不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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7話投稿です
原作で言うと三つある山場のうち最初の一つ
色々と考えながら漫画、小説を見ながら進めていたので少々長くなってしまいました



7話-熱した鉄は、壊れやすい-

「気が安らぐ...眠くなってくるな」

 

今勇者全員で来ているのは高松市にある温泉旅館

あの戦いの後暫くの間、襲撃は無いと言われた俺たちは休養期間としてこの旅館に宿泊しているというわけである

 

「...一体俺は誰に向かって話しているのだろう」

 

最近はタマや杏たち勇者に囲まれていた所為か、一人でいる時間に寂しさを覚えるようになってきた

 

「そろそろ上がるか」

 

一足先に温泉から上がり、みんなが出てくるのを待っていると一足先に高嶋が出てくるのが見えた。高嶋も俺に気が付いたのか手を振って俺に声をかけてくる

 

「お待たせ―!」

「いや、そこまで待っていない...高嶋こそ、まだ入っていても良かったんだぞ?」

「......」

「どうかしたのか?」

「苗字!」

「えっ?」

「そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないかな?」

「それもそう...なのか?」

「そうだよ!それに、仲良くなりたいならまずは名前で呼び合う所から、だよ!」

「そうだな...これからは名前で呼ぶことにする」

 

俺が名前で呼ぶことを了承すると若干むくれていたたかし...友奈はいつも通りの笑顔を見せた

 

「そうだ!それなら若葉ちゃん達も名前で呼んだらいいと思うよ」

「他のみんなもか?」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、満腹!」

「食べてすぐ寝ると牛になるよ」

「むしろそれが狙いだ!タマは牛のようにデカく強くなるんだ、宇和島の闘牛のように!」

「そういう牛にはなれないと思う...」

 

全員が温泉から上がり、夕食を食べ終えると球子がすぐに寝転がった、それを見ていた杏がタマにちょっとしたことを言いタマがそれに返事をする

当たり前になった日常を身近に感じると、最近は安心を覚えるようになってきた

 

「ご飯、すごく豪華だったね。値段を想像すると怖いけど」

「やはり、四国勇者への特別待遇なのでしょうね...。丸亀城にも、四国各地から”勇者様へ”と様々なものが送られてきています。食べ物もですし、高級工芸品なんかも...」

「そうだな、初めは何かの宣伝目的の贈答品かと思ったが...違う」

「なら、俺がここにいるのは場違いな気がしてくるな」

 

今回の破格の待遇が勇者に対しての物なら、勇者でない俺がここにいていいものかと疑問になってくる。そんな俺に気が付いたのか上里が俺の疑問を解消するために話を始めた

 

「それは違います、不知火さんは確かに勇者ではありませんが勇者と共に戦う者であることに変わりはありませんから」

「俺は勇者ではないが世間から見たら勇者だと言う事になるのか?」

「そうなりますね」

「少し複雑な気分だ」

 

勇者じゃないのに勇者扱いされるのは、複雑な気分になってくる

 

「私は当然の待遇だと思っているけど...私達は政治家や芸能人なんかには到底出来ない事を...やっているんだから、もちろん貴方の待遇に関しても間違っていると思っていない」

「当然の待遇...か」

 

郡にはそう言われたが、少しずつマイナス方面になり始めたので、別の事を考える為に、ここで友奈に提案されたことをみんなに言ってみることにする

 

「そういえばさっき友奈に言われたんだが、信頼関係を示すためにみんなの事を名前で呼びたいんだが、大丈夫だろうか?」

 

俺の言葉にみんな目を見開いていた。

友奈の事を名前呼びした瞬間、郡の方から少しだけ圧を感じた気がするが気にしないでみんなの反応を待つ

 

「タマと杏はいまさらだよな」

「そうだね、結構初めの頃から名前呼びだったし」

「提案したのは私だし、私は良いと思うよ!」

 

名前呼びだったこともあり特に疑問はなかったタマと杏の二人に提案してくれた友奈は肯定的に言ってくれた

 

「そうですね、不知火さんとは少し距離を感じてましたし良い機会かもしれませんね」

「私も良いと思う、呼び方の違いは些細なものだが、それでも戦闘においては大きなものになると思うからな」

「私は...まぁどっちでもいいわ」

 

「そうだ!この際タマ達も不知火のこと名前で呼ぶことにしようぜ!」

「賛成!良いと思う!」

 

