World Witches:Adventure -Revision-   作:天羽々矢

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OP:private wing/石田 燿子


2. 異界での再会、そして事件発生・・・?

あの日……全人類がネウロイの恐怖から解放された日……

彼と関わりが深かった魔女達からは“天羽 咲輝の死”と言う悪夢の日から1週間が経とうとしていた。

 

咲輝と特に関わりの深かった第501統合戦闘航空団Strike Witchesは再び解散に向けての雰囲気であったが、そこに哨戒中のカールスラント軍機からネウロイの残党らしき反応を捕捉したとの報告を受けた。

 

「あれ……?あの……ネウロイがいません!」

 

「私にも見えん、どうなっている……?ミーナ、場所は合っているのか?」

 

カールスラント軍からのネウロイ発見ポイントにいるのは2人の扶桑軍ウィッチ。

 

紫電二一型「紫電改」を脚に履き豆柴の耳と尻尾を生やした少女“宮藤 芳佳(みやふじ よしか)”曹長。

 

紫電五三型「紫電改五型」を装着しドーベルマンの耳と尻尾を生やした女性“坂本 美緒(さかもと みお)”少佐。

 

2人が話している通り、当該空域にはネウロイの機影らしき影は何処にも見えない。

 

〈えぇ、間違いないわ。確かにこのポイントを指しているはずよ……〉

 

そして美緒が連絡を取っているミーナと呼ばれた女性の声の主“ミーナ・ディードリンデ・ヴィルケ”中佐。

だが周囲には自分達501部隊のウィッチしかいない。どうにも不気味な雰囲気が辺りを包む中、

 

「各員、周囲を警戒しろ!」

 

まだ冷静でいられた美緒は、周囲の部下達にそう指示する。

 

〈待って、私ももう一度場所を確――――――……〉

 

その時、芳佳と美緒と通信していたミーナの声にノイズが入り始めた。

 

「あれ?ミーナ中佐?どうしたんですか、ミーナ中佐!?」

 

芳佳が必死にミーナに呼びかけるが、通信機(インカム)から聞こえてくるのはノイズばかりだ。

それでも尚通信を試み続けた芳佳だったが、目の前が突然白い光に覆われる。

 

「っ!?なに、この光っ……!坂本さん!ミーナ中佐!みんな――――――ッ!!」

 

芳佳が必死に仲間達に呼びかけるも誰も答えない。

自分1人しかいないような感覚に芳佳は不安を覚えるが、そんな彼女の心境はいざ知らず彼女を包む白い光は更に輝きを強め芳佳はとうとう目が開けられなくなる。そしてやがて光が芳佳を飲み込んでいく……。

 

 

 


 

 

 

―――???年 場所不明―――

 

 

やがて視界を覆っていた白い光が弱まっていき、ようやく目を開けられた芳佳は1人光の中を飛んでいく。

どれ程飛んでいたか時間と方向の感覚がなくなりそうだったが、やがて光が消え自分の眼下に街が見えた。

 

「ここは……」

 

眼下の街を目にした芳佳は混乱を隠せない。

その理由は至極簡単だ。芳佳が知っている街並みとは大きく異なり非常に発展している街並みだったのだ。

 

時代的には考えられない高層ビルが建っていたり住宅が密集していたりと、戦争下の情勢では考えられない光景である。

未だに状況が飲み込めていないが、

 

 

バホンッ!

 

 

「うわぁっ!?」

 

何か破裂音がしたと同時に芳佳がバランスを崩す。

見てみると紫電改の右脚のユニットが黒煙を吐いており飛行魔法のプロペラの回転が不安定になってきている。

何かしらの故障なのか、とにかくこれ以上の飛行は難しそうだ。

 

「……よし!」

 

住宅街の一角に不時着できそうな空き地を見つけ、一先ずそこへ降りるべく芳佳は降下を開始する。

 

 

 


 

 

 

……空き地に不時着した芳佳は一先ず紫電改を隠して街を調べる事にした。

昼間で人の往来があるにも関わらず、まるで初めての地を暗闇の中で歩くような孤独感に苛まれながらもただ歩いていく。

芳佳とすれ違う人々は彼女が珍しいのかあちこちで写真を撮っていたりチラチラ見ながら通行人同士でコソコソ喋っていたりと。

知らない土地で知らない人だらけ、これでもし心細くないという人間がいれば、それは神経が図太いかただの鈍感か、それとも馬鹿の類の人間か……。

 

