不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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第拾玖話、投稿になります


第拾玖話 深い信頼

 目の前で悠然とした存在感を放つデカブツに対して、気合いを入れ直すと隣にいた師匠が話しかけてきた

 

「さて、それじゃ...これからどうする?」

「えっ、どうしようって言っても...どうしましょう」

「急がないとヤバそうだぞ」

「ヤバそうって...えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 流石に目の前の光景に驚くなという方が無理だ、俺達の目に映ったのは太陽を思わせる巨大な火球

 

「流石に驚きましたけど、とりあえず止めます!」

「了解」

 

 放たれた火球に二人で向かい、受け止めた

 

「師匠...なんか見た目変わってません...ッ?」

「抑えるんなら、防御力は高いほうが良いからな...つっても、流石に...キツいッ!」

 

 俺達が火球を抑え始めてから少しして、友奈と東郷も火球を抑える為にやってくる

 

「友奈ッ! 東郷ッ!」

「私達も手伝う...止まれぇぇぇ!!」

「止ま...れぇッ!」

 

 必死に受け止めようとするが規模が大きすぎて、じわじわと押されている

 

「止まら...ない...!」

「絶対に...諦めな...い...!?」

「友奈!」

「友奈ちゃん!」

 

「そろそろ...ヤバいな...ッ!」

 

「う、おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「風先輩! 樹ちゃん!」

「大事な時に、遅れてごめんね」

「気にしないでください、信じてたんで」

 

「樹ちゃん...風先輩...私」

「お帰り、東郷」

 

 人数が増えた事で僅かではあるが、火球の速度が遅くなる

 

「いくよ、押し返す! ...樹!」

「ッ!」

 

「満開!」

 

 風先輩と樹ちゃんも満開をして、少しずつではあるが威力は遅くなるが...それでも威力が違い過ぎる

 

「ぐっ、人が多くても...やっぱキツいわね...!」

「そこかぁぁぁぁぁ!」

「夏凜!」

「夏凜ちゃん...」

「プロの勇者ってのはね、気配でわかんのよ! ...勇者部を、なめるなぁぁぁぁぁ!!」

 

 夏凜はそのまま満開をすると俺達と同じように火球の行く手を阻む

 

「よぉし、勇者部...」

「「「ファイトぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

「なんか、懐かしいなこういうの...俺も、負けてらんねぇよなぁ!!」

 

 この世界で動けているのは俺達だけ...けれど、今はこの世界を終わらせない為に心を一つにして火球を抑える、そして今はこの場にいなくても、友奈は来るって信じてる

 

「私は! 讃州中学勇者部!」

 

「行けぇぇぇぇぇぇぇ!」

「友奈ぁぁぁぁぁぁぁ!」

「友奈ちゃん!!」

「決めろぉ! 友奈ぁぁ!!」

 

「勇者! 結城友奈!!」

 

 真正面から火球をぶち抜いた友奈は、そのままデカブツの御魂に触れる為に突き進んでいく

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 その言葉と共に、目の前の火球は爆発し、樹海の中に光の雨が降り注ぐ、爆発に巻き込まれた俺達は全員気が付くと地面に横たわっていた

 

「......ん」

「......?」

「...終わった、の?」

「これは...?」

 

 倒れて動くことの出来ない俺達に、花弁が舞い落ちる

 

「友奈ちゃん...友奈ちゃん!?」

 

 東郷の叫びを聞き、ボロボロになった体を何とか動かし、友奈の方を見る、今の彼女がどんな状態なのか分からないが...どれだけ東郷が名前を呼んでも、彼女が返事をすることはなかった

 

 

 

 

 目を覚ますと、いつも通りの見慣れた天井、体の所々に感じる痛みが今までの戦いは夢でなかったことを実感させる。ボーっとする頭で立ち上がると体を伸ばすために”両腕”を腰に当てて思い切り体を伸ばす

 

「...あれ?」

 

 何気なく動かしていたが、今まで動くことのなかった左腕に目を向けると、軽く動かしてみる

 

「左腕が...動く?」

 

 もしかして、治り始めてるのか? 

 

 

 

 

「なるほど、それで揃いも揃って俺の所に来たって訳か」

 

 左腕が動くようになってから数日が経ち、ある程度回復してきた俺、風先輩、そして夏凜は師匠の所にやって来ていた

 

「はい、師匠なら何か知ってると思って」

「大赦からの連絡は一方通行だしね、それで...何か知らないの?」

「俺は正式に大赦所属って訳じゃない、あくまでも外部協力者だから詳しい情報は俺のほうにも回って来てない」

「そうですか...」

「だが、お前らの御役目はもう終わった...知り合いの話だと、お前らの散華した部分もそう遠くないうちに治るとさ」

 

「じゃあ...どうして友奈は目を覚まさないんですか」

 

 俺たち全員が気がかりであった事を師匠に聞いてみる、知らない可能性の方が高いけれど、少しでも他の人の意見を聞いておきたかった

 

「...これは俺と、俺の知り合いで共通の推測だが。結城は目を覚まさない可能性がある」

「どういうことですか!?」

「おそらく、あのデカブツを倒した時に結城はそれに見合うだけの大きな代償を払った...だから、もし目を覚ますとしてもそれは結城次第だ」

「そんな...」

「だが...お前らは信じてるんだろ、目を覚ますって」

「当たり前よ!」

「なら、最後まで信じ切ってやれ...それが勇者ってもんだろ」

 

 俺達はその言葉を最後に師匠の家を離れる

 

 

 

 

 

「...ほんとに、どういう風の吹き回しかねぇ」

 

 勝手によそ様の身体を供物として差し出させておいて、今度は持って行ったものを勝手に返す...まぁ返してくれたことには感謝をするが、少し解せない

 

「どうして神樹は俺の身体まで治したんだ...?」

 

 あの戦いの後、俺の身体に入っていたヒビは裂傷のようなものに形を変え今までのように常に最悪の体調ではなくなっている

 

「まぁ、利用価値があるから生かしてるって所だろうから...今はそんなのどうだっていい」

 

 問題は結城だ、冬馬や春信だけじゃなく、ひよりまで同じ意見だった以上俺達にはどうすることも出来ない

 

「けどまぁ、何とかなるだろ」

 

 そんなことを呟きながら俺は本棚から一冊のアルバムを取り出す、もう長い事目を通していなかったそのアルバムを開く

 

「なぁ...若葉、みんな」

 

 知ってるからな、初代勇者(おまえら)の絆に負けず劣らず勇者部(あいつら)の絆も、世界の不条理をぶっ壊すって事を


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