不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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11話-遠征/上-

場所は瀬戸大橋記念公園

若葉たち勇者五人、巫女であるひなた、そして四国外生存者の俺を含めた七人はこれから壁の外への調査遠征へと向かうことになる

いつ何時敵の襲撃にあっても大丈夫なように勇者は全員戦闘装束、ひなたも巫女としての正装をしている。かくいう俺はと言うとずっと自前の服...というか私服で戦っていたのだが今回の遠征に伴い正式に戦闘装束が作成された。

戦闘装束と言っても籠手と胸当て、臑当て(すねあて)と簡易的なものだが神樹の加護で今までと比べると少しだけ防御力が上がるらしい

 

「にしてもさ、四国の外に出るのって何年ぶりだろ」

「私、バーテックスが出てきたときには本州から移って来たから三年ぶりくらいだよ!」

「あんまり遠出とかしなかったので、私は四国を出るのは初めてです」

「私も...そうね」

「タマは四年ぶりくらいだなぁ。家族で広島に行った時以来だ」

 

タマの問いかけで盛り上がっているみんなを横目に見ながら俺は今回の遠征の目的を再確認する

遠征は四国から出発し、若葉たちの戦闘準備が整うまで一人で戦い続けたという勇者が居た諏訪、そして人類生存の希望が見いだされた北方を目指す手はずになっている。かなり長距離の移動になるがヘリや船での移動は不要な戦闘を引き起こす可能性が高いとのことで移動は徒歩だ

 

もしかしたら今回の遠征で俺の記憶の欠片が見つかるかも知れない

だがもしそうなったら今ここにいる俺はどうなるのだろう、記憶をなくす以前の俺が戻るという事は今の俺は消えるのではないかと考えると少しだけ怖くなる

 

「要?どうした?」

「あ、あぁ...いや、なんでもない」

「そうか?なんかめっちゃ深刻そうな顔してたけど」

「要くんどうかしたの?」

 

気が付くとタマだけじゃなく友奈まで近くにやって来ていた

いけないな、切り札擬きを使ってから少しだけ精神が不安定になっている気がする、だがあまり心配させる訳にいかない

 

「心配ない、大丈夫だ」

「そうか?」

「あぁ」

 

少し納得していないようだったがタマと友奈の二人は戻ると、その間に誰がひなたを背負っていくのかを決めたようだ

 

「では、行くか」

「「「「......」」」」

 

若葉の合図に反応を示さない他の勇者に何かあったのかを確認する為に後ろを向くと若葉がひなたの事を抱えていた、お姫様抱っこで

 

「背負うって言うより抱えるって感じだな」

「しかもお姫様だっこ...」

「なんか、見てるこっちが照れる」

 

「?なにかおかしいか?」

「まぁ...あなたがおかしいと思わないんなら、いいんじゃないかしら...」

「お姫様と王子様みたいだね!」

 

ちょっとしたハプニング?はあったが無事出発することになった、自分たち以外のものでサイズの大きいものは俺が持つことになり、いよいよ本州へと歩みを進める

 

 

 

 

 

今回遠征が出来るようになったのは先の戦いで敵側の戦力が大幅に削れたと大社側が判断したからである

そして敵の攻撃が沈静化した今なら勇者が四国を離れることも可能だろうと考え、四国外に生存者がいるという希望が見つかったことも踏まえ今回の遠征が決まった。

今回の遠征を行うにあたり行われた実験で、壁の外でも変わらず勇者の力を使うことが可能である事、結界外の空気は十分に清浄である事が証明された。一部ではバーテックスの発する毒素により大気が汚染されているという噂が流れていたようだが、空気はバーテックス発生前よりもキレイになっていたらしい。

最後に、神の力を織り交ぜた通信ならば四国から離れても連絡を取り合うことが出来る事、これはかつて諏訪と行われていた通信技術の応用らしい、そんな実験の数々によって今回の四国外遠征が決まったらしい、巫女のひなたに関しては神樹から神託を受けられる存在として同行が決まったらしい

 

 

 

 

最初の目的地へと向かっている最中も、若葉たちの雰囲気は明るい、前回での戦いでの勝利がみんなに自信をつけるのと同時に、結束をより強固なものにしたようだ

 

