電車に揺られること数時間、その場所にある大赦本部
「お待ちしておりました、不知火様、勇者様方」
仮面の神官について本部の中を歩いていくと、やってきたのは弥勒と書かれた表札が貼られた扉。まぁここにいつまで突っ立てるのもどうかと思うから扉をノックすると仲から声が返ってくる
「どうぞ」
「「「失礼します」」」
「……邪魔する」
「急に呼び出してすまない」
オフィスの中で業務に勤しんでいた薊は書類に書いている手を止めると俺たちの方に視線を向けてきた
「それで、俺たちを呼び出したのは手紙の内容で良いんだよな。白神教が本格的に行動を起こすってのだろ?」
「その通りです……白神教に潜り込ませている部下から連絡がありました」
その言葉と共に俺たちに渡されたのは紙の束、一番上のものにざっと目を通してみるとどうやら白神教で配られているプリントの写し
「救星の儀……か」
「あぁ、白神教は救星の儀と呼称する大規模テロを実施しようとしている。それも特定の地域ではなく────四国全土で」
「そんな、四国全土って……ッ」
「テロが起きるだけで、一体どれだけの被害になるのか……流石の弥勒も想像したくないわね」
驚愕の表情を見せた赤嶺と、深刻そうに声を発した弥勒。確かにこのテロが起こった場合どうなるのか想像することは容易い。きっと、今まで経験したことない程の血が流れ、負の感情が渦巻く
「成る程、ならウチらはそのテロが起こる前に白神教の拠点を叩けばいいって事やな?」
薊の事を真っすぐ見つめた桐生はそう言うが、恐らく俺達がしないといけないのは──
「──逆、なんだろ? 俺たちはテロが起こるまで何もせず、敵の好きにさせる」
「……嘘やろ?」
「いや、不知火さんの言う通り。テロの実行日まで我々は動かない、こちらが情報を掴んでいないと相手に思わせる」
「どうしてですか、今なら被害が出る前に止められるのにッ!?」
どうしてか、その理由に関しても薄々だがわかってる
「起こさせてからの方が、敵を潰すなら都合が良い」
「……え?」
「冷静になって考えてみろ、ここで俺達が拠点を一つ潰した所で抑えられる被害はたかが知れてる……だから、事を起こさせて連中を一斉に────」
俺がそこまで言った直後、目の前にやってきた赤嶺に思い切り頬を叩かれる。少し驚きつつも視線を彼女に向けると、僅かにだが瞳の端に涙が溜まっていた
「赤嶺、俺は前にお前に聞いたな、大義の為に人を殺す覚悟があるか……と、大義の為に人を殺すって言うのは自分の手で命を奪うだけじゃない、先の未来を見据えて……救える命を見捨てるのも、人を殺すって事だと俺は考えてる」
「…………」
俺の言葉を聞いた赤嶺は、そこから先、何を発することなく一足先に部屋から出て行ってしまった。それを見た弥勒と桐生の二人も部屋から出ていく
「良いのか、行かせちまって」
「……えぇ、覚悟を決めていると口にしていても。まだ彼女たちは子供です、今回の判断は……彼女たちには酷すぎる」
「そうかよ」
「不知火さんにも、そんな役割をさせてしまいましたね」
「気にするな、こういうのは慣れてる」
とはいえ、流石に友奈そっくりの見た目で泣かれると中々にくるものがあるな
「それじゃ、俺も帰る」
「えぇ、こちらの準備が整いしだい改めて連絡させていただきます」
大赦本部での話を終えてから数日、いつものように白神教の支社を潰して周り、家に帰っては泥のように眠りにつく日々を続けていた。初めの頃は心が少しずつ砕けていくような嫌な感じがこびりついていたが今ではすっかりその感覚もなくなった
起きてる時も、寝てる時も今の自分にとっては大きな変化ではない、これが自分が人間じゃなくなっていることの証明である気もして少し自嘲気味になるが……それも今更だろう
「……ん?」
色々と考えていたら変に目が覚めてしまった。既に日は昇っているがまだまだ時間は早い。一体何をするかヲ考えていると家の扉がノックされた。こんな時間に誰だと考えつつも玄関を開けるとそこに立っていたのは鏑矢の三人
「どうした、こんな朝早くから」
「……不知火さん、お願いがあります」
赤嶺は、そう言うと俺の事を真っすぐと見つめ言葉を続ける
「私たちと、戦ってください」
最初はそれがどういう意味なのか、わからなかった。戦うことに意味はない、ただでさえ大規模テロが控えている、そんな状況で味方同士で、不要な戦いをする必要等皆無だ
──けれど、それでも
「わかった、戦おう……そして見せてもらう、お前らが見つけた答えを」
目の前の少女たちの想いに、久々に応えてみようと、そう言う気分になった