ぶらっくぶれっど『黒いパンとゼっちゃん』   作:藤村先生

2 / 8
【神を目指した者たち】NO:2

人類が寄生生物ガストレアに敗北しておよそ10年。人類はモノリスと呼ばれる結界を作り、その中に逃げ込むことによって一時の安寧を得ていた。徐々にかつての生活水準を取り戻す人類であったが、ガストレアの脅威は依然として去っていなかった。

 

ガストレアが嫌うバラニウム金属の結界内といえど、彼等の侵入を阻む無敵の盾ではなかった。

侵入を許した一匹のガストレアからウィルスの感染爆発が起こり、エリアの滅亡にも繋がりかねないことが頻繁に起こりうるのだ。

そこで人類は対ガストレア生物に対するスペシャリスト集団――――民間警備会社、通称【民警】を組織した。

 

民警の仕事は、前述のモノリス内に侵入したガストレアを殲滅する拠点防衛が主とされる。

が、少数であるが例外もある。

たとえば、モノリス外の未踏領域の調査。またはその調査に従事する人員の護衛等である。前者に比べ、後者の数は圧倒的に少ないの周知のことだろう。原因は言うまでもない。その難易度の高さ、及びそれに伴う危険度の高さだ。

 

モノリスの外は人類にとって地獄と言えよう。いたるところに巨大化したガストレア生物がうようよとしているのだ。

それもステージⅠ~Ⅳと品揃えも豊富ときたものだ。まともな人間は誰もやりたがらない。死にに行くようなものだからだ。政府からの直接の依頼かつ、成功報酬も半端ない案件に関してもそれは変わらない。

 

「まぁ、私には関係の無いことなのですが」

 

声の主――――ゼっちゃんは未踏領域をゆうゆうと歩いていた。某民警会社に入社して、何度目かになる任務の途中であった。

周囲には、『ホンマに日本かいな? 嘘やろ……ここアマゾンやで工藤』と言わざるを得ないような光景が広がっている。

ブラジルの奥地。うねうねと生い茂った木々。奇々怪々な生物。とても日本とは思えなかった。

 

「み、民警さん……あんた本当に大丈夫なのかよっ。イニシエーターも連れずにっ」

 

未踏領域調査員の男――――ゼっちゃんは名前は覚えていない、彼がそう告げる。

確かに世間的に考えたらイニシエーターのいないプロモーターなんぞ、武器を持たない狩人と同義だろう。

可笑しな話である。

 

ゼっちゃんはそのことに笑みを浮かべながら、

 

「大人数の方がまずいですよ。それに私は隠密が得意っすから安心して下さい」

 

それに、と奇妙な出で立ちをした少女は告げる。

 

「私の【直死の魔眼】+αの前では紙切れ同然です! 【ORT】みたいなアルティメットワンがいない限り問題ないのです!」

 

直死の魔眼。

ゼっちゃんがKAMISAMAに貰った二次元NOURYOKUだ。

某型月に登場するその魔眼は、生物の死を可視化する。死の線、死の点といった形でだ。残念ながら見ただけで相手を殺害できるような力はない。前述した線や点に触れる必要がある。

 

ともあれ死そのものを具現化する力だ。魔眼の前ではガストレアの再生能力なぞ無意味である。

 

「直死? 魔眼? あんたアニメの見過ぎじゃないの? 【天誅ガールズ】でもあるまいの――――って! が、ガストレアが!」

 

木々の奥から、奇妙な生物が現れた。

蛇の頭に蛙の胴体を持つ怪物。蛇と蛙の複合因子を持つステージⅡのガストレアだ。

 

「やばいぞ! おそってき、」

 

当然であるが一切の躊躇無く、甲高い声を発し襲いかかってきた。

蛇の口が牙を覗かせ、先頭を歩くゼっちゃんに向けられた。

 

「あは」

 

かつて夢見た対化け物戦。英雄になりたいわけではない。ただ無双がしたい。それだけだ。

それがリアルタイムに叶うこの瞬間。ゼっちゃんは堪らなく嬉しかった。世界の平和も。政治の情勢も。悪の組織の暗躍も。今晩の晩飯も。給与も。ボーナスも。今後の人生も。呪われた子供達のことも。原作で何か大変なことがあったような気がするが記憶が吹っ飛んだ頭のことも。何もかもが関係無い。

 

彼女はこの瞬間間違いなく幸せだった。

 

「ああ――――KAMISAMA」

 

