「何これ、何処ここ。私まだ居眠り中!?」
「教室にいた筈なのに...」
「知らない場所...いや、俺はここを...」
知っている、そう口にな出そうとしたが言葉にすることが出来なかった。いや、正確にはこの場所を知っているという確証を得ることが出来なかったという方が正しい
俺の記憶は所々抜け落ちている、それだけじゃない。俺の身体が不自由になる前のすべてと目を覚ました直後の記憶が白いインクをぶちまけたみたいに思い出すことが出来ない
「大丈夫だよ、東郷さんには私も徹くんも付いてるから!」
「そうだな、ここに俺達がいる。だから大丈夫だと思う」
「...友奈ちゃん、徹くん」
「とりあえずここに居ても仕方ない、他の人が居ないか探してみよう」
俺がそういってからすぐ、近くの木々が揺れ、音が聞こえる。そっちに目を向けるとスマホを手に持った風先輩と樹ちゃんが出てくる
「みんな!」
「風先輩! 樹ちゃん!」
「よかった...! みんな携帯を手放していたら見つけられなかった」
樹ちゃんと一緒に友奈に抱きしめられた風先輩はそう言うと、友奈は少し戸惑ったように声をかける
「携帯?」
「これ...地図?」
「このアプリにこんな機能があったんですか」
「その隠し機能はこの事態に陥った時に自動的に機能するようになっているの」
「部に入った時に風先輩がダウンロードしろって言われたやつですよね」
確かにこのアプリは入部した時にダウンロードしろと言われたものだ。それにこの隠し機能を知っているという事は風先輩この場所について知っていたという事になる、そんな風に考えていたのは東郷も同じだったらしい
「...風先輩、何か知ってるんですか...ここは一体、何処なんですか?」
「......」
「詳しいことは、俺が説明する」
「...師匠?」
東郷の言葉を聞き黙ってしまった風先輩とは別の方から声が聞こえてくる、俺にとって聞き馴染んだ声。声のした方向を向くと歩いてきたのは俺の師匠、不知火要さんだ
「あの人は?」
「えっと、あの人は俺の師匠の不知火要さん...でも、師匠はなんでここに?」
「そういう体質だから今は気にすんな、それで詳しい話だが」
「不知火さん! ...ここは。私から話します」
「...そうか、ならお前に任せる」
師匠の話を遮った風先輩は改めて俺達に話を始める
「みんな、落ち着いて聞いて...私は、大赦から派遣された人間なんだ」
「大赦って、神樹様を奉っている所ですよね? ...なにか特別なお役目なんですか?」
「樹ちゃんは知ってたの?」
「ううん、今...はじめて」
「...当たらなければ、ずっと黙っているつもりだった...でも、私達の班が、讃州中学勇者部が当たりだった」
「あの、班とか当たりとか一体...」
「詳しいことはまた後で...今見えてるこの世界は、神樹様が作った結界の中」
「やあ、悪い所じゃないんですよね?」
「えぇ...でも神樹様に選ばれた私達はこの中で敵と戦わなければならない」
そう言うと、風先輩は一度言葉を止めて深呼吸をすると再び話し始めた
「この世界には今、私達しか存在しない」
「他に誰もいないの? お姉ちゃん」
「えぇ、今この世界に存在するのは私達だけよ」
「...あの、この乙女型って点は何ですか?」
その言葉を聞いた俺もスマホを見ると確かに乙女型という点が追加されている
「来たわね...」
風先輩の見ている先、その上空にソレは居た...人智では理解することの出来ない異形の怪物
「敵ってまさか...アレ、ですか?」
「バーテックス、世界を殺すために攻めてくる人類の敵よ...」
「世界を殺すって...」
「お姉ちゃん、ずっと一緒だったのにそんなの今まで聞いたことないよ...?」
「今、初めて話したからね...」
実際に見てるから信じられているがいつもの日常の中でこんな事言われても信じられなかったと思う
「バーテックスの目的はこの世界の恵みである神樹様に辿り着くこと、そうなった時...世界が死ぬ」
「そんな、あんなのと戦えるわけが...」
東郷の気持ちは確かに分かるが、それでも俺の頭の中はビックリするほど冷静だった。あの怪物を倒さないと世界が死ぬのならば...やる事は一つだけだ
「大赦の調査で私たちが最も適正があると判断されたんだ。戦う意思を示せばこのアプリの機能がアンロックされ神樹様の勇者となる...まぁ、徹は少し違うけどね」
「俺は少し違う?」
「えぇ、勇者は本来無垢な少女だけが選ばれる筈のものなの...だから徹は例外ってこと」
「なるほど...」
「みんな! 何か来る!」
その言葉でバーテックスがこっちに何か射出してくるのが見えた。俺達の方に向かってきた何かは俺達の元に来る直前で師匠が全部弾き飛ばした
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます」
「友奈、ここは私達に任せて東郷を連れて逃げて、早く!」
「は...はい!」
「樹と徹も一緒に行って!」
「だめ、お姉ちゃんを残して行けない! ...ついていくよ、何があっても」
「俺も...覚悟は決まってます」
