目を覚まし、一番最初に映ったのは真っ白な天井
「ここは...?」
「目が覚めましたか」
「はい...えっと、貴方は」
「挨拶がまだでしたね。私は三好春信...大赦から派遣されてここに来ました」
「大赦...そうだ、戦いは!」
「戦いは君たちの勝利で終わりました...ですが」
「ですが...なんですか?」
「被害を抑えきることは...」
「そう...ですか」
試合に勝って勝負に負けた...とでも言えばいいんだろうか。左腕も動かず、俺は視界の半分が漆黒に染まっている
「起きたばかりでしょうが、今日は休んだ方がいい」
「...わかりました」
三好さんが出て行ったあと、俺は再び眠りに落ちる
目を覚ましてみると、時の進みは速いもので既に二週間の時が流れた。退院できるのはまだまだ先の用でまずはこの体になれる所から始めていかないといけないと診察してくれた先生が教えてくれた
いつものように視力の検査を終えた俺が病室に向かって歩いていると、右側に衝撃が走った
「あの...大丈夫ですか?」
「こっちこそすみません、俺...右目が見えてないんです」
「そうなんですか?」
「はい、そういえば君...名前は?」
「私は...東郷、美森」
「東郷さん...か、俺は八重樫徹ね、よろしく」
「よろしくお願いします」
東郷美森さん...なんだろう、どこか懐かしい気がする
「どうかしたんですか?」
「いや、なんか懐かしい気がしてさ」
「懐かしい?」
「えっと...よく分かんないけど...昔の知り合いに似てる、気がする」
「ふふっ、なにそれ」
「あぁ...気にしないで、単なる気の所為だと思う」
「そうかしら...私もそんな気がする」
どうやら東郷さんも似たような感じだったらしい
「でも、俺達って今日初めて会ったんだよな」
「そうね...今日が初めて」
東郷さんも言っている通り、俺達が会ったのは今日が初めてのはずだ...そんなことを考えていると、壁にかけてあった時計が目に入る
「あっ、ごめん...俺、そろそろ病室に戻らないと」
「そうなの、ごめんなさい...引き留めちゃって」
「いや、先にぶつかったのは俺のほうだし...機会があったら絶対に埋め合わせするから」
東郷さんにそう言うと、改めて病室に向けて歩き始めた...ほんとにどうしてあんな風に感じたんだろうな。東郷さんみたいな知り合いは”いなかった”筈なんだけどな
大赦によって瀬戸大橋跡地の合戦と命名された戦いの後...俺は一人で大赦本部にやって来ていた。俺がここにやって来たのはあの戦いの後に回収した勇者システムと護人システムを返却するためだ
本来ならこのシステムを返却するのは本人でなければならないが、三ノ輪は未だ意識が戻らず八重樫と鷲尾...いや、東郷の二人は記憶を失っている。勇者として戦ったすべての記憶を失うか、大切な仲間たちに関する記憶だけを失うかの違いはあれど、それでも今のままだと返すものも返せないだろう...そして乃木は、大赦によって祀られている
あの戦いの後、満開の代償によって戦闘不能になった三人の代わりに乃木は最後まで戦い続けた。世界の真実を知っても尚、大切な友達を守るために
「乃木以外の勇者システムと八重樫の護人システム、持ってきたぞ」
「ありがとうございます、不知火さん」
開発室に着いた俺は冬馬に三人分の端末を渡す
「すまなかったな、結局俺一人じゃ何もできなかった」
「俺は勇者たちの戦いがどういう感じなのかわかりませんから、叱咤も慰めもできませんよ」
「分かってる、ただ誰でもいいから謝りたかっただけだ」
「そうですよね...それじゃ、行きましょうか」
「行くって、あそこか」
「えぇ、他はみんな集まってますからね」
そう言うとシステムをアタッシュケースの中にしまった冬馬と共に開発室を出て次の目的地まで歩き始める、飽きるほど長い廊下を歩き豪華な扉の前までやってくると、冬馬は躊躇いなくその扉を開ける
「お待たせしました」
扉を開けると部屋の中にいたのはひよりに安芸ちゃん、そして春信の三人だ
「いえ、我々が早く来てしまっていただけですから」
春信のその声を聴きながら俺達二人も席に座ると、真剣な様子のひよりが話を始める
「今回はお集まりいただき、ありがとうございます」
「...集まったのは、何か大赦側に動きがあったって事で良いんだよな」
「はい、今回の戦いの後...神樹様により神託を受けました」
「いったいどのような神託が下ったのですか?」
「今回の戦いで天の神側は痛手を受けました。しばらくは襲ってくる心配はありませんが一年後、二年後に再び神樹様を狙って攻めてくると言われています」
「...それが切っ掛けで大赦内部も本格的に動きを始めると」
「その通りです、伊予島さん。先の戦闘のデータを」
「分かりました」
冬馬は一緒に端末と一緒に持ってきたノートパソコンを操作して画面にバーテックスの情報を表示する
「伊予島さんに表示してもらったデータを見た大赦は、バーテックスを撃退ではなく撃滅させる方法を見つけたんです」
