不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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日常ノ肆、投稿です


日常ノ肆

「準備はいいか、要」

「オーケーだ...全力で行くぞ」

 

 久々にやって来た大赦管理の訓練場、俺と若葉は互いに訓練用の刀を構え向かい合う

 どうしてこんなことになったのかを話すには、今よりも五時間ほど前...具体的に言うと俺が優雅なモーニングを楽しもうとしていた時まで時間を巻き戻す必要がある

 

 

 

 

 

 

 

 現在時刻、午前七時

 目を覚ました俺は事務所のキッチンを使い朝食を作っていた、普段は食パンを焼いてイチゴジャムを塗るだけなのだが今日は朝から興が乗り和食でも食べようと思い立ちシャケを焼いている

 

「...丁度いい感じか」

 

 既に完成させていた味噌汁を再び温めながらシャケに丁度いい焼き加減がついた事を確認する、更に盛り付けていく

 

「完璧だ...これぞ古き良き日本の朝食」

 

 白米、焼きシャケ、味噌汁...想像する限り完璧に近い日本人の古き良き朝食を見て一通り満足した俺は手を合わせる

 

「いただきます...うまい」

 

 一口食べた瞬間に、今日も一日頑張ろうという活力が湧いてくるのを感じる...やはり普段からこうやってちゃんとした朝食を作るべきなのだろうか等と思案していると事務所のチャイムが鳴る、一度朝食を食べる手を止めて箸を箸置きに戻して入口まで向かう

 

「はーい、どちら様ですかー? 新聞の勧誘なら間に合ってますけど」

「あぁ、起きていたか」

「若葉?」

「朝早くから連絡もなしにすまないな」

「いや、それは気にしなくてもいいけど...まぁいいか、とりあえず話は中で聞く」

 

 とりあえず若葉を依頼人用のソファに座らせると、湯呑にお茶を入れて目の前に置く

 

「食事中だったか?」

「時間が時間だしなってそれは良いんだよ。こんな朝早くからどうした?」

「実は要にも協力して欲しいことがあってな」

 

 そう言うと若葉はいつぞやと同じように、資料を俺の方に渡してくる

 

「また初代勇者応援計画だか何だかのトンチキな奴じゃねぇよな」

「トンチキは酷くないか!? ...んんっ、今回はいたって真面目な内容だから安心しろ」

「あいよ.........これマジで言ってるのか?」

「あぁ、少なくとも他の幹部は本気だ」

「疑似勇者計画ねぇ...こんなもん作ってる暇があったら正規品の勇者システムを強化した方が良いと思うんだが」

「私もそう思うが、勇者以外にも戦える力は必要だと考えているらしい」

 

 随分と好戦的だ事で、そんな事を思いながら俺は書類を若葉の方に返す

 

「まぁ大まかには理解したが、俺は何をすればいい?」

「私と戦ってくれ」

「はい?」

「だから、私と戦ってくれ」

「それはアレだよな...データ収集が目的だよな」

「最初からそう言ってるつもりなのだが...」

「主語が足りてねぇんだよ」

 

 ...と、まぁこんなことがあり俺と若葉は模擬戦をすることになった。少しでも多くのデータを取る為にお互い全力で臨む事なんてお達しもきたがそんなの当たり前だろう、せっかくマジで若葉とぶつかれる機会を貰ったんだ。報酬替わりに全力で楽しませて貰うとしますかね

 

 

 

 

 

 

「若葉ちゃん、要さん、行きますよ?」

「あぁ」

「おう」

 

 今回の審判役として立ち会うのはひなたでデータを収集用のカメラを構えているのは杏だ

 それ以外にもこの場所にはタマ、友奈、千景の三人も今回は観戦しにやって来ている、何だかんだで久々に全員集合した気がする

 

「かなめー! わかばー! 頑張れよー!」

「二人とも、応援してるからねー!」

 

 タマと友奈の言葉を聞きながら俺たちは互いに構えをとる

 

「それでは、始め!」

 

 その声と共に俺は若葉に向かって刀を投擲する

 

「なにッ!」

 

 急いで刀を弾いた隙を狙って一気に接近、蹴りを放つがもう一方の手に持っていた鞘で蹴りを防御されたため、距離を取って落ちてきた刀を掴む

 

「急だな」

「これくらい、お前なら防ぐだろ」

「そうだな...今度はこちらから行くぞ!」

 

 その言葉と共に腰を落とした構えからこちらに接敵してくる、若葉の視線から予測するに初動は切り上げか、一歩後ろに下がり若葉の攻撃を避けると続けざまに、鞘での攻撃を刀を使って防ぎそのまま反撃に移る

 刀身をスライドさせるように近づき、若葉を切りつける。ここまでは若葉も予想してたようで刀を使って防がれる...まぁそれでいいんだけどな

 攻撃を防御した事でがら空きになった脇腹に蹴りを叩き込む

 流石にここまでは予想出来ていなかったようで、体勢を崩し弾き飛ばされる

 

「...今のは少し効いたぞ、要」

「わりぃな、これでも結構テンション上がってんだ。それに俺は刀を使うと足癖が悪くなるらしい」

「そうか、だが今の一撃で理解した...私も本気で行かせて貰う」

 

 その言葉と共に若葉の眼の色が変わる、アレは本気で敵を倒すときの目だ...いいねぇ、心が躍る

 そこからの俺たちに言葉はいらなかった、互いに眼前の敵を打ち倒す為、鍔迫り合いを行い隙を晒すことのない攻防を続けていく。この戦い一瞬でも隙を晒したほうが負けると理解しているからこそ、俺達は一定の距離から離れることなく互いの剣激を捌き続ける

