一話, 神世紀-298年
神世紀298年、初代勇者たちが守った時代の遥か未来
「護人...ですか」
「はい、貴方には勇者としての適性があることが判明しました。八重樫徹 様」
「なんなんですかその、護人って...」
「護人は勇者様と共に世界を守る人物の事です。この地に護人の適正者が現れたのは初代勇者様の現れた時代が最後...」
「それが...俺なんですか」
「その通りに御座います...八重樫様には、勇者様と共にお役目に付いて頂きたく」
「お役目?」
「はい、壁の外よりやってくる敵から、神樹様を守っていただきます」
勇者と共に、神樹様を守る...それが俺の使命
「わかりました。俺に出来る事があるなら...やります」
「感謝いたします、八重樫様」
こうして俺は、勇者と共に戦う者...護人に選ばれた
神樹館、今の俺が通っている学校の名前
「おはよーざいます」
「徹くん、朝野挨拶はしっかりと丁寧に...よ」
朝の挨拶をして席に着くと、一人の女の子が俺に話かけてくる。彼女の名前は鷲尾須美、いちおう幼馴染って事になるらしいがここ一、二年まともに会話してなかった所為で妙に実感が薄い
「悪かったよ、次からはちゃんとするから」
「いつもそう言って結局直さないでしょ、言葉の乱れも心の乱れよ。はい、もう一回」
「...おはようございます」
「よろしい、明日もちゃんとしないと駄目よ」
「相変わらず二人は仲良しだね~」
俺たちの様子を見て、そんなことを言ってきた少女の名前は乃木園子、見た目通りほんわかとした少女である
「いや、そこまで仲良くしてるつもりは...って寝てる!?」
ほんわかしている以上にこの、乃木園子という少女は時間さえあればいつでも寝ている少女でもある。すっかり見慣れた光景になっている朝の風景を見ていると朝の学活の時間になった
「はざーっすっ! ま、間に合った!」
「三ノ輪さん、間に合っていません」
朝の朝礼をする直前になって教室に入ってきた少女の名前は三ノ輪銀、三ノ輪が担任の先生に出席簿で軽く叩かれる。その後自分の席に着席した三ノ輪の周りがぱぁっと明るくなったのを見て、相変わらず三ノ輪はみんなに好かれているなぁなどと思っていると三ノ輪がカバンの中を漁っていた
「アウッ、まずい教科書忘れた」
「...本当に大丈夫なのか?」
どうやら教科書を忘れたらしい、ほんと何しに学校に来ているんだか...
「それでは、授業を始めます。皆さん教科書の14ページを...」
授業が始まろうとした瞬間、鈴の音と共に世界が止まった
「みんな?」
隣にい鷲尾は世界は何が起きたのか一瞬理解できていないようだったが、すぐに理解したように周りを見回す
「これは...まさか」
「あれ!? みんな止まっちゃったッ!?」
「あれ~?」
「みんな...動けるのか」
「徹くんも動けるのね」
「俺も一応適正はあるみたい」
俺たちが理解するのに時間はかからなかった。これが「お役目」なのだという事を
「”敵”が、来る――」
その声と共に俺たち四人は波のように押し寄せる光に飲み込まれた
「これが樹海化...」
「うーん、もはやどこがどこなのかさっぱり分からないね。全部木だ...。自分の家も分からない。鷲尾さん、イネスどこかな」
「こんな時にイネスの心配をしなくても...」
三ノ輪が心配していたイネスと言うのは、駅前にある巨大なショッピングモールの事だ。なんでも揃うと言われていて俺たちの家族もよく利用している
「でも、イネスがなくなったら大変でしょ? あそこの中、公民館まであるんだから」
「そう言われてみれば、確かになくなったら大変だよなぁ」
