不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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10話-丸亀城の戦い-

俺たちの眼前を埋め尽くすのは、星屑と言われる無数の敵

目の前にいる異形は着実に俺たちの方へと、向かってくる

 

「比喩ではなく、無数と言うことだな」

 

若葉のその声から、今回の戦いが今まで以上に激しくなることが予想できる。無数の敵に対するは、勇者五人と勇者でない者が一人...それでも、俺たちならこの状況を打破できる。不安が無いと言ったら噓になるが、それでも俺たちならと前を向く

 

「若葉ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ!要くんも!そんなに怖い顔しなくても大丈夫。私達は絶対に勝てるから」

「...そうだな」

「俺、そんなに皺が寄ってたか?」

「鬼瓦みたいな顔してたぞ、要」

 

俺の問いに対してタマが答えると、友奈が何か思いついたような顔で俺たちに話かけてくる

 

「そうだ、みんなでアレやろうよ!」

「あれ?」

「みんなで肩組んで丸くなって『行くぞー!』ってやる奴!」

「円陣ですね。そういえば、勇者になる前の学校では球技大会なんかでやってるチームがありました」

「...いいかもしれないな」

 

そう言うと、千景を除く若葉たち四人は円陣を組んだ

千景はどうすればいいのか迷っているようだ、俺の方も参加すべきかどうか悩んでいると友奈とタマの二人が俺たちに手を差し伸べてきた

 

「ほら、ぐんちゃんも!」

「要も!さっさと入りタマえ!」

「...うん」

「そうだな」

 

俺と千景も含めた六人は円陣を組むと、リーダーである若葉が声を上げる

 

「敵の数は無数。だが四国以外にも人類が生き残っている可能性...いや、希望が見つかった!その希望の為にも私達は負けられない!......必ず守り抜くぞ!ファイト!」

 

「「「「「「オー!!!!!!」」」」」」

 

俺たち六人全員で声を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

今回の総攻撃で杏が考えた作戦は、陣形を使うこと

六人全員で決められた場所に配置し役割分担でバーテックスを迎撃する

迎撃の中心地は丸亀城、そこから東、西、北にそれぞれ一人ずつ配置し、杏が後方で待機し残った二人は適宜持ち場を交代する、杏は司令塔兼撃ち逃したバーテックスを倒していくという形である、長期戦を見越した今回の戦闘、勇者は切り札の使用を出来るだけ控えるようにと言われている

 

「丸亀城の正面には私が立つ」

「正面はバーテックスの群れの中心だから一番大変だよ?...いいの?」

「だからこそ、私がやらねばならない」

「...なぜ?より多くのバーテックスを...仕留めたいから?」

 

千景が若葉にそう言うと若葉は今までとは違う復讐者ではない、勇者としての瞳で真っすぐ千景を見ると軽く笑い言葉を返す

 

「違う、勇者のリーダーとしての責務――そして何よりも、この四国の人々を守る為だ」

 

若葉の言葉を聞いた全員が表情を緩める、千景はまだ少し納得いかないと言った感じだったが

 

「分かったよ。そんじゃ、正面は頼むぜ、リーダー!」

「無理はしないでね、若葉ちゃん!」

「若葉の背中は俺たちに任せろ...だから、俺たちの背中は若葉が頼む」

「あぁ!任された!」

 

 

 

 

全員が配置につきバーテックスを迎え撃つ為に待っていると、友奈が大声で若葉に声をかけた

 

「若葉ちゃーーんッ!落ち着いていこぉぉぉぉ!頑張って、リーダーー!」

 

内容的に若葉の事を励ましたらしい、友奈のそういう部分があるから俺たちは前を向けて戦えるのかも知れない...いや、友奈だけじゃないな、若葉も、杏も、タマも、千景も、ギリギリだが絶妙のバランスで今まで戦ってきたんだ

そう気合いを入れ直すといよいよバーテックスとの戦闘が始まった、正面の若葉が向かってくるバーテックスを切り裂き、東側の友奈と西側のタマも拳と旋刃盤を使いバーテックスを次々と屠っていく

 

「アンちゃん!ごめん、一匹そっちに行ったよ!」

「任せてください!」

 

友奈のその声で後方指揮の杏がボウガンを使い、取り逃した一匹を葬ると、前衛で戦っている三人の方を見ながら指示を出す

 

「タマっち先輩!地面スレスレ、下方から迫る一群がいます!旋刃盤なら届く距離です!」

「りょーかい!任せタマえ!」

「友奈さん、やや突出しすぎています!少しだけ後ろに下がってください!」

「わかった!」

 

戦場の状況を目でとらえ、的確に指示を出していく杏、積極的とは言えない性格だが、彼女の持つ観察眼は俺たちの中で最も優れている

そんなことを考えながら出番を待っていると千景に少しだけ焦っているように見えた

 

