「ふふん、どうよこれ」
「超カッコいいです!」
「ふっふっふ、イケてるでしょ」
検査入院から数週間の時が流れ、退院した俺、友奈、風先輩、樹ちゃんは二人いないだけでだいぶ広く感じる部室でいつも通りの日常を送っていた。東郷はまだ入院...三好さんは、まだやって来てないみたいだ
「あれ? 夏凜ちゃん、まだ来てないんですか?」
「そういえば来てないな」
【夏凜さん、何か用事があったんでしょうか?】
「いや、俺も友奈もそんなのは聞いてないけど...というか」
「樹ちゃん、そのスケッチブックどうしたの?」
【これで話せます、お姉ちゃんの提案です】
「いつ治るか分からないし、やっぱり話せないと不便だからね」
そう言うと風先輩は部室を見回すと腰に手を当てて話始めた
「それにしても、今日は四人か。文化祭の演劇について話したかったんだけど」
「ハッ、演劇! そうでした!」
「発案者が忘れてどうする...」
「勇者活動が一大事だったから忘れてても仕方ないわよ。まぁでも、四人だけじゃ話し合いもあんま意味ないし何か他の事を―――」
そんなこんなで、自分たちで出来る範囲の活動を終えた俺と友奈の二人は東郷の病室までお見舞いにやって来ていた
「東郷さんっ、お見舞いに来たよ」
「お見舞いの品、棚の上に置いとくぞ」
「友奈ちゃん、八重樫君」
「パソコンで何してるの?」
「一応、満開の後遺症について纏めておこうと思って...少しでもみんなの為になるように」
「そっか」
「うん。八重樫君、纏め終わったら不知火さんに渡しておいてもらえる」
「わかった、少しでも治療法発見を速めないとだもんな」
「...それと、二人とも来てくれてありがとう」
「お話ししたかったから、徹くんはいるけど東郷さんがいないと学校の楽しさ三割減だよ」
「まるで俺と一緒にいると楽しくないって言ってるように聞こえるんだけど...」
俺がそう言うと友奈は少し慌てたように俺の方を向く
「あぁ、ちがうちがう! そうじゃなくて...やっぱり徹くんがいて東郷さんもいるから学校が楽しいんであって! 決して徹くんと一緒にいて楽しくないというわけじゃ...」
「ふふっ、友奈ちゃん。徹くん笑ってるわ」
「へっ?」
「...すまん、冗談で言ったんだがそこまで必死になってしまうとは...ははっ」
「もうっ! 酷いよ徹くん!」
やっぱり何だかんだあっても相変わらず友奈は良いリアクションをするなぁ、などと考えながら久々にこのやり取りが懐かしい気がする。その後あんまり長く居座っているのも病院への迷惑になると思い、三十分程話した後病室を後にする
それからも何気ない日常を送っていると、本当にこの前まで戦っていたのが嘘のように思うが、友奈はパソコンの操作に四苦八苦しているし満開の後遺症が無いとは言え元々五体満足ではない俺だと出来る事もたかが知れている
東郷の退院ももう少し先だし、三好さんはあの日以来一切やって来ていない、心なしかみんなの表情も少し暗い気がする
「...やっぱり、三人だと調子出ませんね」
「そうだなぁ、どーにも気が抜けてるって言うか...炭酸の抜けたジュースみたいな感じ」
「徹、その例えはわけわかんないわよ」
「...やっぱりそうですか」
【夏凜さん、ずっと来てないですね】
「SNSにも返信がなくて。夏凜ちゃん、授業が終わったらすぐ帰っちゃうし」
「一応教室にいる時は話をするけど、なんか一線引かれちゃってる感じなんですよね」
「そっか...」
「よしっ! 私、夏凜ちゃんのところに行ってきます!」
そう言うと友奈は部室から走って出て行ってしまった
「心配なんで、俺も行ってきます」
「わかったわ」
友奈の後を追う形で俺も部室から出て、友奈の後を追う。幸いなことにあまり遠くには行っていなかったようですぐ追いつくことが出来た
「おーい友奈、待ってくれ」
「徹くん、どうしたの?」
「俺も一緒に行く...というか、三好さんが何処にいるのかわかるのか?」
「えっと...どこだろう?」
「ダメじゃねぇか...まぁそうだな、とりあえずいつも鍛錬してる所から行ってみるか」
「わかった!」
二人で三好さんがよく演舞の型みたいなのをやっている浜辺に向かうと、案の定三好さんの姿が見える
「夏凜ちゃーん! 徹くん、ホントにいたよ! おーい夏凜ちゃーんって、おうっ!?」
「ちょ、友奈!?」
「...大丈夫か、友奈」
「何やってんのよ、あんた」
「二人とも、そこは駆けつけて受け止めてよ~」
「「無茶ゆーな」」
二人で友奈の事を起こすと、三好さんは腕を組んで俺たちの方を見る
「...何しに来たの」
「部活へのお誘い! 最近夏凜ちゃんが勇者部サボりまくってるから」
「このままだとバツとして腕立て五百回にスクワット三千回、腹筋一万回って事になるらしいぞ」
「桁おかしくない!? って言うからしいって!?」
「さぁ? 友奈に聞いてくれ」
「さっき徹くんが言ったバツですが、今日の部活に来たら全部チャラになります! どう、来たくなったでしょ?」
「ならない、もともと私は部員じゃないし...それに、もう行く理由は無いのよ」
「理由って?」
「私は勇者として戦う為にあの学校に来た、あの部にいたのは他の勇者と連携を取った方が良いからよ」