俺と樹ちゃんの二人は風先輩の方を真っすぐ見る
「...どうしたらいいの?」
「樹、徹も...私に続いて!」
「う...うん!」
「はい!」
風先輩に続いてスマホをタッチすると俺たちの服が制服から勇者の物と思われる服に変化し、手にはそれぞれ武器を持っている
「すごい、変身しちゃった!? これが神樹様の守り?」
「そう、このアプリは選ばれた私達だけが起動させる事が出来る」
「なんか...凄い落ち着く」
そんなことを言っている俺達の周りにゆるキャラみたいなのが出てくる、風先輩と樹ちゃんにはそれぞれ一匹ずつ。そして俺の周りには五匹
「...なんか、俺だけ多くないですか?」
「それはなんでか分からないけど...とにかくこの子たちは世界を守ってきた力・精霊。神樹様の導きで私たちに力を貸してくれるの」
「精霊...」
「よし、戦い方はアプリが教えてくれる。徹も樹も一緒に行くよ!」
「ちょっ、先輩!?」
「わーっ! 待ってお姉ちゃん!」
「師匠も一緒に!」
「あぁ...つっても、色々と制限はあるがな」
そう言うと師匠も俺達と一緒にバーテックスの元に向かう
バーテックスに接近すると相手もこっちに気付いたようでこちらに攻撃を仕掛けてくる
「八重樫、いつもやっているように動いてみろ」
「はい!」
手に持った蛇腹剣をいつものように動かしてバーテックスの放ってくる攻撃を切り刻む
「いつもより動ける」
「八重樫先輩、すごい」
「後輩にばっかり、いいところ持ってかれていかれる訳にはいかないわよね!」
風先輩は手に持った大剣を使ってバーテックスに直接ダメージを与える
「気を付けろ、バーテックスの再生能力は並のそれじゃない!」
師匠はそういいながらバーテックスの放っている弾のようなものを手に持ったボウガンで撃ち落としていく
「弾の処理はこっちに...ッ!?」
師匠が何か言おうとした瞬間、師匠は膝をついた
「師匠!?」
「大丈夫だッ! お前は目の前の敵に集中しろ!」
そう言うと師匠は膝をついたままボウガンを構え、尚も射出される弾を撃ち落としていくが何発かの弾を撃ちもらしている
「しまったッ!」
撃ちもらした弾はそのまま樹海の方へと向かい土煙を巻き起こす、そしてその土煙の中から現れたのは勇者服を纏った友奈だった。高く飛びあがった友奈はそのままバーテックスに拳を叩き込んで大ダメージを与えた
「...すげぇな、やっぱり」
「え?」
「友奈さん、すごいパンチ! カッコいいです!」
「何だか力がみなぎってきたんだ!」
「警戒しろ! その程度の傷なら奴はすぐに直す!」
「バーテックスは「封印の儀式」っていう特別な手順を踏まないと絶対に倒せないの」
「て...手順って、お姉ちゃ...きゃ」
「説明するから攻撃を避けながら聞いてね」
「師匠...」
「俺は良い、お前も行け」
「でも...」
「いいから、さっさと行って華々しい初陣を飾ってこい。話はそれからしてやる」
師匠の言葉を聞いて俺も風先輩に合流をすると、風先輩が手順の説明を聞いた後。それを実行するために動き始める
「封印の手順そのいち、敵を囲む...風先輩、配置オーケーです!」
友奈と樹の二人も同様に位置に着くと、風先輩が声をかけてくる
「よしっ、封印の儀いくわよ! 教えた通りにね」
「「「了解!」」」
スマホの画面を開くと、そこに表示されていたのは祝詞...結構まどろっこしいな、これとか思いながら祝詞を唱えていくと風先輩が声を張り上げる
「大人しくしろ、こんにゃろ―ッ!!」
「「「それでいいのッ!?」」」
「魂込めれば言葉は問わないのよ!」
「早く言ってよ、お姉ちゃあん」
それでいいならもう少し早く言って欲しかった...って
「なんか出てきた!?」
「封印すれば御魂がむきだしになる、あれはいわば心臓、破壊すれなこっちの勝ち...もう少しよ!」
「それなら私が行きます!」
友奈はそういいながら御魂に突っ込んでパンチをするが砕ける様子はない
「固すぎるよこれぇ!」
「...お姉ちゃん、なんか数字減ってるんだけど、これなに?」
「それ、私達のパワー残量! 零になるとコイツ押さえつけられなくなって倒せなくなるの」
「ふぇぇ、ということは」
「こいつが神樹様に辿り着きすべてが終わる」
「そういうのもうちょっと早く言ってくれませんか!?」
俺の言葉を無視した風先輩はそのまま御魂の元まで飛び上がると御魂に一撃を叩き込んだ。それと同時に俺達は周りに異常が起き始めていることに気付いた
「これは...」
「...枯れてる?」
「はじまった、急がないと...! 長い間封印してると樹海が枯れて現実世界に悪い影響が出るの」
「時間がない...」
そう呟いた友奈は、何かを決意した表情で御魂にもう一撃拳を叩き込むと、御魂は砂になり消えていく
「砂になってる...」
「風先輩、あれってもしかして」
「察しの通りよ! 友奈ぁぁぁぁぁぁ! やったね友奈! ナイス友奈!」
「え? え??」
「倒したって事」
「倒した...? や、やったぁ!」
「そうよ、すごいよ友奈!」
そんなことを言っていると、俺達は再び光に包まれ気が付くと学校の屋上に戻って来ていた