不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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秋原雪花の章、投稿になります


‐北海ノ勇者-

「うー寒い寒い。あの日以来、気候おかしいよ」

 

 雪の降る山の中、勇者 秋原雪花は一人穴を掘っていた

 

「ん? 天からの影響と味方してくれるカムイの影響がぶつかりあって旭川周辺こんな感じ? 分かってるって。何度も説明うけたもん。よっ、ほっ…今日の作業はこんな所ですかにゃ」

「おーい、雪花。今日の見回り終わったぞ」

「おっ、お疲れ要。どうだった?」

 

 俺は近くに狐のゆるキャラみたいなのを浮かせている雪花に近づき話しかけると、彼女は今日の様子を聞いてくる

 

「あいも変わらずだな、どいつもこいつも俺らを引き入れたいってのが透けて見えてくる」

「そっかぁ、まぁそこらへんは仕方ないか…山の洞窟も、かなりの広さになったかなー。どうよ、私たちの隠れ家」

「いい感じなんじゃねぇの? まぁ俺は使わなくても死にゃしねぇけどな」

 

 俺がそう言うと雪花は若干呆れたように俺の方を見てくる

 

「なんだよ」

「いんや、相変わらず捻てるなって」

「うっせぇな、何年の付き合いだと思ってんだ。今さら取り繕う必要もねぇだろ」

「それもそうだ」

 

 俺は雪花の掘った洞窟の中を見ながら、話しかける

 

「それにしても、わざわざこんなの作る必要あるか?」

「天から来る奴等は特定の神社もしくは人の居る地域を優先的に狙う傾向があるからね。それなら雪山で一人地下に思い切り潜ってしまえば見つかることなんてないのでは?」

「どうかねぇ、戦ってんのは神様かなんかだろ? 世界を好き勝手出来る奴等がそんな簡単な事見落とすかねぇ」

「そうやって物事を後ろ向きに考えるのはいけないと思うぞぉ...私はもうちょい作業しておこうかね。深ければ深いほど生存率あがるもん」

「それなら、俺も手伝う…雀の涙ほどだが役には立つだろ?」

「勇者の力でバリバリ掘るからほんとに雀の涙だけどね、ぶっちゃけ必要ないくらい?」

「人が善意で言ってんのを一刀両断すんじゃねぇよクソ眼鏡」

「はいはい、ごめんごめん」

 

 軽口を叩きながらこうして二人で作業をする。誰かの為じゃなく自分たちが生きる為に動き続ける。それが俺たちの日常だ

 

 

「…! 要、敵が来る」

「了解、そんじゃいっちょ行きますか」

「オッケー! やる事はきっちりやるよ!」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁあ、また化け物だぁぁ!!」

 

 旭川周辺に現れた化物どもを俺と雪花の二人でぶった切っていく

 

「大丈夫! 勇者が来ました! まったく漁帰りの人達を狙うとは」

「人の心もクソもねぇ…って化け物に言っても仕方ねぇか。間違ってぶった切られたくなかったらさっさと逃げろ!」

 

 自分の血液を変化させた刀を使い化け物をぶった切りながら腰を抜かしている人を無理やり立たせると、そう言い捨てて化け物どもの相手に集中する

 

「お、おぉぉ。次から次へと串刺しに。相変わらず勇者様の槍は神業だ。」

「あの従者様も、化け物どもを一刀両断にしている」

 

「さっさと逃げろっつってんだろ! それが出来ねぇなら隠れてやがれ! 気が散るんだよッ!」

 

 俺がそういうとこちらを見ていた住人達は建物の中に隠れる

 

「要、相変わらず当たりキツイねぇ」

「自分らが死にそうなのにお気楽に物見遊山としゃれこんでる奴等にキツく当たんなって方が無理だろ」

「別に物見遊山はしてないと思うけど…っ! 呼び出し!? 別方向からもきたのか!?」

「こっちは俺に任せてお前はそっちに行け、雑魚くらい一人で何とかなる」

「…わかった」

 

 雪花を一人で行かせると俺は残った化け物どもの方を向く

 

「さぁて化け物ども…俺一人で悪いが楽しく遊ぼうぜ」

 

 

 

 

 化け物どもを相手し終えた俺が一人で雪山に戻ると、既に雪花が戻ってきていた

 

