二回目の壁外調査、新たに防人となった四人は必要最低限の武器の扱い、そして戦い方だけを教えられ実践投入されることになった
「そうしなければならない程、大赦も焦っているって考えて良いのかねぇ」
「詳しい話は、私にも伝えられていません」
安芸ちゃんにも伝えられてないとなると、やっぱり意図的に情報を隠されていると考えた方が良いか
「二回目の壁外調査、何事もなければいいんだがな」
「私たちは、ただ彼女たちを信じるしかありません」
「…だが、今回また重傷者が出るようなら、俺も勝手にさせて貰う」
前回に引き続き今回も重傷者が出るようだったら、流石の俺も前に出て動く…今、勝手にそう決めた
「もとより、そのつもりです」
「そういえば、安芸ちゃんに一つ聞きたいことがあったんだ」
「聞きたい事?」
「あぁ…山伏しずく、知ってるだろ」
「えぇ、彼女の事で何か?」
「防人ってのは、確か数字によって実力が示されてるんだよな…なら、彼女が一桁の理由ってのは何かあるのか?」
言っちゃなんだが、山伏しずくは楠芽吹や弥勒夕海子に比べると数値は平均的、実際の訓練でも突出した分野を見たことは一度もなかった…資料にも本人の潜在的な資質込みで評価を下したとだけ書いてあっただけ
「そうですね、確かに彼女”だけ”では、一桁と言う数字には値しないではない」
「だけって事は…やっぱ資料に書かれてた潜在的な資質って奴に理由があるんだな」
「えぇ、彼女にはもう一つ人格があります…それを込みで、一桁と言う評価になりました」
「そう言う事か、それなら…一回は実力見ときたいな」
「いずれ機会は訪れると思います…どうやら、帰ってきたみたいです」
安芸ちゃんが視線を送ったほうを見ると、どうやら防人部隊が帰還したらしい
それから任務の報告をしに来た楠は、今日の任務中に現れたらしい山伏のもう一つの人格について質問してきた
「あれは、山伏しずくのもう一つの人格です」
俺もついさっき知ったばっかだからビビらなかったけど、聞いてなかったら俺もビビってたと思う
「山伏さんは、自我さえ希薄に思えるような静かな静かな性格ですが、その内側に別の人格を宿しています。粗暴で、荒々しく、そして強い。普段の彼女とは正反対です。追い詰められたりした拍子に、それが出てくるようですね」
「しずくの『九』という番号は、もう一つの人格を考慮してのものだったわけですか」
「そうです、あの状態の山伏さんは故人の戦闘能力が突出していますから」
そこら辺の話は俺も初耳だし、実際に見たわけじゃないから何とも言えないが…それを目撃した楠は少し難ありそうな表情を浮かべてるな
「ですが、防人に必要な連携行動が、まったく出来ていません…アレでは作戦行動に支障が出ます」
「メンバーを従わせるのも、隊長の務めです」
そう言うと、安芸ちゃんはそそくさとこの場所を後にしてしまった
「相変わらず、きっつい物言いだなぁ」
意図的にそうしてるんだろうけど、流石に厳しすぎやしないかね
「…あなたは、一緒に戻らないんですね」
「あぁ、俺は大赦寄りの人間じゃなくて…民間寄りの人間ですから」
「民間寄りって、一体どういう…」
「ちょっとしたことだ、気にすんな…それより、どう従わせるつもりだ?」
「決まっています、相手に実力を見せて納得させる…それだけです」
そう言うの、嫌いじゃない
そしてその日の夕食時、食堂までやってくると喧し娘(仮)こと加賀城雀が絡まれていた…あれが例の山伏しずくの別人格って奴か
「なんだよ、お前、怯えたツラしやがって!」
「ひいい! シ、シズク様、お許しを~!」
「様とかつけてんじゃねぇ。言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」
