不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Episode3-The body sinks, to the bottom of the water.-

 赤嶺、弥勒と共同で行った初任務を終えてから更に数か月の時が流れた。進んでいく毎日の中でも任務は際限なくやって来る、そうして毎回現れる世界に害をなす存在の排除を続ける

 

「か、勘弁してくれ! 私はただ────」

「その手の言い訳は聞き飽きたよ」

 

 怪物になり果てても尚、命乞いをしてくる大赦の元幹部を屠る。今月だけで渡される仕事の数は二十を超えた。それもひと月ではなく一週間でこの量だ、休む時間も碌にないが──

 

「いくら潰しても、キリがない……元締めを潰すしかないか」

 

 とは言っても、現在進行形で見つかっていない。大体問題を起こすのは天の神を信仰しているというよりも白神教の持つ力を手に入れる為に所属している奴等だ。しかもそう言う奴等に限ってまともな情報を握っていないし、支部を潰してもそこにいる敬虔な信者は情報を吐かせる前に自害しちまっている

 

「……手間ばっか無駄にかかるな、本当に」

 

 目の前に広がる惨状を後目に壁にもたれかかっていると、いつも通り複数の車両がこちらに向かってくる音が聞こえてくる

 

「お疲れ様です」

「……あぁ、お疲れ」

 

 後処理係の人間に後を任せて帰路につこうとするが、目の前に見慣れた仮面の男が現れる

 

「不知火様、これを」

「……手紙か?」

 

 目の前にいる男が差し出して来たのは便箋、裏を見ると大赦のマークがある辺り、差出人は大赦の人間なのだろうが、現在の大赦にいる知り合いは少ない……その中でもコンタクトを取ろうとする人間には心当たりがない

 

「差出人は誰だ?」

「弥勒様です」

「……どっちの弥勒だ?」

「弥勒薊様です」

 

 俺の知ってる弥勒は現状二人いるから蓮華と薊、どっちの弥勒からか聞いてみるとどうやら薊の方だったらしい。にしても妙だな……

 

「……どうして薊本人が来ない? 今更手紙でやり取りするようなものでもないだろう」

「本人は最重要案件だと申しておりましたので、開封は帰宅後に頼むとのことです」

「…………わかった」

 

 少し引っかかる部分もあるが、わざわざ手紙を寄越したって事はよっぽと外部への露出を避けたいって事だろうな。一応そう言うことだと納得して帰路につく

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰り、何時振りになるかわからない部屋の電気をつけると、人口の明かりが俺の目を少しだけ眩ませた。今住んでいる部屋にはベッド以外だと精々本棚くらいしか目立った家具は置いていない

 

「それで、一体どういう要件だよ」

 

 ベッドに腰を掛けて便箋を開けて内容を確認すると、そこに書かれていたのは招集依頼とその理由

 

「白神教が本格的に行動開始の可能性あり……か」

 

 どこでそんな情報を掴んだのか知らないが、相手方が本格的に動くんだとしたらこっちもそれに対処する為に防衛ラインを張るってことか……面倒だな

 

「けど、面倒でも……やらないといけない。今更──ここで止まる事は出来ない」

 

 背負ってきたものの為にも、先に逝っちまった奴等の為にも……ここで立ち止まるのは許されちゃいけない。手紙を適当に投げ捨てそのままベッドの上に倒れこみ……目を閉じる

 

 

 

 

 

 

 真っ暗だったはずの視界に映るのは、意識を手放すと毎回見る悪夢。まるでテレビの画面越しに映像を見るように流れていくその光景は……きっと、いつかの時代に起こる筈だった光景

 

 ──最初に、二人勇者が敵に貫かれ死んだ

 

 俺が変えた、変える事の出来た未来の光景なのだろう

 

 ──次に、勇者が一人仲違いの末、仲間を庇って死んだ

 

 一人の力で変えることで出来た、誰かにとっての最悪の未来

 

 ──そして、もう一人が光となって消滅し。世界は炎に包まれた

 

 いつ見ても最悪な光景だ、けれど同時に存在した未来の一つとしては妥当なのだろう。勇者と言えど一人の少女であるのに変わりはない、精神的に不調をきたしたとしても、戦闘中に意識の外から攻撃を受けたとしても、文句は言えないだろう

 

 けれど、そう考えられるのは俺が彼女たちと共に戦っていたからだ。実際に戦っている光景を見た事のない人々は、その事が理解できるはずもない

 

 ──映像が巻き戻り、また最初から再生が開始される

 

 この夢の最悪な所は、毎回見せられる殺され方が異なる事。順番が異なる、殺され方が異なる、本当に、色々な世界で起こった末路を永遠と見せつけられている

 

「けど、毎度見せられるといい加減慣れる」

 

 この悪夢のお陰で人の死にざまには慣れた、それが親しい人の死にざまともなれば……それに、元々心なんざとっくの昔にぶっ壊れてたのを────思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、カーテンの隙間から光が差し込んでいる。気が付けばもう朝になっていたらしい