少しでも周囲の視線を避けたいと思った芳佳は路地裏に入り込み身を隠す。

 

「はぁ……」

 

建物の壁に寄りかかり息を整える芳佳。こんな状況下ではまさに息が詰まるような感覚である。

とりあえず少し休んでからまた調べようと決め、地面に腰を下ろそうとした時、

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

「!?」

 

芳佳が隠れていた路地にもう1人何者かが入ってきた。

それに気づき慌てて近くにあったゴミ箱の影に隠れ、路地裏に入ってきた人物を覗き見る。

 

(…え…?)

 

しかし路地裏に入ってきたのは少女で、しかも芳佳はその少女に見覚えがあった。

紺のセーラー服に水練着、茶色のショートヘアの彼女を見間違えるはずがない。

意を決し芳佳はゴミ箱の影から出て少女に話しかける。

 

「ひかり…さん…?」

 

「え?」

 

芳佳にひかりと呼ばれた少女は微かだが反応し、ゆっくりと芳佳の方を振り向く。

そして芳佳の顔を見た少女はその表情を驚愕の色に染める。

 

「宮藤さん……!?」

 

芳佳を見てようやく少女“雁淵(かりぶち) ひかり”が言葉を発せた。

 

「ひかりさん!」

 

「宮藤さん!!あ~よかった!知ってる人に会えた~!!」

 

見知っている人物に会え、芳佳とひかりは喜んで互いを抱きしめる。

だがそんな中、ひかりが何かを思い出したかのようにハッとし右手のひとさし人差し指を立てて唇に当て、“静かに”のジェスチャーをする。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、その~……、何て言いますか……」

 

 

I found it! This way!(見つけたぞ!こっちだ!)

 

「うぇぇ、見つかっちゃった!」

 

「えぇっ!?」

 

突然ひかりが走ってきた方向から別の人物の声が聞こえ、ひかりは芳佳の手を引き走り出す。

2人のすぐ背後からは何やらカメラを持った大勢の男性達が追ってくる。その様子はまるでパパラッチから逃げる有名人だ。

 

 

……その様子を遠巻きに見ていた1人の男が乗っていた車を進めていく。

 

 

路地裏での追いかけっこはしばらく続き、人一倍の体力を持つひかりはまだ大丈夫そうだが、芳佳は既に息が切れ始めている。

 

「もうッ、ダメッ……これ以上は……」

 

「頑張ってください宮藤さん!」

 

路地の出口を前に芳佳はギブアップ間近、後ろからはカメラを持った多数の男達。

このままでは追い付かれ自分達はどうなるか分からない。そんな恐怖感に芳佳とひかりは叫びそうになるが、2人が向かう路地の出口前に1台のシルバーの4ドアセダンが止まり、前の右側ドアが開く。

 

「乗れ!早く!」

 

『はっ、はい!!』

 

車の運転席にいる男が2人にそう叫び2人は咄嗟に返事してしまったが、2人は男の指示通り飛び乗るように乗車。

2人の乗車を確認した運転手の男はアクセルを踏み込み、それに呼応するかのように乗っている車は後輪をホイルスピンさせながら急発車する。

置き去りにされたカメラ持ちの男達は待ってくれと言わんばかりに手を振りながら追いかけてくるが自動車の速度に人間が勝てる訳がない。

やがて追手を無事振り切り、芳佳とひかりを乗せたセダンは空いていたハンバーガーチェーン店の駐車場へと入る。

 

『た、助かった~……』

 

追ってきていた男達を振り切る事が出来、芳佳とひかりが安堵の溜息をつく。

 

「あ、あのっ!ありがとうございます!助けていただいて何とお礼を言えばいい、か……」

 

芳佳は自分達を助けてくれた男に礼を述べようとするが、男の方を見た途端に言葉を無くした。

それを見たひかりは首を傾げ、男の方を見るが、やはり芳佳と同じように言葉を無くした。

それ程までに目の前にいる男の存在が信じられなかったのだ。

 

