不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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長らくお待たせしてしまい申し訳ありません
楠芽吹は勇者である編改め、防人編開幕です


神世紀300年/秋 -楠芽吹は勇者である-
Ⅰ 開幕


神樹の結界で守られている外側、四国以外が灼熱地獄と化しているその場所で俺は饅頭に口付いたような化け物…星屑に対して槍を突き立てている所である

 

「こいつで、ラスト」

 

地面に叩きつけた星屑の上で汗を拭うと耳につけられたインカムに話しかける

 

「終わったぞ」

『お疲れ様です、それで…壁の外に何か変化は?』

「いや、特にねぇな、辺り一面火の海だ」

『そうですか、分かりました』

「…急にそんな事聞くとか、なんかあったのか?」

『実は、今日の会議で壁外調査の話が議題に上がりまして』

「壁外調査って、この火の海じゃ調査もクソもないだろ」

『実は、上層部は防人の導入を決めたみたいで…』

 

防人…大赦で開発されてた量産型勇者システムと言えるもの、冬馬からは実用段階になったって聞いてたけど、やっぱり大赦は実践投入を決めたって事か

 

「今回、俺に壁外調査を頼んだのもその一環って事か?」

『まぁ、そうなりますね』

 

まんまと利用された…と考える気はないが、正直こんな感じじゃどれだけ調査をしたって変わる事は無いと思うけどな

 

『それと、不知火さん』

「どうした?」

『防人と壁外調査の件、上里家から正式に協力要請があったので…この機会に伝えておこうと』

「まぁ、その一件に一枚噛めるなら大歓迎だって伝えといてくれ」

『了解です』

「そんじゃ、俺ももう帰え…ろうと思ったが残業の時間だ」

 

さっさと帰ろうと思った俺の目の前に現れたのは、体を作ってる途中のかに野郎が目の前に現れた。とりあえずインカムの電源を落として星屑に刺さってた槍を引き抜き、構える

 

「さーて、完全復活してひっさびさだからな…初っ端からフルスピードで行くぜ」

 

片手で軽く槍を回転させて投擲の構えを取り、かにに向かって思いっきりぶん投げる。そして突き刺さった槍を思いっきり引っ張り火の地面に叩きつけると思いっきり上に飛び槍の柄を手に取る

 

「久々に、槍を茨のように溶かして…内側から貫くッ!」

 

かなり前に使った技…槍を液状にして中に浸透させた後、一気に茨のみたいに変化させてぶち抜く、何だかんだ最近使ってなかった気のする技だが…出来て良かった

 

「にしても、体調は万全…前みたいに動ける」

 

どうして俺の事まで治療したのか分からない、だが、今は身体を治してもらったことには一応感謝をしておこう…絶対口には出さんけど

かに野郎を倒した俺はその足で壁の内側まで戻る

 

「それにしても…防人に壁外調査ねぇ」

 

何と言うか、また一波乱ありそうだな

 

 

 

それから時が進み秋頃、上里家からの迎えの車に乗った俺に渡されたのは今回の一件に関する資料に目を通す

 

「春信から聞いた通り、目的は壁の外の調査に反撃の土台作りねぇ」

 

作戦に関しては春信から聞いてた通り

 

「それ以外に載ってるのは、防人に選ばれたメンバーの情報か」

 

身長に体重、それにスリーサイズ…それに勇者適正を図る試験での成績、大まかに見ているだけでも全員個性的で面白そうな奴が多い。パラパラと資料を捲っている中で一人、目に留まる奴がいる

 

「楠芽吹、単純な成績だけならトップ…これなら夏凜にも勝ってるんじゃねぇの」

 

だけど結果選ばれたのは彼女じゃなくて夏凜だった…大赦関連なら勇者の御役目の重要性も知ってるだろうし、ビックリするくらい悔しかったろうなぁ。まぁあんな御役目選ばれないのが得策だけどな

 

「到着いたしました」

「分かった、ありがとな」

 

俺の言葉を聞いた運転手は頭を下げると引き返していった

 

「にしても、ここがゴールドタワーねぇ」

 

今までこっちの方には来たことなかったし、少し新鮮だがそんな事言ってる暇もねぇな。とりあえずタワーの中に入ると、見慣れた人物が神官服を着てエレベーターの前で待機していた

 

「おっ、安芸ちゃんじゃん、久しぶり」

「お久しぶりです、要さん…それと、安芸ちゃんはやめてください、この場所では特に」

「真面目なお役目だし、当然か…それよか、防人のメンバーは?」

「まだ楠さんが来ていません…それ以外のメンバーは全員揃っています、不知火さんは私に付いてきてください」

 

安芸ちゃんはエレベーターを呼ぶと、手に持っていた仮面をつける…というか仕事モードだと苗字呼びですか、慣れねぇ

 

「やっぱその仮面付けるんだ」

「えぇ、規則ですから」

 

まぁ、そりゃそうか…そこらへんはしっかりやっとかねぇと目を付けられかねないからな、それから少しの間エレベータに乗っていると最上階で止まり、扉が開いた

安芸ちゃんの後ろをついていくと集められていた三十人前後のメンバーが目に映る、この子たちが防人に選ばれた少女たちか

 

それから少しの間、集まっている少女たちから少し離れた場所で残り一人を待っているとエレベーターが開き、一人の少女…楠芽吹が入ってきた

 

「……!」

 

