不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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19話-決戦前-

まもなくパーテックスの侵攻が起こる

そう神託が下ったことを聞いた俺たちは今まで以上に鍛錬に励んでいた

 

「そういえば、みんなは聞いた?」

 

友奈の言った言葉に全員思い当たる節があった俺たちは、休憩がてらそのことについて話すことにした

 

「大社の計画の事か」

「うん」

「確か...結界の強化計画でしたよね」

「儀式を行い、壁の結界を強化する...そうすれば、壁の中に敵が入ってくることもなくなる」

「...大社は計画は二つあるとも言っていたわ」

「壁の強化計画が失敗した時の予備プラン...って考えていいのか?」

 

俺のその言葉を聞いた若葉は、首を横に振ると俺たち全員に向かっていう

 

「それは、わからない」

「わからない?」

「あぁ、もう一つの計画については私やひなたにも知らされていない」

「二人に聞かされてないとなると...よっぽど重要な計画何でしょうか?」

「その可能性はあるが...逆に俺たちに伝えたら不利益になる何かがあるのかも知れない」

 

「とにかく!次の戦いに勝てば敵は来なくなって平和になる!ってことだよね!」

 

全員が考え始めていると友奈が顔を上げて俺たちにそういうと、全員の顔が少しだけ緩む

 

「そうだな」

「それじゃあ!戦いに向けてみんなでがんばろー!」

「よし、鍛錬再開だ!」

 

その言葉と共に、俺たちは今まで以上に気を引き締めて鍛錬に励んだ

 

 

 

 

 

鍛錬を終えた後の教室

 

「だぁぁぁ、疲れたぁ...」

「タマっち先輩。まだやることがあるでしょ?」

 

教室の中にいる俺たちの何人かは、気の抜けた表情で机に突っ伏していた。その理由はいたって単純で今朝の鍛錬で全員気合いを入れ過ぎて、そこで体力のほとんどを使い切ってしまった。何とか教室までたどり着いたが、ここに来て何人かは限界を迎えた

 

「みなさん。お勉強の時間ですよ、シャキッとしてください」

「持ってきたぞ...今日は一段と多いが」

 

そう言うと俺は教室に持ってきた大量の文献を教壇の上に置く

俺とひなたが取りに行っていたのは様々な伝説や民間伝承、昔話の書かれている本

 

「なんか...今日はやけに多くないか?」

「侵攻がいつ起こるか分からない以上、今のうちに知識を付けておいた方がいいだろう...とのことだ」

「様々な文献に触れて精霊のイメージを強く掴む事で強力な精霊を身に宿しやすくなる、大社の人に言われたことでしょう」

「今日はみんな疲れているんだが...」

「常在戦場...と言いたい所だがその気持ちはかなりわかる」

「まぁ、軽く目を通しておくだけでもだいぶ違うと思うので...」

 

何だかんだと言いながらも全員上から本を取り出すと、目を通し始める。どうこう言いつつも全員がいつ来るのか分からない侵攻に備えておきたいという気持ちはあるのだと思う

 

「みんな、ちょっと良い!」

「どうかしたのか?」

「明日みんなで一緒にお出かけしない?」

「お出かけ?」

「うん、夏休みで授業もないし...どうかな?」

 

「俺は別に構わない、特にやることもなかったしな」

「明日は鍛錬も休みだし、私も構わないぞ」

「私も」

 

「タマたちも大丈夫だよな!杏!」

「うん、私も明日は予定入れてなかったし」

 

「ぐんちゃんは?」

「私も...大丈夫」

「じゃあ決まり!待ち合わせは大手一の門前ね!」

 

 

 

 

 

翌日、集合時間の十分前に大手一の門前まで行くと既に待っているひなたの姿が目に入る

 

「おはよう、早いなひなた」

「十分前行動は基本ですから...それにしても変ですねぇ」

「何が変なんだ?」

「いえ、いつもなら皆さんもこれくらいの時間には来るのですが」

「来ていないみたいだな」

「何かトラブルでもあったんでしょうか...」

 

「すまない、待たせた!」

 

そんなことを話していると急いでこっちに来る若葉の声が聞こえてくる、俺とひなたは若葉の方を見て...言葉を失う、やって来た若葉の服装はおよそ年頃の少女がするような格好ではなく、どこかの不審者がしていそうな格好だった

 

「若葉、お前...流石にそれは」

「なんですか、その恰好!?」

「変装だ!!勇者は目立ってしまうからな!!」

「変装するにしても...それは...」

 

「おっはよー!」

「...(絶句)」

 

若葉の服に言葉を失っていると今度は友奈の声が聞こえてきた。こんなことをするのは若葉だけだろうと思い友奈の方を向き、またも言葉を失い、ひなたに至ってはあまりの光景に膝から崩れ落ちていた

 

「やっぱり変装は基本だな」

「うんうん!」

 