「タマちゃんのアウトドアグッズがあって良かったね!」

「ふふん、火の起こし方、飯の炊き方、なんでも任せタマえ!」

「頼もしいな」

「そうだろうそうだろう!...そういえば、要は出来ないのか?」

「そこら辺の記憶も残ってないが、案外やってみると体が覚えているかもしれない」

「そっか!なら一緒にやってみるか!」

「そうだな、そうするか」

 

俺とタマ、友奈の三人がそんなことを話していると、少し後方にいた杏がタマに話しかける

 

「まさか、タマっち先輩のアウトドア趣味が役に立つ日がくるなんて...」

「人生、思いもよらないものね...」

「人生について考えるほどかー!タマをバカにしてるだろ!」

 

 

最初はそんな和気あいあいとした感じで進んでいた俺たちだったが、瀬戸大橋を抜け岡山に入るとそんな気分もなりを潜める

見える景色のほとんどが破壊され尽くしており、元々存在したであろう町はもはや見る影もない、工業地域であったと思われる場所は事故か何かで起きた爆発によって内部から爆発、跡形も残っていない

 

「ひどいな、これ...」

「文字通り跡形もなし...か」

 

俺もタマも降り立ったその景色を見ながら険しい表情を浮かべることしかできない、そしてそれと同時に俺たちが戦っている存在が人間から見たらどれだけ理不尽なものであるかを実感していた

 

「念のために...生き残りがいないか確認しよう」

 

若葉のその言葉と共に降り立った場所から人口密集地であった場所まで移動するが、人どころか虫一匹見つけることが出来ない

 

「倉敷は、古い時代の景観を残す町としても有名だった筈...それが、こんな」

「行こう、先はまだ長い」

 

若葉のその言葉を聞いた俺たちは二手に分かれることになり、グループ分けは若葉・ひなた・千景と友奈・タマ・杏となり、俺はひなたを護衛する為に若葉たちと一緒に行くことになった

 

「生き残っている人は、いないのでしょうか...」

「ここも全滅したのよ...きっと...」

 

ひなたのつぶやきを聞いたのか千景がその言葉に答えた、彼女の言葉にはやるせなさと怒りが滲み出ている、口には出していないが勇者の誰もが同じ気持ちなのだろう

 

「まだそうと決まったわけじゃない、どこかに避難している人が居る可能性もある」

 

そういう若葉に対し、千景は訴えかけるようににらみつける

流石に間に入るかと考えたタイミングで、ひなたの声によって近くからバーテックスが一体出てきていることに気付く、俺と若葉が臨戦態勢を取るよりも早く千景がバーテックスに切りかかる、鬼気迫る表情でバーテックスを切り裂く彼女を俺たちは見ている事しかできなかった

現れたバーテックスを怒りのままに切り裂いた千景は死んだ敵をなおも切り付け続ける

 

「もうやめろ、そいつはもう死んでる」

「行きましょう...、生きている人を探すんでしょう...」

 

俺の言葉を聞いた千景が手を止めると俺たちには一切目を向けず一人で歩き始める

結局その日、生存者の存在を確認することはできなかった

 

 

「若葉ちゃーん!ぐんちゃん、ヒナちゃーん!要くーん!」

 

それからしばらくして、合流地点で待っていると友奈の声が聞こえてくる

やって来た彼女たちの方を見るが三人の表情も明るくない、そのことから結果はこちら側と変わらず生存者は発見できなかったことを実感する

 

「私たちの方は、生存者は見つけられませんでした。バーテックスとは何度か遭遇しましたが...若葉さん達の方はどうでしたか?」

「こちらも同じだ。それに、今でもバーテックスがうろついてるとなると、このあたりに人が残ってるとは考えにくいな...」

 

分かっていたことだが、その事実は俺たちの心にあまりにも重くのしかかった

暗い雰囲気が漂い始める中、その空気をぶち壊すようにタマが明るい口調で声を上げる

 

「日も暮れてきたし、そろそろ野営する場所を決めないとな!」

「そうですね!お腹も空きましたし!」

 

