不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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九話、投稿になります

【お知らせ】
活動報告にこの世界における勇者システムについてと護人システムについての軽い解説を載せておきました


九話, 信じてみよう

 目を覚ました俺がの目に入ったのは真っ白な天井、少しぼやけている意識の中、ここが何処なのかを探る為に身体を起こそうとするが、上手く力を入れることが出来ない。

 

「徹くんッ! 目が覚めたの!?」

 

 天上を見ていると須美の声が聞こえてくる、顔を動かして声のした方を見ると少し涙目の須美がこっちに駆け寄ってくるのが見える

 

「...こ...こは?」

「病院よ、本当に良かった...、目が覚めて」

「そうだ...銀は?」

「大丈夫、銀も生きてるわ」

「良かった...」

 

 銀が生きている事にひとまず安心すると、少しずつ意識がはっきりとしてきた。はっきりとした頭であの戦いの事を思い出していくと、意識を失う瞬間の事を思い出した...あの時、俺が最後に聞いた声は不知火先生の声だ

 

「なぁ、須美...俺たちが意識を失った後。誰がバーテックスを撃退したんだ?」

「それは...」

「その事は俺が直接話す」

「...不知火先生」

 

 声の聞こえてきた方向に視線を向けると、花束を持った不知火先生が立っていた

 

「花瓶に水を入れてくるから少し待ってろ」

 

 俺が不知火先生に質問をする前に、先生は花瓶を持って病室を出ていってしまう。不知火先生が花瓶に水をいれに言っている間、須美にいくつか質問をしてみることにする

 

「そういえば、園子は?」

「そのっちは銀のところにいるわ、安芸先生も一緒」

「...銀も、意識は戻ったのか?」

「えぇ、傷の具合は徹くんより酷かったけど...元気は有り余ってるみたい」

 

 そうか、銀も生きてるんだな...本当に良かった。それから他愛のないことを話していると、花瓶に花を生けた不知火先生が戻ってきた。先生は備え付けの箪笥の上に花瓶を置くと、須美の隣に椅子を持ってきて腰をかける

 

「とりあえず、無事でよかった」

「...俺もそう思います」

「それじゃ、何から話していくか」

「...答えてくれるんですか?」

「あぁ...と言っても答えられる範囲で、だけどな」

 

 答えられる範囲というのは少し引っかかるけど、とりあえず聞きたいことは一つだ

 

「俺達が意識を失った後、先生が助けてくれたんですか?」

「あぁ、俺が助けた」

「やっぱりそうだったんですね...でも、どうして先生は樹海の中に?」

「具体的には言えないが、特異体質みたいなもんだ」

「特異体質...」

 

 特異体質...それなら不知火先生は今まで樹海の中は居れていたって事になるんじゃないか? 

 

「なら、俺達の今までの戦いも見てたんですか?」

「見てたよ...見てて本当にヤバいと思ったら手助けするつもりだった」

 

 見守られてたんだ...俺達

 

「こんなもんで良いか?」

「はい...本当にありがとうございます、助けてくれて」

「気にすんな、こっちも頼まれてたからな」

「私からもありがとうございます。不知火先生」

「気にすんなって言ってんだろ? それじゃ、俺はこの後予定があるからもう行く。しっかり体を休めろよ」

 

 そう言うと不知火先生は病室から出ていく。少し話しただけなのに、妙に疲れた気がする

 

「ごめん須美、少し疲れたからもう一回寝る」

「わかったわ、おやすみなさい...徹くん」

 

 須美のその言葉を聞くと、俺は目を閉じて意識を手放した

 

 

 

 

 

「さてと、行くか」

 

 八重樫の病室から出た俺は、携帯の画面を見た後...病院の入口に向かって歩き出す

 

「あれ~、不知火先生だ~」

「不知火先生も八重樫君のお見舞いですか?」

「乃木に安芸ちゃんか。俺は見舞いの帰りだよ」

「安芸ちゃんはやめてください」

 

 声のした方を見て、そこにいたのは安芸ちゃんと乃木の二人、乃木の手には果物の入った籠を持っているという事は、これから八重樫の所に向かうんだろう

 

「もう少し話たいところだが、これから用事があるから俺はもう帰らないといけないんだ」

「そんなに急ぎの用なんですか?」

「あぁ...まぁ、ちょっとな」

 

 少し言葉を濁していると、乃木は俺の方をじっと見てくる

 

「どうかしたのか?」

「不知火先生、何か隠しごとしてる?」

「...別にしてないと思うが」

「そうかな~?」

「そうだよ...それじゃあな」

 

 これ以上深堀される前にそそくさと二人の前から退散する。今回の用事は隠す程のものでもないがそれでもいうのは何か違う気がする、病院から出た俺がそのまま向かう場所は大赦本部...勇者システムの開発部門だ

 

 

 

 大赦本部までやって来た俺は、入館カードを受付で見せそのまま開発室に向かい。扉を叩く

 

「どうぞ」

「邪魔するぞ」

「ようこそお越しくださいました、不知火さん」

 

 俺の事を出迎えたのは勇者システムの開発主任である男...名前は"伊予島冬馬"

 