赤い包帯を解き放つ。解放されたものは爛々と輝く殺人貴の瞳。直死の魔眼。

頬を染め、瞳を涙で潤わせ、震える唇で紡ぐ。

 

ああ、と快楽に溺れる生娘のように。

 

その娘に襲いかかるは蛇。彼女は、その蛇の口に支給されたバラニウム製の刀を走らせた。

刀は死線をなぞり、綺麗に蛇の頭を2枚に下す。

 

「頭がフットーしそうだよぉ」

 

舞い散る鮮血。どす黒い体液をまき散らす巨体は、頭を無くした影響で、巨体をコントロールできなくなったのだろう。

音を立てて崩れた。それだけだった。

 

「は?」

 

ただの人間がガストレアを一撃で必殺する。そして殺害したガストレアを見て、だらしない顔で悦に浸る少女。

男はその光景がグロテスクで悍ましい光景に見えてしかたがなかった。

 

「―――――あんた。本当に、人間、なのか?」

 

底冷えする殺意に肝を冷やし、常識離れした光景に腰を抜かしながら男は言葉を口にした。

それは問いではない。現状に対する自身への確認作業のようなもであった。

 

「あんたおかしいよ。ふつうじゃない」

 

男が抱く畏怖も恐怖も何もかもがゼっちゃんには興味がなかった。無関心といっていい。だから男が自分に向ける視線なんてものはどうでもいい。今の幸せな気持ち、ありのままの気持ちで相対した。

 

「TENNSEI系オリ主ですぅ。一応人間なのです」

 

抹殺の余韻に浸りながら告げる少女の様は、場違いながらもえも言わぬ扇情さを伴っていた。

 

ステージⅣ:1。 ステージⅢ:19。 ステージⅡ:8  ステージⅠ:33

上記の数字は、その後ゼっちゃんが当該任務中に抹殺したガストレアの数である。無論、全てが一撃必殺だ。

 

 

 

 

 

 

ゼっちゃんが某民警会社に入社してから3週間が経過していた。

月日が経つのは早いものである、とゼっちゃんはよく考えている。

常に頭の8割方が無双に傾倒している彼女にとってガストレアとの明るく楽しくバトれる環境が、そういう思いをより助長していた。

余談であるが残りの2割はロストヴァージン達成に向けてのプラン構成である。生憎ながら、対象が不在であったが。

 

ともあれガストレア戦争から10年。2031年の春。

 

某民警備会社。そのオフィス内でとある少女達が顔を会わせていた。

一人は小柄で、いかにも利発そうな顔をした10歳前後だろうと思われる少女。腕には総務部長の腕章が巻かれている。

そしてもう片方は、上半身に青いジャージ+下半身はブルマーを、そして何より目を惹くのは目を隠すように巻かれた赤い包帯、そんな特殊な出で立ちをした少女。

 

「私、怒っています。何故だかわかりますか?」

 

利発そうな顔をした少女――――総務部長の夏世が些か機嫌が悪そうに向いの少女に告げる。

 

その問に間髪入れずわからないのです、と答える少女――――残念系TENNSEI少女ゼっちゃん。

 

「あ! もしかして、一昨日の晩に夏世ちゃんのゴージャス☆セレブプリンを食べたのまだ引きずってるっすか?」

 

「違います。それはそれで怒っていますけど。怒っていますけども。これだから脳筋は……。いいですか。リアル中二病にもわかるように優しくいいますんでよーく聞いてくださいね?」

 

私怒っているんですよ、と腰に手をあてながら告げる。

 

「ゼっちゃんさん。いい加減にですね、脳筋バリバリな外回りばかりしていないで偶には書類整理等の事務仕事をして下さい」

 

「脳筋なんて失礼なのです! 私は力技なんて使ったことないですよー。ちょっと死の線をなぞってあげただけっす」

 

嘘は言っていない。直死の魔眼を以てガストレアの死を視た。ある時はその体に走る死の線をなぞり、ある時は死の点を突いてきた。

熱したナイフでバターを切り裂くようなもので、大した労力なぞ必要無かった。

 

圧倒的な蹂躙具合。素敵過ぎる中二具合。もはや無双としか言えないその様に、ゼっちゃんは興奮のあまり何度絶頂を迎えたのか覚えていない。

 

「ごめんなさい。何を言っているのか意味がわかりません。脳まで筋肉で出来ているんですか」

 

「まさか!」

 

ゼっちゃん以外には理解出来ないだろうが特別な事は何もしていない。あまりにも単純なルーチンワーク。ただ、視て斬る。ただそれだけ。

 

