不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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14話投稿になります

また一つ山場を越えた形になるので、これからも突っ走っていきます


14話-鍵を開く-

昨日はやけに寝つきが悪く、いつもより遅れて教室に入るとタマがみんなに何か話している所だった

 

「おっ、来たな要!」

「おはよう...全員でどうしたんだ?」

「実はな、今みんなでお花見をしようって話してたんだ!」

「花見か...いいな、気晴らしにもなる」

「だろ!それじゃあ次のバーテックスとの戦いが終わったらお花見だー!俄然、やる気が出てきたぞ!」

 

新しく決まった予定に思いを馳せながら、俺たちはいつも通りの日常が進んでいくと思っていたが、次の戦いが起きたのは...その日の夕方だった

 

 

 

 

樹海化警報を聞いた俺たちは樹海と化した世界の中で押し寄せるバーテックスの軍勢が押し寄せてくるのが見える

 

「なんだよ、今までにない事態とか言ってた割には、対したことないな」

「油断するなよ、球子。何事も大丈夫だと確信した時の方が、失敗は起こりやすい」

「今回は若葉の言う通りだ、タマ。場所は戦場、一瞬の油断が命取りになる」

「はいはい、若葉も要も真面目だな」

 

俺と若葉の言葉に対し、タマは余裕そうに言葉を返してくる

一度丸亀城の戦いと言う決戦に勝利し、全員の心に多かれ少なかれ余裕が生まれ始めているのだろう

 

「あのっ!皆さん、聞いてくださいっ!」

 

杏が声を上げると全員の注目が杏に集中する

 

「どうしたの...?」

「今回は切り札を使うことはなしにしましょう」

「それは...なぜ?」

 

それをきいた千景が納得いかない視線を杏に理由を聞くと、俺たちを見つめながら杏は言う

 

「元々大社からも、精霊の力を使うのはできるだけ控えるように言われていましたし...もしかしたら、本当に危険かも知れません」

「...状況次第では、使わざるを得ない場合もあるわ」

 

「でもアンちゃんの言う通りだと思う。使わないに越したことないよ」

「...高嶋さんがそう言うなら」

 

「作戦の方針も決まった所で、みんなそろそろ気合い入れよう...敵が来るぞ」

 

そういいながら若葉が敵の方を見ると、バーテックスはさっきよりも近い位置まで移動していた

 

 

 

全員が一定の距離から離れることなく、迫りくるバーテックスを撃退していく

 

「数は前より少ないみたいだな」

「うん、これならみんな大丈夫」

 

杏はタマの言葉を聞きながら融合するために動き出すバーテックスを確実に仕留めていく

 

「少し前に出る」

「気を付けてくださいね」

「あぁ」

 

杏に一声かけると、他のみんなよりも少し前に出て迫ってくるバーテックスの注意をこちらに向ける、少しの間バーテックスの相手をしていると、杏から声をかけられる

 

「要さん、そろそろ下がってください!」

「了解」

 

俺がタマと杏の近くまで後退すると周りに吹雪が吹き荒れ始める

 

「タマ、これは」

「杏が切り札を使ったんだ...というか、寒いぃぃぃぃ!」

 

「アンちゃーん!?この吹雪なにー!?」

「完全に視界が遮られている!敵味方の位置も分からない!」

「さ、寒い...」

 

「みなさん、危険ですから動かないでください!残りの敵は、全部私が片付けます!」

 

切り札を使ったであろう杏の引き起こした吹雪は、周囲のバーテックスに襲い掛かる。それから数分後、吹雪が収まっていくと、ほとんどすべてのバーテックスが凍り付いていた、残ったバーテックスの数は残り僅か、ラストスパートと言った感じだ

 

「やったね、アンちゃーん!もう敵、少ししか残ってないよ!」

「だが、杏自身が切り札を使うなと言っていたのに、よかったのか!?」

「あ、そうだぞ、杏!お前が危険だって言ったのに!」

 

友奈と若葉が残ったバーテックスの相手をしながらそういうとタマも思い出したように杏に言った

 

「えっと、大丈夫、きっと... 私、今までの戦いで一度も切り札を使ってなかったから。他の人が使うより、安全だよ」

「まぁいいや、説教は後だ!今は残ったバーテックスを――」

 

そういいかけたタマの言葉が止まる、彼女の見ている方を見ると前に出てきた個体と同じくらい巨大ばバーテックスがいた、前回の個体との最大の違いはサソリの尻尾のような部位を持っている事...それを見た瞬間、全員が直感する

 

――あいつはヤバい

 

現状一番攻撃力の高い杏が攻撃を仕掛けるが目の前のバーテックスにはダメージを与えている様子はない

 

「そんな...」

 

呆然とする杏に向かって彼女を貫こうとするサソリの尻尾が迫ってくる、杏は間一髪のところで避ける

 

