不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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前々から書きたいなと思っていたのでゆっくり書いていきたいと思います。
誤字脱字等がありましたが、ご報告いただけると有難いです。


西暦-乃木若葉は勇者である-
1話-出会い-


 今俺の眼前にあるのは、四国とそれ以外の地域を隔てる壁

 どうしてここにいるのか、何を目的でここに来たのか

 

「とりあえず、登るか」

 

 何故か分からないがこの壁を登らないといけない気がする

 そんな思いで壁を登り始めてから数時間、壁の頂上に辿り着いた俺が見たのは少し離れた所にある街の風景、それを見ると自然と笑みがこぼれたがここで一つ問題があることに気付く

 

「ここまで来たがどうやって降りよう」

 

 そう、登るのに数時間かかったこの壁からどうやって降りるかである、登るときはそこらへんにある廃材を利用して壁まで辿り着いたが今は周りを見ても何処にも足場として使えそうな廃材はなさそうだ.こうなった場合の対処法は一つ、覚悟を決めるしかない

 

「泳ぐか」

 

 覚悟を決めた俺は、壁から海に向かって飛び降りた

 

 

 

 

 

 

「無事勝てて良かったな! 杏!」

「そうだね、タマっち先輩」

 

 タマ達勇者がバーテックスに初勝利を収めてから数日が経った頃、タマと杏は二人で買い物が終わって帰り道を歩いていた。

 

「それにしても、どこもかしこも勇者フィーバーだな」

「嬉しいけど、流石に少し疲れるね...ってタマっち先輩! あれ!」

 

 二人で話してると杏が急に海の方を指さすからそっちを見ると、浜辺に人間が打ち上げられているのが見える。

 

「おいお前! 大丈夫か!?」

 

 タマがそいつに近づいて声をかけると疲弊しきった声でそいつは言った。

 

「流石に遠泳は...疲れた」

 

 わけの分からないタマと遅れてきた杏を置き去りにして、そいつは寝息を立て始める

 

「流石にこのままにしておく訳にはいかないよな?」

「そうだね...とりあえず、大社に連絡した方がいい気がする」

 

 杏が大社に連絡をしている間に、タマはこいつを仰向けにする.それにしても

 

「それにしても、なんでこんなにボロボロなんだ?」

 

 

 

 

 目を覚まして最初に目に入ったのは、真っ白な天井だった。若干ぼやけている頭を少し働かせると、とりあえずここが病院であることは理解できた。

 

「...ここ、何処だ?」

「おっ、目が覚めたんだな」

 

 俺が体を起こすと、近くに座っていたらしい少女が俺に声をかけてきた。

 

「浜辺に打ち上げられてたお前を、タマと杏が助けたんだ」

「そうだったのか、ありがとう」

「おう! もっとタマ達に感謝しタマえ!っと、そういえば自己紹介がまだだったな、タマの名前は土居球子って言うんだ! タマでいいぞ!」

「タマ...よろしく頼む」

「おう! それで、お前の名前は何て言うんだ?」

「俺の名前は」

 

 自分の名前を思い出そうとしているだけなのに記憶に靄がかかったような感覚に陥る、濃い霧のかかった道を歩いているような感覚だ。

 

「どうしたんだ?」

 

 言葉に詰まっているのに違和感を覚えたのか、タマが聞いてくる。

 

「いや、すまない。今思い出すから少し待ってくれ」

 

 誤魔化そうとも考えたが下手に誤魔化すのも失礼だと思い、正直に言うとすぐに名前を思い出すことが出来た。

 

「思い出した...俺の名前は不知火要、よろしく頼む」

「不知火だな! こっちこそよろしくな!」

 

 それからしばらくタマと話をしていると、病室のドアが開き医者と一緒にもう一人の少女が入ってくる。

 

「目が覚めたんですね、良かった」

「おぉ! 杏! 戻って来たんだな!」

 

 タマがその少女の事を杏と呼んだことで、彼女が俺の事を助けてくれたもう一人の人物であることを理解する。

 

「疲れている所申し訳ないが、体の検査をしたいから一緒に来てもらえるかな」

 

 入口の所で話していたタマと杏のことを見ていると、杏と一緒にいた医者が俺に話かけてきた、個人的には体の不調などはないが浜辺に打ち上げられていた人間を検査するのは当然かと思い、返事をする。

 

「わかりました」

「それじゃあ私に付いてきてくれ、車椅子等は必要かい?」

「大丈夫です」

 

 そのような事を話した後、医者の後ろを歩いて検査室まで向かおうとすると何故か二人もついてきていた。

 

