不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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四話 投稿になります


四話, 合宿 ト 特別講師

 初夏の風が瀬戸内海から舞い込んでくる頃。俺達は学生らしく図書室で勉学に勤しんでいる。須美は銀に勉強を教えており、園子はいつものように寝ており、俺は適当に持ってきた本を読んでいる

 

「なぁ、勉強より先にイネス行かない? あそこのフードコートがアタシを読んでる」

「ダメよ銀」

「須美ってば取りつく島もないッショ」

「何それ新キャラ? ほら集中して銀」

「はいはい、鷲尾先生。分かりましたぁ」

 

 再び勉強を始める二人を見ながら本に目を落とし読むのを再開する

 

「寝てる園子は放置でいいンすか、鷲尾先生」

「彼女は、頭いいのよ...見えないけど」

「少し酷いな、気持ちは分かるけど」

 

「おのれ天才少女め...耳元で害虫の名前をひたすら囁いてナイトメアを見せてくれようか、いひひ」

「よくそんな鬼のような発想が出来るわね。自分がされたらどう思うの」

「アタシ大丈夫だもん、Gとか」

「やるじゃない...なら徹くんは?」

「俺も基本的に大丈夫だな、不意打ちはNoだが」

「そういう須美はどう? G」

「...どうしてウィルスで絶滅してくれなかったのか...恨むばかりね」

「お、苦手なんだ。やだー可愛いー」

「話を逸らそうとしても駄目よ銀。さぁ歴史の勉強に戻りましょう、この四国を覆う壁はどうして存在するの?」

「アタシだってそこまでウマシカじゃないよ、神樹様が四国にいる人間を結界で守ってくださっているんだ」

「そうね。外の世界で蔓延している死のウィルスがら神樹様が護ってくださっている」

 

 この調子で須美と銀の歴史の授業が続いているのを見ながら、俺は本のページをめくる。適当に手に取った小説が恋愛小説だったため何となく読んでいるがこれが中々に面白い。たまには読まないジャンルに手を出してみるのも良いかも知れない

 それからしばらく勉強会を続けているとあっと言う間に訓練の時間になった。丁度園子も目を覚まし大赦の訓練場に移動しようかと思った所で担任の先生が俺達の元にやって来た

 

「そろそろ移動時間...って、分かってるみたいね。それじゃあ訓練所に行きましょうか」

「「「「はい先生。よろしくお願いします」」」」

 

 俺達四人が挨拶をして先生が車を発進させようとしたところで何かを思い出したように、先生が俺に声をかけ、全員が車に乗り込むと先生は車を発進させる。訓練所に到着するまでの間、クラスの友達についての話をしていると、また先生が話かけてくる

 

「あなた達、いつの間にかすっかり仲良しね」

「そうですか?」

「えぇ、私から見てもすっかり仲良しよ...そうだ、一応便宜上隊長を決めておかなくちゃいけないの。乃木さん、隊長頼めるかしら?」

 

「え、わ、私...ですか~」

 

 園子は少し驚いたような表情をすると、須美の方を見る。須美も驚いているようだったが何かを察した後、すぐ先生の言葉に返事をした

 

「そのっち、私もその意見賛成よ」

「アタシじゃなければどっちでもいいよ」

「俺も、園子で良いと思う」

「みんな...わ、私にできるかな~」

「で、隊長を決めたあなた達に通達。さらに連携を深める為に、今度の三連休、大赦が運営している旅館で合宿をしてもらいます」

「効率的に鍛えられますね、助かります」

「合宿...うわぁお泊り会だ~やった!」

「そりゃ楽しみだ、いよいよ夏だし。なんかワクワクしてきた!」

「合宿か...確かに楽しみだ」

 

「それと、連携を深める以外にも個人の技量を上げる為に特別講師の人にも来てもらうことになったの」

「特別講師...ですか?」

「えぇ、勇者についても知っているし、腕も私が保証する...きっとあなた達の糧になると思うわ」

 