集まっている少女たちの姿を見た彼女は、何か感じ取ったみたいだが…それは期待外れだろうが入ってきた時に比べて目に活力が戻ったのを見るに悪い結果にはならないだろう

 

「全員、揃ったようですね」

 

全員揃った事を確認した安芸ちゃんは少女たちの前に出ると、話を始めた

 

「今ここに集まっているのは、勇者という御役目の候補生だった者たちです」

 

集められた少女たちは安芸ちゃんの話に耳を傾ける…そして、これから彼女たちに話されるのは衝撃なものだろう

 

「さて…ここで何人脱落するか」

 

誰の耳にも届かないよう俺は呟き、事の行く末を見守る

 

「あなたたちは皆、勇者適正が高い。その素養を活かして新たな御役目に付いて貰いたいのです」

 

設置されていたスクリーンに映し出されたのは壁の外の光景に化け物畜生(バーテックス)の姿…だが、今までそんなことを知らない少女たちは今映し出されている映像に対して疑問符を浮かべていた

 

「これは、世界の真実の姿…四国を囲む壁の外を映したものです」

「これが、壁の外?何をおっしゃっているんですの?」

 

当然の反応だ、急に言われても理解する方が難しい

 

「確かに壁の外の世界は、致死性のウィルスによって滅びたと聞いています。ですが、この状況は……ウィルスによって、大地が、空が、こんなふうになるものですか?その不気味な化け物は、一体何なのですか」

「あなたの疑問はもっともです…人類が隠してきた歴史を話しましょう」

 

それから安芸ちゃんによって語られたのは、西暦から現在に至るまで何があったのか…そして始まりの日から続くバーテックスと勇者の戦いで何が起こったのか

ボロボロになっている勇者たちが映し出された時に何人かは気が付いたのだろう、勇者のお役目がどのようなものだったのか…ホント、今に至るまで四国で戦っている勇者に死亡者が出ていないのは奇跡と言ってもいいだろう

 

「神樹様は地祇の集合体であり、バーテックスは天神が人類を滅ぼすために送り込んだ存在です。壁の外の世界は、天神によって変質させられてしまいました。神樹様が作り出した結界によって、かろうじて四国だけが人の住める状態のまま残っているのです」

 

その言葉を聞いた俺は自然に拳をきつく握っていた。すぐに治癒されたが強く握りすぎて少しだけ血液が地面に滴り落ちている…冷静になろう

 

「ですが、このままではいずれ神樹様の力が尽き、結界が消え、四国も炎に包まれて滅ぼされます。事態を打開するために、人類も自ら打って出なければなりません。そこで壁の外に出て異界を徹底的に調査し、反撃の準備を整える御役目をあなた達に頼みたいのです」

「いやいやいや無理無理無理無理、あんな化け物と戦えるわけない死ぬよ絶対死ぬこれ死んじゃう奴だよ。あの、えっと、頭痛が痛くなってきたから帰りますです」

 

そういった少女…確か、加賀城雀だったか。が帰ろうとするが安芸ちゃんがそれを見逃すわけない

 

「加賀城さん、勝手に帰ろうとしない!もちろん、危険な御役目を生身でやらせたりしません。戦う為の力も用意しています」

 

そりゃそうだ、普通の人間ならあんな灼熱地獄に一歩踏み出すだけで灰になっても可笑しかねぇ

そっから安芸ちゃんが防人システムについて、それにこれから防人に選ばれた少女たちが訓練を受けながらゴールドタワーで暮らす事等を説明していた、殆ど勇者適正試験の時と変わらないが唯一の違いは防人は個人戦ではなく集団戦が重視されるという所か

こっから防人たちは訓練みたいだし俺のやる事は無いだろ、そう思ってさっさと用意された部屋に向かおうとしたところで安芸ちゃんに首根っこ掴まれた

 

「安芸ちゃん、苦しい…死んじゃう」

「安芸ちゃんはやめてください、それに不知火さんは殺しても死なないでしょ…んんっ、付いてきてください不知火さん。出番です」

 

ごもっともな事を言われた俺は安芸ちゃんに掴まれていた首根っこを放されたあと防人たちの前まで向かう。どうやら一通りの訓練を終えたであろう少女たちは疲れている様子だったが安芸ちゃんが前に来るとシャキッとする辺りしっかりした子達だ

 

「それでは、部隊全体を纏める隊長を決めます。立候補者は手を挙げてください」

 

手を上げたのは楠をはじめとした何人か、それを見た安芸ちゃんは頷くと話を始めた

 

「それでは、実技の成績と…彼にも手伝って貰いましょう」

「あぁ…俺はこういう役回りなのね」

 

安芸ちゃんが出番だといった意味に納得しつつ、防人たちの前に出る

 

「その方は、どなたですの?」

「紹介します、あなた達の戦闘訓練での教官をしてもらう、不知火要さんです」

「ご紹介に預かりました、不知火要です…以後よろしく」

 

特に話すこともねぇし自己紹介はこれくらいでいいだろ

 

「それで、あk……神官さん、彼女らと俺は具体的に何すりゃいいの?」

「…不知火さんには彼女たちと組手をしてもらいます、そしてあなたの評価も込みで防人全体の隊長を決めさせてもらいます」

 

成る程ねぇ、組手って事はアレか、俺にいたいけな少女をボッコボコにしろという事か

 

「というわけで、お手柔らかによろしく頼む」

 

あんまり気乗りはしないが、これも将来彼女たちが遭遇する試練に打ち勝つためだと腹を決めるついでに、少し気合いを入れ直すのだった

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