神世紀になってから初の猛暑日、今まで過ごしやすい日々続きだったこともありテレビでは熱中症に注意するようにとアナウンサーが言っている
そんなある日の事務所、数日前に空調のぶっ壊れたこの場所の主は扇風機の風を受けながらアイス片手に書類と向き合っていた
「あーつーいー……」
「そういうのは口に出すから暑く感じるんだ……心頭滅却だ」
書類と向き合っている俺に話しかけてきたのは、ソファーの上で溶けかかっているタマ
「なぁー、かなめー……どうにかして涼しくしてくれー……」
「どうにかって言われてもな。どうしようもないぞ」
「えー」
「と言うか、どうしてタマはうちにいるんだ。仕事は?」
「タマは今日休みー」
ぐでっとした状態のタマを横目に見ながら最後の書類に目を通し終え、一息つく
「……よし、今日の仕事終了」
「おっ、終わったか!」
そう言うとタマがソファーからぐわっと顔を上げて俺の方を見てくる。さっきまで溶けてたのにすぐ元に戻る辺り本当に体力だけは有り余ってるんだと思う。けど、わざわざ来たんだからそれなりの理由があるんだろう
「それで、今日は一体何の用だったんだ?」
「ん? 特に用はないぞ?」
「ねぇのかよ……じゃあ何でこのクソ暑い中わざわざうちに来た」
「要が一番暇そうだったからな」
「流石にキレるぞ」
どうやら暑さでだいぶ気が短くなってるらしい……だが、ここまで来て何もすることがないというのは結構困る。仕事が終わったものの特にやる事がないから新しい空調を見に行こうと思っていたから、それ以外は特にやる事が思いつかない
「……仕方ない、アイスでも買いに行くか」
「おぉ、良いな! 早速行こう!」
クソ暑い事務所から外に出ると、密閉された空間よりも風がある分幾分かマシだと感じるようになる
「あっついけど外の方がマシだな」
「ホントだなぁ、それで何処に買いに行くんだ?」
「コンビニに決まってるだろ……遠出できん」
そこから俺とタマの二人で向かった先は、事務所から徒歩十分ほどのところにあるコンビニまでやってくる
「ほれ、奢ってやるから好きに選んで来い」
「さっすが要!」
そう言ってアイス売り場まで向かったタマを見送ると、今日の夕食を選ぶために弁当売り場まで向かう。普通の弁当やら麺類やらと色々並んでいる
「さて、どうするかな」
家に食材はあるが日持ちするものが多いし言っちゃなんだがこうも暑いと料理をする気も起きない、そこまでガッツリ食える気もしないし今日は麺類にするか
「かなめー!」
「どうしたタマ、決まったか?」
「おう! それと要、今日はこれ食おうぜ!」
アイスと一緒にタマが持ってきた物にを見ると握られていたのは袋詰めされたそうめんの束
「そうめんか、確かに暑いしたまには……って、お前今日もうちで食ってくのかよ」
「勘違いするな、食べるのは要だけではない。久々にみんなで食べようって意味だ!」
「みんなって、若葉たちもって事か? でも全員の時間合わせるのは無理だろ」
「そこの心配は無用だ! ちゃんと全員の予定は聞いてるからな!」
「……変な所で根回しが早いな本当に、まぁそれなら別に良いけどよ」
タマの持ってきたアイスとそうめんを買い物かごの中に入れると弁当売り場を後にして飲み物コーナーで適当に飲み物やらそうめん用の汁を選んで会計を済ませる
「それで、今日は何処で食うんだ? ウチか?」
「ふっふっふ、それは着いてのお楽しみ。タマに着いてきタマえ」
自信満々のタマについていくと、確かにそこはビックリする場所……と言うよりも見慣れたシルエットだった
「丸亀城か……」
「おう、どーだ? ビックリしただろ?」
「あぁ、確かにビックリした……よく借りられたな」
「実はな──」
「球子から連絡が来てから大至急手配したからな、許可を取るのに苦労した」
タマの話を遮るように後ろから声が聞こえてきた、そこにいたのは最後にあった時よりもだいぶ大人びている若葉と、その隣にいるひなただった
「若葉とひなたも久しぶりだな」
「あぁ、こうして会うのはかなり久々だな」
「お久しぶりです、要さん」
タマに若葉、ひなたの三人だけだというのにこうして顔を合わせると随分と懐かしい気持ちが沸き上がってる
「それで、今日は何処で食うんだ?」
「食堂の使用許可は貰ってますから、今日はそこで」
今まで何度も通ってきた道を四人で歩いて、俺たちが食堂までやってくると中央に設置されている流しそうめんのレーンが目に入る
「流しそうめんか」
「はい、レクリエーションは大事だと思いまして」