「大丈夫か」

「はい...なんとか」

 

そうこうしている間に周りにいた小型が一つに集まり大型に融合していく

 

「まずいよ、若葉ちゃん!これだけいっぺんに進化体が出てきたら!」

 

「使うわ...切り札」

 

友奈たちの言葉を聞いた千景が切り札を発動して、進化体の方へ向かう

 

「待ってください、千景さん!」

 

「状況が状況だ!迷っている場合ではない!」

「うん!」

 

突如として現れた大型バーテックスと進化体相手にこっちも出し惜しみをしている場合ではなくなる

千景に続く形で友奈と若葉の二人も切り札を発動すると進化体へと向かっていく

 

「杏!要!危ない!」

 

サソリの尻尾が俺たちの方に向かっているのに気付くのが一瞬遅れる、ギリギリの所で槍使い尻尾の軌道を逸らすと切り札を発動したタマの助けが入る

 

「二人とも、大丈夫か!」

「俺の方は問題ないが...すまない、杏を守り切れなかった」

「私も大丈夫、ちょっと掠っただけ...え?」

 

杏の掠った後を見ると、その部分だけ赤くただれたように腫れている、それを見るまで気がつかなかったが俺の方も傷の治りがいつもより遅い。それを認識した瞬間、傷を負った左腕が悲鳴を上げ始める

 

「...ッ!」

「杏、それに要も...腕が!」

「あのバーテックスの針、毒を持ってるんだ」

「成る程、通りで傷の治りが遅いわけだ...」

 

「くっ、あいつ...!」

「右腕が無事だったら戦えるから」

「俺の方も、しばらくすれば治る...だから大丈夫だ」

 

杏は右腕でクロスボウをしっかりと握り、俺も動かすことの出来る右腕に槍を再構成する

 

「...わかった。だったら早く治療できるように、さっさと戦いを終わらせる」

 

そう言うとタマと杏の二人はサソリに視線を向ける、サソリの方も二人に狙いを定めたようで攻撃のタイミングを測っているように見えた

 

「攻撃は最大の防御!杏とタマで同時攻撃を仕掛けるぞ!」

「俺はあいつが攻撃を仕掛けてきたときの為に全力で防御に徹する...今回は俺がお前達の盾になる」

「...ッ!任せた!」

二人が攻撃を仕掛けようとするのと同時に俺は右腕に全神経を集中させ、相手の出方を伺う

杏の冷気とタマの炎を纏った旋刃盤がサソリに向かって飛んでいく

 

「いけぇ!」

「お願いっ、効いて――!」

 

だが、二人の願いは届かず攻撃は表面に僅かな傷をつけただけだった

 

「全然、効いてないっ!」

 

目の前の敵が放つ圧倒的な力は俺たちに絶望を叩きつけてくる、それに一瞬気を取られそうになったが、真横から迫ってくる尻尾に気づき、慌てて二人を庇う形で抱きしめると、今まで感じたこともないような衝撃が俺を襲い、意識がブラックアウトした

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとそこは真っ黒な空間だった

 

「俺は...死んだのか?”また”何も守れず」

 

誰に伝えるでもない言葉を言い終えてから、俺は自分の発した言葉に違和感があることに気付く

 

――”また”って、どういう事だ

 

「まぁ、今さら気にしたところで仕方ないか」

「ちょっとちょっと、何勝手に諦めてんの?」

 

仕方ないと割り切ろうとした瞬間、背後から声が聞こえてくる、振り向いてみるとそこにいたのは宙に浮く一匹の狐

 

「狐?」

「狐ってのは流石に酷くない?...と言うかもしかしてまだ、思い出せてない?」

「思い出すって、まさか俺の記憶の事か?」

 

目の前にいる狐は俺の記憶の事を知ってるのか、だとしたらこいつは俺と関係あるという事になるが...全く心当たりがない

 

「いやぁ、ここまで忘れられてると流石に傷つきますよ」

「すまない」

「まぁいいよ、許したげる...頭は忘れてても心は忘れてないみたいだしね、私のこと」

「心...」

「そっ、まぁいいや。今回は時間がないから手短に説明すると...このままだと要たち三人ともお陀仏だね」

「三人ともって...俺はもう死んだんじゃ」

「まだ死んでないよ、なんていうのかな...今は生と死の境界線を彷徨ってる感じ?そんで私はまだ要に死んでほしくないからこうして出てきたってわけ」

 

俺はまだ死んでない、ならやることは一つだろう、一刻も早く二人の元に戻らないと

 

「なら早く俺を戻してくれ」

「安心して、急がなくても少ししたら元の世界に戻るから...でもその前にちょっとだけ」

 

狐は俺の方に近寄ってくると、自分の頭を俺の頭にぶつける

 

「今の要じゃ勝てない...なら、私が記憶を戻すのを手伝ったげる」

 

