師匠から話があると言われた日の次の日、俺達は全員勇者部部室に集まって師匠の事を待っていた
「遅いですね...師匠」
「何時くらいに来るって聞いてないの?」
「部活が始まる時間にはいくって聞いてたんですけど」
そんなことを話し始めるのと同じタイミングで、部室のドアが開く
「すまない、待たせた」
「師匠...何かあったんですか?」
「連れが今日持ってきたもんの調節をさっきまでやっててな、それで少し遅れた」
「連れ...?」
そう言うと師匠の後ろからもう一人男性が入ってきた、優しそうな雰囲気の白衣を着た男性は師匠の横に来ると軽く頭を下げてきた
「勇者の皆様、お初にお目にかかります。私は伊予島冬馬、勇者システムの開発主任をしています」
「勇者システムの...開発主任」
「詳しい話はひとまず後にして、とりあえず話を始めよう...どっかの黒板借りられるか?」
そう言った師匠たちを俺は普段会議で使ってる黒板まで案内する
「ありがとな、それじゃ冬馬、準備は出来てるか?」
「大丈夫です、いつでも始められます」
「よしっ、それじゃあ始めるか」
師匠のその言葉が聞こえてきたのか全員黒板のまえまでやって来た
「集まり良いな、そんじゃ改めて...ほとんど知ってると思うが、俺は不知火要。一応八重樫の師匠って事になるのか、そんでもう一人が伊予島冬馬。さっきも言ってたが勇者システムの開発に関わってる奴だな」
「伊予島冬馬です」
「部長の犬吠埼風です」
「それじゃあ、挨拶もそこそこに話を始めましょうか」
「システム面はそっちに任せるぞ」
「分かりました」
そう言うと伊予島さんはカバンから資料を取り出すと黒板に何かを書き終えると俺達の方を向きなおす
「それで皆さんは、勇者システム...というより戦い方の説明テキストには目を通してありますよね」
「えぇ、一通りは」
「よろしい、では満開と言うシステムが実装されていることも知っていますか?」
「私は知ってます」
「私達は...まだ」
大赦から派遣された夏凜と俺達を代表して風先輩がそう答える
「わかりました、それじゃあまずは満開についてを説明しましょう」
伊予島さんは黒板に書かれた満開の二文字に丸をつけると説明を始めた
「まず、満開と言うのは勇者にとっての切り札、勇者システムで勇者に変身した際どこかに現れるゲージが一定まで溜まる使用が可能になります」
「なるほど」
「続けますね、満開を使用すると強力な力を振るう事が出来、満開を使えば使うほど勇者システムが強くなる...三好さんはこういう風に聞いてますよね」
「はい、そのように聞いています」
「だが、実際には違う」
今まで黙っていた師匠がそう言うと伊予島さんの横にやってくる
「今日俺達が話そうとしてたのは、それ...満開のデメリットについてだ」
「満開のデメリット?」
「あぁ」
さっきの伊予島さんの説明を聞く限りだと、満開は便利な必殺技のように聞こえたがデメリットがあるらしい
「いいか、満開を終えると散華と言う現象が起きる」
「それは、どういう現象何ですか?」
「...一度につき体の機能が一つ、神樹に供物として捧げられる」
供物として...捧げられる? 言われた言葉の意味が分からなかったがそれは俺以外も同じだったようで、みんな戸惑ったような表情を見せていた
「あのッ! ...供物として捧げられたら、どうなるんですか?」
「...捧げられたモノは戻らない。供物として捧げられた部分はどんなに手を尽くしても治らない」
「そんな...」
ここで黙っていた伊予島さんは持っていたタブレット端末を操作すると俺達の方に見せてくる
「そこで、俺達は大赦には内緒で勇者システムに少しだけ細工をした」
「細工...?」
「あぁ、本来なら満開はゲージが溜まれば使えるものだが、俺達は勇者システムにリミッターを付けた...勇者が強い意志と覚悟を見せないと満開を使えないようにな」
「それじゃあ...」
「お前らが思ってる通りだ、安易な気持ちで満開は使う事は出来ないし、暴発することもない」