「どうしてお前らもついてくるんだ?」

「そりゃ、タマたちが助けたんだから、助けた人の状態くらい知っときたいのさ」

「タマっち先輩の言った通り、貴方の身体が健康なのかどうかわかれば、私達も安心できるので」

「そうか」

 

 二人の問いかけにそう答えると、杏はハッとしたように俺の方を見る

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね、私は伊予島杏って言います」

「不知火要だ、失礼を承知で聞くが呼び方は杏で大丈夫か?」

「大丈夫です、私の方も要さんって呼ぶので」

「わかった」

 

 

 それから俺は体や頭の検査を終え、タマと杏の二人も一緒に今の俺の状態についてを聞いた。

 

「不知火君の身体には特に目立った外傷等はなかったよ、健康そのものだが大事を取って今日一日は検査入院と言う形になるけど、構わないかな?」

 

「構いません」

 

「それでだ、問題なのは身体じゃなくてこっちの方だね」

 

 そういいながら医者は自分の頭を指で軽く叩いた

 

「頭、ですか?」

 

「あぁ、君が検査を受けてる最中に土居さんから聞いたが自分の名前を名乗るのに時間がかかっていたそうじゃないか?」

 

「......えぇ」

 

 俺の方をじっと見つめながら医者は更に言葉を続けた。

 

「あくまでこれは私の推測になるのだが、君は浜辺に打ち上げられるまでの記憶を思い出せないのではないかい?」

「それって」

「記憶喪失ってことか!?」

 

 俺の後ろで話を聞いていた二人がそう言うと、医者は首を縦に振る

 

「仮に記憶喪失だったら、頭部に外傷はなかったから精神的なストレスによるだと思うが.不知火君、君は何処まで自分の事を思い出せる?」

 

 医者にそう言われた俺は、自分の記憶を探り始めると自分の名前、年齢、そして壁に辿り着いた直後の記憶以外をはっきりと思い出すことが出来ない

 

「自分の名前と年齢、他は思い出せないです」

「この症状に関しては思い出せるかは本人次第だから焦っても仕方ない、検査で疲れただろうから今日はもう休むと良い」

「わかりました」

 

 医者にそう言われた俺が、診察室を出て病室に戻るとタマと杏が俺の事を追いかけてくる

 

「ちょっと待てよ不知火!」

「どうかしたのか? 記憶以外は特に問題ないってわかっただろう」

「いやそうじゃないだろ! 本当に大丈夫なのか!?」

「そうですよ、記憶喪失って」

「......確かに帰る場所が分からないのは不便だが記憶がなくなったくらいで死ぬわけじゃないだろう」

 

 記憶がないと言っても、名前と年齢がわかれば後はどうにでもなる、住む場所が無くても死ぬわけじゃない

 

「その考えは少しおかしい気が」

「そうか?」

「そうだ! .よし! 不知火の事はタマ達が何とかしてやる!」

「どうにかできるのか?」

「おう! なんたってタマ達は勇者だからな!」

「勇者...ッ!」

 

 勇者と言う言葉を聞いた瞬間、頭の片隅がズキリと痛んだ

 そんな俺の様子を見ていたらしい杏が俺に声をかけてくる

 

「大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫」

「そうですか...タマっち先輩、要さんも疲れてるみたいだし今日はもう帰ろ?」

「そうだな、不知火! 明日も来るから楽しみにしてろよ!」

 

 そういってタマと杏の二人は俺に手を振って帰っていく、手を振り返して二人を見送った病室に戻りベットの上に寝転がり目を閉じる

 

 

 

 

 

 深い霧の中で俺は目を覚ますと同時にこれが夢なのだと自覚する

 自分以外何も見えない霧の中を歩き続けていると、目の前に何かが刺さっている

 刺さっている何かを掴むと、掴んだものが刺さっていた部分のみ霧が晴れていく

 

 その部分の霧が完全に晴れ、俺の目に映ったのは血に濡れた一本の槍だった。

 これは、と思った瞬間俺の意識は何かに引っ張られるように遠のいていく

 

 

 

 

 目を覚まして目に入ったのは血濡れの槍等ではなく真っ白な天井

 そのことがさっきの出来事が夢であることを、更に教えてくれた

 意識が少しずつ鮮明になっていくのと同時、昨日眠った時との違いを俺に教えてくれた

 

「静かすぎる」

 

 静かすぎるんだ、人の話し声も鳥の囀りも、風の音さえも一切聞こえない

 まるで時間が止まったように世界から音が消えている

 余りの出来事に呆然としていた俺は、それよりも異常な出来事に気付くのが遅れた

 

「光が──」

 

 その声と共に俺は光に飲み込まれた

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