 俺は剣激以外にも蹴りを喰らわせようとしてもその攻撃も避けられるか防がれるようになってきた。案の定というべきか若葉は俺とやり合ってる中で少しずつ俺の行動パターンに対処し始めている

 この調子だと、刀と言う武器で巣の鍛錬量が上の若葉に押し切られる可能性が出てきた。負けるのはさして苦ではないがジリ貧になり技量負けというのはなんというか、少し気に食わない。俺のその様子を理解したのか若葉は俺から距離を取ると居合の構えに移行する

 ...成る程ね、互いに次の一撃でフィニッシュを決めようって訳だ

 上等、若葉が行った無言の提案を受け入れた俺も距離を取り刺突の構えに移行し、攻撃に入った

 

「そこまでッ!」

 

 攻撃は互いに一瞬、持てる力のすべてを使って若葉に向かった俺が突きを放ち若葉も居合の体勢から抜刀した所でひなたの声を聴き俺たちは武器を止める

 

「二人とも、熱くなりすぎです」

「すまない、ひなた」

「結構前にやった模擬戦でまともに戦えなかったからよ、ちょっとマジになっちまった」

「まったく、本当はお説教したいところですけど。まずは二人ともシャワーを浴びて着替えてきてください」

「わかった」

「了解。そういえばデータは」

「若葉さん達が必要以上に戦ってくれたおかげで十分取れましたよ」

 

 そう言ってきた杏だが、心なしかいつもより言葉にトゲがある気がする

 

 

 

 

 俺と若葉がシャワーと着替えを終えて、みんなの所に戻ると流れで昼食は全員で取る事になった

 

「ほんとに驚きましたよ、要さん。急に若葉ちゃんに蹴りいれるんですもん」

「確かに、あれはビビったなぁ」

「そうかぁ、俺と若葉ならあれくらいやっても可笑しくないと思うんだが」

「おかしいおかしくないの問題じゃないですよ。見てる人はびっくりするんですから」

「でも、二人ともすっごく楽しそうだった!」

「そうね...それに、少しだけスッキリしたし...」

「千景...? それはどういう...」

「気にしなくていいわ」

 

 全員が同じ場所に集まり、食事を取りながら話をする

 丸亀城で暮らしていた時には当たり前の光景が、今では随分と懐かしく感じる

 

「要さん、どうかしたんですか?」

「いや、なんか懐かしくなっちまってな」

「お、なんだ要? 寂しくなったのか?」

「んなわけねぇだろ、寝言は寝て言えチンチクリン」

「なっ! チンチクリンとはなんだ!! タマもな! これでもまだ成長してんだぞ!!」

「それならもう少し身長伸ばせ」

「言ったな! タマが気にしている事をー!!」

 

 ホントに、こいつらと一緒にいると飽きないな。まぁ俺が焚きつけたものの喚くタマの事は置いといて疑似勇者システムについてをひなたたちに聞く

 

「そういえば、疑似勇者システムの名称って決まったのか?」

「まだですね、あくまで企画段階なので」

「なら、俺から一つ名前の案を出しといて良いか?」

「構いませんよ」

「じゃあ...防人ってのを提案しとく」

「防人...ですか」

「私は良いと思うぞ」

 

 防人、要地の守備に当たる兵士の事を指す言葉だった筈だ。壁の中を守る...勇者が敵と戦うのなら防人は外敵から守る事を主にする。まぁどういう運用がされるのかは企画段階という事もありまだ分からないが、勇者とは異なる運用を視野に入れられるだろう

 

「無視するなー!」

「いってぇ!」

 

 そんなことを考えていたらほっとき続けていたタマに思い切り腕を噛みつかれた

 

「いってぇな!」

「なら無視すんな!」

「いい加減落ち着きゃ良いだろ」

「いいや! これはタマの威厳に関わる問題だ! そう簡単に落ち着けるかぁ!!」

 

「タマっち先輩! 要さん! 食事中は静かに!!!」

 

「「はい...」」

 

 喚いていると、杏から注意が入り二人そろって仲良く、席に戻る

 偶にはこういう日があっても良いかと思う反面、流石にやり過ぎたと反省をする日でもあった

 

 

 

 

 

 後日ひなたから連絡があり、疑似勇者システムは二つの形態で運用されることが決まった

 まずは、勇者でない人でも使えるようになるが、その分通常の勇者よりも性能が劣るという”防人システム”こっちはまだ勇者に選ばれる条件等が不明である為、通常の勇者システム同様に少しずつ性能を上げながら武装の開発等を主に行っているらしい。根本のシステムに使う重要部分が未完成な以上完成され運用がいつになるか分からないが、ひな形となる物を作っておくのもいいだろう

 もう一つは男でも纏える勇者服としての運用だ。これから先、例外が現れた時の為に作っておくらしい。このシステムを作るきっかけになったのは諏訪から持ち帰った鉈らしかった。あの鉈は勇者と共に戦っていた男が使っていたもので、諏訪の土地神様の神力がまだ残っていたとひなたから聞いた...こちらは現状の勇者システムのデータを流用するらしく、一応試作品は完成しているらしいがやはり使用者が見つからず宝の持ち腐れ状態らしい。まぁ例外なんざ三百年に一人出てくれば良いほうだろう。

 最後に言い忘れていたが、男性用の勇者システムは”護人システム”という名前になったらしい。

 

 まぁ未来の事は未来の自分に任せて、俺は今日も今日とて依頼にいそしむ日々をスタートするのであった

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