不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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15話-敗北-

「今回は随分と無茶をしたみたいだね」

 

 病院の診察室で、俺のカルテを見ながら冬吾さんはそう言った

 

「そこまでですかね?」

「あぁ、確かに傷は治り始めてるが、骨の方はダメージを受けたままだ」

「そうなんですか?」

「そうだ...しばらくが無茶せず、体を休ませるのは良いだろうね」

 

 冬吾さんはそう言うとカルテを机に置き、俺の方を見る

 

「検査はこれで終了...この後はあの子たちの所に寄っていくのかい?」

「はい...それじゃあ失礼します」

 

 俺はそういって診察室を出て、そのまま別の病室を目指す

 あの戦いの後、意識を失った俺、タマ、杏の三人は大社の手によってすぐにこの病院に運び込まれたらしい、結果俺は3日間眠りっぱなしでタマと杏は俺より早く意識は戻ったが負った怪我が思いのほか酷いものだったため、2、3週間ほど入院することになった。

 

 俺の方な眠っていただけだから、今日で退院だ

 

 

「よう、二人とも大丈夫か?」

「おう! 大丈夫すぎて退屈してるところだ...ッ!」

「タマっち先輩、まだ治ったわけじゃないんだから大人しくしてないと...」

 

 俺が病室に入るとタマと杏の二人は元気そうな顔を俺に見せてくれたが、怪我の治りはまだまだのようだった

 

「変に動いて杏に心配かけさせるなよ」

「わかってるって...でも。出来るだけ早く治すからな」

「そんなに焦らなくても大丈夫だ、特にタマは武器が使い物にならなくなってるからな」

「うぐっ...それは言うなよ」

「でも、タマっち先輩が守ってくれたから私達は生きてるんだよ?」

「そ、そうかぁ?」

 

 杏の言う通りタマがあのサソリの攻撃から俺たちを守ってくれなかったら、三人とも今この場にいなかったかもしれない、あの戦いは本当にギリギリだったと思う、俺が目を覚ますのが少しでも遅かったらタマと杏は尻尾に貫かれていたし、タマたちが守ってくれなかったら俺も杏もあの場所で殺されていたと思う...そう考えると今この場に全員揃っているのは、本当に奇跡なのだろう

 

「要? どうかしたのか?」

「何か考え事ですか?」

「いや、全員無事でよかったと思ってな」

 

 そんなことを考えていると病室のドアが開き、若葉たちが入ってきた

 

「お前らも来たのか」

「あぁ、要のほうこそ体は大丈夫なのか?」

「問題ない...と言いたいところだが骨の方がガタついてるみたいでな、暫く無茶は禁物だ」

「それなら、要さんも入院していた方がいいのでは...?」

「日常生活に支障がないから自宅療養で問題なしだそうだ」

「でも、みんな無事でよかったよ!」

「そういえば、千景は?」

 

 俺がそういうと若葉たち三人は気まずそうに黙ってしまう、俺たちが何のことかわからずにいるとひなたがゆっくりと話始めた

 

「千景さんとは、最近話が出来てないんです?」

「話が出来てない?」

「うん、ぐんちゃん最近話しかけようとしても、一人で帰っちゃうというか...避けてるというか?」

 

「...ッ! 要さん、それって」

「多分、そうだろうな」

「何か知ってるの!?」

「おそらく、切り札の後遺症が出てる可能性がある」

「切り札の...後遺症?」

 

「あぁ、俺のものと勇者のものが同じか分からないが...切り札には身体的な負荷以外にも、精神に何かしらの影響を及ぼす可能性がある」

「タマっち先輩と要さん、それぞれ切り札を使った後に違和感を覚えたみたいなんです」

「タマ、あの時の話し、しても良いか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 

 タマから許可をもらうと、あの時の事を若葉たちに話始める

 

「タマが授業を休んだ日が合っただろ」

「あったが...それがどうかしたのか?」

「あの日、俺と杏の二人で授業を休んでまでタマが何をしたのか聞いたんだ...まぁ、俺は成り行きだったがな」

「それでタマっち先輩からあの日は学校を休んで病院に行っていたと聞いたんです」

 

