれなくなったのか、両手で顔を覆いその場で嗚咽を上げ始めた。
だが、その気持ちはこの場にいた少女達も同じ気持ちである。
20世紀初頭
世界は異形の敵“ネウロイ”の圧倒的な力の前に大敗を喫し、世界各地への侵攻を許していた。
その中、人類は対ネウロイへの切り札として魔導エンジンによる戦闘兵器“ストライカーユニット”を駆る事が出来る魔法力を持った少女“
その情勢下の中、ミーナ率いる第501統合戦闘航空団“
男でありながら魔法力をその身に宿した“
だが不自然なのも道理。彼……天羽 咲輝は厳密にはこの世界の住人ではなかった。
この世に生まれる以前の記憶を持ち、その時彼が生きていたのは21世紀……ここまででお分かりだろうが、咲輝は俗に言う“転生者”であったのだ。
その彼は前世に於いては神童とも言える人物で、科学者の父と看護師の母との間に生まれた彼は超人的な知能指数、動体視力、反射神経、運動能力を以って様々な分野で頭角を現し、地元では知らない人間はいないと言われる程の有名人となっていた。
……しかし、そんな彼の生活は突然終わりを告げた。
ある日、ボールを追いかけて路上へ飛び出した幼稚園児を助けようと自分も路上に飛び出し、園児を直ぐに歩道へ突き飛ばした。が、園児を助ける事を優先した為に咲輝自身は逃げ遅れ横転してきたタンクローリーの下敷きになってしまった。
その後はすぐさま病院へ搬送されたが医師の奮闘も空しく、咲輝は両親の目の前で若い命を散らした。
……それが、天羽 咲輝として生を受けるまでの記憶であった。
生まれ変わった彼は、扶桑皇国……前世で言う日本で製薬業を営みながらも科学者兼技術者も請け負う天羽家の長男“天羽 咲輝”として生を受けた。
その頃の扶桑はウラル山脈方面から進むネウロイを抑えつつ、最前線と化した欧州の支援の為に人員を始めとした様々な物資を欧州へ運んでいた。
その支給品には当然医薬品、武器弾薬もあった為に天羽家は昼夜問わずそれらの生産に力を注いだ。
それだけに止まらず、咲輝の両親は業界でも有名な人格者でもあり物資が不足しがちな辺境で暮らす人々の為に自ら足を運んで物資を運ぶ事もあり、咲輝もそれに同行した。
だが、前世でのドイツに抵たる帝政カールスラントの南部ヴァイスザッハに赴いた帰りに咲輝は一家と共にネウロイの襲撃を受けた。幸い、咲輝は景色を楽しむべく馬車の後方に座っていた為にネウロイが放つ光線の衝撃で茂みの方へ吹き飛ばされ自分だけは生き延びたが、吹き飛ばされてきた方を見ればそこには先程まで自分達が乗っていた馬車の残骸が散らばっていただけでそれ以外には何も無かった。
その現実を理解した咲輝は嘆きの叫びを上げそうになるも、付近に陸戦型ネウロイを確認した為に叫びを飲み込み、断腸の思いで両親の死地に背を向け1人で逃げた。
逃げた先の森の中で致命傷を負った1匹のキンイロジャッカルを見つけ、そこで再び陸戦型ネウロイに発見され今度こそ自らの死を覚悟した時、咲輝とジャッカルとの間に光が発し、咲輝が気付いた時には、自らの手で陸戦型ネウロイを撃破していた。
陸戦型ネウロイを撃破して直ぐに咲輝は馬車の残骸に駆け寄りせめて何か遺品だけでもと付近を必死に探し回った。
そんな中で1通の封筒を見つけ、そこには扶桑国内の地名を指す紙切れと1つの鍵が入っていた。
咲輝はその真意を確かめるべく誰にも見つからないように1人帰国する。
……その数十分後、現場にカールスラント軍のウィッチが駆け付けるも、現場にはネウロイが破壊した馬車の残骸が残っているだけで出現したであろうネウロイの姿も生存者の姿も無く、やがて捜索は打ち切られた。
残っていた馬車の残骸から天羽家が契約していたものと判明し、一家全員が死亡したと思われ、それは天羽家の母国、扶桑だけでなく、直前まで訪れていたヴァイスザッハの町にまで知らされた。
天羽家所有の製薬会社や工場は万一に備え用意されていた当主の遺言書に従い、工場と会社の権利は全て国へ移り、天羽家にはこれまでの活躍から扶桑皇国だけでなく欧州各国からも感謝状が贈られた。
一方、直前まで天羽家が訪れたヴァイスザッハの町では一家の死を嘆き町を救った英雄として慰霊碑を建て冥福を祈った。
その時、町で咲輝と最も親しかった2人の少女は一家の死を聞いた途端狂ったように泣き叫び、しばらく自室から出てこなかったそうだが、両親の説得やケアもあり2人ともどうにか立ち直り2人は軍人になる事を決意。1人はカールスラント技術省で新兵器開発の一端を担い、もう1人は数々の武勲を上げ英雄となった。
……天羽家全員の死と知らされた日からちょうど1年後、咲輝は自分の故郷である静岡・田子浦村に無事帰還し、紙に記された場所である実家のすぐ裏の山に入る。
そこには生前父が時間を見つけては入っていた秘密工房があり、そこで咲輝は父が自分に宛てて書いた遺言書を見つけた。そこには封筒に入っていた鍵の事も書かれており厳重に鎖で固められた扉を鍵を使って開ける。