師匠のその言葉を聞くと、友奈や樹ちゃんは安心していたが東郷や風先輩、三好さんは何処か腑に落ちないといった様子である
「...どうして、リミッターを付けようと思ったんですか?」
東郷がそう言うと師匠は俺と東郷に目を向けてくる...けれど、その瞳は俺達ではなく、俺達を通して別の誰かを見ているように感じた
「そうだな...強いて言うなら後悔だろうな」
「後悔...?」
「あぁ、少し前の俺は最悪自分で何とかするって考えてた、今まではそれで何とかなって来てたから余計これで良いんだって一人で抱え込んでな...けど、それが間違いだった、あの時の俺は結局何もできず、見守る事しかできなかった...それが理由だ」
そんな話、始めて聞いた気がする。出会った頃から自分の話はしなかったし俺も聞こうとしなかったから...だからその話は初めて聞いたし、その話をする先生の姿が、何故か無理をしているようにも見えた
「さてと、俺達の話はこれで終わりだ...それじゃ、ここら辺でお暇するかね」
「不知火さん、渡すもの渡すもの」
「っと、そうだった...教えてくれてあんがとな」
「気を付けてくださいよ」
伊予島さんとそんな話をしながら師匠は俺の前までやってくると、スマホを差し出してきた
「あの、師匠...これは?」
「お前用にカスタムした勇者システム...元々はプロトタイプで負荷もデカいから使えたもんじゃなかったけど、色々と出力抑えてリミッターかけて調整して、さっきようやく完成した所だ」
「それじゃあ...遅れたのって」
「その通り、とりあえず持っとけ」
そう言うと師匠は俺にスマホを押し付けて部室から出て行ってしまった
「八重樫君、今持っている端末を渡してくれればデータの移行作業とかしておきますよ?」
「それじゃあ、お願いします...それより、師匠どうしたんですか?」
「私にもわかりません、最近ずっとあんな感じなので...それじゃあ私も失礼します、端末は明日中にはお返しします」
そう言うと伊予島さんも教室から出ていき、部室にはいつもの面子が残ったが少しだけ微妙な雰囲気の中、風先輩が手をパンっと叩くと俺たちに声をかけてくる
「それじゃ話も終わった所で勇者部として、やらないといけない事の話に移るわよ!」
そこから風先輩は手に持ったプリントをを俺達に回すと話が始まった。内容は今週末にある子供会についてだった
「というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」
「折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたりやることは沢山ありますよ、夏凜さん」
ここまで来ると前のような微妙な雰囲気はなくなり、すっかりいつも通りの勇者部に戻ったな等と考えていたところで樹の言葉を聞いた三好さんは樹ちゃんの方を向いた
「ちょっとまって、私もなのッ!?」
「昨日入部届け出したでしょ~」
どうやら入部届けは入手済みらしい...というか確かに入部届けを三好さんは書いてた気がする
「それは形式上でスケジュールを勝手に決めないで!」
「日曜日用事あるの>やろうよ! 楽しいよ!」
「う...いや...だいたいなんで私が子供の相手なんかを...」
「嫌?」
三好さんは真っ赤になると言葉を詰まらせていた、やっぱり友奈のコミュ力は本当に強いな
「わ...わかったわよ、日曜日ね。ちょ...ちょうどその日は空いてるわ...!」
これがかの有名なツンデレと言う奴なのだろうな...というかここまで古典的なのは師匠から勧められた小説に出てきたのを読んで以来だ、実物は初めて見た
「すっかり元通りですね」
「そうね...やっぱり勇者部はこうじゃないと」
「そうですね」
風先輩の言う通り、やっぱり勇者部はこののほほんとした雰囲気が一番だと実感する...ほんとに、日曜が楽しみだ
ある部分で要の放った言葉、それをこの話で書いた事で少しだけ今の要の感情を形に出来た気がします...もっと色々言わせたいけど、それはおいおい