「そうだったんですか...」

「タマちゃん、大丈夫なの!?」

 

「おう、大丈夫だ...と言っても、その日も検査を受けに行っただけなんだけどな」

 

 タマがそう言うと友奈は安心したように胸を撫でおろしているのを見ながら、話しを続ける

 

「俺の方も丸亀で初めて切り札を切ったあの日からちょくちょくマイナス思考になることが多くてな、違和感を感じてたからタマの話しを聞いて、一応話したんだ」

「それで、もしかしたら切り札は身体の負荷以外にも私達の知らない後遺症があるんじゃないかって思ったんです」

 

 杏のその言葉を聞いた若葉は何かが腑に落ちた表情をしていた

 

「成る程、だからあの時切り札を使わないよう言ってたんだな」

「はい...もし精神的な負担まであったら、本当に危険ですから」

「じゃあ、千景さんは...」

「精神が不安定になっているのか...精神的な汚染を受けてるのか知らないが、どっちにしても切り札の後遺症は残ってるんじゃないかと思う」

「でも、それなどうすればいいんだろ...」

「現状、自然に後遺症が治るのを待つしかないと思います...」

「それ以外だと、俺たちで千景の事を気遣う以外ないだろうな」

 

 俺はそう言うと椅子から立ち上がる

 

「もう帰るのか?」

「あぁ、そろそろ寝なれた布団の上で寝たいからな...じゃあ、また」

 

 そういって俺は病室から出ると、病室側の壁に背を預けている千景の姿が目に入る

 

「...来てたんだな」

「えぇ...その...心配だったから...」

「そうか、もしかして...って聞く必要もなさそうだな、その様子だと」

「......」

 

 俺のその問いかけに対して、千景は俯いたまま答えようとしない

 

「別に責めるとか、そういう事をするつもりはないが...せめて少しくらいあいつらの事を頼っても良いんじゃないか?」

「...わかってるわよ、そんなこと...」

「そうか...じゃあ、俺は先に帰る、ここまで来たんだから少しくらい顔を見せてやれよ」

「...そうね、そうするわ」

 

 帰る前に千景の方を見ると、少しだけ今までの千景に戻っている気はしたように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が退院してから1週間ほどの時が経ち、俺と若葉、友奈、千景の四人は壁の近くまでやって来ていた

 今回の任務は壁外の敵の討伐、メンバーは現状動くことの出来る俺たち四人だ

 

「珍しいよね、壁外の敵の討伐なんて」

「そうだな、大社の方針が変わったのか...?」

「もしくは、早急に対処しないといけない程の敵が現れたか...」

「どちらにしても、あまり考えたくない事には変わりないな」

 

「ぐんちゃん?」

 若葉に続いて俺も壁の外に向かおうとしたところで千景が立ち止まっていることに気付いた友奈が声をかけていた

 

「高嶋さん、私......いえ、なんでも...ないわ」

 

 その様子が少しだけ気になったが、この場は友奈に任せ俺は壁の外に向かって歩くと隣に来た若葉が声をかけてくる

 

「いいのか?」

「あぁ、千景の事なら俺より友奈の方がいいだろ」

「そうだな...それじゃ、行くぞ」

「あぁ...いつも通り言っておくが、背中は任せた」

「ならこちらもいつも通り、任された」

 

 俺と若葉はいつも通りのやり取りをすると、腕でタッチをすると友奈たちよりも一足先に壁の外に出ると、そこには俺たちの予想とは大きく異なるものが居た、今までのそれこそこの前戦ったサソリとも比較にならない程巨大なバーテックス、まだ作りかけで所々は形成されていないものの、今で来ている姿だけでも俺たちにとってどれだけの脅威になるかは理解出来た

 

「こいつは...」

「この存在が壁の中から確認できない筈は...まさか、隠されている?」

「どうやって隠してるかは神樹の力...で何とかなりそうだが、今はそんな事言っている場合じゃないか」

「そうだな、友奈と千景も呼んで四人で対処しよう」

 