「全く、2人を見た時はウソだろって驚いたよ。何でここにいるんだ?()()()()()?」

 

運転席で溜息をついた男……否、青年が2人の名を口にする。

黄色のシャツと半袖のライダースジャケット、グレーのカーゴパンツ、後頭部で縛っている黒いポニーテールと髪型や服装は変わっているが、少し幼さが残る中性的な顔立ちと黒曜石のような黒い瞳は変わっていない。

 

2人は瞳に涙を滲ませながら青年の名を叫ぶ。

 

『天羽さんッ!!』

 

叫んで直ぐに芳佳とひかりは青年に飛びついた。

飛びつかれた青年の方は少女2人にいきなり飛びつかれ頬を朱くして困惑するも嗚咽を上げている2人を見て自然と冷静になっていった。

 

……ここまででお察しの方もいるだろうが、2人が飛びついた青年こそ人類をネウロイの恐怖から救った真の英雄、“天羽 咲輝”なのだ。

 

 

 


 

 

 

芳佳とひかりは一頻り泣いた後顔を真っ赤にしながら咲輝にとにかく頭を下げた。

しかし咲輝はそんな2人を何とか鎮め、チェーン店にて昼食としてハンバーガー、フライドポテト、ドリンクのセットを3セット購入し、今は再び自分の車、カシミアシルバーの“2001年式 BMW 735i”をハンバーガー片手に走らせていた。

芳佳とひかりは735iの後部席に移動し始めて食べるであろうチェーン店のおハンバーガーに舌鼓を打ちつつ話題を切り出している。

 

「……で、2人とも気づいたらこの街の空を飛んでたと?」

 

『はい……』

 

右手でハンドルを握りつつも左手でチーズバーガーを持つ咲輝が芳佳とひかりから事情を聴いている。

だがその話は咲輝にとっては信じられない物ではなかった。

何故なら自分は既に転生という小説にあるような現象を体験しているのだ。

 

「それで天羽さん、ここ…何処なんですか?」

 

ここでひかりが今1番知りたい事を咲輝に問う。それは勿論、芳佳も知りたい事だ。

咲輝は交差点の赤信号の為735iを一時停車させ、食べ終えたチーズバーガーの包み紙を紙袋の中に突っ込み一息入れた後に口を開く。

 

「ロサンゼルスだよ」

 

「ロサンゼルス……?」

 

咲輝が発言した言葉が2人の脳内に反響する。

ようやく咲輝の言葉を飲み込んだ芳佳が口を開ける事ができた。

 

「……カリフォルニア、リベリオン合衆国じゃないですか!?」

 

「えぇぇッ!?」

 

芳佳の発言にひかりも驚く。

少なくとも芳佳はさっきまでは欧州(ヨーロッパ)辺りを飛んでいたはず。それが何時北大西洋を越えたというのか。

だが、そこに“違うぞ”と咲輝から言葉が聞こえた。

 

『えっ?』

 

何処が違うと言うのか、2人は理解しかねていたが咲輝の言葉が更に混乱を加速させる事になる。

 

「言っておくけど、ここは()()()()だ。リベリオンじゃない」

 

「えっ?えっ?でも、ロサンゼルスなんですよね、リベリオンの?」

 

やはり2人は咲輝の発言を理解できていないらしい。今まさに2人の頭上には?マークが次々と浮かんできている。だが咲輝の口は止まらない。

 

「じゃあ、今は何年だと思う?」

 

「何年って……1946年ですよね?」

 

先程は芳佳が答えた為、今度はひかりが答える。

確かに今は1946年だ。・・・・・・それが正しければの話だが。

困惑しっぱなしの2人に咲輝は止めを刺す。

 

「残念、今は2026年。2人の時計は80年も遅れてるよ」

 

・・・・・・。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!?』

 

セダン車に乗っているにも関わらず、芳佳とひかりの驚愕という爆音に運転席に座る咲輝はおろか、近くを歩く通行人でさえも耳を抑える。

何とか爆音から耳を守り切った咲輝は、丁度信号が青に変わったのを確認して再び735iを走らせる。その道中で、咲輝は2人にこの世界の歴史を簡単にだが教えた。

 