タマの意図を察したであろう杏も同じように明るく言うと暗い雰囲気が少しだけ緩和されたように思う

 

「無事に残っている建物があればいいが...」

「うーん、どれもボロボロで今にも崩れそう...」

「倒壊のリスクはあるが、雨風をしのぐなら駅の中を使うというのもありじゃないか?」

 

「いや、待ちタマえ!野営するなら綺麗な水があるところでないとダメだ。タマたち、そんなにたくさん水を持ってきてるわけじゃないからさ」

 

確かに、タマの言ったことは的を得ている、人間にとって水は大切だ。だが、そんなに大量の水がある場所はここら辺にあるのだろうか、一応携帯式浄水機を持ってきているが気休め程度にしかならないだろう。水場と睡眠場所を確保できる場所

 

「あと、焚き火をするために木の枝を集めやすいところがいい。ご飯を作るにも火が必要だしな!となると...」

 

 

 

 

 

 

「キャンプだな!」

 

まさかと思ったが案の定俺たちがやって来たのは六甲山付近のキャンプ場跡、移動に時間を使い日も落ち始めている以上ここから更に移動するのもキツイだろう

 

「というか、タマっち先輩がキャンプしたかっただけなのでは...?」

「そ、そんなことないぞ!ここだったら水も確保しやすいし!焚き火のための枝だってある!...な!要!」

「あぁ、そうだな...それに日も落ち始めてるからこれ以上移動するのも危険だろう」

 

急に話を振られて困惑しかけたが、まぁたまにはこういう経験も良いだろう

一応生存者がいないか探すが、襲われた痕跡だけで生存者の痕跡はなかった、道具に関しては倉庫の中からひなたがテントを見つけた

 

「やった!これでもっとキャンプ感が強まるぞ!」

「やっぱり、球子さんはキャンプがしたかっただけなのでは...?」

「そ、そそそそそんなことないぞ、ひなた!ほら、雰囲気だって重要だろ!なっ、要!」

「いちいち俺に振るのか...まぁそうだな、ずっと気を張っていても疲れるだけだろうし、いいんじゃないか?」

 

またタマが俺に振ってきたので率直な意見を言うと、そうだろうといったタマに背中をバンバン叩かれた。少しだけ痛い

 

その後俺たちはテントを張ったり、小枝を集めて火を起こしたりした

その準備も小枝集めも、ついでに言うと夕食の準備もタマが大活躍だった

 

「タマ、大活躍だな!」

「タマっち先輩が、本当に先輩っぽく見えます...」

「それはどーいう意味だ、あ~ん~ず~?タマは普段から先輩っぽいだろ!」

「いたた!頭ぐりぐりしないでください!」

 

それから俺たちは夕食のうどんを食べ終えた

最初は少しくらい雰囲気だったが、キャンプをしているうちに少しずつ元の空気を取り戻していき、夕食を終えるころにはすっかり元の雰囲気に戻っていたが唯一千景だけが無言のまま、どこか浮かない表情を浮かべていた

 

「あー、美味しかったぁ。外で食べるうどんは格別だねぇ」

「...うん」

 

「それにしても良かったですね、倉庫の中に道具が残っていて」

「そうだな、屋根のしたでしっかり休めるのはありがたい...遠征で四国を離れている間は特に...な」

「若葉ちゃん、しんみりしすぎですよ」

「まだ一日目だっ!無事な地域だってきっとあるさ!」

 

若葉が少ししんみりしているのに気が付いたひなたとタマの二人がそういうと若葉は少しだけ明るい表情で返事をした

 

「よし!暗い気分は水浴びでながそう!」

「え!?ちょっと寒くないですか?」

「賛成!廃墟の調査で体が埃っぽいしな!」

「でも...要さんは」

「心配するな、みんなが入っている間は火の番でもしていることにする」

 

皆が水浴びをしている間、一人でぼーっと火の番をしていると一足先に上がって来たらしい千景が焚き火の前に腰をかけた

 

「もういいのか?」

「えぇ...」

 

火がぱちぱちと音を立てるだけの時間がしばらく続いたが、千景が俺の方に話しかけてきた

 

