不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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12話-遠征/下-

『二〇一五年 某日

 地下に潜んでから何日経っただろうか、もう日付けもわからない

 だから時間の感覚を失わないために日記をつけることにした』

『七月末に突如現れた化物から逃げて私たちは地下街に逃げ込んだ

 みんなで出入り口にバリケードを作ったが私達も外に出られない

 地上は今どうなっているのだろう』

『お父さんもお母さんももういない...家族は妹だけ

 妹はまだ小学生だ、高校生の私がしっかりしないと』

 

『二〇十五年 某日

 今日起こった喧嘩で人が死んでしまった

 食料の奪い合い、意見の対立、弱い者いじめ

 化物から逃げるために閉じこもっているのに

 人間同士で争うなんてバカみたい...!!』

『死体は決められた場所に集められている

 放置しておくと衛生上の問題もあるし精神的にもよくないからだ

 私 遺体をモノみたいに書いちゃってるな...』

 

『二〇十五年 某日

 妹が家に帰りたいとわんわん泣く

 普段ワガママも言わないおとなしい子なのに...

 妹の泣き声に苛立った大人が外に放りだすか殺すかしろといった

 そんなことさせない、妹は私が守るんだ』

 

『二〇十五年 某日

 本日のご飯は栄養補助食品二個とスナック菓子半袋

 食糧問題で大人たちが話し合っている

 弱いものを殺して食料を節約するべきだという人

 バリケードを解いて、外に出るべきだという人

 今日も結論はでなかった』

『外にまだ化物はいるのだろうか...誰にもわからない』

 

『二〇十五年 某日

 妹に元気がない

 呼びかけると返事をするけどぼんやりしている

 何かの病気かもしれない』

 

『二〇十五年 某日

 今日も妹は元気がない、でもどうすることもできない』

 

『二〇十五年 某日

 病院につれていかないと...』

 

『二〇十五年 某日

 妹が返事をしない

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう』

 

『二〇十五年 某日

 ひどい争いがおこった

 一部の人達が勝手に「食糧節約のため」と老人と病人を殺し、その人達も別の人達に殺された

 

 もう、訳がわからない

 妹も殺されてしまった、私ももう死んでもいいかもしれない』

 

『二〇十五年 某日

 地上へ出ようと訴えていた人たちがバリケードを壊してしまった

 化物が次々と入り込んでる、防火シャッターも簡単に壊された

 

 きっと...あいつらは私達が自滅するのをわかってて放置してたんだ

 私は今、死体置き場にいる

 

 

 

 最期は...妹と一緒に迎えようと思う』

 

 

 

 日記を読み終えた若葉は目の前に広がる白骨の山を見ながら呟く

 

「これが...その結果か」

「あぁ、ここで起こった...惨劇の記録だ」

 

 そう言うと若葉は視線を俺に移し問いかけてくる

 

「要が来た時には...」

「あぁ、俺に出来たのはここにいる人たちを悼む事だけだった」

「そうか...」

 

 そろそろ移動しようと思った瞬間、通路の暗闇から重いものが動く音と複数の気配を感じる

 

「バーテックスか...!?」

「おそらくな...」

 

 若葉は刀に手をかけ、深く息を吐くと俺たちに指示を出す

 

「...ここに生き残りはいない。早々に脱出するぞ! ひなたは私たちの傍を離れるな!」

 

 その言葉と共に俺たち全員が武器を構え、警戒をしながら出口に急ぐ

 この閉鎖空間で戦闘になると今いる場所が倒壊するだけじゃなく、四方を囲まれジリ貧になる可能性も高かった。その後、奥から続々と現れるバーテックスを倒しながら地上を目指す

 若葉を筆頭に地上へ向けて進んでいく、バーテックスを薙ぎ払いながら横を見ると同じく鎌を振りバーテックスを切り裂いていた千景の姿が目に入る、何を考えているのか分からなかったその姿は焦りを含むと同時に何かに怯えているようにも見えた

