千景の実家がある場所から帰ってきた俺は、しばらくの間自室謹慎と言う結果に落ち着いた、勇者ではないと言え対バーテックス戦における貴重な戦力であることには変わりないが故にこの程度で落ち着いたらしい。
千景は精神が不安定であることから勇者システムを一時的に剥奪したうえで自宅謹慎になっているらしい、家族ともどもあの場所から離れたらしいがあそこでの千景の扱いの根本的な原因は彼女の両親にあるとみて間違いない、その両親と一緒に生活したところで千景の精神が回復するかと聞かれたら、否としか言いようがないだろう
「勝手に出かけようにも、腕がこれじゃ抜け出すのも無理だし、どうすっかな」
現在、俺の腕には大社謹製の手枷で両手をガッチリ拘束されてしまっている。やろうと思えばぶっ壊すこともできるが流石にそれはバーテックスが攻めてきたとき以外するつもりはない。
『7.30天災の悲劇から、後一か月程で四年が経とうとしています』
気を紛らさすために操作がクッソしずらいながらも里もリモコンを使って適当にチャンネルを回していると、若葉の演説が丁度テレビで放送されていた
『人命や国土、そして自由に見上げることのできる空。多くのものを私達はあの日奪われました』
「くっだらねェ」
仲間が行っている筈の演説なのに、今の俺にはそれがどうしても只の戯言にしか聞こえなかった。話しを聞く価値もないと思った俺はテレビを消すと再びベッドに横になり目を閉じる
「―め――要、―――要、起きろぉー」
「あ?」
「ようやっと起きたか、アホ要」
目を覚ますとそこに広がっていたのは真っ白な空間と中央に置かれたコタツとミカン、それだけじゃなく冷蔵庫にテレビ、新作の漫画etc.下手したら俺の住んでいる宿舎よりも充実した生活空間が形成されていた
「なんだこれ」
「ありゃ、私の事は無視ですか」
「...それじゃあ質問って形に変える、これは何だ?」
「そりゃ見ての通り、雪花さんの生活スペースですけど」
さらっと訳の分からんことを言う目の前の人物――秋原雪花に対して俺は訝し気な視線を向ける
「そもそも、どうして雪花がここにいる」
「どうしてって言われても、ここにいる私は要が作りだした存在だから...としか言いようがないんだよね」
「俺が、作り出した?」
「そうそう、私は要にとっての防波堤って所かな」
「成る程...納得はしたが、それとこの生活空間は関係あるのか?」
「そういう話しはくつろぎながら、いつまでも気張ってると一人疲れるでしょ」
雪花と共にコタツの中に入ると、俺は改めて話しを始める
「改めて、俺の目の前にいる雪花は俺自身が作り出したものって認識でいいんだよな」
「そっ、言うなればイマジナリーフレンドみたいなもんかな、どう? イマジナリー雪花さん」
「またこうやって話せるのは嬉しいが、するなら本物の方がよかったって言うのが本音だな」
「そりゃそうか...まぁここと外の時間は直結してないし、ゆっくりしてきなよ」
そう言うと雪花は目の前のミカンを手に取り、食べ始めた。それにしてもこの空間が幻だとは思えねぇな
「それにしても、なんか大変だった見たいだね」
「知ってるのか?」
「そりゃ、イマジナリー雪花さんですから。要の見たもの聞いたものは全部私にも見えてるし聞こえてる」
「そりゃそうか」
「まぁ気持ちは分かんなくないよ、私も他の人見捨てて一人で逃げようとした身ですし...けど、流石にあの場所丸々壊し尽くそうとするのはイマジナリー雪花さん的にはアウトかなぁ」
そりゃそうだ、自分でもあれが正しくないことぐらいわかってはいる...けど、歯止めが利かなくなって止めようがなかった
「まぁ要の切り札も元を辿れば私の奴がモデルになってるから、勇者の切り札と後遺症が同じなのは仕方ないけどね」
「そういえば...そうだったな」
俺の作りだした雪花と話しているうちに少しずつ思い出した記憶の中でも靄のかかっていた部分が鮮明になっていくの感じる、元々俺の戦い方の根本にあるのは雪花だ、それを自分なりにアレンジしたのが今の俺の戦い方だ
「もう少し話したいけど、そろそろ戻った方が良いかもね」
「どういう事だ?」
「言ったでしょ、私は要の作りだした私だって。だから外の様子も少しだけわかるんだよ...誰か来たみたいだから、今日はこの辺で」
「また...来れるのか?」
「滅多なことがあればね...基本的に最終防衛ラインだから今回見たいなのが無いと会うのは無理だね」
「そうか。それは少しだけ残念だ」
「そんなこと言ってないでさっさと行った」
雪花に追い出される形で意識が浮上し、俺が目を覚ますと丁度若葉が俺の部屋に入ってきた所だった
「すまない、起こしたか?」
「いや、丁度起きた所だ」
「そうか...要、何かあったのか?」
「どういう事だ?」
「いや、どうしてかわからないが随分すっきりした顔をしていたからな」
「...夢の中に、昔の友人が出てきてくれてな。少し相談に乗ってもらったおかげだと思う」
「...そうか、それはまぁいい、少し話しをしたいことが」
若葉がそういいかけた瞬間、スマホから樹海化警報が鳴り響く
「こんな時にッ!」
「言ってる場合じゃないだろ、行くぞ」
「あぁ! ...って要、その手枷は」
若葉のその言葉に俺は親指の腹を噛み切って血を出すと、それを利用して手枷の中心部を切って両腕が動くようにする
「これで行ける」
「よし、行こう要!」
「あぁ...それにしても、たった二人か」
「いや...千景も一緒だ」
若葉のその言葉に俺は耳を疑う、千景がもう前線に復帰する?