「それで、頼んどいた件...どうなった?」

「バリアの方はほとんど完成です、精霊を介して神樹様の力をお借りする事で勇者たちを保護するための障壁を張る...って形ですけどね」

「最後の一歩はやっぱり神樹か」

「えぇ、そもそも西暦の勇者システムから根本には神樹様の力が関わっていますからね」

「そりゃそうか...まぁ神樹の力と言えど勇者を護れるなら妥協するしかないか?」

「我々開発室一同これからも改良は続けていくつもりですけどね」

 

 そこらへんはここの技術力を信じるしかないか...それで、問題はもう一つの方だ

 

「それでもう一つ...”満開”はどうなった」

「そっちは手詰まり...今のままだとどうしても勇者様たちは代償を払うことになります」

「...なら、実装は無理か」

「そうですね、いくら世界を守る為とは言え年端もいかない少女に犠牲を強いるのは...システムの改良はこっちでも進めてみます」

「頼んだ」

 

 満開システム。若葉たちの使っていた切り札をベースに独自の進化を遂げた勇者達の新たな切り札。だがプロトタイプは使用者の事が考慮されていないのではと思うほど負担が酷く。一応完成したものも一度使用すると代償として身体機能のいずれかを神樹に供物として差し出す...強力な力を使い大輪の花を咲かせ、いずれ花は散る。こんなものを勇者たちに使わせる訳にはいかない

 

「...すみません不知火さん、少し席を外します」

「あぁ、こっちが急に来たんだ。俺の事は気にしなくていい」

 

 冬馬が席を外している間に改めて、目の前に置かれているバリアと満開システムの資料について目を通す。やはり人間の力だけで開発されていたプロトタイプよりも機能も安定性もしっかりしているが、それはあくまでバリアの話。満開はデメリットをどうにかしないと使い物にならないと考えた方が良いだろう

 

「戻ったのか...って、どうかしたのか?」

 

 改善策を考えていると暗い顔の冬馬が戻ってくる、話しかけた俺に冬馬が言ってきたのは予想する事態の中で最悪のものだった

 

「勇者システムのアップデートが決まりました...内容は、機能改修及び精霊バリアと満開の導入」

「...本気で言ってるのか?」

「...はい、この前の戦いで二人の重傷者を出してしまった事で、今まで楽観視していた上層部も事の重要性に気づいてしまった見たいです」

「マジかよ...」

 

 こんなことがあるのか、勇者たちが根性を見せた結果。最も実現してほしくなかった結果に繋がるなんて...今回ばかりは流石の俺もこれ以上の不干渉を貫くわけにはいかなくなった

 

「何処に行くつもりですか?」

「決まってるだろ、殴ってでも上層部の意見を変えさせる」

「...無駄です、現在の上層部は神樹様の事を狂信的に信仰している人がほとんど...認識が変わったとしても満開の後遺症で神樹様に身体を奉げた勇者の事を神聖なものとして扱いかねない程に狂った人たちの集まりです」

「なら...このまま黙って従えって言うのかッ!! 何も知らないあの子たちが神なんかの供物になるのを見逃せって言うのかッ!! 俺はそんな事を許容するために今日まで戦ってきたんじゃねぇッ!!」

 

 頭に血が上った俺はそのまま、冬馬の胸ぐらを掴み壁に叩きつける

 

「落ち着いてください」

「落ち着けるわけねぇだろッ!」

「貴方が冷静さを失ってどうするんですかッ!」

 

 そう言われた俺は、冬馬の事を離すと少しずつ熱くなっていた頭が冷えていくのを感じる

 

「...すまねぇ」

「いえ、僕も頭に血が上りそうだったので...不知火さんがキレてくれて少し助かりました」

「それで、どうするんだよ...下手に上層部の要求を突っぱねるとお前の首も飛ぶだろ」

 

 冬馬は手を顎に当てて考えると、俺の方を向く

 

「不知火さん、上里さんから依頼を受けてますね」

「あぁ、もしもの時はあの子たちの事を助けてやってくれってな」

「その時に不知火さんは依頼に条件を付けた...それもあってますか?」

「あってるが、なんで知ってんだ?」

「上里家とは先祖からの付き合いですから、ご当主とも懇意にしてます...そこは置いといて、話の続きです」

「あぁ」

「貴方が言った条件の中にある”勇者様たちの意思を尊重する”という条件、今使わせてもらえませんか?」

「どういうことだ」

 

 冬馬は尚も俺の方を真っすぐ見て言葉を続ける

 

「勇者様たちに精霊バリア、そして満開システムのデメリットを伝えてあげてください...そして彼女たちの出した結論を私達は尊重するんです」

「...もし、彼女たちがデメリットを知って尚、満開を使うと言ったら」

「その時は、私も覚悟を決めます。満開システムを実装したうえで改良を続ける。使わないと言ったら満開システムのデータを削除して大赦とはおさらばですね」

 

 満開を使って欲しくない...それは俺のエゴでしかない。もしかしたら俺が思っている以上に彼女たちが強くなっている可能性もある、だが

 

「不知火さん、あの子たちの選択を信じてみませんか? ...立場は違えど、勇者を支える者として」

「...そうだな、信じてみるか」

 

 そうだな、信じてみよう...彼女たちの選択を、たとえそれがどんな結末になろうとも――

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