 若葉はそういうと友奈と千景の事を呼びに行く

 その間に目の前にいる超巨大バーテックスを見つめる、こいつを倒すには何が必要なのか...いや、そもそもこいつに俺たちの攻撃が通るかすら怪しい所ではある、なんせ勇者の切り札で最も火力のあるタマの攻撃ですらあのサソリに対して決定打にはならなかった

 

「要!」

「若葉、二人も来たみたいだな」

「これは...」

「こんな大きな敵、壁の外からは見えなかったよ!?」

 

 壁を越えて外までやって来た二人も目の前に存在する超巨大なバーテックスを見て、案の定な感想を持ったらしい

 

「結界の効果で隠されていたのだろう...」

「また...隠すのね...」

「あぁ、だが...」

「今は全力で敵を倒すのが優先...でしょう」

「その通りだ」

「切り札の使用は...とか言ってる場合じゃないか」

「...行こう!」

 

 俺たち四人はそれぞれ自身の切り札を発動させると超巨大バーテックスに攻撃を仕掛けるが、やはりと言った感じでダメージを与えられている様子はない

 

「ぐんちゃん避けてッ!!」

 

 友奈のその言葉を聞き、千景の方を見るとバーテックスがエネルギーを溜めているのがわかった

 急いで千景の所まで向かい放たれる火球から千景を助けると壁に降りると放たれた火球はそのまま本州へと向かい直撃した部分を焼き尽くした

 

「千景...大丈夫か?」

「えぇ、貴方は...ッ!」

「大丈夫だ...この程度すぐ治る」

 

 そういいながら改めて火球が直撃した場所を見る、千景もその光景が見えたようで呆然とした様子で本州を見つめていた

 

「ぐんちゃん、要くん!」

「二人とも、大丈夫か!」

「高嶋さん...乃木さん...」

「あぁ、問題ない...とは言い難いな」

「要くん、その怪我...」

「心配するな、すぐに治る」

「...このままだとこちら側が消耗するだけだな」

 

 俺たちの様子を見た友奈は、一瞬何かを考える素振りをした後決心したように顔を上げる

 

「みんな、私に試してみたいことがあるんだ」

「何をする気だ」

「一目蓮よりも、強力な精霊の力を使えば、もしかしたら」

 

 友奈のその言葉を聞いた若葉は強い口調で否定する

 

「無茶だ!」

「お前達の使ってる切り札だけでどれだけ体に負担がかかってるのか忘れたわけじゃないだろ...それ以上の力を使うとお前の身体が」

「わかってる! ...でも、四国のみんなを絶対に守るんだ...私達の世界を終わらせないためにッ!」

 

 精霊を卸そうとしている友奈は今まで見たことのない程の気迫を身に纏っており、立っているだけで現れる強大な精霊の力が伝わってくる

 

「来いッ! 酒呑童子!!」

 

 友奈が卸した精霊は酒呑童子。鬼の王ともいえる存在

 強大な力を身に纏った友奈はそのままバーテックスの方へと向かっていった。俺も友奈の場所に向かおうとするが足に力が入らずその場に倒れこむ

 

「要!」

「悪い...体に力が入んねぇ」

 

 俺が倒れこんでいる間に友奈は迫っていたバーテックスを蹴散らし、その一撃をバーテックスへと放つ

 攻撃を喰らったバーテックスの身体が抉れるのが分かったがその一撃を放った友奈は切り札が解け、そのまま海に落ちていく

 

「友奈ぁぁぁぁぁ!」

「高嶋さ――――ん!」

 

「くそったれぇッ!」

「要ッ!?」

 

 ガタがき始めた身体を無理やり動かして、友奈の元へ向かうと彼女を庇う形で海の中に落ちていった





レオ・バーテックス(不完全体)の攻撃を受けた要くんの傷を描写していなかったのでここで伝えさせていただきます。

レオの火球から千景を庇った要は背中が焼けただれ、僅かに火球と接触した左肘から下が炭になっていました

完全に余談ですが、要くんが千景を庇った理由は原作と異なり千景の居た位置がギリギリ火球の直撃ラインに入っていたからです
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