 先生はそういい終わると再び運転に戻る。それにしても須美と銀たちの間で妙に温度差があるというか...ほんと何なんだろうな、この嚙み合ってるのに微妙に噛み合ってない感じ

 

 

 

 

 

 それから時は進み合宿の日、バスの中で俺達三人は銀の事を待っているが中々来ない

 

「遅いわね、銀」

「いつもみたいにトラブルに巻き込まれてるんだと思うが」

「大丈夫かしら...」

 

「や、悪い悪い! 遅くなっちゃって」

「銀! 大丈夫! 何か深刻なトラブルに巻き込まれたとかじゃない?」

「大丈夫、心配ないよ」

 

 銀はそう言うとバスの席に座るとバスは発進する

 

「あれ、先生、特別講師の人って」

「彼は現地で合流することになっているの」

「彼ってことは...男の人、ですか?」

「確かに男だけど、心配ないわ。あの人は少し変わってるから」

 

 先生のその話を聞くと、須美は少しだけ肩を撫でおろした

 それからバスに揺られること数十分、海岸に到着した俺達を待っていたのは大学生くらいに見える男の人だった

 

「この人が特別講師の不知火要さんです」

「「「「よろしくお願いします」」」」

「おう、よろしくな...それにしても、今代の勇者はこの子たちか、神樹も残酷なことをしやがんな」

「え?」

「いや、何でもねぇ...それで、俺は今日何をすればいいんだ」

「そうですね...とりあえず一度彼女たちの事を見て貰えませんか?」

「それはアレか? 俺がこの子らの相手をすりゃ良いって事か」

「はい、頼めますか?」

「それくらいならお安い御用だな。時間もねぇしとっととやるぞ」

 

 不知火先生のその言葉を聞いた須美が困惑したように言う

 

「戦うって...勇者の状態でですか?」

「当たり前だろ、そうじゃねぇとお前らの技量わかんねぇし」

「その...大丈夫なんですか?」

 

 心配そうに聞く須美の様子を見た不知火先生は少し何かを考えると理解したようにポンと手を叩く

 

「心配は無用、これでも荒事には慣れてるからな未熟者四人くらいなんてこたぁねぇよ」

 

 その言葉を聞いた須美は少しむっとした表情をし、銀も俄然やる気になったという風である、園子は相も変わらずで俺もさっきの言葉には少々むっと来た、これでもバーテックスを二度も退けているのだ、何も知らない人にそう言われるのは心外である

 

 

 

 

 

「よし、そんじゃ普段通りにかかってこい」

 

 そういう不知火先生は動きやすいジャージのズボンに半袖、手に持っているのは練習用の槍、対するこちらが勇者服と万全の体勢だ

 

「最初はどうする?」

「いつも通り前衛はアタシと徹、中衛は園子で後衛は須美でいいだろ...それじゃ行くぞ!」

「ちょっと、銀!」

「俺もお先に!」

「徹くんも!」

 

 俺と銀の二人で突っ込み左右から攻撃を仕掛けようとした瞬間、腹にバカみたいな衝撃が入り吹き飛ばされる

 

「徹!」

「バーテックスならこんなことねぇが俺は人間だ、周りを見て臨機応変に」

 

 その言葉と共に銀の持っていた斧を槍で弾くと、柄で銀の事も吹き飛ばした

 

「猪突猛進なのは嫌いじゃない、鍛え甲斐があるねぇ...それで残りの二人は?」

 

「私がいくよ~」

「よっしゃ。全力で来い」

「お手柔らかにお願いしま~す」

 

 そう言うと園子は不知火先生と打ち合いを始めるが、ぱっと見た感じ園子が押しているようにも見えるが不知火先生が焦っている様子はなかった

 

「こっちの手にも警戒してるし槍捌きも上手い...流石若葉の子孫」

「え~?」

「なんでもねぇよ、はいっ、終わり」

 