「大丈夫なのか?」
「わからない、だが今は千景を信じる他にないだろう」
その言葉を最後に、俺たち二人は樹海化の光に包まれる
「千景...」
「もう大丈夫よ...行きましょう」
そういう千景だったが、俺にはまだ彼女がいつもの千景に戻っているようには見えなかった
「考えるのは後...今は目の前の敵か、先に行くぞッ!」
「わかった! 千景、復帰早々で悪いが力を貸してくれッ!」
俺と若葉で先行して星屑を倒しながら、千景の方を見ると彼女も俺たちとは少し離れた場所で星屑と戦っていた
「これならいけるか?」
「あぁ、このまま押しきる――ッ!」
星屑の数も確実に減少し始めていた瞬間、若葉に向かって攻撃が飛んでくる
なんとか気が付いた若葉は刀でその攻撃を弾くと攻撃の飛んできた方に目を向け、驚いたような表情を見せる
「千景ッ! どうしてッ!」
「構えろ、若葉...今の千景は」
その言葉を言い終わる前に切り札を発動した千景が若葉に向かう、俺もそれを防ごうとするが七人御先によって現れた千景の分身体が俺の足止めをする
「あなたさえいなければッ!」
分身体の攻撃を捌きながら星屑の相手をしていると、若葉に向けた千景の言葉が聞こえてくる
「あなただけが愛され、私は疎まれ嫌われ...そんなの不条理じゃない!」
「ッ!」
「あなたがいなくなればッ! みんな私を頼ってくれるッ! 賞讃を...! 愛を...!」
「やめるんだ千景!」
「全部、私が受けるのっ!」
「それは違うぞ、千景」
妨害を何とか脱した俺は本体の千景の攻撃を受け止める
「不知火君...あなたまで、乃木さんのッ!」
「違うッ! 前にも言っただろう、俺がお前を止めるのは、お前自身の手で大切なものを壊させないためだッ!」
「何を...ッ!」
千景の事をはじき返すと、俺は手に持っていた槍を地面に突き刺すと一歩前に出る
「一時の感情に任せて、お前はすべてを壊すつもりか...お前が欲しかったものをッ! 仲間をッ!」
「なか...ま」
「そうだ、千景。要だけじゃない、私も、ひなたも、タマも、杏も、友奈も...誰一人お前の事を蔑んだりしない」
「...ッ!」
「誰か一人が勇者なんじゃない、千景も含めたお前達全員で勇者なんだ。周りの評価なんて捨てちまえ...お前が一人で日影にいるなら俺達でお前を日の当たる場所まで引っ張り出す。お前が孤独に押しつぶされそうだったら、俺たちが一緒にいてやる。だからまた一緒に戦ってくれ」
「よく言ったぞ! 要!」
話しに夢中で少し気が付くのが遅れたが、俺たちの方に向かっていたバーテックスその言葉と共に飛来した旋刃盤によって引き裂かれる
「球子! もう大丈夫なのか!?」
「おう、完全復活だ!」
「嘘ついちゃだめだよ、タマっち先輩...まだ足は治りきってないんだから」
「バラすなよ、杏ぅ」
「土井さん...伊予島さん...」
「久しぶりだな、千景!」
「千景さん、大丈夫ですか?」
「え、えぇ...」
「どうやら、援軍はタマたちだけじゃないみたいだな」
その言葉を発した瞬間、飛んできた友奈が思い切り千景に抱き着いた
「ぐんちゃん、ごめんね! 私...」
「高嶋さんッ!? どうして謝るの...?」
「だって、私ぐんちゃんが悩んでるのに力になってあげられなかった...大切な親友なのに」
「高嶋さん...」
「言わせて貰うが、切り札の後遺症はあったが...今回は全部千景の一人相撲なんだ...よッ!」
星屑をぶった切りながらそういうと、千景は少しだけ呆然とした顔をする