「早かったな、そんなに楽勝だったのか?」

「いなかったよ、見間違いだったみたい」

「そうか…やっぱみんな精神的にガタついてんのかもな」

「仕方ないとは思うけどね」

「そうは言ってるが、雪花は雪花でうんざりしてんだろ?」

「…やっぱりわかるんだ」

「お前が外面取り繕うの得意なのは知ってるが、クソほど付き合い長くなったし嫌でも分かる」

「そっかぁ…それにしても、精霊もこれくらい手伝ってくれればいいのに」

「言ってやんな…ほれ、油揚げだ」

 

 貰ってきた油揚げを狐みたいなゆるキャラの前に差し出すと、そいつはもしゃもしゃと食べ始めた

 

「それにしても、この精霊ってのは何なのかね」

「味方してくれてるカムイの遣いらしいけど…ん? この洞窟を他の人にも教えてあげたらどうかって?」

「狐さんか?」

「うん。そう言ってきてるけど、それじゃ人の気配が増えて天からきた奴等に見つかるかもでしょ?」

「そうだな」

「精霊さん精霊さん。私は勇者やってるけどか弱い人間でもありまして。生き延びるのに必死なわけですよ、それが悪いこととは思わないね」

「そうだな、それに…全員で地下に潜った所でリソースがなくなって全員ポックリだ。分かるかい? 狐さん」

 

「そ、頑張れるだけは頑張るけど。いざとなれば私たちはここに逃げる! でしょ、要?」

「…あぁ、そうだな」

 

 それが俺たちにとっては最善の策であることは分かってる、だが妙に釈然としないのはなんでだろうな

 

 

 その日の夜、俺が雪花パトロールと称して街を歩いていると民家の中から話し声が聞こえてきた

 

『会議も三時間を超えましたが...どうしましょうか?』

『続けるべきだ。とにかく何か突破口を見出さねば全員死んでしまうぞ』

『及川さん。そういう周囲が不安になる言動は慎んでいただかないと』

 

「…結論の出ない会議を続けるのは仕方ない。話していないと不安だって言うのは分かる」

「だが、どいつもこいつも出てくるのは結局自分の保身話だけ……だろ?」

「そっ、そりゃ私たちも独自で保身しますわ」

「例えばどんなだ?」

 

 俺の話しに相槌を打った雪花に対してそう言うと、少し笑いながら彼女は答える

 

「夜の見回りとか、勇者になれば聴力も増す。お偉いさんのいる家の外で聞き耳立てれば中での声が聞こえてくる…要もそうでしょ?」

「俺は聴力が増してるわけじゃない、持ってる力を使って一時的に聴力を強化してるだけだ」

 

 俺がやってるのは純粋な強化じゃない、自身の能力を使って無理やり火事場の馬鹿力を使えるようにしてるだけだ

 

『やはり大型の船に乗り込み本土に向かうしかないでしょう。勇者様に護衛して頂き』

『中な。カムイの庇護下だから生活できるというのに。勇者様は今まで通りここで皆を…』

『なんとかしてカムイの力を高めることはできないものか。カムイにおくりものが必要であるのならいつでも出すのだがな。生贄を』

『生贄ならばただ死ぬよりも有益な死というものだろう。今度試してみないか』

 

「腹に一物抱えてても表向きには全員協力的…だがそろそろダメになって来てるかもな」

「そうかもね……寒いなぁ、ほんと」

 

「そろそろ行こう、もっと冷え込みそうだしな」

「俺が温めてやるとか、気の利いた事言えないもんかねぇ

「黙ってろ」

 

 

 

 

 

 

 

「うぁぁぁ助けとくれぇぇ!!」

「はいな! 今助けますよ!! 要は向こうよろしく!」

「委細承知!」

 

 住民の声を聴いた俺たちはいつものように、化け物退治にいそしんでいた。それにしても、少しずつ数が多くなってきてるな

 

「よし、全滅ね? はーっ…ミッションコンプ。さ、さらにキツくなってきた…要、そっちは?」

「誰に聞いてる? まだまだ余裕に決まってんだろ」

「…肩で息してる人の言葉には見えないけど」

「うるせぇ」

 

 

「勇者様、従者様、お疲れ様です」

「はいです。犠牲者はなかったようですね。良かった良かった」

「ですが救出手順を間違えてもらっては困ります。優先されるべきは指導者たる私の安全」

「勇者として目の前で襲われた人を見殺しにはできませんよ」

「子供を助けるのならばまだ分かるのです、後の戦力でもあるのだから…が、はっきり言って老人は足手まといです」

 

 及川と呼ばれていた男の言葉に、その場にいた全員は愕然とする

 