乃木と上里の二人も肯定的に言ってくれた、郡も否定的ではないようでひとまず安心する

全員を名前呼びすることに決まったわけだから改めて全員に言っておこう

 

「改めて...若葉、ひなた、タマ、杏、友奈、千景、これからもよろしく頼む」

「おう!改めてよろしくな要!」

「これからもよろしくお願いしますね、要さん」

「よろしくお願いします、要さん」

「要、これからもよろしく頼む」

「一緒に頑張ろうね!要くん!」

「......よろしく」

 

たかが呼び方、されど呼び方

呼び方一つではあるが少しだけ信頼関係が築けたのではないかと思う

 

「よし!温泉にも入ったしご飯も食べた...だが寝るには少し早い、と言う事でみんな!ゲームでもするか!」

「ゲームですか...こんなこともあろうかと将棋盤なら持ってきました」

「ヒナちゃん渋いね!私は王道だけどトランプ!」

 

カバンからそれぞれ将棋盤とトランプの束を取り出したひなたと友奈の二人

 

「ゲームなら...そこにあるわ」

 

千景がテレビを指さすとその下にはゲームのハードらしきものが置かれていた

 

「他にも、人狼だったら紙とペンとスマホのアプリがあればできますね」

「よしっ!だったら全部やるっ!そしてタマが全部勝つッ!!」

「勝負事とあれば、俺も真剣に取り組もう」

「おっ、やる気だな要!だが勝つのはタマだ!」

 

結論から言うと、俺とタマの二人は全く勝つことが出来なかった

正確に言えば、ほとんどのゲームで千景が圧勝だった、将棋、トランプ、人狼等、普段からゲームをしているだけあって千景はめっちゃ強かった

千景に手も足も出ず敗北したタマと杏の二人は現在部屋の隅で落ち込んでおり、俺も部屋の壁に背をつけ真っ白に燃え尽きている

 

「さすがぐんちゃん、全勝だね」

「得意だから...」

 

現在はトランプ勝負の決勝戦、若葉と千景の一騎打ちと言う状況である。

少しの間だが一緒に過ごして千景が若葉の事を若干ライバル視している為、この勝負は彼女にとって負けられない戦いであるのだろう、気迫が伝わってくる

 

「この勝負も、次で決着...今回も、勝つ」

「現在一勝一敗だ、今度こそ勝ち越させて貰うぞ」

 

千景とゲームに慣れ始めた若葉の二人は接戦のままゲームは進んでいった

ボーっと見ていたが徐々に千景の表情が苦しいものに変わっていっていることに気付いた、少し周りを気にすればだれでも気が付けるその変化に若葉は気付く様子はない

 

「絶対に...負けない...貴方には...ッ!...絶対...」

 

若葉が最後の一枚を場に出そうとしたタイミングでひなたが若葉の耳に攻撃を仕掛けた事で結果は千景の勝利に終わった、その後ひなたを追いかける形で若葉が出て行ったのを見て、俺もゆっくりと腰を上げた

 

「どっか行くのか?」

「時間が時間だからな、飲み物でも買って部屋に戻る」

「そっか、また明日な!」

「おやすみなさい、要さん」

「あぁ、おやすみ」

 

その言葉と共に部屋を出ると、丁度戻ってきたひなたとすれ違った、彼女に部屋に戻ることを言うと少し後ろから若葉が戻ってくる

 

「要...部屋に戻るのか?」

「あぁ、そういう若葉は浮かない顔だな」

「あぁ、少しな」

「そうか...今から話せるか?」

「?問題はないが」

「なら少しだけ付き合ってくれ、飲み物は奢る」

 

そう言うと俺は若葉を連れて自販機のある場所まで向かう

 

「飲み物を買いに行くのに付き合えという事か?」

「あぁ、どうせなら全員分適当に買っていこうと思ってな」

「そういうことか」

 

最初に自分用の飲み物を買うと、若葉の方を見ずに言葉を続ける

 

「それで、ひなたに何て言われたんだ」

「...自分の周りの人のことも、もっとよく見てあげてくれと言われたんだ」

「そういうことか」

「何か心当たりがあるのか!?」

「若葉、それ以外にもひなたに何か言われただろう」

「自分で気付かないと意味がないともいわれた」

「...それなら、俺から言えることは何もない」

「そうか...」

「飲み物も買ったし、部屋に戻るか」

 