「わわわ私のような雑魚がアナタ様に口をきくなんて…い、一体いつまでその性格のままなんでしょうか?」
「オレがオレで、文句あんのか?」
「ご、ございませぇん!!」
ありゃ、中々に面白そうなことになってんじゃねぇか
「怯えすぎでしょう、雀…」
どうやらこのまま放置しておくわけにゃいかないと思ったであろう楠が動いた
「ちょっといいかしら」
「ん? なんだよ」
「め、メブ~! 助けに来てくれたんだね!」
藁にもすがる…ってのは少し違うか、救世主現ると言った感じで加賀城は楠の後ろに隠れた
「あなたのその状態、いつまで続くの?」
「さぁな、久々に出てきたんだし、しばらくはこのまま楽しませてもらうわ」
「…そう」
少し雲行きが怪しくなってきたな
「お前もその方が都合がいいだろ? あっちのしずくよりオレの方が強いんだ。次の御役目とやらでも、存分に暴れてやるからよ」
「そうね、確かにあなたは私たちの部隊に不用よ」
「……あ?」
楠のその言葉を聞いた瞬間、山伏の表情が変わった。それと同時に楠と山伏の間に存在していた緊張も高まってきた
「防人に必要なのは、連携し、集団で戦う力。あなた一人が勝手な行動を取れば、他のみんなを危険に晒す可能性だってある。指示には従ってもらうわ」
「……俺は自分より弱い奴に従うなんて納得できねぇんだが」
「だったら、納得させてあげる」
「そう言う事なら! 訓練所使っていいぞ」
ここら辺で俺も口を挟ませて貰う
「訓練所を?」
「あぁ、お前らのいざこざも訓練の一環だったって上には説明しといてやる」
「…ありがとうございます」
「そんじゃ、とっとと行くぞ」
そして、俺達がやって来たのは訓練場。俺と楠、山伏の三人だけかと思ったが…まさかそれ以外にもぞろぞろとついてくるとは思わなかったが
「だいじょぶなの? あいつ、メッチャ強いんだよ! いくらメブでも…」
「えぇ、今の彼女は私と同じくらい強いですわよ、芽吹さん」
じゃあ問題ないだろ、弥勒は今のところ一回も楠に勝ててないわけだし
「いや、弥勒さんの方が圧倒的に弱いので」
「芽吹さん!? 私はまだ本気をだしていないだけですわ!?」
「ほーう、本気出してねぇなら是非ともその本気とやらを見せてもらいてぇなぁ…弥勒」
「い…今のは言葉の綾というやつですわ」
「なら、その言葉の綾と言う奴を実現させねぇとな」
明日あたりから弥勒には他の奴とは別に新しいメニューを追加してやらないと、とびっきりハードな奴を
「というか、なんであなたたち、ここに来てるの」
あなたたちというのは俺を除いた加賀城、弥勒、国土ちゃんの事だろう
「みんな、芽吹さんの事を心配して来たんですよ」
「違いますわ、国土さん! 私は単なる興味本位です!」
「それなら、弥勒には出てって貰うかな…あくまで訓練の一環だし」
「いえ! 是非とも見学させてくださいまし!」
なら最初から否定すんな…と言いたいところだが、まぁ弥勒だし仕方ねぇだろ
「とにかく芽吹先輩…怪我だけはしないでくださいね」
「心配無用よ、獣に上下関係を教え込むだけだから」
さて、互いに防人の装備──戦衣を展開して準備万端というわけだ
「お前は指揮官の戦衣でもいいんだぜ。ちょうどいいハンデだ」
「悪いけど、あなたに言い訳のタネをあげるつもりはないわ。戦衣の性能差があったから負けた、と」
対峙した二人、そして先陣を切ったのは楠、直突からの横薙ぎ。俺との組手でよくやる一手…その攻撃を山伏は余裕で避けて一撃、楠も受け止めるが現状だけ見るに山伏有利って感じか
「もう少し戦い方しっかり教えとくんだったな」
