翌朝、防人たちを見つめながら安芸ちゃんと楠の到着を待つ。人数は前回の御役目で重傷を負った二人と昨日の防人を辞退した二人以外の全員
エレベーターの扉が開き楠も合流すると、安芸ちゃん以外の神官の近くにいた四人の少女が防人たちの目の前に出る
「今日から、彼女たちが新たに防人の御役目につきます」
防人たちの前に立った安芸ちゃんが目の前にいる防人のメンバーにそう告げる。その後、四人の少女たちにタワーの空いている部屋を自室に使うように言う…その空いている部屋というのは重傷を負った二人と辞めていった二人が使っていた部屋だ
少し視線を動かして楠の方を見ると、昨日俺が言った補充の意味を改めて実感してるらしい
それから、防人たちは解散になり、彼女たちはこれから授業だが俺はやる事が無い…正直、わざわざ授業をする必要があるのかとも思うが、ここら辺も大赦なりに考えてるんだろう、まぁ俺は大っ嫌いだが
「あっ。不知火さん」
「おぉ、国土ちゃん…相変わらずちっこいなぁ」
そんなことを考えていた俺の前に現れたのは国土亜耶、防人ではなくひなたや安芸ちゃんのご先祖、安芸真鈴と同じ巫女…神樹の神託を聞く存在。何回か会って話したこともあるのだが、正直な話純粋培養過ぎて少し苦手なのが本音である
「あの、不知火さん、くすぐったいです」
「あっ、悪い、絶妙な位置に頭があるもんだからつい」
適度な所に頭があるからついポンポンしてしまう、これに関しては完全に小さい頃の安芸ちゃんが原因だが…本人に言うと何されるかわからんから言わん
「国土ちゃんは、これから授業か」
「いえ、新しく防人となる方たちの為に神樹様にお祈りをと思って、不知火さんは…?」
「俺はやることないから適当に掃除でもと思ってな…それより祈るならしっかりやった方が良いだろ? 早く行きな」
「はい、それでは、失礼します」
ホント、今時珍しい位行儀のいい子なんだよな…アレで神樹への信仰がもう少し控えめだったらもう少し接しやすかったんだが、そこら辺は言っても仕方ないか
それから授業終了時間になったわけだが、正直訓練の時間も俺はあんまやる事ないのだ、これからは戦闘データを基に陣形の構築や体力増強の訓練。指導すればいいだけだから何をするって訳でもないし。頼まれた組手に付き合うだけ
「不知火さん」
「楠か、どうした?」
「組手の相手、お願いします」
「あいよ、今回も俺は素手良いか?」
「いえ、条件は対等に」
対等って事は、俺も今回は銃剣を使うのか
「分かった、そんじゃ…始めるか」
近場にあった訓練用の銃剣を手に取ると、楠と向かい合う…防人は集団戦に特化していた方が良いのだが、少なくとも想定外の事態に遭遇した時の為にある程度個人の実力も優先される。だからこうして付き合っている訳だ
「行きます」
「よっしゃ、どっからでも来い」
楠は前回同様真っすぐ俺の方に向かってくる…が、前回のように付き合ってやるつもりは毛頭ない
「…そこ」
銃剣を構え、楠…ではなく彼女の足元に放つ、これは対バーテックスではなく対人間を意識した戦い方だが一度受けておくだけでも戦術の幅は広がる
「ッ!」
「次は…そこだ」
足を止めた楠の近くをもう一度狙い放つ。彼女の実力は確かに高い…が、戦い方はまだまだ正直だ。そして銃撃を受けた楠は反対に飛ぶのも予想通り、すぐに近づき剣で思いっきり薙ぎ払う
「くッ!」
「少しでも早く体勢を立て直せ、当たるぞ」
薙ぎ払い体勢を崩した楠に対して忠告をした後ダメ押しの一発、これは楠の心臓部に直撃した
「ここまでだな」
「…もう一戦、お願いします」
「別に付き合ってもいいが、防人は集団戦が命だろ」
そういいながら俺は楠を防人たちの元に戻り、再び入口の近くまで戻り、今度は陣形に付いて観察を始める…改善点は後でノートに纏めて渡しとくか
それから時は流れ、昼時…今日は蕎麦の気分だったので一人寂しく蕎麦を啜っていると騒がしいのが入ってきた。食堂内はそこそこ賑わってるから問題ないが一人で食ってた楠に話かける辺り、彼女にもしっかり友人がいるのだと実感させられると同時、自分がこの場ではボッチだという事を実感していると、国土ちゃんが近くにやってくる
「あの、不知火さん」
「なんかあったか?」
「よろしければ、あっちで皆さんと食べませんか?」
俺が、花の女子中学生に混ざって食事…流石に冗談だろ
「それ、何の冗談?」
「いえ、一人で食べているようでしたので…よろしければどうかと」
「あぁ…俺の事は気にしなくていいから、楠たちと食べといで」
「ですが…」
「良いんだよ…それに、俺はもう食べて終わったし」
「……」
食べきった蕎麦の皿を持って、席から立ち上がった所で…少し離れた場所にいた楠と目が合った…良かったらどうぞみたいな事を視線で言われてる気がする、国土ちゃんの視線もいい加減痛いし、仕方ないから少し話して戻ろう
「…わかった、少しだけな」
「はい! それじゃあ行きましょう!」
巫女ってのはどうしてこうも逆らいずらいんだろうな…と若葉たちと一緒にいたころを思い出していると少し寒気がした
「…少しだけ邪魔する」
「どうぞ」
「あっ、えっと、私は」
「加賀城雀だろ、知ってる」