「それに……真面目にこんな戦果を信じろって言う方が無理な話です」

 

ゼっちゃんからすればそれだけの事なのだが、周囲から見れば異常にしか見えなかったようだ。

夏世も未だに、その戦果を素直に信じられないでいた。

無理もない。たった3週間前から民警に勤務することになったルーキーが、ガストレアをゴミ屑のように屠っているのだから。

ゼっちゃんが屠ったガストレアはステージⅣが3体。ステージⅢが22体。ステージⅡ、ステージⅠはもはや彼女自身何体解体したのか覚えていない程だった。

 

「…………」

 

夏世が何かを口にしようとして、躊躇したように閉じる。ゼっちゃんの戦果は圧倒的だ。鬼神の如き力である。

英雄的な戦果を叩きだし、そこには比類無き頼もしさも感じる。が、それ以上に畏れがある。

 

ただの人間、機械化歩兵でもガストレア因子を持たない、奇怪な格好をしただけの少女が、通常のガストレア種そのハイエンドであるステージⅣを一撃で必殺する。

 

有り得ない。

なぜならガストレア生物はそれ程弱くない。

人間を狭い箱庭に追いやった彼等は間違いなく現段階で地球最強の生物だ。彼等を最強足らしめているのはその再生力と言えるだろう。

 

通常のステージⅠであればバラニウム製の武器で傷付け殺傷することが問題無く可能だ。そんなことは誰もが知っている。しかし、ステージⅡ~Ⅲとより再生能力が強化されて滅ぼすのがより困難になる。

 

そしてハイエンドのステージⅣに至っては塵一つ残すことなく殲滅しなくてはならない。僅かな細胞からでも彼等は再生するからだ。ゆえに人類は敗北し、惨めに箱の中へと追いやられた。地球最強はガストレアだ。地球の支配者はガストレアだ。人間なんて束になってもガストレアには敵わない。仮に地球上全てのバラニウムを使ったとしても、彼等ガストレアを殲滅するのは不可能である。

 

だからこそ、理解出来ない。

そのような生物をゴミ屑のように屠る人間を。果たしてそれは人間なのだろうか。

 

色々と疑問や畏怖もあるが、

 

「善も悪も。普通も異常も。弱いも強いも。関係ありません。私の無双がしたいだけです! ドン!」

 

つまりところ物事を深く考えない頭からっぽ系の中二病か、と夏世は納得した。

 

「少年ジャンピングのワンポーズごっこは置いておいてですね。仕事の話です」

 

「ロリ部長はうるさいのです。それに社長に許可を取りましたよ。文句があるなら社長に言って下さいっす」

 

「脳筋ブルマの癖に……」

 

「戦闘系でも何でもいいですけど少しはそれ以外のこともして下さい」

 

「そこそこにした記憶もあるのですよ」

 

「未踏領域におけるモノリス建造計画、そのための事前調査依頼がありましたよね? それらの打ち合わせ等、必要な業者との会合は私が全て行ったのですが?」

 

「適材適所なのです。おかげで調査は無事完了で契約金も政府からたんまり支払われたのです。ゴージャス☆セレブプリンを沢山食べれて夏世ちゃんも喜んでましたよね?」

 

「プ、プリンに釣られる私ではありませんよ……すごく美味しかったですけど」

 

「WINWINの関係ですね! 私と夏世ちゃんはIP(イニシエーター・プロモーター)の相棒なんですから助け合わないと!」

 

「……ゼっちゃんさんは民警のIP序列を上げたいだけじゃないですか。それに、私は名義を貸しているだけです」

 

IP序列はあくまでイニシエーターとプロモーターのコンビが前提になっている。

イニシエーターは世間一般ではプロモーターの武器であり、プロモーターはイニシエーターの脳であり生命線であるからだ。

 

ある時ゼっちゃんは気がついた。プロモーター一人だけではどんなに無双しようが評価されようが、民警会社のIP序列というステータスの向上に繋がらない、と。IP序列――――X位。その甘美でオサレな響きに、ゼっちゃんは抗うことなど当然出来るはずがなかった。そこで、その頭脳の明晰さを買われ事務仕事のみに特化するように雇われていた先輩社員、偶々イニシエーターであった千寿夏世の名義だけを借りて、届出上はゼっちゃんと千寿夏世の民警コンビが誕生したのである。

 

「国際イニシエーター監督機構【IISO】から連絡がりました。我々のペアがこの短期間で獅子奮迅の戦果をあげていることに関して、その事についてのヒアリングです。正直私は一切戦闘行為をしておりませんので非常に返答に困りました」