「千景さん」

 

そんな彼女の様子に杏も気が付いたのか声をかける

 

「焦ることないですよ、この戦い方は一人でも欠けたら成り立ちません。すぐに千景さんは必要になります」

「必要...」

「...千景が何を焦っているのか知らないが、少なくとも俺たちには千景が必要だ...だから心配はいらない」

「伊予島さん、不知火くん...大丈夫よ。焦ってなんかいないわ、さっきのは戦いへの意気込みで緊張していただけ...」

「それならいい...俺も持ち場に戻る」

「えぇ......ありがとう」

 

小さく呟いたその声は確かに届いていたが、今は聞こえていないふりをする...そろそろ戦いも佳境だ

 

 

 

 

 

それから半時間ほど経過したころ、前衛を張っている三人にもそろそろ疲労の色が見えてくる、その中でも特に動きが鈍り始めたのは真正面からバーテックスと戦い続けている若葉だった。

 

「若葉さん!交代です、撤退してください!」

「まだ戦え――、分かった!千景、交代してくれ」

 

既に若葉の方に向かっていた千景は若葉と何か話していたようだが、二人はハイタッチをすると若葉のいたポジションで千景が戦い始める

杏は状況を把握しながらこの中で一番リーチの短い友奈への援護射撃も行っている、少し前にも背後から友奈に食らいつこうとするバーテックスを撃ちぬいたところだ

 

「ありがとー!」

 

援護射撃に気が付いた友奈は拳を振りながら杏に感謝の言葉を伝える

 

「あんずーっ!このまま友奈を援護してやってくれっ!こっちはタマ一人で大丈夫そうだから!」

「分かりましたー!」

 

そうは言うものの不測の事態が起こる可能性も高いこの戦場だと少しの判断ミスが命取りになりかねない

 

「杏、タマの方の支援に向かっても良いか?」

「...お願いします!」

「任された」

 

俺の提案が杏に受け入れられると、真っすぐタマの方まで向かい彼女の横に迫っていたバーテックスを貫く

 

「支援に来た」

「タマは良いから友奈の方に」

「友奈には杏がついてる...なら、タマには俺がつく」

「......じゃあ、頼んだ!」

「あぁ」

 

タマが前衛を張って旋刃盤でバーテックスを屠り、一定の距離からは俺がバーテックスを撃破していく

友奈の方に向かっても良かったのだが、友奈も俺も基本的にはある程度のリーチまでバーテックスを入れないといけない、それなら同じ近接型の俺よりも杏が支援についたほうがいい

 

「若葉さん!タマっち先輩と交代でお願いします!」

「よし!」

「要さんはそのままバーテックスを倒しつつ、若葉さんのサポートをお願いします!」

「了解」

 

杏のその指示でタマと若葉が交代することになり、俺はこのまま若葉のサポートに移る、俺と若葉は同じ近接型である為、少しでもリーチを伸ばす為に戦いながら槍を少しだけ伸ばす

 

「待たせた!」

「気にするな...任せるぞ」

「あぁ!」

 

 

 

 

 

戦い始めてから体感三時間と言ったところで、バーテックスの動きに変化が起こる

星屑は一か所に固まり、一つの異形を形作る

 

「注意してください!進化体を形成し始めました!」

 

蛇のような形の異形へと変化したバーテックスはそのまま若葉の方に襲い掛かったが、呼吸を整えた若葉が進化体を一刀両断する

 

「若葉さん!まだ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、一刀両断された進化体がまだ倒されていないことに気付く、若葉の背中をカバーする形で増えた進化体を切り払う

 

「すまない、助かった」

「いや、それにしても厄介だな」

「あぁ、斬れば敵を増やすだけか」

 

背中合わせの形になった俺と若葉は増えた進化体を牽制しつつ、残った雑魚を片付けていく

雑魚を倒すことは出来るが俺たちの武器だと精々進化体の攻撃を弾くか、鞘の打撃程度でしか攻撃が出来ないため進化体に対して決定打を撃つことが出来ない

 

「若葉ぁ!要ぇ!切り札を使うぞッ!」

「待て球子!それなら―」

「いいや、待たない!それなら自分がとか言うのもなし!タマにはタマにも活躍させろぉ!」

 

若葉の言葉を聞かなかったタマは切り札を使用するとそれに伴い旋刃盤が大きくなっていくが流石にデカくなりすぎだ

 

「デカすぎんだろ...」

 

思わず声に出てしまったが、どうやら杏も似たような反応をしていた、タマはデカさお構いなしと言った様子で巨大化した旋刃盤をぶん投げるとワイヤーは切れ旋刃盤は俺たちの頭上を通過すると炎を纏い進化体を切り裂いた

切り裂かれた進化体は炎に焼かれ、あっという間に燃え尽きる

 

