「あぁ~、まーた随分と見慣れた天井だなぁ」
「要さん、目が覚めたんですね」
「ひなたか」
俺が目を覚ますと、近くにいたひなたが声をかけてきた、ゆっくりと体を起こすと左腕の違和感に気付く、いつものような感覚じゃなかった。左腕の肘から下には包帯が巻かれていた
「腕が痛むんですか?」
「いや、まだ治りきってないんだなって...そういえば、若葉たちは?」
「若葉ちゃんと千景さんは宿舎に戻っています、友奈さんは...」
「友奈は、どうかしたのか?」
「友奈さんは、切り札の連続使用で現在面会謝絶状態です」
「そんなにひどい状態なのか?」
「連続使用そのものより、卸した精霊が問題だったんです」
「酒呑童子か...」
「はい、酒呑童子と言う精霊はかなり強大な精霊です...単独での使用でも他の精霊以上に負荷が大きい」
「それを友奈は単体ではなく複数の精霊との連続使用で体が負担に耐えられなくなった...って認識でいいのか」
「はい、その認識で問題ありません」
その言葉を聞いて理解することが出来た、何よりも今回の怪我は友奈一人に無茶させてしまったのが原因だ。そんなことを考えているとひなたの顔にはそれ以外にも何かあるという顔をしているのが、何となくわかった
「...それ以外にも、何かあるって顔をしてるな」
「ッ! ...それは」
「とりあえず話してみてくれないか? 言われない事には知りようがないからな」
俺のその言葉を聞いたひなたは躊躇い交じりにと言った風だったが、何を隠していたのか話し始めた
「話しをする前に...まず、これを」
ひなたは自分のスマホを操作すると、SNSの画面を表示し俺に渡してくる
その画面を見て俺は少し吐き気を覚える、画面の中に書かれていたのは勇者に対する誹謗中傷の数々だった
「...酷いな、これは」
「はい...」
「大社の方で何とか出来なかったのか?」
「頑張っては見ているようですが、一度ネットに出てしまった情報を消すとなると流石に厳しいみたいです」
「打つ手はほぼなし...か、ホント使えねぇ」
「え?」
ひなたが驚いた表情をするのと同時に、自分が何を言ったのかを理解する。自然に出たその言葉は俺にも切り札使用の後遺症が出ている事を改めて実感させるものだった
「すまない...やっぱり何処かおかしくなってるのは間違いないみたいだ、悪いが今日の所はもう帰ってくれないか?」
「...わかりました」
俺の言葉を聞いたひなたが病室から出ていくのを確認すると、包帯に巻かれた左腕を見ながら誰に伝えるでもなく呟く
「ほんっと、やるせねぇよな...壁の外も...中も」
翌日、やけに外が騒がしいと思いベットから起き上がると病室の外に出る
「うっせぇな...ここは病院なんだから、ちったぁ静かに出来ねぇのか」
「不知火...君」
「要...」
外に出た俺が見たのは、尻餅をついて倒れている若葉と、彼女の事を突き飛ばしたと思われる千景の姿が目に入る
「お前ら...なにやってんだ?」
「これは...」
「ったく、ケンカをすんのは勝手だが矢んなら河川敷とか場所を選びやがれ...観葉植物が可哀そうだろうが」
「あ、あ。すまない」
「立てるか?」
「大丈夫だ」
立ち上がろとする若葉に手を貸していると、千景が何も言わずにどこかに行こうとするのが見えた
「千景、おめぇはこのままでいいのか?」
「......ッ!」
千景は一瞬立ち止まるが、何を言うわけでも再び歩き出してしまう
「言葉にしねぇと...ってこれは後で本人に言うから良いか」
「要...お前、口調が」
「あ? ...あぁ、悪い」
若葉に言われて初めて自分がいつもと違う口調...と言うよりも気を抜いている時の口調になっているのに気づき、いつもの口調戻す
「それで、何があった?」
「実は...」
「若葉ちゃん、ここは私から」
若葉を制したひなたの口から何があったのかを聞いた
千景がいつもより感情的になっていた事、ちょっとした事で若葉と千景の二人が言い争いになった事、その結果千景が若葉の事を突き飛ばし若葉が怪我をした事
事情を聴いているうちに若葉の治療が終わったようで、ひなたと一緒に治療室に入ると若葉は自分の腕を見ながら一人で何かを考えているようだった
「若葉ちゃん」
「若葉」
「二人とも...すまない、どうにも感情の自制が出来てなかったみたいだ」
「そのことについてお話が...球子さんと杏さんにも話したほうがいい話なので、場所を移しましょう」
「そうだな」
「わかった」
タマと杏の病室までやって来た俺たちは、俺はひなたにこれから話す事を聞いた