「でしょ! やっぱり八重樫くんは分かってるねぇ」
「大丈夫よ、敵を撃退したら、樹海化も、元に戻るんだから」
そんなことを話している俺と三ノ輪に対して、鷲尾は自分に言い聞かせるようにそう言っていた。その後樹海のとある方向を見る、あっちは確か鷲尾や俺の家がある方向だった筈だ
「あっ、あれが大橋かな」
「あちらとこちらをつなぐ橋...あそこから敵が渡ってくるのね」
「でも、大橋は完全に樹海化しきってないんだね~」
「本当だな、原型が残ってるのには何か理由でもあるのか?」
「でも分かりやすくていいよね。アタシ達のお役目は大橋を守るんだから、あそこに行けばいいわけで」
「神樹様の存在も、分かりやすいね~」
普段は目視することの出来ない神樹様は、樹海の奥地で大木となり神々しく輝いている
「じゃ、そろそろ」
「そうね...お役目を、果たしましょう!」
三ノ輪が携帯端末を取り出すと、俺達は頷きあい端末を操作する。操作の方法は訓練で身についている。鷲尾達三人は勇者アプリを、俺は護人アプリを起動させる。このアプリが神樹様を狙う外敵を討つための力
勇者三人はそれぞれ花を咲かせた
鷲尾須美は清楚の花を
乃木園子は優雅な花を
三ノ輪銀は情熱の花を
三者三葉の花を咲かせた勇者たちの隣で俺も護人の戦闘装束に姿が変わる。俺の姿は宮司を思わせる和装に胸当てと籠手、そして臑当てだ。戦闘装束に変わった俺たちは大橋まで一気に跳躍した
大橋の真ん中を陣取った俺たち四人は武器を構える、俺達の使うに武器は全員が違う。鷲尾の武器は弓で乃木の武器は槍、そして三ノ輪の武器は巨大な双斧。三人ですべての距離に対応できるバランスの取れたパーティになっている、三人の武器を確認した後、自分の武器を確認してみると俺の武器はチャクラム、投擲武器でありながら近接武器としても使えるもの。それが片手に一つずつ
「みんな、落ち着いて戦いましょう」
「そういう鷲尾も、あんま気負いすぎるなよ」
恐らく鷲尾は三ノ輪も乃木も危なっかしいと思っているようだが俺が一番危なっかしいと思っているの鷲尾だ、真面目気質の彼女はどうしても真剣に物事を考えすぎる、そんなことを考えていると俺たちの目の前に巨大な影が現れる
「あれが...バーテックス。向こう側から来る”敵”」
奴等は人を襲う、逆に人以外は襲わず通常兵器は効果が無い。そんなバーテックスに唯一対抗できるのは神の力を宿す勇者、そして護人のみ...そして奴らの最終目的は神樹様の破壊。奴らが神樹様に到達し、破壊された時人類は滅亡する
「よっし、ぶっ倒す!」
「...ちょっと!」
「あ、ミノさん。私も!」
「そんじゃ、俺も!」
「...もう! みんな待ちなさい!!」
三ノ輪が手に持った斧でバーテックスに一撃を与えるが、攻撃を受けた部分はすぐに再生し、元の状態に戻ってしまう
「浅かったッ!」
「ミノさん逃げて!!」
その言葉を聞いた三ノ輪は判断が一瞬遅れ、攻撃を受けそうになっていたが、乃木が槍の先に装着されていた傘のような部分を展開し攻撃を防ぐ
「園子!」
「ごめんミノさん...ちょっと持たないかも」
「えっ?」
その言葉と共に乃木と三ノ輪は吹き飛ばされる
「てめぇッ!」
俺はそのままバーテックスに近づこうとするが敵の放つ水の弾に阻まれ近づくことが出来ない
「近づけねぇッ!」
「なら、私が...」
その様子を見ていた鷲尾が矢を放つがその攻撃も水の弾に当たりバーテックスを届くことはなかった
「そんな...!」
「鷲尾! 前ッ!」