―――――この世界にネウロイと言う異形の敵は存在しない。国名については確かにこの大陸に存在する国は(かつ)てはリベリオンと呼ばれていた。それだけでなく殆どの国は芳佳とひかりが慣れ親しんでいる名前で呼ばれていた。

例えばブリタニア、オラーシャ、ロマーニャ、カールスラントといった国がそれだろう。

だがそれは19世紀半ばから20世紀前半にかけてそのほとんどの国名が改名されたいう。

つまり2人が口にした国名はこの世界においては100年以上も昔の呼び名なのだ。―――――

 

「少しは理解出来た?」

 

『は……はい……』

 

咲輝の講義に返事はしつつも実際はその内容は殆ど頭に入っていない。

それ程までに衝撃が強すぎたのだ。国を越えたならまだしも、年月どころか1つの世界という壁さえも飛び越えてしまったスケールに2人の頭はキャパオーバーを起こしていた。

 

そんな中、ふと気になった事をひかりが尋ねる。

 

「ところで天羽さん、どこに行くんですか?」

 

それを聞き芳佳も気になった。

自分達を助けてくれただけでなく、芳佳とひかりが元居た世界にて数多のウィッチ達を支えてきた咲輝に2人は全幅の信頼を寄せている。

その彼が今何処に向かっているのか、純粋に気になっただけである。

その問いに咲輝は薄っすらと笑みを浮かべる。楽しみを目前にしたような雰囲気を纏わせ口を開く。

 

「俺の友達の仕事場」

 

 

 


 

 

 

咲輝が芳佳とひかりを乗せながら735iを走らせ続ける事数分、735iは1つの建造物の近くの駐車場に入っていった。

咲輝が735iのトランクを開け、そこから電子ロック式の鍵が付いた黒いケースを取り出す。

営業時間前なのか、はたまた休日なのか出入口には警備員らしき服装の人間が2人程立っているが、咲輝がケースと手帳(パスポート)を見せると話が通った。その際に芳佳とひかりについての説明を要求されたが、ここも咲輝の機転で切り抜けた。

そして3人は建物内へと入っていく。その出入口直上の壁にはこう書かれていた。

 

 

Natural History Museum of Los Angeles County(ロサンゼルス自然史博物館)

 

 

そして咲輝の目当ての人物は直ぐ見つかった。

金髪ショートカットに黄色のパーカーを羽織りカーキのチノパンを履いた咲輝と同い年位の青年が1階のDinosaur Hall(恐竜ホール)にいた。

件の彼は今手袋をはめており、右手に持つ刷毛(ハケ)で展示中の恐竜の化石に付着している埃等を払っている仕事の途中のようだ。

 

「ふぅ…これでよし、と」

 

金髪の青年が一息つき、右手に持つ刷毛を腰に付けているポーチの中にしまい脚立から降りようとした時だ。

 

「クルト!!」

 

「わあぁぁぁぁッ!?」

 

エントランスホールからの大声に、青年は驚きバランスを崩す。

 

「クルト?」

 

「あぁぁぁぁッ、とっとっとっとっとッ!?」

 

バランスを崩した青年は左足を脚立から踏み外しながらも、恐竜の化石を吊り下げているワイヤーに掴まる事で非常にギリギリだが持ちこたえた。

それに青年は安堵の溜息。そしてその後に声の主、咲輝の方を見る。

青年から見れば何やら見かけない少女2人も同行しているが、それは咲輝がケースを見せる事で特に気にせずに終わる。

 

「荷物、届いてるぞ?」

 

咲輝がクルトと呼んだ青年、本名は“クルト・フラッハフェルト”。

少し幼くなったような雰囲気を除いては芳佳達の世界の同姓同名の人物をそのまま連れて来たかのように瓜二つな姿だが全くの別人だ。

 

クルトは在米ドイツ人にして、この博物館にて働く若き学芸員で考古学者の卵である。

 

 

 


 

 

 

クルトが脚立からの落下未遂から持ち直し脚立から降りてすぐ、咲輝がケースを床に置き芳佳、ひかり、クルトの3人が見守る中、ケースの電子ロックに4桁の暗証番号を打つ。

やがてケースの電子錠にOPENと表示されると同時に開錠する音がする。

 