「あの巨大なバーテックスの真ん中に露出してた部分か」
殆ど役に立たなかったあの戦闘で意識を失った三ノ輪の事を介抱しながら、攻撃をされた巨大バーテックス...獅子座と呼称されている個体の中央部にある別のナニカを確かに確認した
「やはり要さんにも見えていたんですね...その通り、大赦はあれをバーテックスの心臓部を”御魂”と名付け、その部分を中心にバーテックスを構成していることが判明したんです」
「その部分を破壊すればバーテックスは撃滅できる...大赦はそう考えた。上里様、ここからは私が」
「お願いします、三好さん」
そう言うと今度はひよりに変わって春信が話を始める
「バーテックス関係は今回の問題ではありません...問題は、大赦上層部が精霊バリアと満開の搭載された勇者システムを有用と判断してしまった事です」
その言葉を聞いた瞬間、今まで黙っていた安芸ちゃんが口を開いた
「先輩、それってあの子達の戦いを見たうえで判断したってことですか、あの結果を!?」
「...安芸の言う通り、あの子達の戦いを見たうえで大赦上層部は判断した。俺も上里様の補佐として会議に出席したが、反対するよりも有用だと考える人の方が圧倒的に多かった」
「そんな...」
満開システムを有用と考える...神樹を崇拝する者達にとって、満開を使えば使うほど、勇者の身体は奉げられ神性は増していく。おそらく上層部の連中はそう考えているのだろう
「俺と冬馬もここに呼ばれたってことは、話はここからが本番なんだろ?」
「その通りです、勇者システムに関して大赦は御魂を破壊できるように細かいチューンをしていく方針でまとまっているが...問題はシステムよりも勇者そのもの」
ここまで言われてようやく呼ばれた理由を理解することが出来た...四人中二人が戦闘不能になった以上、今戦えるのは二人になるがその二人も記憶を失った状態だ
「「圧倒的に勇者の母数が少ない」」
俺と春信の声が被る、やはりそうだったらしい
「不知火さんと声が被りましたが、言葉の通り...大赦が課題として挙げたのは勇者の不足。そして四国全土で少女たちの身体検査を行うことになりました」
「三好、それは勇者適正を計測する為で間違いないよな」
「それで間違いないよ、冬馬」
春信がそこまで話すと、改めてひよりが立ち上がる
「三好さんに話してもらったのはここまでの話...私達がこれから話すのは、これからの話です」
そこから俺たちが話した内容は、勇者システムについて...そして勇者たちをどうやってサポートしていくか、結論として出されたのは上層部には秘密として満開システムにはリミッターを付ける事。勇者が安易な気持ちで満開を使用しないよう、勇者の想いに呼応し満開を発動できるようにする事...もう一つは満開システムの後遺症を勇者に選ばれた子達に前もって教える事...これは他と比べると自由に動くことの出来る俺が行うことになった
そしてこの場で話し合ったことは大赦の上層部には極秘で行う事になる...まぁ最悪の場合俺が一人で責任を取るつもりだが、それは話さなくても別にいいだろう
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長い入院生活も終わり、家に帰ると両親から引っ越しをすることを伝えられた
「引っ越すって、何処に?」
「讃州市よ、お仕事の都合でそっちに映らないといけなくなったの」
成る程、それで引っ越さないといけなくなったのか...そこからはあれよあれよとことは進み二週間ほどで讃州市への引っ越しが完了した。新しい場所の空気も同じ四国だけあってうまいなぁ
そこから両親に言って家の周りを歩いていると、一軒の巨大な武家屋敷? みたいな家を見つけた
「でっかい家だなぁ...」
「あら、八重樫くん?」
「えっ、あぁ、東郷さん...どうしてここに?」
「どうしてって、私の家がここだからよ」
「ここが東郷さんの家!? もしかして東郷さんって結構なお嬢様だったりする?」
「私は一般家庭の筈なんだけど...」
二人でそんなことを話していると隣の家から一人の少女が出てきた
「東郷さん! ...と、誰?」
「友奈ちゃん」
「えっと、初めまして。俺は八重樫徹っていいます」
「結城友奈です! よろしくね!」
結城友奈...凄いフレンドリーな子だなぁ
「徹くんは...あっ、徹くんって呼んでいい?」
「大丈夫」
「良かった、じゃあ改めて。徹くんはどうしてここに?」
「実は今日讃州に引っ越してきたんだ」
「そうなんだ! 家はこの辺」
「一本先の通りだよ」
俺は一本先の通りを指さしながら、質問に答える
「そっか、それじゃあこれからよろしくね! 徹くん!」
「あぁ...よろしく、結城さん。それに東郷さんも」
「えぇ、これからよろしくね、八重樫くん」
俺は右手を差し出して、二人と握手をする。結城に続いて統合と握手をした瞬間、入院した時から止まっていた時間が動き出した......そんな気がした