それを見ていた若葉もほんの少しだけ笑みをこぼすと、バーテックスを倒しながら話す
「確かに、言われてみればそうかもしれないな...はぁッ!」
「乃木さん...」
「千景さんがどういう風に思ってたのかはわかりません...でも、私たちは絶対に千景さんを見捨てたりしない、タマっち先輩!」
「おうさ、タマに任せタマえ! ...千景! タマは何が何だかさっぱりだが、これだけは言える! 千景はタマたちの仲間だ! だから何かあったらタマたちを頼りタマえ!」
若葉に続く形で杏とタマの二人も千景に言葉をかける
「ぐんちゃん、間違った事をしたらいっぱい謝ろ! 私も...ううん、私たちも一緒に謝るから...だから、また一緒に行こう!」
全員の言葉を伝えられた千景は、肩を震わせ俯いていたが近くに落ちていた鎌を取ると前を向いた
「高嶋さん、乃木さん、土井さん、伊予島さん、不知火君...ありがとう、そしてごめんなさい」
「「「「「大丈夫! 気にしてない(ません)!」」」」」
全員で千景に笑顔を向けると残ったバーテックスを眼前に捉え若葉が号令を出す
「よし! 全員で残存バーテックスを叩くぞ!」
「「あぁ! (うん!)(おう!)(はい!)(...えぇ)」」
その後の戦闘はスムーズに終わった、まだ完全に治っていないとは言え勇者全員が復帰したことで連携を取りながら戦う俺達にとって星屑程度は敵ではなかった。途中融合しようとしたバーテックスもいたが、それも全員で連携し倒すことが出来た...それは切り札を使用せず、初めて融合体を打ち破った瞬間でもあった
「だぁー! つかれたー!」
樹海化が解け丸亀城の敷地内に戻ってきて早々、タマは地面に倒れながらそういうと、杏も地面に腰を下ろし、笑いながら言った
「そうだね、病み上がりだからちょっと辛いかも」
「そうだね、私も疲れたー!」
「最近気を張り詰めたままだったから、今回ばっかりは私も同感だ」
「でも、無事勝てて良かった...本当に」
俺、友奈、若葉の三人も地面に座り込むと、少しだけ離れた場所にいた千景がおずおずと若葉の場所までやって来た
「乃木さん...その、ごめんなさい...私」
「いや、謝るのは私の方だ...私は、千景の気持ちを何一つ理解できていなかった。リーダー失格だ」
「そこまでは―「いいや! その通りだ! 若葉はなんでもお堅く考えすぎなんだ! もう少し頭を柔らかくだなぁ」
「タマ程柔らかくしたらそれはそれで問題だけどな」
「なんだとー! 要! それどういう意味だ!」
「さぁな」
少しシリアスな雰囲気になりそうだったが、タマが割り込み俺が乗ったことで重くなりそうな雰囲気は消え、いつもの懐かしい雰囲気が帰ってくる
「さてと、それじゃ全員で祝勝会しようぜ!」
「そうだな、偶には騒いでもバチは当たらないだろ」
「その提案は大変良いと思いますが、その前に球子さんたちは病院に戻りましょうか」
この場にいる俺たち以外の声が聞こえた方を見ると、そこには少し圧のある笑顔をこちらに向けているひなたの姿があった
「い、いやぁ...タマはもう元気だし...」
「も・ど・り・ま・しょ・う・か」
「はぃ...」
「祝勝会は...また今度だね、タマっち先輩」
改めて病院に連行されていくタマたち三人の姿を見送っていると、隣に千景がやって来た
「どうかしたのか?」
「貴方にも...その...お礼を言っておこうと思って」
「気にすんな...助け合うのが仲間、だろ」
「そうね、でもお礼は言わせて...」
そう言うと千景は深呼吸をすると、笑顔で俺に向かってお礼の言葉を告げた
「ありがとう――要君」