「は、はい! 加賀城雀です!」
「そんで、そっちの似非お嬢様が弥勒か」
「ちょっと! 似非とはなんですの! 似非とは! 私は正真正銘──「はいはい、知ってる知ってる」遮らないでくださいます!?」
騒がしいのが多いな、楠の周りは…まぁ本人がお堅い分こっちの方が良いのかも知れないが
「そういえば亜耶ちゃん、午前中は姿が見えなかったけど、何かあったの?」
ぎゃいぎゃい騒いでいる弥勒を横目で見ていた楠は国土ちゃんにそんな事を聞いていた
「新しく防人になった方がいますので、神樹様にお祈りをしてたんです。今日防人になった方も、既に防人である皆様も、誰もが無事御役目を全うできますようにと……。隊長の芽吹先輩には伝えておくべきでした、ごめんなさい」
「ううん、気にしないで。ちょっと心配になっただけだから」
不思議と国土ちゃんと話している時の楠は普段に比べてもかなり優しい表情をしていると思う
「防人をやめて去った方々にも、きっと神樹様のご加護があります」
一言二言話してるのを傍目に聞いていたが、国土ちゃんのその言葉を聞いた時、複雑な気持ちになった…あの日から今に至るまで、神樹が勇者に対してしてきたことを見てきたからか、俺は神樹を信じられていない
「しずく! 場所がないなら、こっち来たら?」
楠がこっちに誘った少女、確か山伏しずくって言ったな…どっかで見覚えがある気もしてたけど、ようやく思い出した、山伏は出身は神樹館だっけか。にしても…ここに居る面子は随分と凸凹なグループだなと思う、クソ真面目なな防人部隊の隊長である楠に、生存能力は人一倍の加賀城、似非お嬢様だが実力は確かな弥勒、今のところ実力が未知数の山伏、そして巫女の国土ちゃん
「…まぁ、悪くないチームっぽいけどな」
「何か言いましたか?」
「別に、何でもねぇよ」
成り行きかも知れないが、展望台で楠と話した時から薄々気付いていたが彼女の眼は初めてここに集められた時よりも良いものになっていたと思う。それはきっとこいつらの影響もあるのだろう
「しかし、芽吹さんの食事はいつも通りですわね。うどんに牛乳って、どうなんですの? 牛乳をお茶に替えるとか、うどんをパンに替えてはいかが?」
「味の組み合わせの良し悪しなんて考えてませんから。体を作るための栄養素が豊富な牛乳は、欠かせません」
成る程、変な食い合わせにも楠なりのポリシーがあるって訳だ
「……では、うどんを替えては?」
「パンにうどんの替わりなんてできません。生まれた時からこれを食べてきましたから」
「私もおうどん、好きですよ」
相変わらず、何処にいっても存在するうどん愛好家…マジで必需品みたいになってるな。そっから何故かいつも食べてるもの談義が始まり…地元自慢が始まった、弥勒に始まり加賀城、そして山伏に話が回ったわけだが
「そうですわ、せっかくですから、しずくさんの事をもっと聞かせてくださいな。しずくさんとは前から色々お話ししてみたいと思っていたのです。どんなご家庭で育ったのですか? ご両親などは?」
「両親は、心中した」
弥勒の質問に山伏が答えた瞬間、その場の空気が凍り付いた、楠が弥勒に対して何か訴え、そして加賀城が楠に助けを求めていた
「……そ、そういえば、不知火さんって出身何処なんですか?」
話題を維持したままこっちにまでパスしてきやがったな楠
「出身か…さぁな、忘れた」
「忘れたって…どういうことですか」
「ちっさい頃ここに来たからな、一応記憶がある範囲だと丸亀に住んでたし、香川でいいんじゃないか?」
嘘は言っていない(今の年齢が三百ちょいの身からすると)十代のちっさい頃に(北海道から)四国にやって来た、そして丸亀に住んでたのも嘘じゃないし、それに元々の出身より香川にいる時期の方が長いのも事実だ
「そうなんですか」
「俺の事はどうだっていいんだよ…そういや今までの経歴にざっと目を通したが、山伏は小学校神樹館だったな」
適当に話題投げとくか、神樹館は鷲尾達も通ってた学校だし…勇者関連ならなんか話のタネになるだろ
「神樹館ですか! 確か二年前、神樹館の生徒の中に勇者様がいたんです。しずく先輩は勇者様と年齢が同じですし…もしかしたら知り合いだったんじゃ」
「隣のクラス。だったから…後、そこの人も。知ってる」
国土ちゃんの言葉に頷いた山伏はそう言うと俺の方を見てきた
「…俺か?」
「うん。小学校の時の、自習の時間に」
そういや勇者の近くにいた方が良いだろって事で神樹館で教師やってた時、隣のクラスの担任の先生に頼まれて一回自習の時間受け持ったことあったっけ…つっても見てるだけだったけど
「という事は、不知火さんも勇者様を知ってるんですか?」
「まぁ、一応知り合い…になるのか?」
「はあ~…なんだか驚きました。先代の勇者様の知り合いが二人もいるなんて」
そう答えると亜耶ちゃんは感嘆している一方で、楠の方はやけに真剣な目を俺と山伏に向けていた
「どんな人だったの、先代の勇者って……? どんな人が勇者になれたの?」
その言葉を聞いたのと同じタイミングで午後の訓練開始のチャイムが鳴り、楠はその答えを聞くことが出来なかった
そしてその翌日、二回目の壁外調査が行われることになった