部屋に戻っている最中も若葉はひなたに言われたことを考えているようだった

五人分の飲み物を若葉に渡した俺は、若葉が気付く助けになればと部屋に戻る前に一言言っておくことにした

 

「最後に一つ、熱した鉄は壊れやすいという事を覚えておいて欲しい」

「どういう意味だ?」

「鉄は熱すると加工しやすくなるが同時に脆くなる...ただの戯言だが、若葉には鉄を壊す側の人間になって欲しくないからな」

 

その言葉を最後に俺は扉を閉め自分の部屋に戻った

 

 

 

 

 

 

休養から半月ほどが経ちバーテックスの襲撃が起こった

敵の数は現在の十倍以上、マップに表示されている敵を見ながら若葉は険しい顔で言う

 

「多すぎる」

「いままでの十倍...ううん、それ以上いるかも」

「それなら、今回はいつもより慎重に行った方がいいかもしれないな。杏、何かいい作戦は?」

「そうですね、敵の数が数なので全員離れすぎないように立ち回るのが一番かと」

「やっぱりそうなるか」

 

俺たちが話す傍らで険しい顔をしていた若葉は、皆より少し前に立っていた

 

「若葉、作戦は――「私が先頭に立つ」

「待ってください、若葉さ――」

 

俺と杏が言い終える前に若葉は敵の方に向かって行ってしまう

 

「俺も後を...ッ!」

 

若葉の後を追おうとした俺に大量の星屑が襲い掛かってくる

今までよりも統率の取れた動きで攻撃を仕掛けてくるバーテックス相手に中々若葉と合流することが出来ない

 

「きりが無いな」

「不知火君!」

「千景か...何かあったのか?」

「高嶋さんが乃木さんのところに一人で向かっていって...」

「ッ!...わかった、二人より三人の方がいいだろう、千景はタマたちのフォローを頼む、友奈と若葉の方には俺が向かう」

「...わかったわ」

 

俺は無理やりバーテックスの包囲網を突破すると若葉と友奈の元に急ぐ

それにしても、バーテックスの行動が知能的になり始めている気がするのは気の所為だろうか

 

「今まで以上に、慎重に行かないとな...いた、若葉!友奈!」

「要!」

「要くん!」

「二人より三人だ、俺も一緒にここを受け持つ」

 

若葉と友奈のフォローをしつつ星屑を打ち倒していくがこのままだとジリ貧であることに変わりはない

それに、俺のこの体質はあくまでも自分を死なない程度にするものだと、この戦いの中で気が付いた。切り傷や打撲の修復はされない、体の部位が損傷するか致命傷を受けない限り、修復機能が発動することはなかった

 

「意図的に致命傷を受けて全快するか?...いや、それだと若葉たちをカバーする時間が足りない...なら、このまま行くしかない!」

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺たちは星屑の猛攻を耐え抜きなんとか全員生き残ることが出来た

けれどそれは辛勝...勇者たちは満身創痍、友奈は意識を失い病院へと運び込まれた

 

病室で眠る友奈を俺たちが見守っていると、乾いた音が病院の廊下に響く

 

「乃木さん...どうしてあなた、あんな勝手なことをしたの...!?」

「伊予島さんも不知火くんも全員が安全に戦える方法を相談していた...なのにあなたが一人だけで勝手に戦おうとするから、高嶋さんが......ッ!」

 

普段なら俺も含めて誰かしらが止めていた筈だ、けれど今回は誰も止めずに見守っている。

きっと千景が責めなければ千景以外の誰かが責めてしまっていたから、今は事の成り行きを見守っているのだと思う

 

「自分勝手に特攻して...高嶋さんを巻き込んで!不知火君が居なかったら高嶋さんの負担はもっとひどいものになっていたかもしれない!...精霊の力を使うなり負担を減らす手段もあったのに、あなたはそれすらしなかった!」

 

千景の言葉を聞いた若葉は何も言わない、きっと彼女も色々考えているのだろうがそれを知るすべは今の俺たちにはないから

 

「あなたは...周りが何も見えていない...!自分が勇者のリーダーだってこと...もっと自覚すべきよ......!!」

 

 

 

 

 

 

鉄は、熱すると加工しやすくなるが同時に脆くもなる

幾つかの戦いとその合間の平和な日常で培った俺たちの絆は、熱した鉄と似たようなものだった

これからどんな形でもなれるが、ちょっとしたことですぐに壊れる

 

今の俺に、それを直す手立ては思いつかなかった

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