「楽しそうでいいな!」
「そうだな……そういや、友奈は若葉たちと一緒じゃないのか?」
「ん? 友奈なら先に──」
「あっ、要くんだ! 久しぶり!」
「ようやく来たわね」
「お久しぶりです、要さん」
茹で終わったらしいそうめんの載った皿を持った友奈、千景、杏の三人が食堂の調理場から出てきた。どうやら俺とタマが一番最後だったらしい
「すまん、待たせたみたいだな」
「気にしないでいいよ。それより早く食べよ?」
とりあえず全員揃ったという事各々が皿と箸を手に取って、ホースでレーンに水を流し始めると本格的に流しそうめん大会が開始される。因みに麺を流す役割はとりあえず三十分おきに交代と言うことになった
「そんじゃ、流すぞー」
「誰が一番多く食えるか、勝負だ!」
「いいねぇ、負けないよー!」
どっちが多く食えるか勝負をしようとしている友奈とタマの姿に少し苦笑いを浮かべながら最初の麺を流す。水に乗って結構な速度で流れていく麺を一番最初に手に入れたのはタマでも友奈でもなく千景だった
「「あっ」」
「高嶋さんも土居さんも甘いわね。勝負はどの場所を選ぶか、そこから始まっているのよ」
「お前も参加するのかよ」
まさかの挑戦者に少し目を丸くしてしまったが、とりあえず次の麺を流した
それから、かなり白熱している流しそうめん争奪戦に若葉も参戦し若干の混沌とした来たようだったがそこまで思っていたよりも早く自分の手番が終了し、次の流し役である杏に交代する
「それじゃ、次は任せた」
「はい、任されました」
杏に交代して食べる側にまわると早速麺が流れてきたのだが俺が取るよりも早く狙っていた麺は横からかっさらわれた
「なっ──」
「ふっふっふ、自分だけ優雅な食事ができると思うなよ要ぇ」
どうやら人の事を挑発してきているらしいタマだが、俺だって数多くの依頼をこなしてそれなりに厄介な依頼人の対応もこなしている。この程度の挑発にのる程短期ではない……などと考えていたのだが目の前に流れてきた麺はことごとくかっさらわれていく
こればかりは流石に、俺も我慢の限界だ
「上等だ、その挑発乗ってやろうじゃねぇか」
「いいだろう、かかってきタマえ」
「これ以降お前の手元に渡る麺はないものだと思え」
そうして俺も参加することになったそうめん争奪戦は苛烈を極めた。度重なるそうめんの奪い合い、少しずつすり減っていくスタミナ、そして納涼の為にはじめた筈なのにどんどん上がっていくボルテージ……その果てに待っていたのは
「みなさん、少しおふざけが過ぎるのでは?」
沈黙を貫いていたひなたからの雷
そうして、そうめん大会改めそうめん争奪戦はひなたからの雷で終了し、普通に食事をしてから解散と言う流れになった
その帰り道、帰り道が途中まで一緒な俺と千景は二人で帰り道を歩く
「随分とはしゃいでたな」
「そういうあなたも……随分とハメを外してたわね」
「そうだな、多分久々にみんなと会ってネジが外れちまったみたいだ。でもそれは千景も一緒だろ」
「そうね、確かに少し……いえ、かなり懐かしい気持ちになったわ」
お互いに顔を会われるわけでもなかったが、どうやら気持ちは似たような気持ちらしい。そこからは何を話すでもなく帰り道を歩いていると今度は千景の方から声をかけてくる
「……ねぇ」
「どうした?」
「いつまで、この時間が続くのかしらね」
「どうした急に?」
珍しい事を聞いてきた千景に対して返事をしてみる
「……今日が楽しかったのは事実よ。でも……だからこそ、少しだけ不安になってしまって」
「そう言うことか、でも……大丈夫だろ」
「どうして、そう言い切れるの?」
「もしもの時はお前らが出る前に俺が頑張ればいい。星屑なら今の俺なら苦戦しないだろうからな」
「そう、そうね……けれど──」
そこで千景は足を止めた。それに気づいた俺も足を止めて千景の方を振り返ると、彼女はまっすぐ俺の方を見つめてきた
「──それを私は、私たちは許さない。あなた一人に押し付けたりしない、確かにさっきは不安になったけど貴方のその言葉でそんなのどこかに飛んでいった」
そう言いながら、千景は俺の目の前までやってきた
「だから、仮にもしもがおこった時は一緒に戦う。たとえあなたが死なないとしてもその背中は私たちが守る……それだけは忘れないで」
少し呆気に取られてしまったが、千景の言葉を聞いて自然と頬が緩む
「……あぁ、そうだな。もしもの時は……背中を任せる」
その言葉を後に、俺たちは再び帰り道を並んで歩き始めた