不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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第弐拾話、投稿です


第弐拾話 偉大なる友情

 ―――ここは、何処? 

 ―――私は、誰? 

 

 暗くて、冷たくて、寂しい場所

 どうしてここに居るのかわからない

 

『戻ったらきっと...覚えていないだろうけど』

 

 ―――声...どこから...? 

 

『...貴女は、消滅するはずだったんだ』

 

 ―――!? 

 

『神樹様は、貴女の身体を蘇生してくれた。けど...それはかなり無理な蘇生だったんだ、御魂に触れてしまった影響で精神が目覚めず、貴女はいまここに在る』

 

 ―――私はどうすれば元の身体に、みんなのところに戻れるんですか? 

 

 声を上げるけれど、私の問いかけが返ってこない

 ひとりぼっちの空間で、私はあてもなく動き続けるけれど、どこまでいっても景色は変わらない

 

 ―――みんなは、無事なのかな? 

 

 一人寂しく膝を抱えていると、空から落ちてくる羽根が目に入る

 

 ―――カラス? 

 

 私の目の前にやってきた青色のカラスは光り輝くと人の形に姿を変えた

 

 ―――あなたは...? 

 

『初めまして、未来の勇者。私は神世紀元年において勇者の御役目を担っている者だ』

 

 私達より昔の勇者...

 

 

『この声を聞いている貴女の時代に至るまで、バーテックスとどのような戦いが起こるのか』

 

 これは多分、昔の勇者から私達へのビデオレターなんだと思う

 

『すべての勇者たちが時に恐怖して、悩んで、苦しんで...それでも守りたいものの為に戦っていくのだろうと信じている』

 

 遠い昔から、私たちの...ううん、もしかしたらもっと未来へと向けた言葉

 

『私達の代の勇者は白鳥歌野...場所は違えど私達の大切な仲間の一人からバトンを引き継いだ』

『そのバトンは、どれだけ時間が経とうと引き継いでいかれるだろうと私は思う』

 

 引き継がれる、バトン...

 

『そのバトンの名は”勇気”である...別名を”希望”と言う...”願い”とも言う。貴女は決して一人ではないことを知って欲しい』

『多分、今の貴女はとても苦しんでいると思う、痛いこと...悲しいこと...絶望すること...』

『それでも耐えられないくらい辛いことがあったのだろう、だからこそ私の声が届いている筈だ』

 

 力強く、それでもとても優しい声で、目の前の言葉が紡がれる

 

『そんな貴女に私が言いたい言葉はもっと戦えでも...もっと頑張れでもない』

 

 その言葉発せられてすぐ、靄がかかっていた人影が鮮明になる

 目の前にいる青い勇者服を纏ったその人以外にも、後ろにたくさんの人影が見える

 

『生きろ...ただ、生きてくれ』

 

 最後に紡がれたその言葉は何よりも暖かい言葉で、大切なものが繋がれた気がした

 

 

 

 

 友奈が目を覚まさないまま、数週間の時が流れた。風先輩の瞳も、樹ちゃんの声も、夏凜が散華して失った部分も...そして。俺と東郷が今まで失った部分も治りはじめ、分かりずらいが確実に良いほうに向かっている

 俺達は毎日のように、友奈の病室に通い...声をかけ続ける。不安が無いと言ったら嘘になるが、勇者部のみんなが友奈が帰ってくることを信じているから

 

「それでね、ようやく演劇の稽古に入れたってわけよ」

「でもお姉ちゃん、全然セリフ覚えられてないんですよ」

「ちょ...言わないで」

 

「厳選したサプリもしっかり用意してあるし」

「俺と東郷も万全になったし、今までかけちゃってた負担も担げるようになったから」

「だからね友奈ちゃん...無理しなくても大丈夫だからね」

 

 何時目覚めるのか分からないし、無茶を言うわけじゃないけれど、早く戻って来いよ

 

 

 

 

 ―――戻りたい、みんなに会いたい...

 

 この空間をずっと進みながら、あの人の紡いだ言葉が心の中でずっと響いている

 

『大切な人が居るなら思い出して欲しい...貴女が生きる事を諦めたら、その人が悲しむ事を思い出して欲しい』

 

 ―――みんなを悲しませるのは嫌だ...だけど、この世界が何処まで続いているのか分からない

 

 心が弱くなり、また膝を抱えてしまった私の耳に届いたのは...私の大切な仲間の声

 樹ちゃんの言葉が、風先輩の言葉が、夏凜ちゃんの言葉が、徹くんの言葉が...そして、東郷さんの言葉が、私を光の射す方に導いてくれる

 

 ―――そうだ、帰るんだ! みんなの...場所に! 