 

「道理で社長の機嫌が良かったのですね。夏世ちゃんが【IISO】から評価されて嬉しいのでしょう!」

 

「社長の機嫌なんて別に……どうでもいいですけど。しかし、【IISO】が評価するような華々しい戦果をあげた覚えは私にはありませんが」

 

夏世は、表情が見えないように俯く。

ゼっちゃんは、そのモジモジとした仕草に勝機を見た。この説教空間に突入するであろう空気の突破口を、だ。

前世は2X年引きこもりのニートをしていた人間だ。舌先三寸口八丁で、働け働けとRPGのNPCのように同じ事を連呼する両親を丸めてきたのは伊達ではない。

 

「私は戦闘系の人間なのです。正直オサレな無双しか興味無いし出来ないのです。でもそんな人間だけじゃ、この前の殲滅戦の作戦も立てられなかったですし、未踏領域調査も無事に完遂出来なかったはずです! つまり、半分以上は確実に夏世ちゃんのおかげっす!」

 

「ですから別に」

 

「いいや! 夏世ちゃんは最高なのです! 社長もぞっこんですよ!」

 

「そんなものいりませんが」

 

「いやいや社長も鼻が高いですね! 仕事が出来て謙遜も出来るお気に入りの美少女秘書兼総務部長が、【IISO】から正式に評価されるのですから!」

 

ゼっちゃんの元の人格は、元々承認欲求に餓えていた人間だ。

だから他者の承認欲求には敏感であったし、その求めている内容に関しても見抜く力があった。千寿夏世の場合。それはイニシエーターだからと差別されることも区別されることもなく、人間として人間らしく対等に扱われ、そして正当な評価を受けること。そして、最も採点して欲しいと望んでいる人間を引き合いに出せばいい。

 

「………まぁ、別に、いいですけど」

 

すると自ずと欲求が満たされる。結果的に心の充足が、些細なゼっちゃんに対する説教を無視することに繋がるのだ。

 

――――勝った。

 

アフターフォローまですれば完璧だろう。即ち、事実はどうであれ直接褒めさせる。

 

「そうだ! 夏世ちゃん! 折角なので社長にも改めて報告するのはどうでしょう」

 

「別にいいです。社長になんて」

 

「まぁまぁ。社長は社長室ですね! 行きましょうよ!」

 

夏世の腕を引き、社長室に向かおうとするゼっちゃん。

しかし、夏世は「待って下さい」と逆に彼女の腕を引き、止める。

 

「社長はこの時間になったら、毎週恒例の【天誅ガールズ】を観ています。邪魔するとしばらく拗ねてしまいますので注意してください。ちなみに、社長の推メンは天誅レッドですよ」

 

「詳しいのですね。何かのアニメです? 夏世ちゃんも観てるのですか?」

 

「報復系スプラッタ魔法少女アニメです。私は毎週録画しておりますので。」

 

流行っているんだ天誅ガールズ、とゼっちゃんは何とも言えない顔で呟いた。

 

「ところで、いつも会社には社長と夏世ちゃん以外は見ないのですが他に社員はいるのですか?」

 

「はい。何名か在籍していますね。皆さん自由奔放な性格破綻し――――ごほん。失礼。皆さん仕事熱心な方々ですからね、滅多に事務所には帰ってきません。一応GPSを付けていますし連絡も取れるのですが……。あとは先日のように、事務所で受けた依頼を、私が端末に送信して報告を頂いている形です」

 

「前半無視しますけど、ここの会社大丈夫ですか?」

 

「チンピラや頭おかしい電波系ばかりの他社民警会社と比較したらまだ大丈夫、かと」

 

「全体的にプロモーターはそういう感じの人が多いと聞きますが、イニシエーターはどうなのですか?」

 

「ちなみに当社に在籍しているイニシエーターは私だけなので、他の皆さんはゼっちゃんさんと同じプロモーターです」

 

「え?」

 

そうなんだ、と若干驚いているゼッちゃんの後方。社長室の扉が開いた。そこから出てきたのは死んだ魚の目のような男。人生絶望しきってるような腐った目で周囲を俯瞰し、

 

「お。来てたんだゼっちゃん。おはよう。夏世ちゃんと何か話してたけど大丈夫? トラブルとか起きてないか?」

 

「おはようございます、社長。トラブルとかはないのです! むしろ――――」

 

「ごほん。あのことは別に言わなくてもいいです」

 