 

 

 地上へと脱出した俺たちはそのまま名古屋を目指す

 今までは何とか希望を持っていた若葉たちも、あの惨状を見た後ではもう「次こそは」なんて言葉を口に出すことはできなかった

 

 

 名古屋までやって来た俺たちは大型ビルの上に降り立ち、街全体を確認する

 今までと変わりないかと思われた街の風景だが、よく見ると他の街と圧倒的に異なる場所があった

 

「おいおい...なんだ、あれ?」

 

 タマもその違和感に気が付いたようで顔をしかめながら駅の方を指さす

 本来街が広がっていたであろう一面には卵のようなものが植え付けられていた

 

 遠くに見えるはずの卵の中では、無数の何かが蠢いている様子がはっきりと見える

 口にしないだけで、卵を望遠鏡で見ていた勇者たちもそれが何の卵なのかを理解したのだろう

 

「...う、う」

 

 耐え切れなかったのか膝から崩れそうになっていた杏を支えるとゆっくりと地面につける

 

「大丈夫か?」

「大丈夫かっ、杏!?」

「だ...大丈夫っ。ちょっと、ビックリしちゃって...」

 

 俺とタマの二人が杏の様子を確かめる

 俺たちには大丈夫と言った杏だったが顔は真っ青で瞳には涙が浮かんでいる

 今まで人の住んでいた場所がここまで無残に荒らされている、そして自分たちの住んでいる場所もいつかこうなるのではないかという恐怖感は計り知れないものだろうと思うが、俺はその事実をどこか他人事のように思ってしまう

 

「私たちの四国も...いつかこんなふうに...」

「そんな事...タマたちが絶対にさせない! そのためにタマたち勇者がいるんだ! こんなふうに、させてたまるかっ! 人間が...わけのわからない化物に負けてたまるかっ!」

 

 感じた不安を断ち切るようにタマがそう叫ぶ

 その叫びは杏だけでなく自分自身に向けた叫びなのだろうと感じているとタマの言葉を聞いた杏も弱々しい笑みを浮かべると、自分で立ち上がろうとする

 

「手を貸す」

「ありがとうございます...」

 

「みなさん! まずい状況ですっ! 囲まれています...!」

 

 ひなたの言葉と共に周りを見回すと空中の所々にバーテックスが浮かんでいるのが見える

 奴らは続々とその数を増やし続け今にもこちらに向かってくる雰囲気だった、あっと言う間に取り囲まれた俺たちに対しバーテックスは一気に向かってくる

 

「タマは今、腹が立ってんだ...この世界は、お前たちなんかに奪わせないっ! そのためなら、どんなことだってやってやるっ!」

「球子、待て――」

 

 若葉が言うよりも早く、切り札を発動させたタマは巨大化した旋刃盤を空中の敵に向かって思い切り投擲する

 その身をチェーンソーのように回転させた旋刃盤は炎を纏うと空中にいるバーテックスと、地面を占領する卵を焼き尽くした

 

「球子、軽々しく切り札を使うな!」

「悪い、若葉。ついカッとなった...まぁ後悔はしてないけど」

「正直、俺はスカッとした...タマがやらなかったら、多分俺がやってたからな」

「だろ! ...そうだ! どうせだからこれに乗って名古屋を見て回らないか? 空から探したほうが手っ取り早いだろ」

「...あぁ」

 

 

 

 空からの捜索は生存者がいるような状況には見えなかったため短時間で終わった

 駅前のビルに戻ってきた俺たちが旋刃盤から降りると大きさは元に戻り、タマも切り札の使用状態を解除する

 

「あー、やっぱりキツいなぁ、切り札を使うのって」

「大丈夫か?」

「あぁ、心配は無用...ッ!」

 

