相も変わらず飛び込みの依頼が少ない何でも屋しらぬい。始めてからだいぶ時間が経った事ですっかり馴染み困った時の駆け込み寺のようになっている我が事務所だが、最近何故かペット探しだけでなく浮気調査も依頼されるようになってきた。どうにも最近 何でも屋=探偵と認識され始めているようで極稀にそういった依頼も届くようになってきた。まぁ浮気調査は報酬金が高いし、何かしらの役に立っている筈だから受けるに越したことはない
「...にしても今日は暇だねぇ」
そんなことを考えているのだが、今日はマジで暇である
季節が冬と言う事もあり、ペットは軒並みお家でぬくぬくしているし極稀に来ると言った浮気調査の依頼もない。すっかり助っ人を頼むときの常連さんになっている幼稚園もこの時期は行事もないし最近新しい保育士さんが入ったとのことで依頼の頻度も少なくなってきた
「今日はもう閉めるか」
このまま待っていても依頼は来ないだろうと判断して事務所の鍵を閉めに行こうと動き出すと扉が開いた
「よう、何でも屋。今大丈夫かい」
「大丈夫ですけど。源十郎さんは何か急用ですか?」
事務所に入ってきたのは 五十嵐源十郎さん
事務所の最寄りにある商店街で銭湯を経営しているおっちゃんだ、ここに事務所を構えたての頃はよく銭湯を利用していたという事もありかなり世話になった人物でもある
「銭湯のボイラーがちょっと拗ねちまってな、見てもらえねぇか」
「ボイラーですか、わかりました。今日は仕事もないんですぐ見に行きますよ」
「いっつもわりぃな、風呂上りの牛乳サービスすっからよ」
「はいはい、工具とか用意したらすぐに向かうんで先戻っててください」
「おう、頼むな」
そう言って事務所から出ていく源十郎さんの事を見送ると、俺も事務所奥の作業室から必要な工具とちょっとしたガジェットを取り出す。ガジェットと言うのは俺が暇つぶしにレンタルショップで借りた二人で一人の探偵もの特撮に影響を受けてお試しで作ってみた便利道具の事である
今回はセンサー機能付きのゴーグル、熱感知機能等を備えた優れものであり、こういう修理系の依頼には欠かせないものだったりする
工具を持ってやって来たのは源十郎さんの経営する銭湯”幸せ壮”なんでこの名前にしたのかを聞いたところ何となくと返ってきた、まぁ名前は気に入ったものを付けるのが一番というしこの名前も良いと思う
「源十郎さーん、来ましたよ」
「おう、来たか」
「ボイラーっていつもの所でいいんですよね?」
「うちにはそこ以外ねぇからな、頼んだぞぉ」
源十郎さんの言葉を背にボイラー室の中に入ると持ってきたゴーグルを装着してボイラーの点検を始める...と言ってもいつもはちょっとした応急処置だから何とかなるものの本格的ば点検となると専門知識も資格も持っていないからお手上げなのだが、なので今日もちょっとした不調であることを願いつつ見ていく
「ありゃ、こりゃあダメだ」
目を向けた先にあった設備はいつもより派手にぶっ壊れてしまっており、これじゃあ俺の手には負えそうにない。素直に業者を呼ぶ方が良いなと思いながら源十郎さんのところに戻る
「どんな感じだ?」
「ありゃ業者に頼まないと無理ですね、素人がどうにか出来る範囲超えちゃってます」
「やっぱりかぁ」
「もしかしてわかってました?」
「わかってたってより薄々感づいてたな、なんせいつもより機嫌の直りが遅いと来たもんだ」
「なら業者に依頼しましょうよ...」
「自分らで何とか出来んならそれに越したことはねぇだろ」
「まぁそうですけど」
「何はともあれ、これで業者に任せた方が良いってのは分かったからな、今度来た時は牛乳一本サービスしてやるよ」
「ありがとうございます、それじゃあ俺はこれで」