今のところで個人技を特に教えてなかったのが少し仇になった…って訳でもないか
二度三度にわたって切り結んでいるうちに、少しずつ戦況が拮抗し始めたな
「気合い入ってるじゃねぇか! 絶対に負けちゃならねぇって自分自身に言い聞かせてるみたいだ。そこまでして戦う理由は一体何なんだよっ!」
「私は──私は勇者になるんだ!」
吠えるように楠が発した言葉はそれだった
「その資格があると大赦と神樹様に認めさせてやるのよ!! そのために防人の御役目も、隊長としての仕事も完璧にこなす! あなたがその生涯になるなら、屈服させてでも従わせる! すべては勇者になるために!!」
「勇者。勇者ねぇ!」
楠のその言葉を聞いた後、山伏は力任せに銃剣を振り払って距離を取った
「オレは年前二年前、その勇者って奴を間近で見てた。そいつらがボロボロになってる姿だって見てた」
確かに、アイツらはボロボロになってたな、まだ小学生だったのに…御役目だからって戦って、あの日から、目が覚めるまで眠りっぱなしだった奴も、祭られてた奴も、記憶を失った奴等だっている
「と言っても、オレはあいつらが勇者として戦ってるところは見ちゃいねぇ。俺が知ってるのは、普段の学校での姿だけだ」
俺とは逆か、俺は勇者としてのあいつらは知っていても学校でのあいつらは殆ど知らない…知っているのは僅かな事だけ…だからこそ、山伏は思う所があるのだろう、崇められている勇者の、勇者でない一面を知っている者として
「楠……てめぇはこの前、勇者がどんな奴等だったかって聞いたよな? 隣のクラスだった俺でも知ってるくらい、変や奴等だったよ。鷲尾須美って奴がいた。コイツはクソ真面目で不器用だが、友達思いな奴だってのは見ててわかった。八重樫徹って奴がいた。他の勇者に比べると、平凡な奴だったが誰よりも真っ直ぐな奴だった。乃木園子って奴がいた。マイペースで寝たばかりいるくせに、その気になりゃなんでも出来ちまう奴だった。本気になるのは、友達に関わる事だけだったけどな。三ノ輪銀って奴がいた。落ち着きがねぇトラブルメーカーって感じだったが、他人や友人の事をよく気遣ってる奴だった」
二年前の事なのに、随分はっきり覚えてんだな…それに、アイツ等の事をよく見てる
「あいつらはな、お前みたいにギラギラしてなかった。普通に暮らしてたんだ。学校に来て、授業を受けて、飯を食って、友達と遊んで…。どこにでもいる子供と違わなかった! 勇者になる前だって、お前みたいに勇者になりたいって駄々をこねてたわけじゃなかった
「だったら何? 普通に生きることが勇者になる為の条件だとでも言うの!?」
楠にとって勇者に…特別な存在になるには普通の生き方ではいけないと思っていたのだろう…それでも彼女は、勇者になれなかった
「知らねぇよ。大赦や神樹が何を基準に勇者を選んでるのかなんて、俺の知った事じゃねぇしな! けどな、俺にわかるのは勇者って奴らはカッコよかった。尊かった。楠、今のてめぇは他人の芝生を見てヨダレ垂らしてるガキ。強いネコが羨ましい、ネコになりたいって喚くネズミ。自由なネズミが羨ましい、ネズミになりたいって愚痴るネコ。そういう奴等と同じなんだよ。そんなカッコ悪い奴が──勇者になんてなれるわけねぇだろ!」
山伏は間合いに入り、楠に刺突を放つ…あれなら普通は避けられないが、楠は機転を利かせたな。銃身を盾替わりにして受け切った。僅かな隙に今まで積み重ねてきた鍛錬の数が違うからこそ出来た技
「取った!!」
「それでも──私は勇者になるのよ!」
刺突の威力にひるむことなく突き進んだ結果だ…ここからは消化試合、拘束された山伏は首筋に銃剣の切っ先を付けられた
「勝負あり…ね」
「……オレの負けだ」