 大丈夫と言った直後に前回同様タマの身体がふらついたのを見て俺は彼女の事を支えると、疲れを感じさせる笑顔でタマは俺に礼を言ってくる

 

「タマっち先輩...切り札はどんな影響が出るのか不明なんだよ。あまり軽々しく使わないで」

「わかった」

 

 その後、少し休憩を取るか話し合ったがタマが大丈夫と言い続けたため、このまま諏訪まで向かうことになった

 

 

 

 暫く移動し、ようやく諏訪まで到着した

 諏訪湖周辺に降り立った俺たちは、そこから南下して諏訪大社の上社本宮を目指す

 その途中で見た街の風景も他の地域同様破壊し尽くされていて、そこに人の住んでいたころの地域はなかった。そのまま俺たちは上社本宮に到着するがそこに『社』と呼べるようなものは存在しなかった。

 建物があったであろう場所はすべて残骸へと変わっており、他の場所よりも入念に破壊されていることがわかった

 

「...ッ!」

 

 言葉にならない声を上げた若葉だったが、それでも彼女は顔を上げ言葉を続ける

 

「探そう...生き残りがいないかを」

 

 手分けをして上社本宮を中心に探し続けたが、生存者はおろか人のいた痕跡すら見つけることはできなかった

 

「なにか見つかったか?」

「こっちは何も、要くんは?」

「俺の方も同じだ」

 

 次第に日も暮れかけた頃、俺は友奈と合流し互いの状況を報告するが、俺たち両方とも手がかりすら見つけることはできなかった

 

「ねぇ要くん。ここ...」

「畑か?」

「そうみたい、とりあえず若葉ちゃん達も呼ぼう!」

 

 友奈がみんなを呼びに行っている間に畑の周りを歩いてみると、夕陽に照らされた木に背を預けるような体勢の白骨と刃が中心から欠けている鉈を見つけた

 

「要くーん!」

「友奈、それにみんなも」

「なにか見つかったのか」

「あぁ...ここだ」

 

 俺が白骨のある場所を示すと、若葉たちが白骨に目を向ける

 

「人...でしょうか」

「でもなんでこんなところにいるんだ?」

「あれ...?」

 

 タマと杏が白骨に目を向けるのと同じタイミングで、友奈が何かを見つけたのか白骨の寄りかかっている木の近くを掘り始める、よく見ると地面から僅かに出ている何かがあることに気付く

 友奈に続く形で勇者たちは無言で地面を掘り始める、その間に俺は白骨の纏っていた衣服を少し探ってみると内ポケットから一枚の写真を見つける、その写真は多少の色褪せはあったが比較的綺麗な状態で残っていた

 

「写真...か」

 

 写真に写っていたのは頬に土を付け満面の笑みを浮かべている麦わら帽を被った少女とその隣で少し照れくさそうに笑っている少女、恐らくこの畑で採れたであろう野菜を見せつけている短髪の少年の三人

 その写真を眺めていると友奈たちも埋まっていたものを掘り出したようだ、掘り出されたのは少し大きめの木製の箱だった

 

「誰かが残したのか...?」

「考えられるのは、其処の骨の人ですが...」

 

 若葉が息をのみ、箱を開ける

 中に入っていたのは一本の鍬と折りたたまれた一枚の手紙。若葉はその手紙を開くとゆっくりと読み始めた

 

 

 

初めまして。

 いえ、もしかしたらこれを読んでいるのが

 乃木さんではないかもしれませんから、初めましてと言うのは変ですね

 もしこの手紙を乃木さんでなければ

 どうぞこの手紙を四国の勇者である乃木若葉さんに渡していただければと思います

 

 奴らが現れた日から、既に三年程になります

 諏訪の結界も縮小し、切迫した状況になってきました

 ここはもう長く保たないでしょう

 

 けれど、まだ乃木さん達の四国は残っています

 人間はこれまでどんな困難に見舞われても再興してきました

 諦めなければ、きっと大丈夫

 