「勇者様。いらない人間は捨てる勇気を。この地域が生き残るためにも」

「はっ! それなら真っ先にテメェが犠牲になったらどうだい?」

「ちょ、要…」

 

 雪花に対して流石の俺も我慢の限界だった

 

「なんだと?」

「聞こえませんでしたかい、いやぁ失礼。他所より自分の保身を前面に出してるクソは死ねって言ってんだよ」

「貴様…勇者様の従者だからと言って偉そうにッ!」

「戦う力もないのに威張ってる奴ほど偉そうにしてるつもりはねぇよ」

 

 そう言うと俺は及川の首に刀を突き付ける

 

「それとも…今この場でテメェの首落として化け物への手土産にしてやろうか? …って化け物もテメェみたいなゴミ渡されても食わねぇか」

「…要、その辺にして」

「ッチ……わぁったよ」

 

 そう言うと刀を引っ込めて俺はそそくさその場を後にした

 

 

 

 それから俺たち二人で街の見回りを続けていると一人の女の子が雪花に近寄ってきた

 

「おばあちゃんを助けてくれてありがとう、勇者様! 従者様!」

「ん、良かったね無事で。そっちこそ偉いね、元気で」

「勇者様がいてくれるから!」

「…そっか」

「良かったじゃねぇかよ、勇者様?」

「もちろん従者様も一緒!」

「…そりゃどうも」

「あれ? 要ってばもしかして照れてる?」

「うっせ」

 

 

 

 

 見回りから戻った俺たちは洞窟内の快適化に努めていた

 

「ハンモックを設置してみたりして。うん。快適な避難場所になってきたね」

「ちょっとした秘密基地だな」

「どう? ワクワクしてくる?」

「ワクワクしてくる」

 

 二人でいつも通り軽口を叩きあっていると、雪花は急に黙る

 

「どうかしたか?」

「…ねぇ、要」

 

 いつもより真剣な声を聴き、俺は雪花の方を向く

 

「要はさ、本州に行くべきだと思う?」

「は?」

 

 雪花の発した唐突な言葉に、俺の思考は一瞬止まる

 

「及川さんも、いよいよだし。このままだと要は何かしらの理由を付けて追い出されることになる…もしかしたら生贄にされるかも」

「それがどうした、別にアイツ一人くらいなら叩き切れる」

「要には無理でしょ」

「なに?」

「だって…要は凄い優しいじゃん、私と違ってさ」

「そんな事」

「あるよ、要って口は悪いけど結局自分より誰かの為に動くことの方が多いし、自分の事ばっかりな私とは大違い」

「それは聞き捨てならねぇよ、雪花だって頑張ってんだろ、不器用なだけで」

「そんな事…ッ! また敵!」

「話は後だ、行くぞ」

「しゃあないか、もうちょい頑張りますよ! 出撃!」

 

 

 市街地までやって来た俺たちはいつも通り化け物どもをぶった切っていく、雪花の方を見ると彼女も槍を使って着実に敵の数を減らしていた

 

「うん? あぁ敵がこっちに来た!! 勇者様! 何をしているのですか! こちらに敵が来ております!」

「手が離せないんです! すぐに行きますから頑張って!」

「しゃあない、俺は行ってくる」

「…任せた!」

 

 例え気に食わない奴でも人に変わりない、俺は及川の方に向かっていた化け物をぶった切ると声をかける

 

「指揮官づらしてねぇでさっさと逃げやがれ…って待てッ! そっちは!」

 

 俺の言葉を聞いたアイツは礼の一つも言わずに逃げたのを確認して敵に向き合おうとするが、アイツの逃げた方が問題だった。アイツが逃げたのはまだ化け物がいるか確認できていない場所、慌てて向かうが俺が辿り着くよりも速く現れた化け物にアイツは食われる

 

「クッソがぁぁぁッ!」

 

 口を人の血で濡らした化け物に向かった俺は、激情のままに周りにいた奴らを殲滅する

 

 

 

「おぉ助かりました、勇者様! 従者様!」

 

 市街地の化け物を殲滅した俺たちは、そのまま住宅街の化け物もすべて倒し終えると、住人の一人が俺たちに感謝の言葉を述べてくる

 

「でも…及川さん…間に合わなかった。すみません力不足で。」

「いや、あの人を助けられなかったのは俺だ…もう少し周りを見えていれば」

 

「いえ、勝手に一人で動き回っていた及川さんに非があるのです」

 

 

 

 

 洞窟内に戻った俺たちは改めて雪花と話をする

 

「雪花…あの話の続きだ、どうして本州に行った方が良いなんて言った?」

「何度も言ってるでしょ、要は優しすぎるんだよ。及川さんの一件だって気に食わないのに割り切って…助けられなかったら責任感じて」

「それは雪花も一緒だろ」

「違うよ、似てても違う…きっと要はこの場所にいたら、いずれ壊れる」

 

 壊れる? 俺が? 