「慎重にねサキ、世界に1つしかない貴重品なんだから…」

 

クルトの注意を聞きつつもゆっくりとケースを開ける。

そこにあったのは、オリンピックメダルと同程度の大きさで金色に輝くメダルだ。

 

『綺麗…!』

 

「これは…?」

 

芳佳とひかりがメダルに見とれる中、咲輝がクルトにメダルの事を問う。

クルトはメダルを手に取り、

 

「羽毛を持った蛇、古代マヤの創造神ケツァルコアトルをあしらった黄金のメダルだ!」

 

解説を挟みながらも返答したクルトの言葉に咲輝も素直に感激しているが、

 

「そりゃ凄いな!けど待てよ、何でそんなもんが?」

 

この世に唯一無二の代物が何故目の前にあるのか、咲輝は再度クルトに問う。

 

「ガランド博士がドイツの博物館から取り寄せてくれたんだよ」

 

「ガランド博士って、お前の先生の?」

 

咲輝の言葉にクルトは頷くと、床に置いてあった自分のリュックサックからマヤ文明に関連する資料本を取り出す。

 

「これがあれば、未だ謎が多いマヤの歴史を紐解く事が出来るんだ!」

 

テンションが上がるクルトに咲輝も当てられたのか、笑みを浮かべながらも言葉を重ねる。

 

「それじゃクルト、次の旅行プランは“6泊7日 メキシコ・古代マヤのミステリーツアー”で決まりだな!」

 

話についてこれずポカンとしている芳佳とひかりを後目に意気揚々な咲輝とクルト。

だが…、

 

「あぁッ!?あ、天羽さんあれッ!!」

 

突然、ひかりが声を荒げ窓の外を指差す。

咲輝とクルトが見ると、窓の外では白いセスナ 182スカイレーン軽飛行機が飛んでいた。……咲輝達を目掛け。

 

「なあぁッ!?」

 

「冗談だろ!?」

 

窓の光景を目にし慌てて逃げ出す4人。すぐにセスナ機は窓ガラスを突き破って館内に突っ込んできた。その際にあまりの慌てようにクルトは手に持っていた黄金のメダルを落としてしまう。

セスナが突っ込んだ衝撃で吊っていたワイヤーが外れ展示中の化石も崩れ落ち咲輝達の上に落ちる中、墜落したセスナ機から長身の男と巨漢の影が降りてくる。更にセスナ機からもう1つ人影が降りてくる。

 

セスナ墜落時の煙の中から出て来たその人影は、地面に落ちていた黄金のメダルを手に取る。

 

「綺麗…間違いなく私が探してた黄金のメダルね」

 

メダルを取った人影の正体は、何と少女である。

膝裏まで届く長い金髪に翡翠のような碧眼。黒いレオタードに腰履きの白いプリーツスカート、裏地が赤の黒マントに黒い手袋にブーツ、更に顔には赤と白のドミノマスクまで付けている。

 

「お前……何者だ!?」

 

そこに化石の下から出て来た咲輝が怒鳴りながら問うが、少女はメダルに息を吹きながら手に持つハンカチでメダルを拭きつつ咲輝に目配せし、

 

(ひい)婆様(ばあさま)の名にかけて、世界中のお宝は全部ちょーだい(頂戴)するんだから。ガランド博士によろしくね?それじゃバイバ~イ!」

 

「このッ…待てッ!!」

 

少女がマントを翻し自分達が突き破った窓からの逃走を図ろうとし、咲輝が阻止に動くが墜落したセスナ機のエンジンが爆発した時の爆風に煽られてバランスを崩した上に少女が逃走した窓の上の天井が崩れて塞がった為に逃亡を許してしまう。

 

「クソ…!」

 

咲輝は悪態をつくしかなかったが、ここでちょっとした事態が。

 

「?……うわぁアチッアチッアチッアチッ!!?」

 

『天羽さん!?』

 

「あぁぁぁほらほら!」

 

ズボンにセスナ機爆発時の火の粉が付着したのか、文字通り咲輝の尻に火が付いていた。

芳佳とひかりがアワアワする中、クルトは近くの消火器を持ってきて咲輝の尻に向け放射する。

 