「それでひなた...俺たち全員に話しておいた方がいい話ってなんだ?」
「タマと杏にもってことは、重要な話しなんだよな?」
「はい、本当は友奈さんもいたらよかったのですが...」
「それなら多分大丈夫だと思います...朝方友奈さんが目覚めたって聞いたので」
「じゃあ、俺が友奈の所に行ってくる」
そう言い残すと俺は、誰かに言われる前に友奈の所に向かおうとすると、丁度友奈も杏たちの病室に向かってきていたようで廊下でばったり会うことが出来た
「要くん、どうしたの?」
「ひなたが話したいことがあるらしい、重要な事だろうから呼びに行くところだった」
「わかった、私も丁度アンちゃん達の所に行こうと思ってたから」
タマたちの病室に戻ると、友奈の分の椅子も用意されていた為、それぞれ話しを聞く体勢に入るとひなたは話しを始めた
「今朝、大社から連絡がありました...切り札の影響について、検査結果から新事実が分かったそうです」
「新事実ってのは、俺たちが予想している通りでいいんだよな」
「はい、精霊を宿すと肉体にもダメージを受ける。その結果、攻撃性の増加や自制心の低下などが起こり。最終的には言動にも大きな影響が出ると...」
それは俺たち...と言うよりも杏が予想した通りだった。それを聞いた友奈は病室を出ていってしまう
「友奈さんッ!」
「私が探しに行ってくるッ!」
「俺も行く、人手は多いほうがいいだろう」
そういって俺と若葉の二人は急いで友奈の事を探しに行くと、思いのほか早く友奈は見つかった。友奈は何処かに電話をかけているようでその様子から焦っているのが分かる
「お願いッ! 出てッ! ...お願い...ッ!」
「友奈」
「ッ! ...要くん」
「千景のことか?」
「うん、ぐんちゃん...電話に出なくて! でも、私、どうすればいいかわからなくてッ!」
「落ち着け、友奈」
「落ちついてなんていられないよッ! ...お願い、ぐんちゃんを...」
「何とかする...俺だけじゃなく、若葉たちと一緒に」
「うん...」
「要ッ!」
「若葉、千景の居場所は?」
「千景はいま、高知の実家に帰ってるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、いつも唐突に来る嫌な予感がいつもより鮮明に感じた
「高知...遠いな」
「急ごう」
「要も一緒に来るのか?」
「当たり前だ...いつもより嫌な予感がする」
「わかった...行くぞ、要!」
若葉は勇者服、それを追う形で高知まで向かうことになる今いる場所から高知まではかなりの時間がかかる、場所にもよるが到着は夕方くらいになるのは確定、それなら並んでいくよりも場所を知っている若葉を先行させた方がいい
全力で移動している間にも少しずつ嫌な予感が増していく
「見えてきたぞッ!」
「あそこかッ! ...若葉、あれッ!」
上から千景が帰ったらしい実家の場所を見ると、一般人相手に鎌を振り上げる千景の姿が目に入る
「不味いな、ここからだと間に合わないッ!」
「いや、間に合わせるッ! ...若葉、俺を踏み台に使って加速しろッ!」
そういいながら俺はいつもの槍を構成するのを応用し、盾を作り出すと若葉に向かってそれを構える
「...わかったッ!」
「行けッ! 若葉!」
若葉が盾を踏み台に加速するのを確認すると、体に負担がかかるのを無視して盾から槍に構成し直すとそれを思い切り伸ばし地面に突き刺す
「これで...そのまま地面に落っこちるッ!」
槍の長さを調節し、通常の長さに戻すと地面にを思い切り踏ん張って千景の元までまっすぐ向かう
「その怒りはお前の感情じゃないッ! 精霊の力の影響だッ!」
「精霊? ...そんなもの、関係ないッ! 許せないのよッ! 命がけで戦ってきたのに、なぜ蔑まれないといけないのッ! こんなことになるならッ!」
その言葉が発せられる前に千景の元に辿り着いた俺は槍を振るい千景の手元から鎌を弾き飛ばす
「それ以上は言うな、千景」
「不知火...くん...」
「それ以上言ったら、お前だけじゃない、俺たちのやって来た事すべてが...お前の中で無駄になる」
「それは...」
「一時の感情に任せて...お前の手でお前自身の大切なものまで壊させるわけにはいかない」
「どうして...そこまで」
「仲間だからだ」
俺の後ろにいた若葉がそういうと黙ったままの千景に伝える
「それに、私は...私達は頼まれたんだ、お前を助けてくれと」
「だから俺たちはお前を助ける...お前に手を伸ばし続ける。俺たちの為に、お前を助けてくれと願った友奈の為に」