「却下です...今すぐ着替えてきてください」

 

どす黒い圧を放ったひなたに対して、若葉と友奈の二人は肩を振るわせ返事をしていた

 

「すみません要さん、私は二人の服を選んでくるので少し待っていてください」

 

そういって二人を連れて戻っていくひなたを見送りながら時間を空でも見て時間を潰していると向こうからやってくる千景の姿が見えた

 

「お待たせ...みんなは...?」

「タマと杏はまだ来てない、若葉と友奈はさっきまでいたが服装がアレすぎてひなたと一緒に宿舎に戻った」

「二人は一体どんな服で来たの...?」

「若葉は不審者、友奈はジャージにヒーローのお面」

 

それを聞いた千景は俺たちのように言葉を失っていたようだが、気を取り直して話始める

 

「そういえば...この前両親の所に行ってきたわ」

「一人でか?」

「流石に一人は無理...大社の人達と一緒に必要最低限の荷物だけ取りにね...みんなから貰った卒業証書も置きっぱなしだったから...」

「そうか、それでどうだった?」

「特に変わったことはなかった...と言うわけではないわ...父は母を置いて何処かに逃げてしまってたから」

「ッ!?...そうか」

「別にあなたが気にする必要はないわ...もしかしたら、私達にとってはこの方がよかったかも知れないから」

「良かった?」

「えぇ」

 

千景は少し悲しそうに、けど何処かすっきりとした表情で言葉を続ける

 

「きっと、いつかはこうなっていた筈だから...どんな形でも一度離れて、ほとぼりが冷めてそれで会いたいと思ったら会う...そうすれば、少しは家族らしい会話が出来るかも知れないから」

「千景がそう決めたなら、俺は何も言わない...友奈たちもそうだろうしな」

「そうね」

 

「おーい!千景―!要ー!」

「すみません、遅れちゃって」

「別に構わないが...何かあったのか?」

「それが、タマっち先輩が変な格好で行くって言うから。何とか説得して普通の服にしてもらってたらこんな時間に」

「変な服って言うな!アレは立派な変装だ!」

「ちなみに聞くが...どんな服だった?」

 

俺がそう聞くと杏は言うのを躊躇っていたが、タマが堂々と告げる

 

「ジャージにサングラスと帽子だ!」

 

どうやらタマの言う変装は若葉と同じような不審者スタイルだったらしい...それで行くのを止めてくれた杏には本当に感謝しかない

二人が来てから程なくしてまともな格好に着替えた若葉と友奈を連れたひなたが戻ってくる

 

「全員揃ったみたいですし、行きましょうか」

 

 

ひなたのその言葉を切っ掛けに全員で門の前から街へと繰り出す、平和な街並みを眺めたリ、茶屋で軽く食事を取ったりしたが思いのほか騒がれることもなく普通に歩き回ることが出来た

 

「意外と騒ぎになったりしないものだな」

「当然でしょう、悪いことをしているわけではないんですから」

「あはは、そうだね」

「それにしても...こうして平和な光景を見ていると、俺たちのやって来たことが無駄じゃなかったって感じるよ」

「...そうね」

 

一時サイクリングで街に繰り出したことはあるがその時は丸亀城の周辺かそこから少し離れた所にしか行ってなかったし、街の人達ともほとんど会うことはなかった。ここにきてから触れた勇者以外の人物は大社の職員か、千景の故郷にいた人達だけだ...本当に守る意味があるのかと思っていたがこうして平和な風景を見ると、やはり守ってよかったと感じる

 

「まるがめ婆裟羅まつり...」

「丸亀お城まつりと双璧をなす、市内最大の祭りだな。もうそんな時期か...」

「今年も盛大にやるみたいだね」

「それじゃあ、次の戦いを終わらせて絶対にみんなで行きましょう」

「そうだな!よしっ、目標が出来ては俄然やる気が出てきた!」

 

若葉たちがそんな事を話している中、無言で何かを考えていたひなたはガバっと顔を上げると目を輝かせ俺たちの方を見る

 

「浴衣を買いましょう!いやむしろ、今から着ましょう!」

「「なんで今すぐッ!?」」

「他意はありません!」

「嘘だ!!」

 

「なんかひなたの目の奥に煩悩が見えるのは俺だけか?」

「...奇遇ね、私にも見えるわ」

 

煩悩があふれ出し始めているひなたを説得している若葉と友奈の姿を見ていると、結局浴衣は祭りの時にしてその際に撮影会もすることに決まったらしい...まぁ俺は浴衣を持っていないから関係ないが

 

「要さんの分の浴衣は後ほど買いに行きましょう!」

 

前言撤回、俺も逃げられないらしい

 

 

 

 

 

 

それから色々と見て回った先で俺たちが辿り着いたのは丸亀道、何でも香川で有名な神社に繋がる道らしいが俺にはよく分からない

 