その後、騒ぎを聞きつけた警備員が駆け付け4人とも軽い事情聴取を受けた後に滅茶苦茶になったホールの片づけをしてその場は解散となった。

 

 

 


 

 

 

場所は博物館から離れロサンゼルス(カウンティ)、ロングビーチ。

観光都市として有名な街の海岸沿いマリーナエリアに咲輝とクルトの居候先がある。

4階建てホテル風建物で1階にテラス席を設けており広々とした屋内はアンティーク家具や蓄音機風マルチレコードプレーヤーが置いてあったりと何処かレトロな落ち着いたインテリアでありながら日本の文化を織り交ぜた和洋折衷の雰囲気を見せる。

建物の屋上胸壁にはファザード看板でこう書かれている。

 

Cafe(カフェ) Terrace&Lounge(テラス&ラウンジ) Fleur de sorcière(フルール ド ソルシエール)

 

フランス語で“魔女の花”と読むこの店に今咲輝達はあった。

 

「それは大変だったわね咲輝?」

 

「全くだよハナ…あぁ~クソ~、まだ尻がヒリヒリしてる…」

 

店のカウンターに立つ既に咲輝よりも少し年上…20代前半位の茶色のロングカールヘアに白い花の髪飾りをつけたハナと呼ばれた女性が飲物を入れつつも軽く笑いながら言い、反対側のテーブル席を掃除する咲輝に言う中、咲輝は先程の事態で火傷を負った尻を軽く擦っている。

ちなみに今の咲輝はズボンを履き替えジーンズ姿になっているが、もう1つ、黒いエプロンも身に着けている。

 

今咲輝達のいるこのFleur de sorcièreは元々ホテルだったが、その事業が撤退し残った建物を買い取り1階部分を改装した物なのだがそれは別の機会に語るとしよう。

 

あの後咲輝は芳佳から治癒魔法を掛けてもらい火傷は多少治ったものの完治とまでは行かず、まだ少し痛むようだ。

その芳佳ともう1人、ひかりはラウンジのホテルフロントを改装したカウンターの席に腰を下ろしており、カウンターの反対側にいるハナが、そんな2人に湯飲みに入れた緑茶を出す。

 

「あ、ありがとうございます。でも、その…私達、お金が…」

 

「いいのよ、咲輝の知り合いみたいだし私からのサービスよ」

 

ハナの言葉に2人はおずおずと湯飲みを手に取る。まだ不安が残っているのか警戒している雰囲気だが、緑茶を一口口に含むと、強張っていた表情が徐々に緩み、ホウッと一息。

 

「おいしいです!」

 

「はい!とっても!」

 

「そう?普通のお茶なんだけどそう言われると嬉しいわね?」

 

芳佳とひかりの言葉にハナが照れ臭そうに返す中、咲輝はテーブルの拭き掃除を終え、腰に手を当て背伸びする。

そこに出入口のドアを開けて入ってくる人物が。

 

「ただいま」

 

「お帰り、(アメ)

 

「お帰りなさい、()()

 

入ってきたのは芳佳達と同い年が少し年上の雰囲気の少女。

 

赤いリボンで結った腰まで届く黒髪ポニーテール。翡翠のような綺麗な緑色の瞳。

整った顔立ちに体つき。白の着物風シャツとデニムジャケット。ミントグリーンの袴風ミニスカート。

黒ストッキング。茶色のローヒールニーハイブーツと指貫グローブ。

 

『えっと…?』

 

“天”や“姫様”と別々の呼び方をされている少女に芳佳とひかりは軽く混乱してしまうも、天と呼ばれた少女は芳佳とひかりに対しても特別問い詰めず、2人を見ると笑顔を見せる。

その静さに2人は一瞬ドキリとするもお辞儀でそれに答え、それを見た天も笑顔でお辞儀を返してすぐに咲輝の所に来る。

 

「咲輝、これ。ガランド博士からクルトさんへの届け物よ」

 

「ガランド博士から?」

 

天から手渡されたそれは荷物にしては小さくかつ薄い物だ。

咲輝に荷物を手渡すと、天はハナのいるカウンターへ。ひかりの隣に座りやはり彼女も出された緑茶を頂くが、その風貌故か彼女の方が絵になっている。

 

