不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Episode1-Seeing her face-

 仕事を片付け、モノクロにしか映らない空を眺めているとエンジン音と共に複数の車両がこっちに向けて走ってきた

 

「お疲れ様です、不知火さん」

「あぁ……それじゃあ俺はこれで」

「あっ、待ってください!」

 

 後処理の部隊が来た以上俺がここに留まっている理由はない、ましてや必要以上の交流をする必要だってありゃしない。さっさと帰って寝ちまいたいんだが呼び止められた以上、少しは足を止めないといけない

 

「……なんだ?」

「弥勒様からお話があるとのことです」

「はぁ、わかった……連れてってくれ」

 

 弥勒様というのは俺に仕事を依頼してきた張本人──弥勒(あざみ)の事を言っている、風の噂で聞いたが大赦に所属しているコイツの同期の中だと一番の出世頭だとか言われているらしい。実際薊が入ってから無名だった弥勒家は力を増していき、かなりの力を持つようになっている

 

「この車両で弥勒様がお待ちです」

 

 事後処理にやってきた車両の一番後ろ、ロケバスでよく使われているタイプの車の中に入る。要件が何か分からないがさっさと終わらせるに限る

 

「お久しぶりです、不知火さん」

「依頼を受けた時以来だな、それで……今日は何の用だ?」

「まぁまぁ、そう急かさなくてもいいではないですか」

 

 そう言ってくるのが弥勒薊、弥勒家の次期当主で俺の雇い主──なのだが実際に会ったのは最初に依頼を受けた時以来だし俺個人としてもこの男とあまり関わる気はない……急かしているのだったずっとモノクロの景色を見ていると胸の中にある不快感が爆発しそうだからだ

 

「前置きは良いからさっさと話せよ。今日は特に長居したくないんだ」

「……わかりました、では率直に──」

 

 俺の目を真っすぐ見つめた薊から言われたのは今の俺にとって最悪の一言

 

「──不知火要さん、貴方に鏑矢の指導をお願いしたい」

「俺が……指導を?」

「はい、鏑矢は白神教のように人類を脅かす存在が現れた時、お役目に当たる少女たちの事です……不知火さん、貴方は私たちが依頼した仕事で対人経験の実績もある、だから────」

「悪いが断る」

「──なんですって?」

「断ると言った……今の俺には指導なんて真っ当な事できやしねぇ。俺に出来るのは精々人を殺すことだけ……そう言うわけだ」

 

 人に教える、そんな教師みたいなこと俺に出来る訳ないだろう……そもそも、まっとうに起きてるのが地獄以外の何物でもないんだから、そんな仕事受けるはずない

 

「それじゃあ、また仕事になったら連絡してくれ」

 

 それだけ薊に言い残すと、俺は車から出て帰路についた

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、目を覚ました俺は時間を見ると時刻は夜の九時頃……連絡は一切ないあたり今日は普通に依頼が来るということもないのだろう。冷蔵庫を開けて中を確認すると普段から食っているゼリー飲料の在庫が切れてしまっていた

 

「……買いに行くか」

 

 コンビニはこの近くにあるし、意外とゼリー飲料が手元にないと面倒になってくることがあるからな。適当にパーカーを羽織り財布を持って外に出る。象頭町は田舎寄りの街である事もあってこの時間になると人通りが少ない。コンビニまでやってきた俺は保存用のゼリー飲料を十個ほど籠に放り込んで会計を済ませる

 

「あぁ、レジ袋お願いします」

 

 会計をしていた店員にそう言うと追加料金が支払金額に追加されル、レジ袋にゼリー飲料を詰めている最中にさっさと会計を済ませてからレシート一緒にレジ袋を受け取ってコンビニを出る

 

「ちょっと、止めてください」

 

 家に帰るためコンビニを出てすぐ、少し暗がりになっている路地に誰かいるのがわかる。見た感じ男が二人で誰かに絡んでいるらしい、ほっといても良いがここで何かあって翌日のニュースにでも載ったら後味が悪い

 

「おい」

「あっ? なんだおま────ぶっ!?」

 

 とりあえず声をかけて反応してこっちを向いたチンピラAをぶん殴る。すぐに吹っ飛んでいった当たり白神教の関係者って訳でもなさそうだな

 

「お、お前! 急に何しやが──」

「うるせぇ」

 

 一々聞いてる暇はねぇんだよ、面倒だからさっさと終わらせるためにぶん殴っただけ。チンピラ共は一撃加えるだけで倒れたあたり鍛え方が足りてないな、とりあえず意識を失っている二人をそこら辺に放置して聞こえてきた声の主である少女に話かける

 

「大丈夫か?」

「う、うん……大丈夫」

 

 その声を聞いた瞬間、俺の身体は固まってしまった。俺が助けた少女の声──その声は間違いなく俺の聞きなれたものだった

 

「友奈?」

「えっ? どこかであったことありましたっけ?」

 

 少女の方を見ると、そこにいたのは俺の戦友──高嶋友奈とよく似た顔立ちの少女。しかし改めて見てみると友奈とは違う所が所々にある。一番大きい要素なのは髪型、それ以外だと俺の知っている友奈よりも少しだけ目つきが鋭い

 

「……いや、少し知り合いに似てただけだ」

「そうなんですね、でも同じ名前ってなんか珍しい」

「そうだな、それじゃあ俺はこれで」

 

 この少女と一緒にいるとマズい、心の奥底で蓋をしているものが一気に溢れ出しそうだ。重ねる必要なんてないのに嫌でも彼女に俺の知ってる友奈の事を重ねてしまう

 

「待って!」

「……なんだ?」

「名前、教えてもらってもいいですか?」

 

 名前を教えてくれ? 

 

「今日会ったのだって偶然だろう、別に名乗る程のもんでもねぇよ」

「そう言うわけにはいきません! なんか聞いとかないといけない気がするんで!」

 

 友奈の名前を冠する奴はみんなこうなのか、律儀というかなんというか……まぁ、名前を教えるくらいなら別に良いだろう

 

「要だ、不知火要」

「要さん……あの、私は、赤嶺友奈です」

「赤嶺……か、覚えられたら覚えとくよ」

 

 それだけ言い残すと、俺は再び帰路につく。それにしても──

 

「赤嶺友奈……ねぇ」

 

 目に映る景色は以前モノクロのままだったが、なんだか少しだけ懐かしい気持ちになった……けれど、それでも心の中にぽっかりと空いてしまっている穴が埋まることは消してない。彼女との出会いは……懐かしさを思い出させると同時に嫌という程の現実を思い出させた

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