「暁、これなんかどうかしら?」
「いいんじゃね?似合ってるよ」
「もう、反応薄い。もうちょっと何かないの?」
「いや、母さん何着せても似合うから仕方ないだろ」
「それはあなたも同じでしょ?」
今俺は母さんと買い物に来ている。アクセサリーづくりに必要な材料などを買い、今は服を見ている。俺は履いている靴が古くなり新しく買い直した。俺デケェからサイズが合う靴を探すのも一苦労だ。
家にも試作を作るための作業部屋もあるため母さんがよく作業している。俺も幼い時からその姿を見ているから作れるが、母さんには程遠い。みこに作ったブレスレットが今のところ最高の出来だ。
「暁は……これなんてどう?これと合わせたら合うんじゃない?」
母さんが見せてきたのはシンプルな白の長袖シャツと黒のロングコートだ。確かにこれから先寒くなるから必要になってくるだろう。
「いや、俺は別に着れるのならなんでも…」
「よかったらご試着されますか?」
このお店の店員さんが試着を勧めてきた。なんかすっごいニマニマしてるなこの店員。
「暁、折角だし試着してみたら?」
「……わかったよ」
俺は母さんの言われた通り試着室に入る。母さんも既に気づいているけど、ここに来たのは気配も感じ取ったからな。
「私ここで待ってるから着たら見せてね」
俺は頷き試着室に入りカーテンを閉める。
『あんなイケメンなお兄さんとお買い物なんて仲がいいんですねー』
『うふふ、妹と呼ばれる年齢じゃありませんよ私は。こう見えてあの子の母親なんです』
『ええ⁉︎お母様だったんですか⁉︎も、申し訳ありません!』
『大丈夫ですよ。周りからも兄妹とよく間違われるので、私ってそんなに若く見えますか?』
『は、はい。とても』
なんか話に盛り上がってるな。母さん若く見えるからよく兄妹と間違われるんだよな。母さん綺麗だから今でも偶にナンパなんてされる事もある。
「(気配は近いが姿を現さないな…何か条件でもあるのか?)」
俺は今着込んでいる黒のパーカーを脱ぎ、白の長袖シャツを着込み、鏡を見る。
【オニアイガイイデスネイタイ、アワアワセテミマシタ】
「(成る程、ここで試着する事で姿を現すタイプの霊か…)」
目の前にいるのはスーツ姿の女性の霊だ。頭は凹んでおり首は捻れたような状態。このまま放っておいたらこのお店に何かしら影響を及ぼすだろう。
【ッ!オマエ…ミエテルノォ?ミエテルゥ?】
鏡から視線あったのか俺に問いかけてくる。しかも気配が増したな…二級あたりか?まっ、問題は無いけど…
【ギャッ!!?】
「(なんだ?意外と耐久力ねぇな…)」
とりあえず左手に呪力を集中させ視認できない速さの裏拳を喰らわせ、霊は吹っ飛び試着室から消えた。気配が消えたところを見ると今の一撃で消滅したのだろう。
とりあえず黒のロングコートを羽織る。その間母さんは試着を終えるまで俺が出てくるの待ち続ける。
「着替えたぞー」
「着替えた?見せてちょうだい」
俺は掴んだカーテンを引いて着た衣装を見せる。
「どう?」
「うん、良いよ! シンプルな色も似合ってるわよ暁!じゃあ次はこれ!!」
「いつの間にそんなの選んでたんだよ」
似合ってるかどうかを訊ねた俺に対し母さんはすごい褒めていたが、いつの間にか今度はグレーのコーチジャケットを手渡され、しばらく俺は母さんの着せ替え人形と化してしまった。ただ母さんが選んできた服は俺の好みにドンピシャな物だった。
「こんな感じになった…」
「それもいいじゃない!」
今着てる服を着て見せると、他にも手に持っていた服の一式を受け取って再び着替え始める。
それから暫くの間は母さんによるファッションショーが続き、それが終わる頃には流石の俺もつかれる。今回試着した服を上と下のセットで4着買うことになった。
「ふぅ、疲れた……」
「うふふ、久しぶりに楽しんだわ。霊も祓えたし…後は問題はなさそうね」
「いい笑顔で言って、こっちは別の意味で疲れたんだぞ」
「いいじゃない偶には、後でチョコシェイク買ってあげるから」
「そうかい」
その後店を後にし、俺はチョコレートシェイク、母さんはストロベリーシェイクを飲むのだった。
「姉ちゃん、母さんのプレゼントなに買うの?」
「うん、服を買おうと【ギャァァ!!イタイー!!】……思う」
「姉ちゃん?」
「あ、あのお店に行こっか(な、なんかヤバいの飛んできた上消えた?すごい拳の跡……)」
別の場所ではある姉弟が買い物に来ており、暁が裏拳で吹っ飛ばし、顔面が凹んだ霊が現れたが、しばらく痛みにもがいたのち消滅した。
「ねぇ、暁」
「んー?」
「今言うけど、あなた最近何かあった?」
自宅に向けて車で帰る際、母さんに変なことを聞かれた。最近特になにもないが、突然どうしたんだ?