「おう、気ぃつけて帰れよ」
銭湯からの帰り道、そういえば今日の夕食を決めていないことに気付いた
「冷蔵庫の中身なんか入ってたっけなぁ」
最近外で食うことも多かったから冷蔵庫の中が若干寂しいことになっていた気がする。とりあえず今日はスーパーの半額弁当で済ませるかぁ
「引ったくりよぉ!」
後ろから叫び声が聞こえ、振り返ってみるとカバンを持った男がこっちに向かって走ってきているのが見えた
「どけぇ!」
どくふりをして自分の足を相手の足に引っ掛けて相手の体勢を崩し、そのまま腕を拘束、思い切り締め上げる
「いてててて!」
「この時期に引ったくりはダメだろ、すみません、誰か警察お願いします!」
それからしばらくの間ひったくり犯を拘束していると、警察官の姿が見えたのでひったくり犯を引き渡す
「ご協力ありがとうってなんだ、何でも屋か」
「なんだは無いでしょう、これでも立派な一般市民ですよ?」
「君も定期的に事件に巻き込まれるからね、こっちでもちょっとした有名人だよ」
「マジですか」
「あぁ、とりあえず捜査協力感謝します...私生活で何かあったら依頼するからその時はよろしくね」
「期待しないで待ってます」
警官と分かれた俺は再び事務所に帰ろうとして、夕食を買い忘れていたのを思い出した、少し道を逸れて割と繁盛している商店街の中を歩きスーパーまで向かっていると声をかけられる
「おーいあんちゃん! ちょっとこっち来な」
「肉屋の兄ちゃん、なんか依頼?」
「いいや、この前ウチの倅を見ててくれただろ? そん時の礼がまだだったと思ってな。これ持ってきな」
「コロッケですか」
「出来立てだ、お代はいらないからなんかあった時また頼むよ」
「あんがとございます、これで夕食買う必要がなくなる」
「そいつぁ良かった、それじゃあな!」
「はい、今後とも御贔屓に」
思わぬ収穫だ。まさかコロッケを貰えるとは、それも出来立てを6個。確か米は炊いてあったはずだから冷蔵庫の中身で適当に汁物作って今日はそれで済ませよう
事務所に帰ってくると、閉めたはずの鍵が開いているのに気付く
「はぁ...たでーま」
「おう! やっと帰って来たな!」
「お邪魔してます、要さん」
「...遅かったわね」
事務所の中に入ると、我が家のように寛いでいるタマと安楽椅子に座って所長気分を味わっている杏、そして来客用のソファでゲームをしている千景の姿が目に入る...何と言うか、この組み合わせは珍しいな
「タマと杏はともかく、そこに千景とは随分と珍しい組み合わせだな」
「...事務所の前で偶然会っただけよ」
「というか要! その手に持ってるのなんだ!」
タマが俺の方にやって来てコロッケの入った袋を奪うと勝手に中を見る
「コロッケじゃん! これどうしたんだ!」
「肉屋の兄ちゃんに貰ったんだよ。前に息子さんの面倒見たことがあるからそのお礼だとさ」
「食べてもいいか!」
「...もう夕食を食おうと思ってたし、食べていくか?」
「行く!」
「杏と千景はどうする?」
「せっかくなので、御馳走になろうかな」
「...私もそうするわ」
「分かった、そんじゃ冷蔵庫の余りで適当にもう一品二品作るから待っててくれ」
タマは言わずともなかれ杏と千景も夕食を食べていくという事で、汁物以外にももう一、二品作ることにする。外出用の上着を脱いでエプロンを付けると手を洗い料理を始める
今日は一人で夕食だと思っていたがまさかの大所帯、少しだけ気合いを入れて夕食を作るとしますか! こういう風に何人かで夕食を食べることは珍しいからな
料理をしながら、そんなことを考える一日だった...いつ終わるか分からない平和の中で、やっぱり人の繋がりってのはあったけぇなと時間できる日になったと思う