 

「……この時間に起きるのも、久しぶりだな」

 

 いつもは寝ている時間の方が多い、下手に起きて現実を見るよりも過去の惨劇をひたすら見続ける方が今の俺には合ってる

 

「……向かうか」

 

 今住んでる場所から大赦本部まではそこそこ時間がある、別に待たせた所で良心が痛むとかもないから適当に行けばいいのだが、残念なことにあっちから時間指定を受けてる以上その時間に向かわなければならない

 

「はぁ……怠い」

「あれ? 不知火さん」

 

 重い足を動かしながら歩いていると聞きなれた声が後ろから聞こえてくる。振り返るとそこにいたのは私服姿の赤嶺、弥勒、桐生の三人

 

「こんな所で会うなんて珍しいわね」

「せやなぁ、もしかして不知火さんも?」

「……その口ぶりだと、お前らも目的地は同じみたいだな」

 

 呼び出したのは俺だけじゃなかったのを考えると、そんだけ重要な案件なのか……それとも単に人手が欲しいだけなのか

 

「ねぇ不知火さん、折角だから一緒に行かない?」

「……お前らとか?」

「うん、折角会えたんだから……どう? 色々話したいこともあるし」

「……そうだな」

 

 どうせ目的地は一緒なんだ、向かうくらいは別に良いか。肯定の言葉をかけた俺が再び歩き始めると、三人が横に並ぶ

 

「……それで、何が聞きたい?」

「うーん、とにかく色々かなぁ。あり過ぎて悩む」

「それなら、弥勒が先に質問させて貰うわ──」

 

 歩きながら最初に質問をしてきたのは弥勒蓮華

 

「不知火さん、貴方は一体何者? 勇者なの? それとも…………バーテックス?」

「俺は人間だよ……最近は、自分でもわかんなくなっちまってるけどな」

 

 俺は人間……なんだと思うが正直な所、確証を持ってそう言えるかは微妙だ……夢に見るのは同じ光景だし、依頼をこなしてる時だって時々わからなくなる、自分を人間と呼んでもいいものか

 当然のことながら、弥勒もわからなくなっちまってる発言には違和感を覚えたらしく眉をひそめている

 

「わからなくなってる?」

「……怪我とかはすぐに治っちまうからな。心は人間のつもりだが……もうとっくに化け物になっちまってんのかもな」

 

 それこそ、壁の外にいる奴等と同じように────

 

「人間だよ」

「……えっ?」

「不知火さんは、人間だよ。だって……そうじゃなかったらそんな思いつめた表情出来ないから」

 

 そう言った赤嶺に、別の誰かが重なって見えた

 

「……そうか」

「そうね、確かに友奈の言う通り」

「せやなぁ。それに、ほんまもんのバケモンやったらこうして会話も出来ないんとちゃう?」

「……それも、そうだな」

 

 会話を始めてすぐにわかったが、こうした何気ない会話をするのも随分と久々だ

 

「じゃあ次はウチから不知火さんに質問! 不知火さんって一応大赦の人なん?」

「……いや、協力者ってだけで俺は大赦の人間じゃない」

「そうなんか」

「……あぁ、お前らには悪いが俺は手を貸すのが一番手っ取り早いから手を貸してるだけだ」

 

 別に動く分には一人でも問題ない、ただ大赦に協力をすれば確実に奴等の拠点やそれ以外に関する情報も入ってくる。そっちの方が俺にとっても都合がいい

 

「不知火さんの目的って……やっぱり──」

「あぁ、白神教を潰すこと……それ以外には何もない」

「……不知火さんは、どうしてそこまでするの?」

 

 桐生の質問に答えていると、俺への質問を考えていたらしい赤嶺がそう問いかけてくるが……意味がわからない

 

「……どうしてそこまで、とは?」

「そんなボロボロになってまでって意味だよ。今まではそんなに会えなかったからわからなかったけど、不知火さんの目……凄い辛そうだよ」

「辛そう……か、それならそれでいいかも知れないな」

「えっ?」

「そうでもしないとこの世界は守れない……逆に、今のままならこの世界を守れるって事だ。俺にとってなんの不都合もない」

 

 俺はそう言うと、少しだけ視線を空へと向ける。今こうして見えている青空だって真の意味の空とは言えない、結界の中で守られているだけの偽りの空……けれど、雪花や諏訪の勇者たちが託し、アイツらが救った世界だ

 

「──壊させる訳にはいかない」

 

 俺がそう言ったからかどうかは知らないが、気が付けば赤嶺達三人は複雑そうな表情で俺の事を見つめていた

 

 

 

 

 

 それ以上、俺に関することに踏み込まれると言ったことはなく。他愛のない話をしながら歩いていると駅に到着する……俺達がこれから向かうのは、大赦本部。そして、そこで聞かされるのは恐らく────この世界を守るため何としても阻止しなければならない事の筈だ

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