 

 光の射す場所に手を伸ばした瞬間、私の意識が急に遠くなっていった

 

 

 

 

「勇者は、傷ついても傷ついても...決して諦めませんでした」

 

 温かい日の当たる病院の中庭では、東郷が友奈に台本の読み聞かせをしていた。どうしようもなくても、どれだけ悲しく手も...残酷なほどに一日は終わり、そして始まる

 

「すべての人が諦めてしまったら、それこそこの世が闇に閉ざされてしまうからです」

 

 東郷の読み聞かせをする姿を見ながら、改めて友奈の方に目を向けるが、相変わらず意識が戻る様子はない

 

「勇者は自分が挫けない事がみんなを励ますのだと信じていました。そんな勇者を馬鹿にするものもいましたが、勇者が明るく笑っていました。意味がないことだと言うものもいましたが、それでも勇者はへこたれませんでした」

 

 読み聞かせを続けている東郷に軽く合図をしてその場を離れると、一人で自販機まで向かい三人分の缶ジュースを購入する

 

「あっ...まぁ、俺が一人で二本飲めばいいか」

 

 ジュースを取ろうとした自分の手が止まる...結局俺は何もできなかったのかという思いが急に胸に込み上げてくる

 

「...ダメだな、俺」

 

 少し暗くなった心を振り払うように東郷達の元に戻ると...東郷が泣いていた、何かあったのかと急いで近寄ろうとした所で足が止まる

 

「...大切なモノを失うのは...やっぱ辛いよな」

 

 自分もそうだったから、今の東郷の気持ちは分かる...あの日、あの戦いで大切な友達を一人で戦わせてしまった、忘れたくなかった記憶(失くしたくなかったもの)を取りこぼしてしまったから、今の俺は東郷達の居る場所に向かうことが出来ない

 

「...?」

 

 今まで日影にいた筈なのに、急に光が射した俺は顔を上げる

 

「...ッ!」

 

 少し離れた場所に広がる光景を見た俺は急いで駆け出し、二人も前までやってくる

 

「徹くん...」

「ゆう...な?」

「うん...徹くん、ただいま」

「遅刻だよ...ばか」

 

 泣きそうになる目を抑えると、改めて友奈の方を向く

 

「おかえり...友奈」

 

 

 

 

 一度意識を取り戻した日から友奈は順調に回復に向かい、今日の放課後に退院することが決まった...と言ってもしばらくは車椅子生活らしいが、それでも友奈が帰ってくるのは何よりもうれしい

 

「と、言うわけで東郷が迎えに行っている間に、我々勇者部残存組は友奈のお帰りなさいパーティの準備を始めているのだった」

「誰に言ってんのよ...」

「そうよ、くだらないことやってないでさっさと手を動かす!」

「はいはい、仰せのままに」

「はいは一回」

「はいッ! てきぱき働かせて頂きます!」

 

 とりあえず上のほうの飾りつけでもやってればいいかと考えて輪飾りを取って貼りつけていると風先輩が話しかけてきた

 

「それにしても徹、なんか雰囲気変わったんじゃない?」

「そりゃ、今まで五体満足に動けませんでしたからね...体が万全に戻った今こそ、この八重樫徹の時代がやって来たといっても過言ではない...ッ!」

「それじゃ、今までよりもきつめの依頼をお願いしようかしら」

「...すいません、調子にのりました。重めの依頼は率先して受けるのでキツいのは何卒ご容赦を...」

「意思よわッ!」

「こんなでも病み上がりなんだ...私生活に使う部分が使えなかったからまだ違和感凄いし」

「あー、わかるわそれ、ちょっとずつとは言え、意外と違和感凄いのよね」

 

 などと話していると、部室のドアがガラッと開く

 

「じゃーん! 結城友奈、ご心配をおかけしましたー!」

 

「友奈さん!」

「威勢いいわね」

「ちょ...まだ準備できてないのに」

 

「よぉし、これで勇者部全員揃ったわ! 今日はお祝いよ!」

 

「「「「「「おー!」」」」」」

 

 ようやく日常を取り戻す事が出来た...みんながいて、ようやくそれを実感することが出来た

 

 

 

 

 

 友奈が勇者部に復帰してから、迫る文化祭に向けた練習と友奈のリハビリ、そして溜まっていた依頼の消化などと忙しい日々が過ぎていったけれどそのすべてが充実したものだった、そしてついにやって来た文化祭の日。裏で大道具を動かす準備をしながら友奈たちの方を見る

 

「結局世界は嫌なことだらけ辛いことだらけだろう? オマエも堕落してしまうがいい! 現実の冷たさに震えろ!」

「そんなの気の持ちようだ! 他人でも大切だと思えば友達になれる、互いを思えば何倍でも強くなれる! 無限に勇気が湧いてくる!」

 

 真っすぐ見つめたまま友奈は力強く言葉を続ける

 

「世界には嫌な事も悲しいことも、自分だけではどうにもならない事もたくさんある...だけど、大好きな人が居るから挫けるわけがない! 諦めるわけがない! 何度でも立ち上がる! だから勇者は絶対に負けない!」

 

 それから劇は滞りなく進んでいたがラストシーン手前で友奈が大勢をくずして倒れそうになっていたから舞台袖から出て彼女の事を受け止める

 

「大丈夫か!?」

「うん...大丈夫」

「友奈ちゃん...!!」

 

 駆け寄ってきたみんなが友奈の周りに集まってくる

 

「まだ身体が...」

「...ごめん、ちょっと立ち眩み」

 

 最後の最後で予定とは違ってしまった俺達に対して、観客から送られたのは盛大な拍手

 

「成功...したのかな」

「ばっちり! 立派な勇者だったわよ、友奈!」

 

 

 花は咲き、散るのかも知れない...けれど、一度散った花だとしても、そこから生まれた種が新しい花を咲かせる

 これから先、どれだけの困難が俺たちの事を待ち受けているのかはその時になってみないと分からない...けれど、きっと俺達なら乗り越えることが出来る、皆と一緒なら...絶対に

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