 そう言うと不知火先生は園子の槍に自分の槍を交差させ上に弾くと、頭に手を置いた

 

「負けちゃった~」

 

「最後はそこの子か、遠慮せずに撃ってこい」

「...行きます」

 

 俺達の様子を見ていた須美も覚悟を決めたようで数本の矢を射ると、不知火先生に向かって放つ

 

「狙いは良いけど、集中力が足りてねぇな」

 

 須美の放った槍を簡単に弾いた先生はゆっくりとした足取りで須美の方に近寄っていく。矢を弾かれたのに少し驚いた須美だったが気を取り直し再び弓を放つが、そのことごとくを不知火先生に弾かれる

 

「素養はあるけどちょっとしたことで、取り乱しそうになるのはダメだな」

 

 そう言うと不知火先生は槍の柄で軽く須美の頭を叩く

 それで模擬戦が終わったことを確認した先生は、俺達四人と不知火先生を入口に呼び戻す

 

「それで、どうでしたか?」

「全員素養はマル、だけど安芸ちゃんの言う通り致命的に連携が出来てねぇな。この状態で個人の強化なんざしちまった日にゃスタンドプレイが横行して全員レッドカードだ」

「...相変わらずわかりづらい言い方をしますね、あと安芸ちゃんはやめてください」

「悪かった、まぁわかりやすくに言うと連携を鍛えるが吉、個人の上達はその後しっかりと。以上」

「それじゃあ、本来の予定で?」

「そうだな、予定通り連携強化の特訓で良いだろ」

 

 その言葉を聞いた先生は俺達を改めて浜辺に集めると、本来予定していたであろう特訓を始めた。不知火先生はというとそんな俺達の様子を懐かしいものでも見るように眺めていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿初日の夜、安芸ちゃんに呼ばれ今代の勇者の訓練に一枚嚙むことになった俺は、合宿所の廊下から静かな海を眺めていた

 

「何か考え事ですか?」

「ん? あぁ...安芸ちゃんか」

「だから、安芸ちゃんはやめてください。子供たちの前だと教師としての威厳が...」

「んなもん必要ねぇだろ、あの子らは安芸ちゃんの事好きみたいだし、安芸ちゃんもあの子らの事大切に思ってんだろ?」

「大切に思ってるのは当たり前じゃないですか」

「ならそれでいいだろ、威厳なんざかなぐり捨ててあの子らの事大切にしてやんな」

 

 俺がそう言うと安芸ちゃんは、呆れたような表情を浮かべた後軽い笑みを浮かべる

 

「...要さんのそういう所、初めて会った時から変わってない」

「そりゃそうだ、かれこれ三百年くらい前からこんな感じだからな」

「いつも言ってるけど、それ本当なの?」

「あの子らくらいの頃からの付き合いなんだし、それは安芸ちゃんが一番分かってんじゃねぇの?」

「頭では分かってても...やっぱり納得いかないの」

「まぁそりゃそうか...本当だよ、何なら見るか? お前のご先祖が写ってる写真」

 

 安芸ちゃんのご先祖、安芸真鈴とはタマと杏を通して知り合った。あいつら程付き合いが長かったわけじゃねぇが酒飲み友達みたいな間柄だったし、何かと愚痴に付き合うことも多かった

 

「それは何回も見せてもらったから大丈夫よ...それより、もしもの時は」

「もしもは何回も聞いたよ、それに知ってんだろ? おれifってのが好きじゃねぇんだ。精神年齢200も超えちまうとifなんて考えるのが馬鹿らしくなるからな」

「なら――」

「だから安心して待ってろ、俺が居る内は安芸ちゃんの教え子はぜってぇ死なせねぇからよ」

 

 静止した世界の中、俺はそう言って安芸ちゃんの頭に軽く手を置くと、迫りくる光の奔流を睨みつけた

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