 乃木若葉さん

 まだあったことのない私の大切な友達

 あなたに出会えたことをうれしく思います

 

 あなたが戦いの中でも無事であるよう

 世界があなたのもとで守られていくよう願っています

 

 人類を守り続けるのがたとえば私ではなかったとしても

 乃木さんのような勇者が守り続けてくれるのであればいい

 私はそこにつなげる役目を果たします

 

 最後に

 この天災を乗り切った後、大地を耕して蘇らせるときに

 この鍬も使っていただければ幸いです

 

 私も一緒になって、耕しているという気持ちになれますから

 

 

 手紙を読み終えた若葉の瞳には涙が溜まっていた、言葉を交わした大切な友人が残した手紙

 若葉の読んでいた手紙を覗き込んでいた仲間たちも言葉を失っていたが、その中で千景が苛ついたように声を上げる

 

「ここも...同じ...全部壊されて」

「ううん、全部じゃない...」

 

 千景の言葉に対して友奈は首を横に振ると、木箱の中に入っていた鍬を持ち上げ優しく抱きしめる

 

「これが残ってた、白鳥さんから引き継いだバトンだね、きっと...」

「俺たちは、彼女から受け継いだんだと思う、何よりも大切な想いを...」

 

 そういうと友奈は鍬を、俺は写真を若葉に差し出す

 差し出された二つを受け取った若葉はそれをしっかりと受け取った

 

「やっと...会えたな、白鳥さん。お前の意思は、確かに引き継いだ」

 

 若葉の声を聞き届けた俺は白骨の方に向かうと、目の前に刺さっていた鉈を抜き取る

 鉈は本来の役割を果たすことが出来ない程に摩耗していたが、そこには目の前にいる”誰か”の想いがしっかりと込められていた

 

「あなた達が守ってくれたから、俺たちはここにいる...俺はあなたが誰なのか分からないけれど、その想いは、ここを守った勇者の想いと一緒に俺たちが持っていく...だから、今はゆっくり休んでくれ」

 

 誰に聞かせる訳でもない、ただの自己満足を終えた俺はみんなの元に戻る

 

『頑張れよ』

 

 誰のものでもない声が俺の耳に届いた、それは彼が確かにそこにいた証だ

 

 

 

 

 

 その後、大社に報告するために本宮内を調べていたひなたが、破壊された社殿跡から小さな布袋を持ってきた

 

「それは?」

「何かの種...みたいです」

 

「多分これ、ソバの種だと思います。こっちの袋のは大根の種...こっちのはキュウリかな? 今の季節に植えられるものもありますね」

 

 種、畑、鍬、この三つがあるのならやることは一つだろう

 けれど、俺が声をかけるよりも早く若葉たちは畑を耕し始めた、彼女の遺してくれた鍬を使って一人一人交代で、想いを込めながら畑を耕し、柔らかくなった土壌に種をまく。形になる可能性は低いだろうがそれでもこの場所を元の形に戻したかった。

 

「この鍬と残った種は、四国に持ち帰ろう」

 

 若葉のその言葉に頷くと、畑の傍で少しだけ休息を取った

 休息を終え、移動を再開しようと思った矢先、目を覚ましたひなたの言葉でこの遠征は終わりを告げることになった

 

 

 

 ――四国が再び、危機に晒されます






諏訪での描写を少しだけ増やしたほか、名もなき”誰か”(男)を出しました
この人に関してですが、白鳥歌野の章で本格登場なのでしばしお待ちください
...これは新キャラを出したって認識でいいのでしょうか

――――――――――――――

謝辞
この度、UAが2000を超えそろそろ3000に近づいてきました。
それ以外にも評価の項目で☆8、☆9を付与して頂き本当にビックリしました
この場でお礼をさせていただきたいと思います

ありがとうございます

稚拙な文ですがこれからも温かい目で見守っていただけると幸いです。

作者

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