呆然としていた鷲尾にバーテックスの放った水の弾が向かっていく。俺も動こうとするが行く手を阻むように水の弾を撃ってくるバーテックスに苛ついていると水の弾は鷲尾の眼前まで迫っていた
「...ッ!」
「須美ぃ!」
当たりそうになった水の弾は何処からともなく放たれた赤い矢によって鷲尾の眼前で弾ける
「大丈夫かッ!」
「えぇ...でも、何が」
「大丈夫じゃないでしょ、頬に傷が...」
「これくらい大丈夫よ」
それでもさっきの一撃が効いたのか足が竦んでしまっている鷲尾に向かって放たれる攻撃をチャクラムで切り裂いていると三ノ輪がこっちにやってくる
「二人とも! だいじょう―もがッ!?」
「心配して来てくれたのは嬉しいけど、三ノ輪の方こそピンチになってないッ!?」
「ん...わーッ! ミノさんッ!?」
「もう、これ弾力がッ!」
「鬼さんこっちだ、手の鳴る方に攻撃を向けろぉ!」
鷲尾が三ノ輪の頭にある水の球を何とかしている間に俺は攻撃を全力でこっちに引き付ける
「マジか...」
攻撃を避けながら三ノ輪の方を見ていると水の球を飲み始めていた...アレ絶対体に悪いだろ
「はぁ...うぅ~...気持ち悪い」
「ま、まさか三ノ輪さん...自分を閉じ込めていた水を、全部飲んだの!?」
「身体に悪いんじゃないのか?」
「ミノさん、大丈夫?」
「うん、始めはサイダーだったけど、途中からウーロン茶的な味わいになったから、飽きずに飲めたわ」
「あ、味のレビューを聞いてるわけじゃなくて...でも無事でよかったぁ~」
「ってそうだ、バーテックスは!?」
「もうあんなところまで...急がないと!!」
バーテックスが想像以上に神樹様に近寄っていたのを確認する
「でも、どうやって止めるんだ?」
「私の矢じゃ傷つきもしないし...効きそうなのは三ノ輪さんか徹くんだけど」
「あの水が邪魔で近づけないもんな」
「そうだな、近づこうにも近づけない」
三人で頭を悩ませていると乃木が何かを思い出したような顔で俺たちの方を見る
「ぴっかーんと閃いた!」
乃木から聞いた作戦はシンプルなものだった、まず最初に乃木の槍に装着されている傘を盾替わりに使う、その次にバーテックスの気をこちらに向け全員でバーテックスの放つ攻撃を防ぐ、防ぎきったら今度はこっちのターンだ。攻撃が途切れた隙をついて俺と三ノ輪が突撃、バーテックスに大ダメージを与えるというものだった
「いくよ! 準備はいい?」
「えぇ、でも...本当にこれで上手くいくのかしら」
「きっと大丈夫だよ、さっきも一応受け止められたし。それに今度は三人なんだから」
「乃木さん...」
「それじゃあ...いくわよ!」
「「「おぉー!」」」
俺たち三人で槍の柄を持ち、鷲尾が弓矢を構えて...放つ
放たれた矢はバーテックスを砕き、注意をこちらに向けてくる
「こっちに気がついたよ...!」
「...来るぞ!」
四人で槍の柄を持ち、攻撃を受け止める...少しずつ押され始めるが全員で足を踏ん張り耐え続ける
「勇者は根性! 押し返せー!!」
三ノ輪の言葉を聞いた俺たちは気力を振り絞り耐え続けていると、攻撃が途絶える
「途切れた! 今!!」
「突撃-!」
その言葉を聞き、俺と三ノ輪の二人はバーテックスに突っ込む。バーテックスの方もそれを簡単に許してくれるわけはなく水の弾をこちらに撃ってくる
「あの水!」
「鷲尾さん!」
「任せて!」
鷲尾は二人の言葉に力強く頷くと、矢を放ち水の弾と相殺する
「「ナイス! 須美!」」
「いっけーミノさん! やえくん!」
「合わせられるか! 徹!」
「意地でも合わせるッ!」
「いいねぇ、好きだよそういう返事!!」