三好さんの言葉を聞く感じ、なんか自分でもわけわかんなくなってしまっているように感じる
「...だいたい、風も何考えてるのよ。勇者部はバーテックスを殲滅する為の部活なんでしょ、バーテックスがいなくなったら...そんな部もう意味ない!」
「違うよ」
三好さんの言葉に対して友奈ははっきりと否定すると、真っ直ぐ見つめて言葉を続ける
「勇者部は...今は夏凜ちゃんもいて、皆で楽しみながら人に喜んでもらえる事をしていく部だよ。バーテックスなんていなくても勇者部は勇者部、戦う為とか関係ない」
「でも...私、戦う為に来たから、もう戦いが終わったから...だからもう、私には価値が無くて、あの部にも居場所が無いって思って...」
「居場所の有る無しとか関係ないだろ、少なくとも俺達は三好さんも含めて勇者部だって思ってるし」
「そうだよ! それに勇者部五箇条一つ、悩んだら相談! 戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、そんな事無いんだよ」
そういいながら友奈は三好さんの腕を取ると、言葉を続ける
「夏凜ちゃんがいないと、部室は寂しいし私は夏凜ちゃんと一緒にいるの楽しいし...それに私、夏凜ちゃんの事が好きだから」
「ッ! ...し、仕方ないわね! そこまで言うなら行ってやるわよ」
おっ、三好さん陥落...友奈には人たらしの才能があるしころっとやられたな、こりゃ
「そういえば、徹」
「どうかしたのか?」
「あんた、ずっと私の事を苗字で読んでるけど、別に名前で良いわよ」
「良いのか?」
「えぇ、特に気にしないし」
「分かった、それじゃあ次から名前で呼ぶことにする」
そんなことを話しながら途中で甘いものでも買って部室に戻ると、風先輩と樹ちゃんもまだ部室にいた...まぁ部活動時間中だから当然っちゃ当然だけど
「結城友奈! ただいま戻りました!」
「八重樫徹、ただいまです」
「二人ともおかえり~、おっ夏凜も来たのね!」
「ふ、二人がどうしてもって言うから」
「実際には友奈にころっと陥落したんだけどな」
「うっさいわよ! 徹!」
「あっ! それとこれ、差し入れです」
そう言うと友奈は二人に駅前で買ったシュークリームの入った箱を渡す
【これ、駅前の有名なお店のですよね!】
「樹ちゃん正解!」
「...でも、お菓子は...友奈、味が分からないんじゃ」
「あれ? 気付いてたんですか」
「ごめんね、みんな...私が勇者部の活動に巻き込んだ所為で」
「気にしないでください、私達も気にしてないので!」
「そうですよ...俺が言えた義理じゃないですけど、満開はみんな覚悟を決めて使ったわけですし」
「でも...」
「そうですよ! 私は望んで勇者部に入ったし満開だって自分の意志で使いましたから!」
【そうだよ!】
「というわけで結城友奈、今後風先輩からの”ごめん”は一切聞きません!」
【私も!】
「俺もですよ」
「...ありがとう」
「さっ早くシュークリーム食べましょう! 風先輩が飢えて死んじゃうと思って買ってきたんですから!」
「ちょっと! 私が二十四時間お腹空かせてると思ってない!?」
少し暗かった雰囲気もすっかり元に戻ったのを見るとなんだか安心する。これで東郷も帰ってくれば晴れて勇者部完全復活だ
三好さん...改め夏凜が勇者部に復帰してから数日後、東郷の退院日になった俺達は勇者部総出で東郷の事を待っていると、看護師に車椅子を押された東郷が出てくるのが見えた
「あとは私が」
「ありがとう友奈ちゃん」
「ここは私の定位置だよ」
すっかり元の場所に収まった友奈と東郷が俺たちの前まで来ると、風先輩に向かって東郷が敬礼をする
「東郷美森、勇者部に帰還しました」
「ご苦労である、東郷准尉!」
准尉なのか東郷
「まったく...変な奴らね」
【退院おめでとうございます!】
「おかえり、東郷」
「ただいま、徹くん」
「それにしても、これで勇者部メンバー全員復活だね!」
友奈はそう言うと茜に染まる街を見ながら話しを始めた
「この街を、私達が守ったんだね」
「普通の人達は私達の戦いなんて知らないんだけどね」
「そうね...でも、みんながいなかったらこの世界はなくなってた...ここに住む人たちは、死んでた」
「私、初めての戦いの時すごく怖かった。怖くて逃げたくて...でも逃げなくてよかった、ちゃんと勇者出来てたかな...?」
「出来てたよ、東郷さんは凄くカッコいい勇者だった」
「辛いこともあったけど...ほんとに守り切れて良かった」
メール通知音が聞こえてくると、夏凜は少しうれしそうな顔をした瞬間友奈たちに詰め寄られているのを見ながら、あることを思い出した
「そういえば、もうすぐ夏休みだな」
「そういえばそうだね、何しよっか?」
【山でキャンプ!】
「夏祭りも楽しみね」
「...う、海に行くとか...」
「花火もやっとく? やるからには打ち上げ花火百発くらい!」
「多分師匠なら出来ますよ、百発は無理でも十発くらいなら」
「十発でも出来るのは凄いわね...」
「よしっ! 全部やろう! みんなで!」
戦いが終わり、俺達は日常を取り戻した...勇者になることのできなかった勇者部は元の形に戻り、これから続く日常と新しい思い出に心を躍らせながら俺たちは帰路につく