その奥の部屋には1機のストライカーユニットが発進装置らしき機械に固定された状態で鎮座していた。
部屋の中にはストライカーユニットの設計図も残されており、そこにはこう書かれていた。
“宮菱重工業 A7M2 烈風”
それだけでなく、恐らくユニットとセットで使う武装“九九式20㎜二号機銃五型”と、更なる改造を施した烈風の強化機体“A7M3-J 烈風改”の設計図もあった。
遺言に従い、咲輝はそれらを携え世界を巡る旅に出た。
それからは軍の関係者に気づかれないように世界を転々としながら各地での戦闘に乱入する日々が続いた。
扶桑海、パ・ド・カレー、北アフリカ……
だがいくら注意を払おうとも不測の事態は存在する。
行く先々で軍のウィッチに出くわすも、時間を経て心を通わせる事が出来たのは一重に彼の人を惹きつける才能なのだろう。
……そして1944年、咲輝はついに表舞台に戻った。
フランスに抵たる国家、ガリア沿岸部にて第501統合戦闘航空団所属“宮藤 芳佳”軍曹と“エーリカ・ハルトマン”中尉と鉢合わせた事を皮切りに501部隊に接触。
部隊長である“ミーナ・ディードリンデ・ヴィルケ”中佐からの協力もあり正式に隊の一員としてブリタニア防衛及びガリア奪還への道へと進む。
時には仲間達と衝突したり、珍妙なハプニングに見舞われたりもしたが、心を通わせた仲間達と共に無事ガリア奪還を果たした。
……同年冬、501部隊解散を機に再び世界を旅していた咲輝はロシアに抵たる国家オラーシャ帝国のペテルブルグに基地を構える第502統合戦闘航空団“
……1945年春、ロマーニャ公国方面を担う第504統合戦闘航空団“
撤退後、咲輝は504部隊長の推薦で、再結成された第501統合戦闘航空団に編入される。そこでもやはりハプニングや危機はあった物の無事乗り切り、彼女らの協力もあって遂に父親の遺産である“烈風改”を完成させた。それを携えた咲輝はStrike Witchesと共にヴェネツィアに巣くっていた巨大ネウロイの巣の撃破に成功した。
それからも咲輝は世界を転々としていった。
サン・トロン、エーゲ海、アルンヘム……
更にはガリア防衛を担う第506統合戦闘航空団“
……同年秋、スイス連邦に抵たる国家ヘルウェティア連邦において氷山と同化したネウロイが出現。
それにより三度、第501統合戦闘航空団“Strike Witches”が再編。
そして翌年1946・・・帝政カールスラント首都ベルリンの奪還を賭けた大規模反攻作戦“オペレーション・サウスウィンド”が発動。
Strike Witchesの活躍によりベルリン解放まであと一歩のところ連合軍にとって大きな誤算が生じた。
ベルリン上空の巨大ネウロイの巣が全世界のネウロイの巣を自らに取り込み始めたのだ。
全てのネウロイの巣を取り込んだカールスラントのネウロイの巣はその圧倒的な力を振るい連合軍を壊滅寸前にまで追い込んだ。
これに対し連合軍は全ての巣を取り込んだカールスラントの巣を新たに“グルーオン”と呼称し、これの撃滅を始めとしたネウロイ大掃討作戦“オペレーション・ゼウス”を発動。残された全戦力を投入しグルーオンの撃破を試みる。
しかしグルーオンは猛威を振るい続け連合軍戦力はその92%を壊滅に追い込まれる。
誰もが絶望に陥りつつあるその中、咲輝がロマーニャで助けた人型ネウロイ2体と共にグルーオンの猛攻を掻い潜り遂にグルーオンの体内への突入に成功する。
その報を受けた連合軍上層部は、1つの命令をStrike Witchesに下した。
「天羽 咲輝の覚醒魔法を以ってグルーオンのコアを攻撃。これを破壊せよ」
この命令は彼に“死んで来い”と言っているような物だ。
しかし、ミーナ中佐が判断に苦しんでいる間に連合軍は多大な損害を受け続ける。
ミーナは断腸の思いで命令を受諾、彼に自身の命と引き換えにグルーオンを倒せと命令する。
そしてグルーオン体内の中心部でコアと会敵。グルーオンのコアは固定を外し体外への脱出を図る。
そして追尾してくる咲輝と人型ネウロイにビームでの猛攻を仕掛けるが、咲輝は自身の固有魔法“霊子制御”でコアから放たれるビームを防御ではなく吸収していく。
そしてコアがあと少しでグルーオン体外への脱出を果たそうとした時、咲輝の髪と目が蒼白く発行する。
咲輝の両手に目と髪の発光色と同じ色の魔法陣が形成され、それをコアに向け付き出すとそこから多数の蒼白いレーザーが発射されグルーオンのコアへ殺到する。
それが咲輝の覚醒魔法“力の解放”だ。
それと同じように咲輝に付き従う人型ネウロイ2体もコアに向けビームを乱射する。
やがて全ての力を使い果たし、咲輝と人型ネウロイは重力に任せるかのように落下していく。だが3人が力を使い果たすと同時にグルーオンのコアも耐えられなかったのか大爆発を起こしながら砕け散り、咲輝と人型ネウロイはそれに飲み込まれた。
そしてその時、カールスラントは……人類は、ネウロイの恐怖から解放された。
……英雄と呼ばれる1人の少年の命と引き換えに