炎を纏った三ノ輪の双斧と風を纏った俺のチャクラム、両方が合わさり破壊力の上がった一撃をバーテックスに叩き込むとバーテックスは消え天から花びらが降ってくる
「これは...」
「始まったんだ、”鎮花の儀式”が...きれい」
「ん? 待って待って? ...てことは!」
「撃退...出来たってこと?」
「多分な...」
「「「やったぁー!」」」
三人が抱き合っているのを見ながら俺は、大の字に寝転がると花びらの降ってくる空を見る
「...つっかれたぁ」
「いやー! 正直怖かったけど、何とかなるもんだね!」
「え、ミノさんあれで怖がってたんだ? 実は私もドキドキだったよ~」
「私も...正直不安だった」
「徹は?」
「ん? ...あぁ、正直怖かった」
「まぁでも、勝てたんだからオッケー!」
はしゃいでいる二人と照れている一人を見ていると、樹海化が解けていった
ふと気配を感じた方を見ると、片手にボウガンを持った誰かがこちらを見て笑っている気がした
「あれが今代の勇者か...しっかり見守ってるから、頑張れよ」
遠目に三人の勇者と一人の護人の姿を眺める
あの日託されたバトンは、今も尚繋がりづづけている
「さぁて...帰って依頼片付けるかぁ」
樹海化が解けていく中で、俺は身体を解しながら踵を返した
戦いが終わった後、検査を受けた俺と鷲尾、乃木の三人は校門前まで並んで歩く
「ねぇ乃木さん、徹くん。よければ、その...今日は栄えある役目も果たせたことだし、祝勝会でもどうかしら...?」
「いいんじゃねぇか?」
「うんっ! いこういこう!」
鷲尾から出た言葉は何とも最近の若者らしからぬ言葉だったが、乃木は顔を輝かせて鷲尾の手を取る
「ありがとね私、今、シオスミを誘うぞ誘うぞと思って、でも中々言い出せなかったから...すごく嬉しいんだよ~」
「の、乃木さん...そうだったんだ」
「ちょっと待て乃木、俺は?」
「やえくんは呼べば来てくれそうだし~、まずはシオスミからかな~って」
「まぁそうだから否定はしない」
確かに否定は出来ない、その後も矢継ぎ早に今日の戦いの事をマシンガンのように鷲尾に話をしていたのを聞きながら、俺は歩いていると乃木は鷲尾だけじゃなく俺もぐいぐい引っ張ってくる
「よぅし! じゃあイネスのフードコートに行こうよ! もちろん次はミノさんもいれてね」
「フードコートはいいけど。乃木さん、シオスミだけはやめて欲しいかな...」
「えっ、じゃあねぇ...ワッシーナとか...アイドルっぽくない」
「えと、それもやめて...乃木さんも、ソノコリンとか、いやでしょ?」
「わぁ素敵」
「ごめんなさい、忘れて...」
「いいんじゃねぇか? ワッシーナ」
「徹くん?」
「オーケー、口を慎みます」
流石、鷲尾須美
若干圧を出すときの鷲尾は基本的に怖い、最近事務的な話ばっかりだったからすっかり忘れていた...我が幼馴染はおっかない
「何か変な事...考えてない?」
「滅相もございません」
「あっ、閃いた。ワッシー! どう?」
「うーん、変なのになるよりはいいかな」
「よろしくめ、ワッシー!」
「浸透速いな」
「おーい! お待たせ―!」
三人で歩いていると後ろから三ノ輪の声が聞こえてくる
「あれ、もう大丈夫なのか?」
「おう! 問題ないってさ!」
「よし、それじゃあみんなでイネスに...行こー!」
「おー!」
三人の少女と一人の少年...これから始まる戦いは厳しいものになる
これは神に見初められ少女と人として勇者を模した力を振るう少年...神に見初められるのが無垢なる少女のであるのなら。もしもそこに一滴の異物が入ったのなら、その結末はいったいどうなるのだろう...