不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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第拾伍話、投稿です


第拾伍話 悲しみ

「やっぱ、風先輩暗かったな」

「仕方ない...のかな、やっぱり」

 

 昨日、乃木園子と話を終えた後。俺達は聞かされたことを風先輩に話した、俺たち同様に満開の代償があることは説明を受けていた風先輩も、自分たちの身体が供物になっている事実と勇者は消して決して死ねないという事は風先輩にとっても衝撃的なものであったらしい

 変に心配をさせたくないという風先輩の意向で夏凜と樹ちゃんには伝えない事には決まったが、それでも風先輩との顔は晴れないままだった

 

「そういえば、東郷は?」

「今日は用事があるんだって、先に帰っちゃった」

「そっか、夏凜も今日は先に帰っちゃったし...俺達も帰るか」

「そうだね...」

 

 とりあえず部活に来たものの今日はもう人が来る気配もないし部室の鍵を閉めて昇降口まで向かっている途中で樹ちゃんに会った

 

「あれ、樹ちゃん」

【友奈さん、徹さん】

「樹ちゃんも今帰り?」

【はい、部活は?】

「今日は東郷も夏凜も用事があって休みでな、二人だと出来る事も少ないから終わりにしたんだ」

【そうなんですか】

「うん、そういえば...風先輩は?」

【お姉ちゃんは、私の担任の先生に呼ばれて】

「樹ちゃんの担任の先生?」

 

 樹ちゃんの担任の先生に呼ばれたって事は、樹ちゃん関連で何か用事でもあったんだろうか

 

「...とりあえず、俺達はもう帰るけど樹ちゃんはどうする?」

【私はお姉ちゃんの事を待ってます】

「わかった、それじゃあ俺達はもう行く...行くぞ友奈」

「でも...」

「樹ちゃん達なら大丈夫だろうよ」

 

 その後、樹ちゃんと分かれた俺達はいつも通り家に帰った翌日、俺と友奈...そして風先輩の三人は東郷に呼びだされて彼女の家を訪れた

 

 

 

 

「それで、急にどうしたんだよ?」

「実は、三人に見て貰いたいことがあって」

「なに?」

 

 東郷は俺たちの目の前で短刀を取り出すと、鞘から抜きそのまま勢いよく自分の首に押し付けようとしたが、精霊が彼女の首と刃の間に入ったことで最悪の事態に陥ることはなかった

 

「な...何やってんのよ! あんた今、精霊が止めなかったら」

「止めますよ、精霊は...確実に」

「...?」

「東郷、お前...何を」

 

「この数日で私は十回以上自害を試みました...切腹、首吊り、飛び降り、一酸化炭素中毒、服毒、溺死...すべて精霊に止められました」

「...何が言いたいの?」

「今、私は勇者システムを起動させていませんでしたよね?」

「あ...そういえば」

「それにも関わらず精霊は勝手に私を守った、精霊が勝手に...」

 

「だから...何が言いたいののよ」

「精霊は俺達の...いや、勇者の意思に関係なく動いてるって事だろ、東郷」

「えぇ、今まで精霊は勇者の”戦う”という意思に従ってるんだと思っていました。でも違う...精霊に勇者の意思は関係ない、それに気づいたらこの精霊と言う存在が別の意味を持っているように思えたんです」

 

 今まで自分たちにあったことを思い出しながら考えていると、東郷は言葉を続ける

 

「精霊は勇者の御役目を助けるものなんかじゃなく、勇者を御役目に縛り付けるものなんじゃないかって、死なせず戦わせ続けるための装置なんじゃかいかって」

「...御役目に、縛り付ける」

「で...でも、私達を守ってくれたって事なら悪い事じゃないんじゃないかな...」

「そうね...それだけなら不気味だけど悪いものじゃないかも知れない、でも精霊が勇者の死を必ず阻止するなら...乃木園子が言っていたことは当たっていることになる」

「勇者は...決して死ねない」

 

 あの時の乃木さんがどうして”勇者は決して死なない”ではなく”決して死ねない”と言ったのか、東郷の話を聞いた事でようやく理解出来た気がする...いや、理解出来たんじゃなく理解してしまったと考える方が良いか

 

「彼女の言っていたことが真実なら、私達の後遺症がどうしようもない、と言う事も...」

「そん...な」

 

 満開の代償は決して戻ることはない、いくら師匠たちが頑張っていたとしても治す方法は見つかっていない...そしてこれからも、見つからないかも知れない

 そんな考えが頭の中でぐるぐると回る、考えれば考えるほど...思考が悪い方に向かっていく

 

「そん...な...じゃあ、樹の声は...私が、樹を勇者部に入れた所為で...」

 

 涙を流す風先輩の事を、俺達はただ見ている事しかできなかった

 

 

 

 

 俺達三人が東郷の家から並んで帰っている時、俺の携帯の通知音が鳴った

 

「...師匠?」

 

 師匠から送られてきたメッセージに書かれていたのは、他の勇者部メンバーを連れて俺達が普段特訓に使っている砂浜に来いとだけ書かれていた

 

「風先輩、友奈...いまから時間、大丈夫か?」

「何かあったの?」

「師匠が他の勇者部員も連れてきてくれって」

「師匠って、不知火さん...だよね?」

「あぁ」

「私は大丈夫だけど...風先輩は?」

「...私も、大丈夫」

 

 とりあえず風先輩と友奈の了承が取れた俺達は東郷達にも連絡を取る、樹ちゃんと夏凜からは了解が取れたけど東郷には断られてしまったため、現地集合の樹ちゃんと夏凜を除く俺達は砂浜までやってくると、師匠は既に待っていた

 

「まだ全員揃ってないみたいだな」

「東郷には断られちゃいましたけど、樹ちゃんと夏凜は後から来ます」

「そうか」

 

 少し話して分かったが、師匠の様子がいつもと違う。同じ口調でもいつもの師匠にある気の抜けた雰囲気が今日はない

 

「それで...急にどうしたんですか?」

「別に大したことじゃねぇよ...ただ、お前らのモヤモヤを発散する機会をやろうと思ってな」

「モヤモヤを発散する...機会?」

 

 そう言うと師匠は普段戦いで使ってる槍を取り出して肩に担ぐ

 

「昔の経験則だが迷った時は仲間に話す...けど、それが出来ないなら拳を使うしかねぇだろ」

 

 手持無沙汰なのか師匠は話ながら槍を振り回したりした後に、地面に槍を突き刺した

 

「今から俺はお前らの敵だ...ぶっ潰す気で行くから、お前らも俺を...殺す気で来い」

 

 偶に訳の分からない事を言う師匠だが、今回は今までで一番...理解が出来ない

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