「...ッ! 高嶋さん」
無我夢中になっていて気が付かなかったが、いつの間にか俺たちの周りには人だかりができていた。けれど、周りにいる人達から視線は好意的なものではなかった。自分と異なるものに対する恐怖、勇者に対する不信感、視線のどれもが悪意に満ちたものだった。今までこんな視線に耐えながら生きてきたのだと思うと、千景に対してある種の尊敬を抱かざるえないが、それ以上に胸糞が悪い
「お前ら...どうしてそんな視線を彼女に向けられる」
「要?」
「不知火...くん?」
「悪い若葉、千景を連れて先に行ってくれ...この視線は、俺にとって許容できる範囲を超えてるからな」
若葉にそういい先に行かせると、誰に問いかけるでもなく、さっきと同じ言葉を放つ
「お前ら...どうしてそんな視線を向けられるんだって聞いてんだよ」
「...何言ってんだ、アイツ?」
「関係ねぇ疑問浮かべるより先に、誰でもいいから答えやがれって言ってんだよッ!」
誰が発したのかもわからない、他愛のない言葉一つで俺の心の中にあった自制心が切れるのを感じた。胸の内から湧き上がってきた黒い感情をそのまま槍の刀身に乗せて、思い切り地面を抉る
周囲にいた人々が恐怖の混じった悲鳴を上げるのが聞こえたが、ここまで来ると俺はもう自分自身を止めることが出来なかった
「あいつが...千景がテメェらに何をしたッ! 間違っても勇者になったが人を守れてねぇとか言うんじゃねぇぞッ! 勇者だって只の人だからなぁ、そんなふざけた事を言ったらこの場でソイツをぶっ殺す...それを踏まえて聞いてやるから今度はしっかり答えやがれ。千景がテメェらに何をしたッ!」
「あ、あいつの両親は...」
「両親? アイツの両親のやったことが千景と何の関係がある? 関係ねぇだろ? ...その態度で大体わかったよ、知った風な口を利かせて貰うがテメェらアレだろ? ようは千景の事を使い勝手の良いサンドバッグ程度にしか思ってねぇんだろ?」
俺のその言葉を聞いてもなお、周りにいる人間は一言も発さなくなる。向けられている視線は恐怖一色に変わっている...些細なことのはずなのにそれが俺にとってどうしようもなく苛立たせる
「あぁ、クソッ! イライラする...どいつもこいつも雁首揃えて、今更自分は被害者みてぇな顔しやがってよ、お前らがアイツの事をもう少し気遣ってれば今見てぇな結果にゃなんなかったんじゃねぇのかよ」
我ながら滅茶苦茶な事を言っているなと思い、変な笑いが出そうになるがそれを塗り潰すように黒い思考が俺の事を蝕んでいくのを感じる...と言うか、もうこんな場所ぶっ壊しても良いだろ
「...もう壊すか、自分の苛立ちを言葉にするぐらいなら、いっそ全部ぶっ壊すのも良いかもな」
「それはダメです、要さん」
「あぁ? ...ってなんだひなたか、どうした? 後ろに無能をぞろぞろと」
俺に声をかけてきたひなたは後ろに大社の無能どもをぞろぞろと連れてこのクソみてぇな場所においでなすった。大社の奴らは周りにたかってた奴らを帰らせているのを見ながら俺はこのイライラを込めてそこら辺に生えてた木を思いっきりぶん殴る
「ったく、これからがいいとこだったのに何の用だよ?」
「なんの用って...若葉ちゃんに言われて要さんを迎えに来たんです。まったく、千景さんを止めに行ったはずの要さんが暴走してどうするんですか?」
「...仕方ねぇだろ、それに俺は勇者じゃねぇし好き勝手したって構わねぇだろ?」
「構わないわけないでしょう!」
今まで聞いたことのない声音を俺に向けられ負の感情に飲まれかけていた頭が少しだけ冷静になる
「要さんは私たちの大切な仲間なんですよッ! 貴方がいなくなってしまったら私も若葉ちゃんも、みんながどれだけ悲しむか理解してないんですかッ!」
「それは...いや、そうだな。すまなかった」
「冷静になってくれたのならそれでいいです」
ひなたの言葉で頭に上がっていた血がすっと引き冷静になった。冷静になると今度は俺の処遇がどうなるのかが気がかりなってきた、結構洒落にならない事をやらかしているから流石に無罪放免ではないだろう
「そうですね、要さんの処遇については追ってお話します...けど、まずは帰りましょう」
「そうだな」
「帰ったらまずは皆さんに謝ってくださいね、球子さんも杏さんも心配していましたから」
今回の一件で改めて自分たちの使っている切り札によってもたらされる精神ダメージの危険性、そして俺の切り札も勇者たちの切り札と及ぼされる影響事態は変わりないのだという事を思い知らされる結果になった