その言葉と共に記憶の扉に掛かっていた鍵が次々と開かれていく、自分がどうして四国を目指したのか、この力と体質が一体何なのか、そして...あの言葉を言ったのは誰だったのか

 

「思い出した?」

「あぁ、まだぼやけてる部分はあるけど、大切な所は思い出せた」

「ならよかった、それじゃ早く行ってあげて...今の仲間の所に」

「...今の仲間って言い方は違うな、あいつらもお前も、俺の大切な仲間だ」

 

「そっか、それが聞けただけで満足だ...それじゃあ、頑張れ」

 

「......ありがとな、雪花」

 

記憶の大切なピースを彼女によって思い出させて貰ってから、ホントに大事な所はいつもアイツ任せになってるなと、記憶を取り戻した自分自身に少し呆れる

 

意識が浮上するとき、最後に後ろを向くと彼女――秋原雪花は少しだけ寂しそうに手を振っているのが見えた

 

 

 

 

激しい打撃音と共に目を覚ますと体を起こしていた杏とサソリの尻尾から俺たちの事を守っているタマの姿が目に入る

 

「杏、タマ...」

「要さん!」

「起きたか...要...それなら...杏を連れて...逃げてくれ」

 

起きて早々腑抜けた事を言ってきたタマの言葉を無視すると、槍を出現させながらタマの横まで向かう

 

「頼む...ッ!!」

「うっせぇバカ」

 

その言葉と共にサソリの尻尾が離れた一瞬の隙を見てタマを杏の所に投げ飛ばすと向かってきた尻尾を槍で受ける

 

「要!?何してんだ!」

「杏、タマ連れて隠れてろ...あのデカブツは俺がやる」

「でも...ッ!?一人じゃ」

「大丈夫だ...頼む、信じてくれ」

 

杏の方を振り向かずに、尻尾をパリィすると改めて槍を構え直す

記憶が戻った...てのはどうでもいいが、大切な仲間がわざわざ激励してくれたんだ、今の俺は負ける気がしねぇ

 

「俺の切り札の名前は...そうだそうだ、思い出した」

 

血戦偽装(けっせんぎそう)――尾裂狐(おさき)

 

勇者が使う切り札のように、自らに宿す精霊をイメージする

但し、神樹に接続できない俺は一度の使用につきバカみたいな負荷がかかるが、体質上そんなことを気にする必要はない

 

体中からあふれ出る血液が、俺の身体に纏わりつき、外套を形成していく

赤黒い外套、顔の半分を覆い隠す狐の面、そして背中に現れた蛇腹剣のような九本の尻尾

 

だが、前回使用した時のような衝動に飲み込まれる感覚が今日はない

 

偽装を完全に顕現させると、俺は九つの尻尾を使いサソリの尻尾を切り裂いていく

 

「正直厄介極まりない敵だったが関係ねぇ...力の限りぶっ潰す!」

 

その言葉と共に俺は周りにいる大型バーテックスを薙ぎ払いながらサソリ野郎に向かって一直線に進んでいく

 

「磔刑で死ねぇ!」

 

九本の尾をサソリに突き刺すが、そこまでダメージを与えられている様子はない、一本ずつでダメなら九本まとめて突き刺せばいい。そう考えると九本あった尻尾を一つに纏め攻撃を仕掛けた。

分散していた破壊力を一本に纏め、攻撃を仕掛けるとサソリの身体に少しずつひびに入り始める

 

「もう少し...ッ!」

 

少しずつ身体が言う事を聞かなくなり始めるのを感じる

 

「要ぇッ!!」

「要さぁんッ!!」

 

後ろを向くとサソリに向かって一本の矢が飛んでくる、それを見た俺は尻尾を再び九本に戻し飛んできた矢の尻をにまず一本目の尻尾を叩きつける

加速した矢はそのままサソリにぶち当たりその体を大きく揺らす、それを確認した瞬間矢の刺さった場所にすかさず二本目、三本目と尻尾を叩きつけ続ける、九本目の尻尾を叩きつけ終わった瞬間、サソリの身体がひび割れる

 

「これがダメ押し...我流!槍撃神威!」

 

ひびが入った身体にダメ押しの一撃...昔、雪花の使っていた技を自分流にアレンジした一撃をぶつけるとサソリ型バーテックスは地に墜ち、爆発する

俺はそれを見届け、偽装を解くと同時に意識を手放した






14話はここで終了になります

後ほど要の過去に関する箇条書き及び今回使った切り札―血戦偽装については後ほどキャラクターデータの部分に追加しておくので詳細はそちらから

彼の治癒力と血を操る力に関しては本編で触れるのはもう少々お待ちください



新たに評価をつけてくださった方々
今まで評価をつけてくださった方々
この作品を読んでいる読者の皆様に改めて感謝を

本当にありがとうございます
これからも不知火要は勇者でないをよろしくお願いします
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