「別に、なにもないけど」
「えー、嘘おっしゃい。あなた最近変わったわよ。なんというか…笑うことが多くなったていうかなんて言うか」
「俺だって笑うことぐらいあるわ」
「そう言った笑いじゃなくて、なんと言うか、偶に今まで見たことないくらい穏やかな笑顔を見るようになったわよ」
「そうか?」
自覚はないけど、そんな表情をした事があったのか?いつ…
「メールのやり取りをしてるときによくあるわよ。もしかして……みこちゃんが関係してる?」
「なんでみこが出てくるんだよ?」
「えっ?暁が友達の里香ちゃん以外の女の子を呼び捨てにしてる⁉︎お母さんびっくり!!前までは四谷さんって呼んでたのに…」
母さんは里香のことは知ってる。後は憂太も。テストや試験勉強の時に偶に一緒に勉強する際に家に来たことがあるから二人とは顔見知りだ。
「いや、みこの友達がなんか距離感感じるっていわれてそうしたんだ」
「ふーん?ねぇ…暁はさ、みこちゃんのことどう思ってるの?」
「どうって、どういう事だよ」
「あなたの変化に気づけないほど落ちぶれていないわよ。女の子に興味を示さないあなたが、少しずつ変わってる。例えばだけど、あなたとみこちゃんが手を繋いでいるところを想像してみなさい」
「…………」
俺はとりあえず母さんの言葉に言われたとおりに想像してみる。なんでだろう…心拍が速くなってる?
「どうかしら?」
「……なんか、心拍が速くなってる」
母さんは俺の言葉にミラー越しにニヤニヤと笑みを浮かべていた。なんか腹立つ笑み…
「じゃあ次にそのみこちゃんの手を繋いでいる相手を暁じゃなく…他の男性を想像してみて」
「………?」
暁は再び静江の言葉に首を傾げながら言われたとおりに想像してみる。
「……どうかしら?」
「……なんかイラっとする」
バックミラー越しで青筋を作り、眉を顰めている暁の様子に静江は笑みを浮かべる。
「言われてみればこの感じ、みこと一緒にいる時にある感じだ」
「暁、それはね、あなたは恋をしてるのよ」
「は?」
暁は突然の事に素っ頓狂な声を出す。
「恋?俺が、みこに?」
「ええ、あなたはみこちゃんに恋をしてるのよ。もしかして本当にわからなかった感じ?だとしたらちょっとウケるわ」
「………わかるわけねぇだろ」
母に言われようやく自分の気持ちに気づいた暁は顔を赤くしていた。
「誰かを好きになるなんて、今までなかったんだよ。他の奴らはずっと顔ばかりで近付くやつばっかだったし。ましてや自分が誰かを好きになるなんて思わなかったんだよ」
「(うわぁ、まさかここまでとは。暁もそんな顔できたのね…)」
静江は初めて見せる息子の表情に少し驚くも少し寂しくも感じた。
「暁……」
「なんだよ…」
「お母さん、応援してるからね。困った事があったら遠慮なく相談しなさい」
「………おう、サンキュー」
暁からいい返事を聞き、静江は笑顔を浮かべる。暁は車に揺られながら外の景色を眺めるのだった。