「金比羅宮かぁ...そういえば私、小さい時はよく神社に行ってたんだ」

「神社に?珍しいな」

「うん。金比羅宮みたいに大きいのじゃないけど」

 

道を歩きながら友奈が言った言葉を聞いたタマが話始める

 

「そういや、タマたち友奈のことあんまり聞いたことないな」

「そういえばそうですね...要さんの話は前に聞いたけど、友奈さんの話は聞いたことなかったかも」

「友奈はいつも自分より他人の事を優先して、話の聞き手に回ることばかりだからな」

「気遣い屋さんですからね、友奈さんは。素晴らしいことです。だから、みんなから好かれるんでしょうね」

「...そうね」

 

海が見える広場まで付いた友奈が俺たちの方を向くと言葉を紡ぐ

 

「ありがどう...でもね...本当はそんなに褒められることじゃないんだ。みんなの事を気にかけてるとか、気遣い屋さんとか言われてるけど...ただ嫌なだけ、気まずくなったり、誰かと言い争うのがつからいから...だから、相手の話を聞くばっかりで...自分を言い出せなくて」

 

そこで友奈は一度言葉を止めたが、改めて話し始める

 

「でもね、みんなには知ってほしいんだ...私のこと」

「あぁ、聞かせてくれ。友奈の事を」

「私達も、友奈さんの事をもっと知りたいです」

「どんなことが来てもタマたちがどーんと受け止めてやるから、心配すんな!」

 

「ありがとう」

 

友奈は深呼吸をすると自己紹介をするように話始める

 

 

 

 

 

私は高嶋友奈

奈良県出身で誕生日は一月十日、血液型はA型

趣味は武道で...あ、あと食べることも好きかな。

小さい頃はよく自然の中で遊んでて家の近くの神社のボランティアで掃除を手伝ったり、境内で遊んだりしてた...でも、偶に神主さんに見つかって怒られてたっけ。

でも、タマちゃんみたいにアウトドアが得意だったり、アンちゃんみたいに頭が良かったり、ぐんちゃんみたいにゲームが得意って訳でもなかったし。なんというか、すっごく普通だった。

だから勇者になった時は、どうして私なんだろう?って驚いたし、戦うのも怖かった。でも...家族とか友達を失うのは、もっと怖かった

 

 

「私、本当はね...怖いから戦ってる...臆病者なんだ」

 

友奈の話を聞き終えた俺は、彼女に対して自分の思ったままを伝えることにした

 

「友奈は臆病者なんかじゃない...大切な人を失うのが怖いのは当たり前だ」

「たとえ怖いから戦っていたとしても...高嶋さんは、勇気を振り絞って戦っている事を私達は知ってる...誰がなんと言おうと、高嶋さんは勇者よ」

「ぐんちゃん、要くん...」

「そんなこと言うならタマだって杏を失うのは怖いけど...失わないように守るって決めたからな!」

「私も、最初はすごく怖かったけど、みんなが一緒にいるからここまで戦って来れました」

 

「怖いから戦うのは悪いことじゃない...大切なのは、感じた恐怖から一歩踏み出す勇気だと思う。そして、ここにいる全員友奈がその勇気を持っているのを知っている、だから友奈は臆病者なんかじゃない」

 

「ありがとう...」

 

夕陽を背に俺たちの方を向いていた友奈は、晴れやかな笑みを俺たちに向けた

 

 

 

 

 

 

友奈の話を聞いた後、俺たちも色々な事を話していると、少しずつ日が暮れ始める

 

「こんなに話したの、生まれて始めてかも」

 

身体を伸ばしながら友奈がそう言うと同意するように若葉も話始める

 

「要の時にも思ったが、腹を割って話すというのは良いものだな」

「みなさんの事がもっと分かった気がします」

「なんか、より絆が深まったって気がするよな!」

「そうだね」

「もっといろいろ話したいけど、次はお祭りだぁ!」

「その前に、まずは敵の侵攻を食い止めないとだけどな」

 

俺がそう言うと一番前を歩いていた若葉が立ち止まると、俺たちの方を向いた

 

「みんな、絶対に勝とう...私たちのため、そして...これから先に続く未来の為に」

 

「あぁ」

「当たり前だ!」

「はい」

「うん」

「...えぇ」

 

「私も...皆さんが無事に帰ってくるのを、待っていますね」

「あぁ、絶対に生きて帰ってくる...私たち全員で」

 

 

 

 

 

 

 

翌日、バーテックスの侵攻が起きた

眼前にいる敵は無数の星屑と前に戦ったサソリと同じ大きさの巨大バーテックスが複数

 

無数の敵に対するは勇者が五人と擬きが一人

 

「みんな...行くぞ!」

 

若葉のその言葉と共に、最後の戦いが幕を開けた――

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