「これで私はあなたを手に入れた。今後は私の指示に従ってもらうわよ」
「わかってる、そういう約束だからな。あ~あ、負けちまったか」
それから何やら話しているみたいだが、俺達もさっさとあいつらに近づきながら話にはしっかり聞き耳立てておく
「…勇者になりたいって駄々をこねてる……か、あなたの言う通りかも知れないわね」
「あん? どーしたんだよ、悟りでも開いたか」
「私もできた人間じゃないわ。確かにあなたの言葉には割とドキッとさせられたけど…でも、私は私の生き方を変えるつもりはない。がむしゃらに勇者を目指して悪いとも思わない」
それは楠が今までの生き方だったのだろう、そしてそれは…絶対に変えることの出来ないものなんだろう
「私は勇者を目指し続ける。大赦が私を勇者にせざるを得ない実績を作る。不可能だと思われようが、他人からどう思われようが、成し遂げて見せるわ」
「……なんとかの一念って奴か。本当に面白いな、お前」
「私もそう思いますよ。芽吹先輩が自分を否定する必要なんてない。目標の為に一生懸命なこと―それは芽吹先輩の美徳ですから」
俺達と一緒に近くにやって来た国土ちゃんが、楠にそう語りかけた
「亜耶ちゃん……」
「芽吹先輩のそう言う所、私はとても好きですよ」
「……ありがと」
「なんだよ、お前。俺が今、楠木と話してんだ。邪魔すんじゃねぇ」
因みにここで補足しておくと、今この場にいるのは楠と山伏、俺と国土ちゃんの四人だけだ…一緒にいた弥勒と加賀城は気付いたら帰ってた、国土ちゃん曰く帰る時俺にも一声かけたらしいのだが…何やら考え込んでて気づかなかったらしい
「お二人の姿を見ていたら、私も加わりたくなったんです」
「…肝が据わってんな。お前、巫女だろ? 自分よりずっと強い奴に脅されて、怖くねぇのかよ」
「怖く何てありませんよ。口調は乱暴でも、あなたはきっと善い人ですから」
「は?」
慣れねぇとわかんねぇよな。巫女ってのはどいつもこいつもずっと強い奴ばっかって事を…まぁ普通なら巫女なんてのと関わる事は無い筈だけど
「勇者様でなくても、防人に慣れたという事は、神樹様に選ばれたという事です。静かで穏やかなしずく先輩と、強くて頼りになるあなた。どちらか一人でも悪人なら、神樹様がお選びになる筈ありません、だから…あなたもきっと善い人なんです。それに前回、防人の皆さんが誰も死なずに帰れたのは、まぎれもなくあなたのおかげでした。本当にありがとうございます」
そんな国土ちゃんの事を見た山伏はきょとんとしてたが、今まで通りの笑みに戻った
「……へっ、お人よしめ。あの雀って奴なんかは、オレにビクビク震えてたのに」
「あれ? そういえば雀と弥勒さんは?」
あの二人について国土ちゃんが説明している間に、俺は俺でとりあえず少し荒れた場所を整地しとくか
「そういえばお前ら、用済んだらさっさと帰れよ」
「はい」
「わかりました」
楠と国土ちゃんは反応したが、山伏は俺の方を見たものの返事はしなかった…そして、楠と国土ちゃんが帰っていく中で山伏だけ近づいてきた。まぁ当然っちゃ当然か
「おい」
「なんか用か、山伏」
「…お前、神樹館で教師やってたよな」
「あぁ、やってたよ…だから驚いた、お前は勇者の事を思った以上に見てたって事実に」
「そうかい、それより一つだけ聞きてぇ事がある」
「答えられる範囲で答えてやるから、言ってみな?」
その言葉を聞いた山伏は、特に目を合わせることなく告げる
「あいつらは…元気でやってるか」
「…あぁ、新しい仲間も出来て、楽しくやってるよ」
「そうかよ」
そう言った後、そのまま訓練場を出て行く。そして一人残された俺は訓練場の整地作業を続けた…何と言うか、今日も悪くない一日だった