一方咲輝は、店の3階から降りて来たクルトにガランド博士からの荷物の事を知らせ、テーブル席を借りて中身を確かめる。

中に入っていたのは、1枚のLP盤レコードディスクだった。

 

「レコードディスク…だよな?」

 

「僕の好きなグスターヴ・ホルスト(ホルスト)とか中島みゆき(ミユキ・ナカジマ)でも送ってきてくれたのかな…?」

 

ふと漏れたクルトの言葉に咲輝は無視を決め込む事に。

 

 

※グスターヴ・ホルスト:イギリスの作曲家

 中島みゆき:日本の著名なシンガーソングライター。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

一先ずはレコードプレーヤーを借りるべく天とハナに相談。

咲輝から事情を聴いた2人はそれを了承し、マルチレコードプレーヤーを使わせてくれた。

クルトは早速ガランド博士の荷物であるレコードをセットし再生を始める。

 

流れて来たのは“グスターヴ・ホルスト”の代表的な曲“木星(Jupiter)”の中間旋“Andante maestoso”だ。

 

だがそれが流れ出して直後に、

 

〈親愛なる我が弟子、クルト君〉

 

曲に交じって何やら女性の声も聞こえて来たが、クルトはその声に聞き覚えがあった。

 

「ガランド博士からのメッセージだ!」

 

どうやらガランド博士からの荷物というのは本当だったらしい。自分の肉声を入れた手作りのレコードなのだ。

Andante maestosoの節に交じりながらも尚、声は続く。

 

〈黄金のメダルを奪った犯人が分かった。レパード・リードだ〉

 

“レパード・リード”、その名が出て来た途端にクルトが握りこぶしを作る。

 

「やっぱりそうか…!」

 

「レパード・リード?」

 

咲輝がクルトに聞こうとするが、クルトは右人差し指を唇に当て静かにのジェスチャーをする。

 

〈レパードは既にメキシコへ向かった。黄金のメダルの秘密を探る為にマヤ遺跡へ行くつもりだ。君も追ってくれ〉

 

「え、僕が…?」

 

〈黄金のメダルを取り戻すのだ〉

 

ガランド博士からのメッセージを受け、思わず弱気な発言をしてしまうが、

 

「心配すんなよクルト、俺も一緒に行くから」

 

クルトの左肩に右手を乗せながら咲輝がそう言う。

 

〈クルト君、行く先々には危険が待っている。生きるか死ぬか、君を守るのは君自身だ。検討を祈る〉

 

そして肉声が途切れるとほぼ同時にAndante maestosoも再生が止まる。どうやら内容の再生が終わったらしい。

 

「何かスパイみたい」

 

クルトが思った事を口にし咲輝と向き合った時、咲輝が思った事を口にした。

 

「まさか、“なおメッセージ再生後、このレコードは自動的に消滅します”って言うんじゃ?」

 

・・・・・・人はそれをフラグと言う。

その場にいた芳佳、ひかり、天、ハナも入れて全員がレコードを注視する中、突然レコードから煙が上がり始めた。

 

『わあぁぁぁぁッ!?』

 

「したよマジで!!」

 

突然の出来事にアタフタする一同。

ラウンジ内でドタバタしている間にレコードは激しい音と共に砕け散った。

 

レコードが木端微塵になり未だ煙が上がるプレーヤーを見つめる一同だが、追いかけるという事を思い出した芳佳とひかりは表情を曇らせる。

 

「どうしよう…追いかけろって言われても、紫電改は壊れちゃってるし…」

 

「私のチドリも…」

 

そう、2人のストライカーユニットはこの世界に来た時に起きた不調で今は使えない。陸路で追いかけていては広大なアメリカからメキシコへ移動するのにかなりの時間を要する。

どうしたらいいかと考え込む2人の肩に突然手が置かれた。

2人が顔を向けると、そこにいたのは天である。

 

「大丈夫。咲輝なら追いかけられるわ」

 

『ふぇ?』

 

いきなりの発言に2人は揃って首を傾げる。




ED:エルドラド/THE ALFEE
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