「す、すごいな...」

「いろんな意味でな...」

 

少しでもずれて俺たちもろともだったらと考えると若干寒気がするが気にしている場合じゃない

そんなことを思っていると、タマが体勢を崩し倒れそうになっていた

 

「タマっち先輩!?」

「だ、大丈夫...ちょっとクラっと来ただけだ」

「でも...!」

 

最前線で戦っていた俺達にもその様子は見えていた為、若葉が球子に声をかける

 

「球子!大丈夫か!?やはり精霊の力は身体に負担が大きすぎる!」

「いいや、若葉...そんなこと言ってる場合じゃないみたいだぞ...前を見ろ!」

 

球子のその言葉を聞き俺たちは前を見るとバーテックスは更に同化を続けていた、その大きさは俺たちが見てきたバーテックスに比べても圧倒的に大きかった

 

「若葉ちゃん!あんな大きくなったら、どうにもできないよ!」

友奈のその言葉を聞いていた若葉が険しい顔をしながらも融合途中のバーテックスを観察すると、何かを見つけたようで全員に言った

 

「こいつの身体にはまだ脆い部分がある!完成前にそこを叩けば倒せるかもしれない!」

「でも!どうやって...」

「それなら、タマと輪入道に任せタマえ!」

 

ふらついた身体でタマはそういうと巨大化した旋刃盤の上に乗る

 

「タマっち先輩!私も行くよ!」

 

バーテックスの場所まで向かおうとした瞬間、杏も旋刃盤の上に飛び乗っていた、それだけじゃなく友奈や若葉、千景も既に旋刃盤の上に乗っていた

 

「俺はしんがりを務める、皆より遅れるが、雑魚は任せろ」

 

俺は旋刃盤の上に乗りはしなかったが、しんがりを務める為に槍を構える

 

「よっし、それじゃ出発だ!」

 

旋刃盤の上にいる勇者が撃ちもらした雑魚を倒しているが圧倒的に手数が足りない、俺にも何か切り札があればいいのだがと考えた所で頭の片隅がズキリと痛む...星屑を倒しながら自分自身と向き合っていると心の内から何かが形作られていく朧気ながら自分ではない誰かが使っていたそれを模倣する

 

「...ッ!」

 

体中の血が沸騰し、あふれ出た血液が俺の周りに集まり勇者の切り札のように形作られていった、赤黒い外套が形作られ、顔には右半分を覆い隠す形で面が付いていた

 

「これなら...行ける!」

 

そう思ったのもつかの間、この状態を長時間維持するのは不可能だと、本能が告げている

若葉が旋刃盤の上からバーテックスに向かっていくのを合図に俺は周りに集まっていた雑魚を新たに出来た蛇腹剣のような武装で薙ぎ払う

 

「要さん...それ」

「勇者でいう切り札みたいなものだ...それより、今だ!行け!」

 

赤く染まりそうな視界を何とか保ちつつ、俺は迫りくる星屑を塵へと変えていく

強力な力だがこのままだと正体不明の衝動に飲み込まれると思い始めたタイミングで若葉が融合途中のバーテックスへの道を切り開いたことに気付き、全員に声をかけた、四人は融合途中のバーテックスの脆い部分を攻撃し、バーテックスが崩れていくのを見ながら俺は意識を手放した

 

 

 

 

 

 

ふと、真っ白な空間で目を覚ます

自分以外に何もいないのかと見渡すと、紫色の狐みたいな存在が居た

 

「君は...?」

 

何処かなつかしさを覚えるその生物に手を伸ばそうとした所で、視界が急激に遠のいていった

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、タマと杏が俺の事を心配そうにのぞき込んでいた

 

「よかった、起きたみたいだな!」

「意識が戻らないので心配しました」

 

タマと杏にそう言われて身体を起こすと、二人だけではなく友奈と千景の姿も見えたが唯一若葉の姿だけ見えなかった

 

「若葉は...?」

「まだ合流出来てません」

 

杏のその言葉を聞いた俺は立ち上がるとよろよろした足取りで歩き出そうとするが体のバランスを崩し倒れそうになる

 

「おっと」

「危ないですよ」

 

二人に抱えられる形で、歩いていると自然と体調が回復し一人でも歩けるようになった

五人で若葉の事を探しているとひなたと話している若葉の姿が目に映る

 

「あ、いたぞ!おーい!」

「良かった、元気そうですよ!」

「あの子が...そう簡単に死ぬわけないわ」

「若葉ちゃん!私たち、勝ったんだよ!」

「元気そうでよかった」

「さっきまでぶっ倒れてた要がそれをいうのか?」

「切り札使って倒れそうになってたタマにそれを言われる筋合いはない」

「うぐっ...」

 

そんなことを話しながら俺たちは若葉の元に近づいていった

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