「ねぇ、貴方は...どうして戦ってるの?」

「質問に質問を返すようで悪いが、何故そんなことを聞くんだ?」

「だって、貴方には記憶がないんでしょう」

「あぁ」

「なら...私達と一緒に戦う義理も...一緒にここまでくる必要も...ない筈なのに」

「確かに、千景の言う通りかも知れない」

「それなら...どうして」

 

戦う理由...か

考えたこともなかったけれど、一つ理由があるとしたら

 

「俺が戦う理由は...きっとみんなだと思う」

「私達?」

「あぁ、確かに俺には記憶がない...だから町の人達を守りたいって気持ちもあるけど、一番はみんなの助けになりたいからだと思う」

「だから、何かあったら仲間を頼って欲しい」

「えぇ...そうね」

 

俺の言葉が何処まで千景の求めている答えになったか分からないけど、納得のいく答えだったらいいなと思う

 

 

 

 

 

若葉たちがテントで、俺は焚き火の近くで寝袋を使い寝ることになった

それに関しては流石にみんなも渋っていたが、何とか説得し外で眠っていると木々の騒めく音で目を覚ます

 

「...敵、か」

 

寝袋から出た俺は槍を出現させてバーテックスの相手をしていると若葉たちも起きてくる

 

「要!大丈夫か?」

「あぁ、心配ない」

 

その後、勇者と共に襲ってきた雑魚を一掃すると、この場所から移動を開始する

夜明けだったこともあり、冷たい風を受けながら移動していると何かを思い出したように杏が言う

 

「そういえば、大阪の梅田駅あたりには、すっごく広い地下街があるみたいですよ。そこだったら雨風の心配もないし、シェルターみたいなところに避難している人がいるかもしれません」

「そうだな...地下ならば、出入り口を塞いでしまえばバーテックスも侵入できないだろう。地上よりも安全かもしれない。そこに行ってみるか」

 

 

梅田駅にやって来た俺たちは周りを見渡すが、他の街と同様にひどい有様だった

 

「...ッ!」

 

梅田駅にやって来た瞬間、頭がズキリと痛み始める

 

「要さん?顔色が悪いようですか?」

「あぁ...心配ない」

 

偶々近くにいたひなたに心配されるが、そこまで酷い頭痛でもなかったためひなたには大丈夫だと告げる

途中で杏が書店街を襲撃されたことで憤慨しているのを苦笑いしながら他の場所を探してみると梅田駅の一部分が他よりも激しく倒壊しているのに気が付く、その痕跡は襲撃を受けたものではなく、戦闘によって破壊されたものであるように見えた

 

「俺は...ここを知っている?」

 

戦闘の痕跡を見た瞬間、記憶の一部が戻ってくる...四国の壁へ向かう途中、俺はバーテックスの姿を見つけてここで戦ったんだ。バーテックスをすべて倒して駅の中に入ったけど、その結果は

 

「な...なんだよ、これ!?」

 

入口から降りた辺りでかつての記憶を思い出すと、先に行っていたタマの叫びがこちらまで響いてくる、急いで追いつくとそこにあったのは白骨の山

数十ではなく、数百はあるであろう骨の山と、ここで死んだ人々を弔うように建てられた木の十字架

 

「ひどい...地上もボロボロで地下も...こんな」

「なんだ...これは...」

 

あまりの凄惨な光景に全員も言葉が発することが出来ず、立ち尽くしてしまっていた

 

「酷いな...相変わらず」

「ッ!?...要は...ここを知っているのか?」

「あぁ、知ってる...正確には、思い出したのは先ほどだ」

「教えてくれ、要ッ!ここで一体...何が...」

 

若葉の言葉を聞いた俺が、十字架の前に立てかけておいたノートを取ると、それを若葉に渡す

 

「俺もこの場であったことを見たわけじゃない...ここで何があったのかは、そのノートに書いてある」

「...ッ!」

 

酷だと思うが、俺が説明するよりもそのノートを読み、知ってほしい

ここで何が起きたのかを...人の手によってどれだけの地獄が生み出されたのかを

 

俺からノートを受け取った若葉は、震える手でノートを開いた

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