 

「要はこれからも私たちじゃ守り切れないものもある…要はそれを全部背負って潰れちゃう気がする。だから私なんかよりも本州に向かって信頼できる仲間を作った方が良いんだよ」

「お前…ふざけんなよ! 背負うとか背負わねぇとか関係ねぇ! 仮に背負ってても俺が勝手に背負ってるだけだ!」

「ほら、そういうとこ。いっつも自分が自分がって...それに正直、私は要のそういう所が嫌い」

「なに?」

「昔っから、自分の為じゃなくて誰かの為に頑張ってるところが。私は大嫌い」

「…そうかよ」

「うん。だからさ、もういいんだよ…こんな場所捨てても」

 

 雪花の言葉を聞くがどうにも納得いかない、彼女は彼女で結局俺の事言えないじゃねぇか

 

「なら、お前はどうすんだよ」

「私はほら、ほどほどに頑張ってダメになったら見捨てて一人でここに隠れるだけだよ」

「できねぇだろ…お前の大嫌いなバカと同じように、随分お人好しみたいだからな」

「なにそれ、どういう意味」

「そのまんまの意味だよ…お前はお前で一人勝手に抱え込もうとしやがって。結局似たモノ同士なんだよ、俺らは」

「要と似たモノ同士ってすんごい癪に障るんですけど」

「…まぁいいや、お前がそこまで言うなら本州だろうと何処だろうと行ってやるよ。もうここには戻ってこねぇ」

「そうしろそうしろ、クソガキ」

「うっせェクソ眼鏡…じゃあな」

「…あぁここも一人になって清々する! 広く使えるし!」

 

 もう知ったこっちゃねぇ。この話はいつまで経っても終わりそうにない...それなら俺が折れてこっちも勝手にさせてもらう、本州にでもなんでも行かせて貰う

 

「…ねぇ、要」

「んだよ」

 

 そそくさと洞窟から出ていこうとする俺を雪花が呼び止める、こうして話をするのも最後かも知れないし聞くだけ聞いておこう

 

「こんな事言うのほんとは凄い嫌なんだけどさ…」

「……」

 

「お願い、私の事…忘れないでね」

 

「忘れねぇよ、忘れられるわけねぇだろ」

 

「そっか、じゃあね」

「あぁ、生きてたらまたいつか」

 

 

 

 

 そう言って俺はまとめた荷物を持って洞窟から出ていき、本州に渡った

 ここからの話は知っているだろう、本州に渡った俺は四国の壁についての情報を知る…そして大阪の惨状を目の当たりにした後、四国でかけがえのない仲間たちと出会う

 喧嘩別れとあいつらに言ったが、少し違うな……言葉が足りなくて俺は大切な言葉を伝え忘れただけだ。けれどその言葉は今は取っておくことにする。いつか世界を取り戻した時にでも伝えにいくから、何はともあれこれで俺の…俺と雪花の話は終わりだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪の降る崩れた街並みで、私は一人化け物どもを倒し終える

 襲来する化け物の数は日に日に増えて行っていい加減諦めても良いかと思うときもあったけど、結局化け物退治に赴く毎日

 

「要…私たちが似たもの同士っての、間違ってなかったみたい」

 

 廃墟に腰をかけて一人黄昏ていると、あの時助けた女の子がこっちに向かってきた

 

「どうかしたの?」

「うん! 勇者様! これ!」

 

 私に差し出してきたのは一枚の絵、お世辞にもうまいとは言えなかったけど、何が描いてあるのか分かる。女の子とおばあちゃんと私...そして要の四人

 

「そういえば勇者様、従者様は何処にいったの?」

「うん? 要はね...もっと大勢の人を助けに行ったんだ」

「そっかぁ…もう会えないの?」

「ううん…きっと会えるよ。だって……要は私にとっての勇者様だから」

「そっか!」

「よし! 勇者秋原雪花、もうひと踏ん張り頑張りましょうかね!」

 

 女の子をおばあちゃんの所まで送った私は、頬を叩いて気合いを入れ直す

 本当にギリギリになったら諦めるけど、もう少しだけ頑張ってみる…だから要も頑張れ、雪の降るこの場所で私は応援してるから

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