説教の流れもなくなったのだ。ここが引き際だろう。ゼっちゃんは素直に引くことにした。機微に敏い少女だった。

 

「そういえば社長。明日は13時から防衛相で会合予定でしたが、特に問題はありませんか?」

 

「え。明日は【天誅ガールズ】のラジオが――――」

 

夏世は無視した。

 

「聖天子様主催の――――内容はよくわかりませんが何か重要な会合らしいです。必ず出席してください」

 

「いやいや。【天誅ガールズ】の生ラジオだぜ? 常識的に考えてみろよ。いつ聞くの? 明日でしょ! 会合なんてさ、いつも大して中身の無いパフォーマンスじゃん。嫌だよ俺は。そんな無駄な――――ー」

 

ゼっちゃんは後半無視して疑問した。社長が何とも言えないキモイ表情をしていたがそれも無視した。

 

「それって他社の民警さんも沢山来るのですか?」

 

「大手から中小まで、力のある会社は来られると思いますが」

 

「へーそうなのですか」

 

聞いてみたが特に理由はなかった。もしかしたら、よく覚えていない原作の警備会社に会えるかもしれないぐらいのレベルの興味だ。

 

「お。ぜっちゃん興味深々だよ。いいね素晴らしい。だったらさ、ゼっちゃんが社長代理で出てきなよ」

 

そんな面倒なことはごめんだ。それに自分が否定しなくとも別に対応してくれる子がいる。ゼっちゃんがそちらを見やると眉間に皺を寄せた夏世がいた。

 

「社長」

 

「あんなの好き好んで出席する奴等なんて大抵変態オヤジばかりだからさ、ゼっちゃんが行ったらモテモテだぜ?」

 

「社長」

 

「ほら、オヤジってさブルマとか超好きだろ? 俺にはいまいちわからんが――――」

 

「社長。お願いしますね。あと昨晩、お知り合いの女性が来られてからまた変な匂いがします。芳香剤、新しいの買ってきて下さい」

 

若干10歳にして色の無い目を披露する様はなかなか威圧感があった。

 

―――――また、ずっこんばっこんしたんですか?

 

呆れたように視線をやる。社長は黙って親指を立てていた。

 

 

 

 

蛇足

 

 

 

 

 

 

疑問しよう。2X年間、引きこもりのパラサイトシングルであった彼氏いない歴=年齢の女子力ゼロニートに生活能力はあるでしょうか?

 

『魚って切り身のまま海を泳いでいるとばかり……』『ご飯ってどうやって炊けばいいのですか』『洗濯機が回らないのです』『私は悪くないのです。社会が悪いのです。洗濯機が勝手に壊れました』『女子力53万程あるつもりだったのですが……』

 

回答。あるわけねぇだろそんなもの。

 

某民間警備会社に入社し、各種保険手続き等が取られ、社宅の手配もされたゼっちゃんだったが、あまりにも生活能力が無さ過ぎた。社宅を手配した社長自身でさえ、僅か1週間ばかりで家具家電を駄目にし、現状回復に当たり、敷金相殺出来ない状態になったのには腰が抜けそうになっていた。社長という立場から、人間としての最低限の生活能力が皆無なのは一社員としてはどうなのか、と考えざるを得なかった。

 

放置出来る問題でもなく、ゼっちゃんのNOURYOKUだけはかっていた彼はある提案をしてみることにした、

 

「丁度、我が家で一部屋使っていない部屋があるから……来るか?」

 

その結果、

 

「家族が増えるよ! やったね夏世ちゃん!」

 

「……別にいいですけど」

 

東京某区にある大型RCマンションに、ゼっちゃんは在住することになった。

 

【間取り】3LDK+夏世ちん。 LDK20.8帖。洋室6.0帖。洋室6.0帖。洋室6.0帖。夏世ちん10歳。

【EQUIP】玄関AR。宅配BOX。浴室乾燥機。追い炊き機能付きバスユニット。洗髪洗面台。全居室FL。WIC×2。システムK(IH三口)。温水洗浄暖房便座。高速EV。LDK床下暖房。複層ガラス。全居室AC。

 

+夏世ちん。

 

「夏世ちゃん。プライベートもよろしくなのです! というか、社長と一緒に住んでたのですね!」

 

夏世は犠牲になったのだ。

 

 

 

 

 

 

千寿・夏世(イニシエーター)

プライベートもゼっちゃんの襲撃を受けることになったモデル:ドルフィンのイニシエーター。某民警会社の総務部長。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。